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存在証明を奪う徴税官 ――神も天使も督促だらけ、未納は消滅確定  作者: 雪ノ瞬キ
始動編

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第18話

 あたしはポコポコ。

 今までとの違いをかみしめているの。

 

「暖かいな」


 いつからだったかな。

 こんな気持ちを感じたの。


 やっぱ是明か。


 その前までは、暖かいお湯を飲んでも、湯船で身体を温めても、ずっと寒かった。

 夜は寝ても悲しくて涙が止まらない時もあった。


 怖い夢も見るし。

 朝になっても、どこか身体の中が冷えたままだった。


 でも今は違うんだ。

 是明がいる。


 天使にさらわれた時、もうすべてが終わったと思った。

 あの時の冷たさ……身体の奥が凍っていくみたいで……。

 誰も来ないって、本気で思った。

 でもね、また現れてくれた。


 今回も、あたしが一番ヤバい時に助けてくれた。

 帰り、彼の背中はとても暖かかった。

 血の匂いもするし、汗くさい。

 ごつごつしているし、ちょっと固い。


 でもね。

 伝わるんだ。

 心が暖かくなるのを。


 今は彼の部屋で、彼と一緒に寝ている。

 そしたらね、全然不安なんてないの。

 是明の腕がね、気づくとあたしを抱き込んでるんだ。

 それが……すごく、落ち着く。


 だから、ずっとずっとそばにいてほしいな。

 ほんとはね。ずっと、好きでいても……いいかな、なんて。

 ――やめやめ、考えただけで恥ずかしすぎ。


 でも、ちょっとそう思うと嬉しくなってきちゃった。


 ねぇ、あたしの是明。

 もう絶対離さないんだからね。


 ……ねぇ是明。

 あたし、もう一度寒くなるのは嫌だよ。


 ……だから、お願い。

 これからもあたしを、あっためて。


 ……なぁに急に弱気になってんの、あたし。

 でも……思っちゃうんだよ。是明のこと。




「あーやべ。今起きた。俺是明」


 いや、いくら自由な時間で仕事っていってもよお。

 さすがにこの時間はちとやべ。


 何時だ?


 おい夕方かよ?


 隣を見ると、ポコポコはいねぇ。

 まあ、普通起きるよな。


 急ぎ着替えるか。


「あっ! バカ是明」


「おい、どうした」


「ねぼすけじゃん、バーカ」


「……まぁ否定はしねぇけどよ」


「これから仕事行くの?」


「ああ、ちょっと調べ物な」


(小声)「そう。早く帰ってきてよね」


「ん? なんだ?」


「なんでもないしー。部屋で魔道具のメンテしてるし」


「……あー、わかったよ」


 俺は徴税局内の職員用の部屋から出て、執務室へ向かう。

 

「よぉ?」


 あれ? 誰もいねえ。

 まあ、いいっか。


 脱税犯の資料はっと。

 これか。


 おいおい、14区ひでぇな。

 脱税、脱獄、密輸、密売……。

 天使の区画ってより“犯罪の夜店の屋台”だな。


 本当に天使の地区なのかここ?


 凶悪な連中ばかりじゃねぇか。

 さてはエリザのヤツ、何か商売する気か?


 また、俺に排除させようって魂胆がみえみえだぜ。

 まったくよお。


 まぁでもな。

 存在証明どうなんだ?

 これだけ高品質な連中の集まりってなかなか無いぜ。

 それに肉質もよさげじゃねぇのか?


 ポケットの中のスマポから存子の声が響いてきた。


「はい、是明さま。今の思考が響きました。品質はよいと思います。とくにお肉」


「おいおい、いきなりだな。まあお前らしいがな」


「おほめに預かり光栄です。14区行かれるのですか?」


「ん〜まだわかんねぇな。強烈なメリットがあればだけどな」


「そうですね。エリザからもらった袋にも数枚入ってますからね」


「ああ、そうなんだよ。だから余剰分だ。ストックという意味じゃありだけどな」


「確かに。気になるのは、そのストックの賞味というか消費期限ですね」


「ああ、俺もそれ気にしてる」


「こればかりはまったくわかりませんね」


「そうなんだよな。あいつに聞いたとしても鵜呑みにはできねぇ」


「多分エリザは、行くと思っているんじゃないでしょうか?」


「ああ、そうだな。だから今回わざと行かないのもいいかもな」


「ええ。そうしましょう」



 それにしてもな。

 神族の研究拠点で神族どもを消滅させまくったが。

 あの研究、何が狙いなんだ?


