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存在証明を奪う徴税官 ――神も天使も督促だらけ、未納は消滅確定  作者: 雪ノ瞬キ
始動編

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第14話

「女神様に報告を」


 勇者たちが動き出す。


 そのころ、深淵の女神は笑みを浮かべていた。


「もうあの人ったら……放っといても大丈夫かしら?」


 あの腕の中にいたときは、世界の何もかもがどうでもよくなったのに。

 今は、壊れた天使の“存在証明”をむしる手の方が、よほどよく動く。


「どうせ天使なんて、消しても困らないわね」


「あら?」


「壊れちゃった?」


 ぽいっと投げ捨てる。

 倒れ転げる姿は白い羽の持ち主だった。

 ピクリともしない。


 それを、黒い“何か”がこそこそと闇に回収して消える。

 その少し離れた場所には、白髪の頭を垂れた者がひとり立っていた。


「いえ、むしろ都合が良いかと。天使の派閥が減りました。」


 側近は淡々とそう告げた。


 女神は口角を上げたまま、何かを思い浮かべていた。



確定課の部屋



「まあ、逃げちまったものはしゃーねーよな?」


 振り返ると、豆奈がすぐそこにいた。なんだ?


「はい。しゃーないです」


 豆奈は妙にニコニコしていやがる。

 なんだこいつ?


 結構美人だよな。愛嬌あるし。


「むっ」


 なんだ? 在香の黒く大きな目がさらに大きく感じるな。


「豆奈、これ何かわかったら共有たのむな」


「はい、わかりましたー」


 このままずらかる。

 アリサの頭、どうすっか。

 というより、逃げたし。

 どうでもいいかとすら思えるな。

 あれだ、なるようにしかならねぇ。


 一階に降りると、眼をキラキラさせた野郎どもが俺を見つけると駆け寄る。

 うわっくんなよ。うぜーぞ。


「是明っさん!」


 唐突にお辞儀するのはなんでだ。


「自分、グラタンと申します。仇討ってくれて、ありがとうございまっす!」


「……仇討ちじゃねぇ。処理だ」


「おっす! 自分も礼がいいたく! 仇討ちぃ! あざっす!」


 どいつもこいつも四十五度に腰を曲げて、握手をもとめてきやがる。

 なんだよ、こいつら。

 そのまなざし、やめろ。


「なあ、仇って天使のことか?」


 聞いた俺がバカだった。

 そんな眼で顔ちかづけんなよ。

 拝むな、神じゃねぇんだよ。


「うっす! 最高っす!」


「憧れます!」


「あっあああ。急ぎ用でな、またな」


「うっす!」

「あざーっす」


 なんだ? このノリは俺しらねぇよ。

 しかも天使だと。

 なんで、もうこいつら知ってんだ?


 背後で小さく男の声も聞こえてきた。


 「仇を取ってくれた。……でも、近くにいたくはねぇな」

 

 そうさ、どう思っても俺にはどうでもいい。

 目の前の事実は変わらねぇ。

 お前にとっての悪は俺にとっての正義だった。

 じゃ俺にとっての悪は?

 どうだろうな。


 徴税局の俺たちの執務室へ向かう途中、どいつもこいつも眼をキラキラさせてやがる。

 なんだよ、おい。賞賛するなら存在証明よこせ。


「是明、ずいぶんあなた慕われているわね」


「あ? なんで天使のこと知ってんだ?」


「多分一部の者が話したんじゃない? あれ結構グロだし」


 ん〜話したヤツ誰だ?


「俺は、守りたいヤツだけを守った。それだけだ」


「だからいいんじゃない。今どきいないわそんな人」


「お前もその中の一人だからな」


「え?」


 在香の耳が赤く染まる。

 奴らの熱にあてられて熱でもでたのか?


 執務室にもどるが外がやけに騒がしい。

 今度はなんだ?


 窓の外を眺めると、白い熊の魔獣だ。

 まあ、あの程度なら警備隊がどうにかするだろう。


「あっ?」


 セリアだ。

 熊につかまって頭上にかかげられ、

 そいつは上向きに大きく口をあけてやがる。


 おいおい。

 そんなの食ったら腹こわすぜ?


