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存在証明を奪う徴税官 ――神も天使も督促だらけ、未納は消滅確定  作者: 雪ノ瞬キ
始動編

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第15話

「私は誰とも戦いたくないのであります」


 何言ってんだ。この丸眼鏡のインチキ商人は。

 めちゃくちゃがたいがいいな。

 俺はどうにもこいつがうさんくせぇ。


「だからなんだ?」


「なので、是明さまの戦う気を吸わせていただいております。至極貴重な体験でございまして、わたくし今にも昇天しそうであります」


 やべー。

 コイツマジなヤツだ。

 ぬめった取っ手に触れた感じだな。


 まぁ今はいい。


「そんで白紙の存在証明をお前がなぜ知っている?」


「是明さま。素晴らしい洞察でございます。あなた様のその勘。お見それしました。

わたくしなど、地べたを這うクソでございます」


「ただその前に、わたくしの“信用”の証として、今回に限り別の情報を無償で提供いたしたく存じます」


「は? ただほど、高ぇ物はねぇぞ?」


「よくぞご存じで。罠でございます。至極非道な罠でございます」


 こいつ言い切りやがった。


「ですがご安心を。あなたさまを食い物にできるほど、

この商人、愚かではございません」


 商人は、ニヤリと口角を上げた。



「随分と汚ねぇ笑顔じゃねぇか?」


「先の首だけの者を改造する研究所がございます。

また実験用に人をさらう可能性がございまして、その場所の構成人数、広さ、武装などの情報をご提供しようかと」


「……お前、ほんと気持ち悪ぃな」


 どうにもひっかかる。

 もう一つ気になっていることを口にする。

 

「で? 狙いは俺に破壊してほしいってことだろ」


「左様でございます」


「そいつらは、例の“外法神がいほうしん”、非合法魔導技師の連中らか?」


外法神がいほうしんで、かつ彼らの研究所に間違いございません」


「わかった」

 

「……ちょっと待って是明、それ本気でやるつもり?」


 在香は腰が引けている。

 まあ、そりゃびびるか。

 言ってる内容はある意味襲撃だ。

 だが、相手は凶悪犯罪組織、まだやるとは言っちゃいねぇ。


「俺の気持ちを代弁できたら考えてやる」


 俺は淡々とエリザの前にコップを置く。

 

「紫唐辛子だ。薄めてない」

 

「3口飲めば、焼けない火を噴く。5口でトイレの我慢ができなくなる」

「死なない。保証する」


「なぜわたくしめが」


「信用に値するかそれを見せてもらう。徴税官に対しての罠ってのもあるだろ?」

 

 覚悟を決めたのか、口に持っていく。

 ゴクッ、と一口喉を通過したようだ。

 在香の呼吸が止まったのが分かった。


「ぎゃああああ!! 辛い、イー……から……ッ!」


「嘘つくな。俺は辛くねぇ。お前の感想だろ?」


「ひぃ……っ、す、すみませ……ひっ」


 次のコップを置く。


「ま、待ち……あああッッ!!」


 また一杯飲ませる。


「ぎゃ、ぎゃひぃいいい!!」


「答えられねぇなら、じゃあ、もう一杯な」


「や、やめッ……あぁぁああああ!!」


 エリザは涙と涎でぐちゃぐちゃになりながら笑った。


「さ、最高です……が、嘘です……ッ!

わたくしは辛くて死にそうで……でも、嘘はつきたくございません」


「ほう。正直じゃねぇか」


 俺は注ぐのを止めた。


 エリザは震えながら、しかし目だけは澄んでいる。

 

「痛みと辛さは嫌ですが、嘘はもっと嫌いでして。

情報の値打ちは誠実さではなく、“事実”で決まりますゆえ」


「勘違いすんな。これは罰じゃねぇ。交渉だ」


「そろそろ、白紙の存在証明の場所を白状した方がよろしゅうございますかね?」


 淡々と笑う是明。


「最初からそうしろって話だ」


 エリザが指を押さえながらプルプルと震えてる。

 在香は一歩下がった。


「……見るな」

 

