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存在証明を奪う徴税官 ――神も天使も督促だらけ、未納は消滅確定  作者: 雪ノ瞬キ
始動編

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第22話

「よぉ、豆奈いるかー?」


 俺は確定課の扉をあけ、いつも座っている位置に足を向けた。


「あっ! 是明さ~ん」


 相変わらず、緊迫感のない声だ。

 毎回相談しているうちに、声をかけやすくなったのもある。


「今日はどうされたんですか?」


「ああ、実はな。ここだと話しづれぇんだ。別室で相談できるか?」


「わかりました。こちらへどうぞ」


 わざわざお茶まで用意してくるなんざ確定課すげぇな。


「さて、どのようなご用件で?」

「……もしかして、私に会いに来てくれたとか?」


 視界の端で在香の手がわずかに震えた。


「ちげぇよ。仕事だ仕事」

「え〜? 是明さんって素っ気なくするときほど、優しいですよね」


 豆奈は無邪気に笑ったが、空気が一瞬だけ張りつめた。


 在香の指が、カップの取っ手をかすかに軋ませた。

 ……気のせいか、気配が冷たい。

 よくねぇ空気だな。

 ……気を取り直して、本題に戻る。



「それでだ。神無大戦の遺物が複数体、神族の領域を一部蹂躙した。俺が救出した二名以外死亡していた」


「それは大事件ですね」


「ああ、近いうちに局長代理から調査依頼がいくと思う」


「何のですか?」



「神族たちの脱税・未納・脱獄は深刻な状態だ。だから、その者たちが今どこにいるか地域を知りたい」


「地域ですか? 脱税の有無でなく?」


「ああ、そうだ。こいつら組織がかりで研究と実験をしている」


 なんか説明がめんどくせぇな。

 もうさっさと調べてくんねぇかな。

 まあ、しゃあねえ。

 しばらく付き合うか。


「実験ですか?」


「かなりヤバイヤツだ。深淵の女神の逆鱗にふれるぐらいな」


「えええ。それって関わっちゃいけない案件ではないですか?」


「いや、もう脱税犯を捕まえるという体ではかかわっている」


 なんだその……妙な笑顔は。

 いや、こいつの場合わざとじゃねぇな。天然で出てんだ、これ。


「わかりました。彼らの位置で次に危険な地域を割り出すわけですね」


「そうだ。あとは脱税者と未納者の共通点を知りたい」


「わかりました。急いで調べます」


 そこで在香が口をはさむ。


「……へぇ。仕事に熱心ね」


 声色だけは穏やかだが、温度がねぇ。

 豆奈の表情が笑みのまま固まっていた。


「助かる。俺たちの地域も難癖つけられたらたまんねぇからな」


「それでも我々は、世界の意向に従って動いているので、大丈夫そうな気がしますけどね」


「まあな、念のためだ。できる対処はしておきたい」


「わかりました」


 在香が俺の袖を、

 ――いつもより強く引いた。

 指先だけ冷たい。

 何も言わねぇのに圧だけ伝わる。




 俺は執務室に戻り、脱税犯のリストに目を落としていた。

 おかしい。


 妙に引っ掛かりやがる。

 何かを見落としている。


 俺は確かに魔導探知でたまたまこの男の場所へ飛んだ。

 その前になんで、この男の様子を見に行ったのか?


 本当に単なる偶然か?