 ゴリッ! ゴキゴキ ゴキュン


 うわっ頭食いやがったぞ、あの白熊。


 俺に目線合わせやがる。

 どうにも知性的な眼だな。

 しゃべれるのか?


「今度はあなた様」


「なんだと?」


 ゆっくりこっちに向かってきた。


 突然軽く会釈をするとニヤリとしやがる。

 こいつ、ほんとに熊なのか?


「いやぁ、是明様。二区壊滅、誠にお見事でございました」


 しゃべりやがったぞ。コイツ。


「本日は是明様の“今後の価値”を査定に伺いました」


 在香の鼻息が一つ粗い。

 握りこぶしつくっちゃってなんだ?


「おや? 無反応? 大変失礼いたしました。私としたことが、このような小汚い姿で」

 

 背中に手をまわし、脱ぎだした。

 おいおい脱ぐのかそれ?


 現れたのは腹の出た中年で赤いふんどし姿の丸眼鏡をかけたヤツだ。

 妙だな。

 その着ている毛皮は生きているように見えるが。


「改めまして、わたくし商人をしております。エリザベス・スチュワード・度座衛門でございます。エリザとお呼びください」


「いらねぇ」


 ……ふざけた格好なのに、その目だけが妙に澄んでいた。


「ご気分を害しましたかな? お近づきの印に、存在証明の“状態”を分析してご覧に入れましょうか?」


 寄るな。クソッ!

 殴れば終わる。そう思ったのに、拳が途中で止まった。

 理由は分からねぇ。ただ、出ない。


「是明さまはかねがねお噂も存じておりますゆえ、そちらのお嬢様。いえ、おくさまでしょうか? 拝読させていただきます」


「おいおい、なんだって?」


 今こいつ存在証明が読めるといったな。

 神族か、俺か、深淵の女神ぐらいだぞ。読めるヤツなんてな。

 あの天使族ですら読めないってのに。

 こいつは神族か?


「ご安心ください。なんの危害も被害も損害もございませぬ。ただ、そのままをお伝え申し上げます」


「え、あなた何者?」

 

 在香はごみでも見るような目で言った。

 そりゃそうだな。

 なんで赤いふんどしで黒い蝶ネクタイなんだ?

 しかも真っ裸で。


「え~あなた様、奥様でしょうか。存在証明は、誠に素晴らしい状態です。

どこかに、非常に強い存在証明をお持ちの方が、近くで長く重ねておられるのでしょうな。

それだけの“厚み”がございます。

十段階中、三・さんてんごの評価でございます。人でその強度はなかなかおりません」


 なんでだ。ほぼ正解じゃねぇか。


「おや? 興味をお示しでございますか。

わたくしにそこまで興味を持たれるとは、恐悦至極。僥倖の極みでございますです」


 うわっ、なんだこいつ。

 マジで殴りてぇ。

 その含み笑いやめろ。

 やっちまいそうになる。


「お前」


「私めは情報をも販売しておりますです。

例えば、天使族の弱点や何をもとめているのかとか。

局長の場所など、すべてご提供が可能でございます」


「ああ、興味ねぇな」


 一瞬固まり、彫像かと思ったぞ。

 汚ねぇやつのな。


「さすがお目が高い。この程度では是明さまの心は動きませんね。

存じておりますとも存じております。

それでは、白紙の存在証明が眠っている場所の情報だとしたら、お買い求めになりますか?」


「なんだと? 対価はなんだ?」


 ヤベっ。思わず飛びついちまったじゃねぇか。クソッ。


「そうですね。神族と天使族の存在証明書を、情報の内容に合わせた枚数だけ頂戴する、というのはいかがでしょう?

もちろんそれを収める袋は別途用意いたしますので、その中に規定数を収めていただけたら、あとはご自由に」


 こいつ、気味がわりぃな。

 ノリが違いすぎる。

 殴って放り捨てるか。

 今すぐヤルか。


 でもな、なぜかそんな気がおきねぇんだよな。

 気持ちわりぃんだが。


 自分の手のひらを上下から挟むようにしてさする。

 どうにかこのまま存在証明を奪って消したくなるが、次の一歩がなぜかでねぇ。


「では、こうしましょう」


 口を開けば交渉。

 こいつは一体。


 俺はなぜかコイツのペースにはまっていく気がした。……クソッ。

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