第21話
「ポコポコ、是贋の予備はつくれるか?」
「1か月ぐらいかかるー」
「ああ、そしたら頼む」
「うん、わかったー」
今日も是贋の本体には細かい欠けがある。無理させすぎだ。
どうにも、きな臭ぇ。
前回、神族の研究所で大暴れして、その場に残されたのはエリザだけだ。
だから、あとでかなり面食らったんじゃねぇか?
まあ、どうなろうと知ったことじゃねぇけどな。
それにしても、あの時――外法神の研究所で感じた“気配”は何だったのか、多少は気になる。
あの中で動けるヤツだとしたら、俺と同等の力があるってことだろ?
まあ、今さら気にしてもしゃーねーけどな。
神族はともかく、今のところ、天使族に対して俺らが出張ることはねぇ。
ほぼ全員納付済みだからな。
神族は違うが。
となると、尻に火がついちまっているヤツがねらい目か。
とくに、神族の脱税犯を追いながら、ついでに調べてみるか。
俺の仲間が平穏であることが最優先だしな。
◇
とくにこれと言って特徴はねぇヤツだな。
資料をめくると、たまたま目に留まったヤツがいる。
そのプロフィールはいたって目立たない。
魔導探知が埋め込まれているぐらいか。
ってことは過去何度も滞納しているヤツか。
現在地も手に取るようにわかる。
俺たち特殊捜査官は、存続か抹消を判断できる。
回収課みたいな回収をすることもある。
要は、ケースバイケースだ。
でもこいつ妙だな。
クセェ。
マジでクセェ。
一見、仕事もあるし地位も高けぇ。
いうなればエリートだ。
そんなヤツが、脱税を繰り返すだと?
おかしくねぇか?
この資料が間違うことは基本的にねぇ。
だとすると脱税してまで金をどこに突っ込んでやがる?
仮にその記録が間違ったとしても似顔絵だけはずれない。
この人物の今を反映する三面図を見て、不審以外何者でもねぇな。
短刀を両脇に刺し、懐には魔導爆弾の銀爆弾。
ローブは耐衝撃・耐魔導の万能タイプを羽織る。
どう見ても戦う気満々だよな。
資料のプロフィールがあてにならねぇと思った瞬間だ。
どこが温厚で人が良いだ? 差が激しくねぇか?
つまり何かがつかめる可能性のあるヤツだ。
さっそく、現地へ飛ぶ。
魔導探知がある奴がいる地域へは、徴税局の転移魔法陣から飛べる。
便利だよな。
「おいおい。マジかよ」
辺り一帯は瓦礫の山。
血まみれで息絶えたヤツが複数。
一体どこの戦場に飛んだんだ?
神無大戦よりはマシ……っちゃマシか。クソみてぇな光景だがな。
「ッ!」
前言撤回だ。
なんでアレが今あるんだ。
局地戦制圧戦用・殺戮ゴーレム第四式『回天』
俗にいうミンチ野郎だ。
あんな丘が歩くような巨体に歯向かうのがばからしくなるヤツだ。
ヤツの通った後はひき肉にされちまう。
……あの気配と同じ質のモンを、ここでも感じる。
偶然じゃねぇな。
「ギャー!」
今度はなんだ?
アレは?
対人戦用・四足殺戮ゴーレム、ハイエナ型二式『絶影』
おいおい神無の再来か?
どうなっていやがる。
いた、あいつか。
魔導探知に反応するヤツがいた。
物陰に潜んでいた。
「徴税官だ――動くな!」
一瞬はっとするが、すでにあきらめた目をしていやがる。
「徴税官のあんちゃん。逃げな。もうここはダメだ」
「バカ言ってんじゃねぇーよ。こい」
俺は襟首捕まえて移動させる。
周囲の喧騒から少しだけ離れた物陰に隠れる。
「何があったか言え!」
「研究をしていた。だが、触れちゃいけねぇもんだった。
アレに触ったばっかりに、深淵のヤツが怒ったにちげぇねぇ。
ああ、俺たちはもうだめだ」
「だー要領得ねぇな。何に触れた?」
「創生の……禁区だ」
「は? なんだそれ?」
「存在証明の“根本”に触れる領域だ……書き換えるなんざ、本来ありえねぇ……」
「書き換えて回数を調べて、女神の器を探してるって話がどうした?」
「お前、そこまで知っているのか」
「キャー」
振り返ると、母と子で逃げ惑うヤツがいた。
「チッ」
「お前はそこにいろ」
やるしかねぇ。
「是贋!」
風は呼吸を止めた。
音は静まり。
視界は後方に置いてきた。
瞬時に魔獣型ゴーレムに肉薄する。
黒い四つ足の魔獣に目掛けて音を超えた。
横一文字に光の刃を薙ぐ。
真っ二つに割れた体躯は、そのまま切り口を上にし倒れる。
さらに背面に迫る。
息が俺に触れる前――
振り返りざまに一気に頭骨を貫く。
「ギャン!」
動かなくなった体を放り投げ地面に転がる。
この速度なら間に合う――
次ッ!
