表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
存在証明を奪う徴税官 ――神も天使も督促だらけ、未納は消滅確定  作者: 雪ノ瞬キ
始動編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/31

第28話

「あっ是明おかえりー」


 ポコポコがにやにやしながら飛びつく。


「随分と遅かったのね」


 在香も顔を出す。


「よぉ。こいつリリーだ。今日から俺たちの仲間な?」


 そのリリーが俺の背後からひょっこり顔を出す。


 リリーは部屋を見回して、小さく息を呑んだ。


「……ここが、その……私の居場所に?」


「居場所? なんでもねぇよ。ただの寝床だ」


「なにそれ、初々しいんですけど? へぇー是明の愛人?」


 ポコポコは指で俺の脇腹を高速でつつく。

 なあ、少し痛てぇぞ?

 しかも、腰にしがみついて離れない。

 何やってんだ?


「ちげぇよ。戦闘にめっぽう強ぇ。ポコポコの護衛も多分いける」


 ポコポコはしがみついたまま、リリーを真横から覗き込む。

 なんかよお、この構図変じゃねぇか?


 在香はじっとリリーを観察して、わずかに肩が強張っている。

 なんだ、その警戒の仕方。


「是明? どこからその子拾ってきたの? まさかさらってないわよね?」

「……連れてくるのは止めないけど、素性ぐらい先に説明しなさいよ」


「だぁーお前ら俺をなんだと思ってんだ?」


「「やさぐれ是明?」」


「おいおい、はもるな」


「ぶっ!」


「リリーお前もかよ」


「寝床はひとまず、俺のとなりな?」


 リリーは一瞬固まり、小さく「……はい」とだけ答えた。

 小声で耳打ちしてやる。


「安心しろ。無理やりはやらねぇよ」


「はひっ」


 寝床を貸すだけだ。勘違いすんなよ?


 リリーお前声裏返りすぎだ。


 在香はちらっと視線をそらし、なぜか咳払いした。


「えー! ずるい! あたしも隣がいいー!」


 ポコポコは俺の腰にしがみついたまま、リリーを見上げてニヤァと笑う。


「ねぇ新人ちゃん? 是明の隣ってさー、“特等席”なんだよ? あなたにはまだ早いけどね?」


 おい、なんで上からなんだよ。


「お前、仲間入り早々マウント取ってんじゃねぇよ」


 ポコポコのヤツ何言ってんだ?

 在香は何耳赤くしてんだ。


「……そういう意味に聞こえるんだけど?」


 お前も意外とそういうの気にすんのか?


「……部屋の振り分けくらい、私にも相談しなさいよ。

いや、別に深い意味はないけど……その、ね?」


 ん?

 お前って案外面倒見いいよな。


「あとな、リリーは天使な。でもな一対一で神も天も倒した」


「なら大丈夫じゃん」


 そこで誇らしげになるポコポコは、よくわかんねぇな。


 リリーは少したじろぐ。

 お前そんなタイプだっけか?


「……だって、生きるために必要だったから」


 在香は眉をひそめた。


「普通の天使なら絶対無理よ。ほぼ同族禁忌だから」


「だからいいんだよ。普通じゃ務まらねぇ世界だ」


 ポコポコは変わらずしがみついたまま。

 それどうにかなんねぇのか?

 少しあちーんだよ。


 ……まあいい。

 気になるのは明日だな。


「そんで問題は明日な、エリザが来る」


「依頼はおわったの?」


 在香お前、心配しすぎじゃねぇの?

 まあ、いいけどな。


「ああ、終わった。女神に直接やってもらったからな完遂だ」


「あなた相変わらず、謎よね」


「気にすんな。そういうものだ」

「……まあ、明日からもう一段と騒がしくなるがな」


「ねー、是明ってほんとテキトーだよね!」


 ポコポコ、お前まだしがみついたまま言うか?


 在香さんよぉ。

 なんでそこで、深くため息をつく?


