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存在証明を奪う徴税官 ――神も天使も督促だらけ、未納は消滅確定  作者: 雪ノ瞬キ
始動編

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第27話

「私は死なない」


 彼のルールに飛び込んだのは私。

 選んだのも私。

 逃げなかったのも私。


 全部、全部彼の言う通り。

 私が選んだ。


 今までの価値観なんてどうでもいい。

 考え方も全部捨てる。

 私はもう一度、生まれ変わる。


 だから。


 死なない!


「いくわ!」


 いつもと違う。

 胸の奥。

 頭の裏側。


 筋肉の裏側。

 背骨に伝わるピリピリとした響き。


 10区では斥候だった。

 死線を越える数だけは、誰にも負けない。


 何もかもが私を急かし、私を変えた。


 ……さっき食べた神肉の熱が、まだ体の奥で燃えてる。

 その火が、私のどこかを無理やり起こしたみたいに。



 目の前にいるのは敵であり賊。


 この時私は一瞬驚いたし、力がわいた。

 理由はわからない。

 それがこれ。


「ライトソード!」


 キィーン! ギュイーン!


 え?

 いつものじゃない。

 何これ、チェーンソードになっている?


 でも!

 イケる!


 歴戦の猛者。

 揺るぎなき自信。

 獰猛な目。

 それが――神族の証。


 それが今目を見開いて私を見ている。


「エイッ!」


 踏み込んだ私。

 風が止まった。

 音が後から追ってくる。


 世界は私を押し出した。

 この時、神族の左側を横切る。


 ギュイン!


 チェーンソードは、切り裂いた。

 なめらかな切り口。

 上空に吹き飛ぶ腕。

 そしてはじける血しぶき。


 背後に回り込んだ。

 振りむこうとしている。


 さらにもう一振り。


 ギャイーン! ギャリギャリギャリー!


 ライトソードと神族の持つ短刀が重なる。

 互いに歯を食いしばる。


 力づくで押し込む。

 が――


 しまった!


「グハッ!」


 口腔から光の線が一直線に伸びた。

 右わき腹をかすめただけなのに、傷は深い。


 こみ上げた血で一気に吐血する。


 気と力が一瞬引いていく。


「まだぁ!」


 選んだの!

 私!

 死なない!


 足の指で地面を蹴る。

 右腕を失った側――あそこなら、奴の攻撃が届きにくい。

 その死角へ間合いをゼロにする。


 追いつかない。

 ローキック。


 膝が崩れる。

 背後だ。


 血が止まらない。

 でも。


 死なない。

 死ねない。


 神族が振り返る。


 正面で対峙。


 私は――

 死なない!


 この時私は踏み込んだ。

 だが私の体はここにある。


 なのに光でかたどった私が体を飛び出す。


 体の内側から、線を引くように光が漏れた。

 輪郭が溶け、そのまま“私の形をした光”が前へ飛び出した。


 え?

 何が?と。


 相手は目を見開き、口を大きく開けている。

 何が起きたのか。


 私より光の私が先に神族の前に仁王立ち。

 今まで見たことのない速さで滅多切り。


 一瞬にして、肉片。


 が――


 私の体が追いつき光の私と一体化。

 そして滅多切りの続きを私自身でする。


 切り終え。

 一息。


「はぁああああ」


 ぼたぼたと音を立てながら

 細切れになった生肉が地面に落ちる。


 生き残った。

 というより、死んでいない。


 その気持ちの方が大きかった。


 鋭い視線を背後に感じ振り返る。


 あの人が見ていた。

 あの人がいてくれた。


 ――ただそれだけで、胸がふっと軽くなる。


 なぜかな。

 目から雫が止まらないよ。


 この気持ちどうしていいか止まらない。


 でも――


 わかったことがあるの。


 あの人はやっぱり

 選ばせてくれた。


 この私を。


 景色が変わり、

 死闘が終わった。


 私はあの人の元へ帰る。




 ああ、やっぱり覚醒したか。


 昔、一度だけ似た反応を見たな。

 たしか、あれより派手だがな。


 あの時も、光が体から抜けたんだよな。

 本人は知らねぇが。



 ほんと神肉ってのは、相性いい奴が食うと“光”を引っ張り出す。

 ……にしても、ここまでハデに出るとはな。


 それにしたってすげータイミングだな。

 こんなのあるのか?