 資料をくまなくみて、再度三面図を見た。


 もう存在していないが直近の姿は反映されている。


「これかっ!」


「どうしたの是明」


 思わず声を上げちまった。

 これだ。こいつだ。違和感の正体は。


「見つけたぞ」


「え?」


「違和感の正体だ」


「どういうこと?」


 在香のその表情、久しぶりに見たな。

 わからなさ過ぎて困惑顔。

 たまにはいい顔しやがるぜ。


「以前、俺と在香で神族の研究施設行ったよな?」


「ええ、あの時のことね。それがどうかしたの?」


「あの時見つけたもんがあった」


「見つけた? 何を?」


 資料の三面図を指した。

 それは、あの時の奇妙なマークだ。


「エリザがその場にいたから、間接的に関与しているんだろうな」


「これは?」


「土下座して屁こいた画像に見えるが、オルツプロジェクトのマークだ」


 在香が思わず眉をひそめる。


「……え、何その例え。それが今回の件と?」


「大ありだ。こいつのローブにそのマークが誤解なく複数書かれている」


「でも変ね。普通それだけ慎重なら、書くにしてもこっそりなのでは?」


「これは彼らが誇示したいのかもな。これができるのは自分たちだけだと」


 スマポが震え、空間に小さな光の窓が開く。存子だ。


「そうですー! 是明さまのいうとおりです」


「自己顕示欲の塊だろ? あいつらって」


「まさにそうです。よく見つけましたね」


「要は動いた結果として、女神の逆鱗に触れたというわけか」


「そうだと思います。たとえ全く力が及ばない物だとしても、これはダメだと思います」


「だろうな。俺たちには関係がまったくないな」


 やりたきゃ勝手にやりゃいいが、

 それで、未納や脱税で仕事増やさねぇでくれ。

 まあ、あとは器探しが身内に及ばなければ、あとはどうでもいいな。


「はい。神族がそれをしようという考えそのものが淘汰されるように、殲滅されると思います」


「神族はいいとして、天使たちの情報は何かないか?」


「変わらず14区では、勇者と天使は拮抗している様子です」


 俺は机を指で思わずトントンと叩く。

 嫌な予感しかしねぇ。


「あいつ等もコソコソ何かやってそうだな」


 マジでやらかしそうだな。

 おいおい頼むぜ、やるなよ?


「天使ですか? 勇者ですか?」


「天使だ。勇者は(建前上は)深淵の女神直属の兵だからな。

今は女神がひと柱だけだしな……本来なら、目を光らせててもおかしくねぇだろう?」


「そうでもないですよ? この間捕まった連続強姦魔は、勇者です」


「な? マジか?」


「勇者の威厳を使いやりたい放題の奴らもいます」


「勝てば官軍、負ければ賊軍。これを地でヤッてる奴らか」


「そうですね。ゲス・クソ野郎どもです」


「官僚地域が比較的マシってヤツか」


「今のところはそうですね。鮮度の高い神肉と天使肉もここだけです」


「勇者圏の肉はまずいのか?」


「はい、クソまずいです。泥を固めて焼いた感じで、ゲロの匂いと苦味しかないかと」


「すげーたとえだな。名前からしてよさそうなんだが」


「ポイントなしで食える肉はヤバイです!」

 

 ……まあ食わねぇけどな。

 アレ食う気になったら終わりだろ。


「しかしよお、食文化一つとっても、地域差がでけぇよな」


「ええ、そうですね。ここは官僚の地ならではの特色がありますし」


「存子、お前って食の話だと、テンション上がるよな」


「ええ、上がります。いつか味わえたらと夢見ております。

ちなみに、アウリア大陸はもともと“光明の女神”と“深淵の女神”で領域が分かれていたのですが――」


「光明の女神は、もういねぇけどな」


「はい。ですが、光明の女神が治めていた側は“人基準”の文化だけは残っていて、

どうしても味付けが地味になりがちです」


 なんだ? 残念極まりない表情なんてするんだな。

 ごちそう逃したみてぇーな面ってやつか。

 

「存子、元気だせや」

 

「ありがとうございます。今は、女神がまとめて納税しないので、未納多発地帯。マジでクソです。

そのせいで、徴税局の支部がアウリア各地に点在しているわけです」


「相変わらずロクでもねぇな、あの辺りは。まぁ納税さえされりゃ文句はねぇんだが」


「逆に、深淵の女神が直に収めている側は、楽ですよね」


「ああ。深淵側は女神がまとめて納税してくれるからな。

俺たち本庁は基本ノータッチだ。

アウリアの光明側は光明側で、支部が死ぬ気でやってる」


 それにしても、どうにも見えねぇな。

 天使の連中は、とりあえず神族の欲しい物を奪っておいた感じだな。

 確か天使らの狙いは、全種族統一だよな?

 そんで神族は世界の支配か。


 どっちでもいいけどよぉ。

 マジ納税しろよな。


 存子の窓がふっと消え、部屋には俺と在香だけが残った。

 静かすぎる。さっきまでの喧騒が嘘みてぇだ。


 俺は椅子にもたれて天井を眺める。

 覗き込むようにして在香が笑む。


「どうしたの?是明」


「いやな、天使も神族も面倒だなってな」


「他種族だから?」


「いんや、納税しろよってな」


「何それ。ふふ。納税さえすれば、後は気にしない?」


「いや、大事なヤツにちょっかいかけてきたら潰す」


 在香の目が、ほんの一瞬だけ笑った。

 すぐいつもの顔に戻ったけどな。


「あなたらしいわね」


「そういうわけだ。何かされたら全力で火の粉を振り払う。それだけだ」


「そうね」


 なんだ妙だな。

 在香はなんでそんなに朗らかなんだ?

 わけわかんねぇぞ。


 ……あの朗らかさ、逆に怖ぇな。

 あいつ、何か決めた顔してやがる。


 まあいい。あとで聞くか。

 今は仕事だ。

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