さらに子に迫っていた魔獣型ゴーレムだ。
横っ腹を上段からまっふたつに。
「ギャン」
断末魔が響く。
走った勢いのまま胴体がそれぞれ転がっていく。
足止めできるのか?
俺は左腕の是贋を真正面に向けて構えた。
右腕を肘に添えて、殺戮ゴーレム第四式『回天』に狙いを定める。
「是零砲」
――一枚、燃やす。
視界を白一色で覆うほどの光を放ち、光の奔流がゴーレムを貫く。
ドッガーン!
破砕音とともに、二体のうちの一体が腰より下を失い地面に転がる。
撃破。
これ以上は、多勢に無勢だ。
「おい、大丈夫か?」
「ありがとうございます。あなたは」
「ああ、俺か? 脱税者を追う徴税官だ」
俺はこの親子と別れ、先のヤツの所に向かう。
が――
遅かった。
すでに息絶えており、魔獣型ゴーレムが腹に顔を突っ込んで喰らってやがる。
ゴーレムでも食うのか?
「行くぜ!」
デタラメに穿った光の刃で、魔獣型ゴーレムを串刺しにする。
ここはもうだめだな。
さっきの親子はうずくまっている。
ダメだ。そこにいんな。
クソっ、仕方ねぇ。
俺は急ぎ向かう。
「おい、ここはダメだ脱出する。こい」
「え? お兄ちゃん。また来てくれたの?」
――さっきの悲鳴の主か。
ああいう声、昔から聞き捨てできねぇんだよ。
「さあ、来るんだ」
母親と思わしき者は、弱々しく言う。
「どこも地獄です。一体どこへ逃げろっていうのよ……」
母親の心は折れて、腕は震えちまっている。
……もう無理だな。
血を流し過ぎだ。
生き延びた喜びなんて、もう実感ねぇだろ。
「安心しろ徴税局だ」
ここに飛んできた転移魔法陣は、俺の任意で再度同じ位置から戻れる。
もとの位置に戻った。
「俺にしっかりつかまれ、いいな!」
「はい!」
「帰投!」
光の粒子が俺とこの親子を包み転移した。
「おい、お前この親子の保護を」
「はい、わかりました」
「俺は緊急報告を行う」
俺は局長代理へ、急ぎ報告へ向かった。
◇
報告後、徴税局は一時的に蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
『回天』と『絶影』
この二つのゴーレムは、過去の大戦の遺物だ。
そんな物が闊歩しているとなると尋常でない。
「……これ、神無大戦の再現じゃねぇか」
「いや、それより質が悪いって話だ」
局内は噂で持ちきりだ。
誰の制御なのか。
自立なのか。
数は?
地域は?
もうそれこそ、大騒ぎである。
まあ、ここまできたら俺の出番はない。
だいぶ地域が離れているとはいえ、アレが出てくるってのは尋常じゃねぇ。
一体誰が――
まさか、深淵の女神じゃねぇよな?
というより、その可能性のほうが高けぇ。
本当の禁忌にふれたってヤツか。
神族はやたらおかしな実験をしてたからな。
とくに女神創造なんぞやばすぎる。
思わず、神族の親子を助けちまったが。
関わり具合によっちゃ、俺たちも制裁対象になりうる。
久しぶりに危険を冒したな。
こんな事になるとはな。
何の気なしにめくった資料の魔導探知を追っただけだってのによ……。
――やっぱ、一人で動くとこうなる。
この資料は再度、精査してもらうほうがよさそうだな。
脱税と納税について、確定課はどこまで最新情報を把握してるんだ。
恐らくは、局長代理から確定課へ通達がいくと思うが、先に確認してみるか。
ホールで在香と出くわす。
「是明、この騒ぎは一体」
「ああ、神無大戦の遺物が複数体、神族領域を侵攻した。壊滅的だ」
「そんなことが」
「今から確定課にいく。払わねぇヤツらの地域的な繋がりを洗わせる」
「来るか?」
「ええ、当たり前でしょ?」
「そうか?」
「私たちは相棒よ」
「ああ、そうだな。行こう」
俺たちは扉を開けて向かった。