 なんで俺にはないんだ。

 まあいいけどな。


 あの剣より、光だな。

 超光天使とでも呼べばいいのか?

 まあ、結果よければすべてよし。

 なあ、お前。俺の肉二個くっただろ?

 だからさ、俺腹減ったんだが。



 ふらふらの状態のリリーを座らせ、ポーションを振りかける。

 以前、瀕死のポコポコに使ったのと同じヤツだ。


 こいつは効くぜ。


 シュワ―!


 蒸発する音を立てて瞬く間に傷が修復される。

 治ってもな、体力まで回復は無理だがな。


「あれ? あれ?」


 まあ驚くのも無理ねぇな。


「ああ、これな結構効くヤツ」


「何それ、初めて聞くわ」


「そりゃそうだ。俺と女神しかもってないからな」


「えーー! あなた何者なの?」


「ああ、俺。徴税局の特殊捜査官。殺しOKのヤツな」


「ぶっ! 何それ?」


「まぁ事実が大事だろ?」


「これなら動けるわ」


「まあ、連戦になるが相手は天使の同族だ」


「私は死なない」


「わかった行ってこい」


「はい」


 俺はリリーの後ろ姿を見送った。



「何者なの?」


 さっきの話だと女神と懇意な感じだけど……。

 想像がつかない。


 でも次が最後。

 同じ天使。


 ごめんね。

 私は死ねないの。


 あなたを倒して、私が生き残る。

 私は拳闘場の中央付近に立った。


 少し待った。

 ほんの数分。


 奥から、たどたどしく歩いてきた。

 私の知らない人。


 でも何?

 どこかおかしい。


 短刀を二本。

 両手に持つ。


 私はチェーンソードを顕現させて右手に持ちかまえる。

 再び赤い魔法陣。


 弾けた。


「もう、いや!」


 何?


 目の前の天使は叫ぶ。


 何かまずい予感がする。

 まだ踏み込めない。


 銀の粒子が若干収束しはじめている気がする。


 もしかして、いや。

 まさか。

 

「あなただってそうでしょ?」


 突然叫ぶ。

 でも私は答えない。

 

「もういやなの」


 悲痛を叫ぶ。そんな感じ。

 でも、どこか別の生き物に見える。


「毎日、毎日、毎日ー!」


「あたしはおもちゃにされて、慰み者になるの」


 完全に目が逝ってる。

 目の奥に、生き物じゃない“光の濁り”があった。


 まずい。


 空気が震えた。

 光が一点に凝縮し、耳鳴りがした。


「みんな死ね! 光爆!」


 光が走る。

 私は可能な限り、後方に跳躍。


 視界を奪うほどの強烈な光。


 ドッカーン!