「……ほんと、あなたの“そういうもの”は信用ならないのよ」





 その夜。


 ベッドの横で立ち尽くすリリー。


「ああ、そういや寝巻がねぇな。これでも着な」


 俺のTシャツと短パンを放り投げた。


「はひっ。ありがとうございます」


 俺は見ねぇように窓辺で外を眺める。

 背後で布ずれの音だけが耳にささやく。


 まあいきなりなら緊張もするか。


 静かだ。

 着替えが終わったのか。


 まだ突っ立ってる。


 緊張してんだろうな。


「俺は先に寝るぞ。まあ無理にとはいわねぇが、寝たほうがいい」


 俺は反対側で背を向けて横になる。


 ギシッ。


 リリーも横になったか。

 だが、何か背後に迫る。

 一瞬、触れそうな感覚。

 しゃーねーな。

 

「なあ、今のお前は“選ぶ”余裕ねぇよ。今日は寝ろ。“選べる時”がきたら、その時言え」


「うん……」


 俺はその後、普通に寝た。

 あとは、しらねぇーよ。




 私はリリー。

 今日色々なことがあった。


 ありすぎて、もう私はなんだかわからない。

 わかったことは今、生きている。


 そしてとなりに是明がいる。

 彼がきっかけをくれて、選ばせてくれた。


 私が選んだこと。

 そして彼が選ばせてくれたこと。


 でも今夜抱かれると思っていた。

 その覚悟も決めたつもりだった。

 けれど、まだ心が追いついていない。


 それを見透かされた。

 まだ揺れている。

 正直な気持ち。

 だから待っていて。

 その日がきたら――誓うわ。


 自分の本当の気持ちを選ぶ日。

 そして、その日はきっと――。


 そう思っている内に、私もなんだか目を閉じてしまった。





 翌朝


「あーあいつら、午後にくるのか?」


 たしか前回、夕方だったよな。

 ポコポコはまだ寝ている。

 在香もだ。

 当然、リリーも寝ている。


 この俺だけが起きたケースは久しい。


 ゆで卵作るか。基本は7分半。半熟もやや残る絶妙なヤツだ。

 出来上がり、食っているとリリーが起きてきた。


「よぉ」


「おはようございます」


「腹減ってんだろ?」


「はい、ぺこぺこです」


「これ食えよ、腹持ちいいぜ」


「ゆで卵! 私大好きです」


「な、全部は食うなよ? あいつらの分もな」


「うぅまぁいー。この半熟が微妙に残っているのが好きです」


「はあ、そいつはよかったな」


 なんだ、ちょっとうぜーぞ。

 まあ、いいか。


「食いながら聞いてくれ」


「ふぁい」


 頬膨らませてもごもごしてやがる。

 なんだ? こいつはリスか?


「商人エリザと勇者2名。今日依頼の品を渡してやる予定だ。対価は貸しにしてある」


「依頼、わかりまひた」


「エリザから色々言われると思うが気にするな。相手にしなくていい。俺がする」


「はい!」


「ちなみにな、天使2区を殲滅したのは俺だ。恨みや憎しみがあるなら言ってくれ」


「いえ、そこは私とも敵対していましたので、むしろスッキリです」


「そうか、ならいい」


 あとは、この徴税局の見取り図を見せた。

 まあ、地図をみても一度じゃわからねぇだろうからな。

 出入りは、俺の助手とはいえ、証明が必要だが。


「これつけてくれ」


 俺はチョーカーとブレスレットを渡した。

 どれも一見皮製に見える黒いヤツだ。


「これは?」


「魔導具の一種だ。これがあれば俺が責任者だってわかる」


「責任者ですか?」


「ああ、部外者を入れている場合な? ポコポコもつけている」


 ってコイツマジか。

 大量にあったゆで卵、半分まで食ってやがる。

 どんな胃袋してんだ。


「そうなんですね。これで一員になれた感じで嬉しいです」


「まあそんな大げさなもんじゃねぇけどな」


「この後は、出かけるのですか?」


「そうだな、着替えたら少し周りをみるか?」


「はい。お願いします」


 俺はいつでも問題ない。

 リリーはそそくさと着替えに行く。


 それにしたって、考えても始まらねぇな。

 エリザのヤツの依頼は結構うめぇんだよな。

 白紙の存在証明の時は、あれはよかった。

 今でも重宝しているしな。


 まあ、うめぇ依頼じゃなきゃ帰ってもらうだけだ。

 俺に貸しがあるわけでもねぇしな。


 とはいえ、特殊捜査官としての仕事は、ほとんどない。

 天使の2区を殲滅してから納税がすこぶる良好。

 あんまり、おりこうさんになられてもな。


 ただまあ、あるっちゃあるが。

 喫緊でやるのはねぇな。

 脱税と未納で軽いヤツばかりだからな。


「すみません。お待たせしました」


 リリーがいつもの姿で現れる。

 変わらず、やる気満々ってところか。

 でもな、今日は戦う日じゃねぇぞ?

 多分な。


「よしっ、行くとすっか」


「はい!」


 俺とリリーは外の空気を吸いに出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