 少なくとも後釜はいるだろう。

 破壊したのは人だけだ。

 なら研究は続くだろうし、拠点は移される。


 一体奴らは何がしたいんだ。


「是明さま。先兵だと見られても不思議ではないですが、恐らくは違います」


「わりぃわかんねぇ。どうしてなんだ?」


「何かの反応を探している可能性があります。例えば深淵の女神因子など」


「神造の女神でも作る気か?」


「その可能性は否定できません。他には、類似の女神を作り、女神の存在証明をとりだす。

それを元に何かを作る、といった計画かと。

エリザがしていた、神族の存在証明でポーションを作るやり方に近いですね」


「そういうことか。エリザは神族のやり方を真似たのか」


「可能性は高いです」


「是明さまと比べて精度は著しく落ちますが、存在証明を取り出してまた白紙の存在証明を入れ替えて増産することが狙いかと。

ただ女神に近い何かを作る必要と、その存在証明で何を作るかですね」


「それ、確度たけぇ気がするな」


「おほめいただき光栄に存じます」


「エリザは彼らが何を作ろうとしているか知っている可能性が高いな」


「ええ、恐らくあの商談の時にその片鱗があったかもしれません」


「しまったなロクに見ずに……」


 おい。待てよ。

 そういや、あの時。

 神族のを抜くとき、見えていたな。

 エリザが広げていた紙に、はっきりと見えた文字があったな。


「どうされました?」


「いやあの時、あの紙にはっきりと書かれていた文字を覚えている」


「どのような文字列でした?」


「たしか……OrZ=3。

人が土下座して屁こいている物に見えたんだよな」


「それは、オルツプロジェクトバージョン3です」


「なんだそれ?」


「私もそれについては詳細不明なので調べておきます。ただ、深淵の女神が何かしら関わる可能性が高いです」


「それって、すげぇ面倒くせぇ何かじゃねぇか?」


「はい、かなり面倒くさい何かになりそうな予感がします」


 ああ、俺っていつもこういう案件にすり寄られるよな。

 というか、俺が自ら突っ込んだのか?

 


 こういう時に限って妙な依頼が来やがる。

 局のホールで依頼でも見てくっか。


 俺たちがいる徴税局は、職員の宿舎と執務塔、それとホールが完全に別。

 自由なのが何よりいい。


 それに個々で動いているやつが多いから、顔を合わせることも馴染みも特にいねぇ。

 あれ? そういや在香はなんでだっけな……。忘れたわ。


 職員あての依頼表には特に何もねぇ。


「あ〜、特にねぇな」


 眺めていると――

 背後から、風も足音もなく声が落ちた。


「――ずいぶん、お元気そうね。是明さん?」


 ゾクリ、と背筋が粟立つ。

 この声は、ただの女じゃねぇ。


「誰だ?」


 振り向いた瞬間、心臓がひっくり返った。


 こいつは……。

 俺の人生で、最大級の失態の塊だ。


「誰だなんて寂しいですわ。ご無沙汰してますの、是明」


「ゲッ! お前……セレス……!」


 最悪と最高の記憶が一気に蘇る。

 おいおい、まじかよ……なんで今日なんだ。


 圧倒的に美しい。

 視線を向けた瞬間、思考を乱される類の女だ。

 しかも、そうなることを承知の上で距離を詰めてくる。

 

 常識的に考えれば幸せだろ?

 ……でもこの女だけは別だ。


「あら、“ゲ”だなんて寂しいですわ」


「あー悪ぃ悪ぃ。で、なんか用か?」


「冷たいのね。あんなに――愛し合った仲なのに」


「寄せ。誤解産むだろ」


「誤解かしら? 私はいつでもいいのに、来てくださらないんですもの」


 なんだ?

 いや待て。なんでこいつがここにいんだ。

 ここは徴税局だぞ? 完全に部外者だろうが。


「なぁ、部外者のお前が、なんでここにいんだ?」


「そうですわね……わたくし、ここの職員になりましたの。あなたを……追って」


「嘘――だろ?」


「はい、嘘ですわ。

 ――でも、心は本当ですの」


「うわ、重いヤツじゃねぇか」


「はい。重い愛は何より強固ですわ。それに――」


「ん? なんだよ」


 セレスの瞳が甘く細まる。

 近づく。

 逃げられない距離まで。


「あなた以外に、選ばれた覚えはありませんの」

「そして――あなた以外を、欲しいと思ったこともありませんわ」


 ……やべぇ。

 息が詰まる。

 変わってねぇ、こいつ。


 セレスは一歩踏み込み、逃げ道を塞ぐ位置で微笑んだ。

 いや……立つなよ?


「……近い。離れろ」


 ふつーよぉ、局のホールだぞ?


「まぁ……あなたの前だと、加減ができなくなるの」


 だあー理由になってねぇー。


「ねぇ是明。思い出しません?

あの頃みたいに……あなたが一日中離してくれなかった日々」


「や、やめろ……!」


「あなたを見ると……あの時の“選択”を思い出してしまうの。

困ったものですわね。会っただけで、迷いが蘇るなんて」


 完全に捕食者じゃねぇか。

 にじり寄る気配がたまんねぇよ。


 俺は思わず大きく下がっちまった。


「……おい、やめろ。

それポコポコに聞かれたら、マジで面倒なんだよ」


「ふふ。あの子ね」


 くす、と口角が上がる。


「可愛い子でしたわね?

でも大丈夫。

あなたが本気で欲しいのは――私でしょう?」


「違ぇよ!!」


 というより、なんでこの女ポコポコの事を知っているんだ?

 おかしくねぇか?


「否定の仕方が昔と同じで安心しますわ」


 空気が一瞬だけ軽くなりやがった。

 セレスは裾を揺らし、くるりと背を向けた。


「また来ますわね。

“追っていい場所”が見つかったんですもの」


「来んな!!」


「ええ、もちろん来ますわ」


 振り向きざまの笑みが、ぞわっとするほど艶っぽい。


「あなたが逃げても――私は追いますの」


 ……やべぇ。


 気配がふっと消えた瞬間、俺は叫んでいた。


「――逃げろ! 俺!!」


 そしてそのまま全力ダッシュで執務室へ駆け戻った。

 一切振り返らねぇ。


 ここにいたら終わる。

 ほんとに終わる。


 逃げろ、全力で。

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