 爆風と光がほとばしる。


 でも、彼女ひとりが立っていた場所に、ぽっかり人一人分の穴が空き、爆散しただけ。

 力が残っていなかったのかもしれない。

 ここで自爆技を使うなんて。


 私は、彼女を哀れとも思わない。

 それが彼女の選択だから。

 そう選んだの。


 私は死なない事を選んだ。

 でも彼女は死ぬ事を選んだ。

 それだけ。


 戦う相手はこれで、いなくなった。

 彼のもとへ戻る。



「おいおい、相手は自爆かよ」


 まあ、形はどうであれ最後まで生き残った。

 覚醒もしたし、問題ないだろ。


 あとは、加工屋の隣接レストランにでもいくか。

 天使肉でも食えば終わりだな。


 というより、俺が腹減った。



「よぉ、お疲れ」


 リリーは俺の前までくるとぼんやり俺を見上げる。

 まあ、疲れただろうからまずは座らせた。


「私死ななかった」


「ああ、上出来だ。水でも飲め」


 瓶を渡すと一気に飲み干す。

 こりゃいいのみっぷりだ。


「戦いは終わり?」


「ああ、終わりだ。ここまでは問題ない」


「そう、よかった」


 安堵した表情を初めて見せたな。

 俺も満腹にして安堵したいぜ。


 な、飯いこうや。


「そんじゃ、食いにいくぞ」


「はい!」


 俺はリリーを連れて、加工屋に隣接するレストランへやってきた。


 いつものとおり、席に案内される。


「それじゃ俺が頼むな」


「はい」


 神肉と天使肉。

 あとはテキトーだな。


「ぐぅ~」


 あれ? 俺じゃねえ。

 また、お前か!


「腹減ったか?」


「はい。さっきあなたからお肉もらって食べたのに」


「いやな、肉だけだとすぐに腹へるぜ?」


「え? そうなんですか?」


「だから、肉は食うが他にも食え。注文したからな」


 次々と運ばれる肉料理。

 変わらずいい香りだ。

 ほんと、ここのシェフはいい腕していやがる。


 たしか人じゃねぇって聞いたことがあるな。

 まあ、そんなことはどうでもいいけどな。


「い、いい匂いです」


 こいつ、マジで図太ぇな。

 これなら大丈夫か。


「こっちが天使銘柄のステーキ。こっちが天使焼肉。どっちもマジでうめぇ」

「神肉・天使肉は銘柄で、素材は全部高位魔獣だ。ややこしいが、旨けりゃ正義だ」


「食べます!」


 んで、またこいつ食っちまいそうだから俺も食う。


「うみゃい!です!」

 

 タガがはずれたんじゃねぇよな?

 舌噛んでねぇか?


「だろ?」


「うみゃい!うみゃい!」


 泣いているのか喜んでいるのか。

 本当によくわかんねぇな。


 まあ、俺も楽しむか。


「あっお前、それすげー旨い所だぞ」


「え? 早い物勝ちです」

「えーそりゃねぇーよ」


「へへ、おいしいし楽しいです」


「ん? だろ?」


「あなたのいう通りでした」

「すべてを捨てて、死なない事だけ考えたら」

「すべてが砂の城でした」

「今は気持ちが軽くて、でも」


「でも?」


「とても大事に思えるものができました」


「大事?」


「はい。今は秘密です」


 まあ、本人が腹くくったならいいか。

 なあ、リリーさんよ。

 それ、俺の分なんだが。



「明日な、来客がある」


「来客ですか?」


「ああ、別に俺の客って意味じゃない」


「?」


「単なる約束した訪問者だ。お前にも同席してもらう」


「私がお役に?」


「聞いておいて損はねぇよ。変わった奴らだから驚くなよ?」


「はい。楽しみにします」



 さてこれで揃ったな。

 あとは、明日何がでるやらだ。


 エリザのヤツといい、勇者の連中といい。

 ほんとめんどくせぇ奴らばっかだな。


 ああ、そういやこいつの寝床どうすっかな。

 部屋の中を考えていた。



 寝床……寝床な……。


 ポコポコの巣の横は絶対やめとけ。

 寝てると勝手に毛布持ってかれる。


 在香の部屋?

 あいつは夜中に光ったりするから落ち着かねぇ。

 魔導なんとかが暴発する。

 ……ああもう面倒くせぇ。

 俺のとこに来い。


 ベッドはでけぇから片方使え。

 蹴ったら容赦なく叩き起こすがな。


 リリーは一瞬固まったあと、真っ赤になってうなずいた。

 

「……はい。よろしく、お願いします……」


 さっそく俺は、職員宿舎の俺の部屋へ連れて行く。

 ああ、面倒なことが起きるな。

 でもよ。

 

 こいつマジで食う量多いんだが。

 隣でニコニコしているツラをみると

 どうでもよくなってきた。

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