 辛い臭いが残ってるのに、頭だけは妙に冷えていやがる。


「はい。深淵の女神に関わる場所でございます。そこは……」


 横目に在香が入る。

 さっきより顔色が悪い。

 下唇をかみ、目を細めていた。

 ……なんだ? 怒ってんのか、怯えてんのか、それとも別の何かなのか。

 俺には判断つかねぇ。






「……なるほどな。そこなら、転移で飛べるな」


「左様でございます。あなた様の組織にある魔法陣で近郊までとべます」


「不安要因を神族ごと消し去るとしてだ、お前は何が得なんだ?」


 平静さを装っているが……。

 何を企んでいるかわかったもんじゃねぇ。


「神族の存在証明があれば助かります。このように使用できます」


 ふところから取り出した神族の存在証明とやら。

 それを欠損した指と手を合わせると……。


「おいおい、すげぇな」


 白い煙を吐き出してくっついた。

 完全に元に戻りやがった。

 こんな効果しらねぇ。


「効能の高いポーションは神族の存在証明から作られますです。はい」


「そんで、作り売ると?」


「左様でございます。ですが、製造方法についてはどうかご慈悲を」


 おい、おがむな。

 膝まづくな。


「いや別に、興味ねぇよ」


「ありがとうございます。私の貴重な裏商売でございます」


「でもよ、効率悪くねぇか?」


「さすがお目が高い。そこでさきほどの白紙の存在証明です」


「それって、引き抜いて入れ替えるを繰り返すのか?」


「まさにその通りでございます」


「逆にお前はできるのか?」


「もちろんできません。神族で納税に困った者から有志を募ります」


「……だいたい、外道な仕組みなんだろ」

 

 正確なところは、分からねぇ。

 分かりたくもねぇ。


「美しい! そこまで言い当てるなんて、なんてファンタスティックな答えでしょうか。まさに仰せのとおりでございます」


「なるほどな。なかなか外道じゃねぇか」


 こいつ、同士討させるのか?

 ひでぇ儲け方だなおい。

 まあ、俺にとっちゃどうでもいいが。


「最高の誉め言葉でございます。自慢しても?」


「するな」


「……畏まりました(しゅん)」


「それでは、神族の研究拠点で、私の用意した白紙の存在証明を使った

“神族の存在証明”の生産を依頼してもよろしいでしょうか?」


 ……これ、引き受けた瞬間から、俺の都合じゃなくなる匂いがしやがる。


「報酬と期日は?」


「まずは20個。それ以上は是明さまにて確保していただいても問題ございません。あまった白紙の存在証明も差し上げます。ただ20個だけはお願いしたく存じます」


 ……少ねぇな。逆に。


「期日は1か月程度でお願いできますでしょうか?」


「そっか。1か月後にここか?」


「はい。どのような場所でも飛んでまいります。この特別製のベルを3度鳴らしていただけたらすぐに参ります」


 こげ茶の革袋にあった。

 金色の光沢をもつベルだ。

 ……呼ばれる側じゃねぇよな?


「で袋は?」


「こちらでございます。どうぞ良しなに」


「ああ、考えといてやる」


「ありがとうございます。それではわたくしめはこれで失礼したします」


 在香のこめかみがピクッと動いた。

 けど、俺が首を振ると静かに拳を下ろした。


 45度にお辞儀をしたまま跳躍し、後退していった。

 なんだありゃ。

 まあ、いい。


 使えるなら利用する。それだけだ。

 外道でも関係ねぇ。俺は俺の都合だけで動く。





 俺はヤツの術中にはまっていたのは確かだ。

 窓を大きくひらき、ヤツを迎え入れていた。

 会話もした。

 わずかだがこちらの興味も見せた。


 問答無用で存在証明を奪えねぇ。

 何か止めるというよりは……。

 やる気を削がれるんだよな。

 アブねーヤツだ。


 去った先をしばらく見たが何もおきねぇ。

 そう思った矢先、久しぶりに存子が声を鳴らす。


「パラッパー! パラッパー! トゥルルル!」


 これ存子が口で言ってんだよな。

 スマポから聞こえるが。


「是明さま。ご無沙汰しています」


 スマポを取り出すと、ガラス板の上には点と棒線でできた顔が笑む。


「おっ! 何やってたんだ?」


「はい。再構築です。少し時間がかかり過ぎました」


「結構いろいろあったぜ?」


「はい、存じております。白い鳥どもが殲滅されましたのでスッキリしました。犯罪者組織なので焼いたらもっとよいかと」

 

 棒線の口が口角をあげてニヤリとしやがった。


「焼く?」


「はい。しょせん羽が生えただけの鳥人なので焼き鳥になります」


「焼き鳥か、言いえて妙だな。堕天使団には容赦しねぇよ」


「天使肉、うまいらしいですよ?」


「あれか? 通称“神肉”。実体は高位魔獣の超高級肉」


「はい、そうです。あの神がかった味からそう呼ばれているヤツです。加工屋で倒した数伝えれば見合った肉食えますよ?」


「そっか。次考えてみっか」


「ええ、そうしましょ」


「天使族か神族のどこかの地域にその魔獣がいるそうです。

今後肉にして売りましょう。需要ありますよ。ええ、絶対に」


 お? 存子食べる気満々に見えるが

 お前、食えないだろ?


 横で在香が、明らかに距離を取っていた。


「……あなたたち、会話が怖すぎるわ」


 さて、さっさと行くか。

 神族の研究所とやらに出向く。


「在香くるか?」


「どこに?」


「外法神の研究所」


「任務じゃないわ」


「そりゃそーだ」


 俺の後にピッタリいる。

 なんだ? 在香はくるんか?


「一人で行かせるわけないでしょ?」


「そうだな。相棒だもんな」


「相棒ね……」


 在香は俺の上着の裾をつまんだまま離さなかった。

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