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存在証明を奪う徴税官 ――神も天使も督促だらけ、未納は消滅確定  作者: 雪ノ瞬キ
始動編

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第10話

「やや、僕のせいだね。不甲斐ない。それでは改めて自己紹介でもしようか? 知らない人もいるからね」


 ユラは空中に椅子を作り、足を組んだ。

 完全に、上から見てやがる。

 要はクソなヤツだ。


「僕は天使族のユラだよ。わけあってね。僕は今単独で動いているんだ」


 何が単独だ。

 一騎当千の癖によく滑る口だぜ。

 ああ、その銀色の髪を触る癖、マジでうぜぇ。


「……確定課の豆奈です。担当は五年目で」


「へぇ。ベテランだね」


「あっ、ありがとうございます。天使族の皆さんも普段きちんと納税していただいているので助かります」


 口が先に動いたのを、豆奈自身が遅れて気づいたみたいに黙った。


 納税しねぇと、神族と天使族は、世界から存在証明徴収されて消えるからな。

 そりゃあ必死だよな。

 そんで、豆奈はなんでそんな背筋まっすぐなんだ?

 こんなヤツの前でシャキッとしても餌にしかみられねぇぞ。


「徴税局の在香。是明と組んで事件の解決に取り組んでいるわ」


 ヤツは俺を見て一瞬口角を上げた気がした。

 おいおいなんだよ?

 在香狙ったら、お前ヤるぞ?


「話はそれで終わりか? じゃあ本題だ。何を吐く?」


 ため息なのか深呼吸なのか、よくわからねぇ息を吐き出しやがった。

 その息、毒じゃねぇよな?


「徴税局、局長。彼は僕らが保護しているよ」


 またニヤ付きやがる。


「だから安心していい――と言いたいところだけどね」


「保護、ね」


 在香が、刃物みたいに目を細めた。

 

「あなたの言う“保護”は、だいたい檻よ」

 

「それより先にアリサの話をしようか」


 ……質問を握りつぶす手つきが、いちいち鼻につく。


 ユラは微笑み、指先をひとつ鳴らす。

 部屋の空気が一瞬凍る。

 

「彼女は神族に保護された。局長とは別ルートでね」

 

 なるほどな。

 局長は天使族、アリサは神族。

 二つの勢力がそれぞれのカードを握ってるわけだ。

 

「――人の命で取引してるってわけか」


 つまり、お前と神族は今分裂してる。

 噂で聞いてた「内紛」って線も、いよいよ現実味出てきたな。


「保護なんてきれいな言葉、信用できないわ。

あなたたちなら、尋問して吐かせた方が早いでしょう?」


「ふふ、鋭いね君。人質など僕はとらないよ。知りたいのさ是明。君の背後にいる人をね」

「君が動けば、背後も動く。だから君を揺らす」


 ああいるさ。

 ポコポコだろ。

 存子だろ。

 呪女もいるな。

 でも――教えねぇ。


「おいおい。論点すり替えるなよ」


「それで局長は何を知って、あなたたちに保護されたの?」


「君たちは実に面白いね。局長の心配はするけど、アリサの話題が一つもない。

つまり、すでに天秤にかけて優先は決まっているわけだね」


「何がいいたい?」


 こいつら、俺たちの行動がさも何かの意思決定をさせたと、既成事実を作ろうとしているだけじゃねぇのか。


「神族も天使族も危ない実験を続けてた。

で、実行に移す“きっかけ”を探してた。

今日の襲撃と、この会談が――その合図ってわけだ」


「仲間がどうとか言うと思うか?」


 俺は一歩も動かない。

 ただ声の温度だけ下げた。


「ん? んん?」


 豆奈はまったく理解していない。


「あは。是明、君の本質を忘れていたよ。君、結構野蛮だからね、知ってた?

僕らの仲間内では野人って呼んでいた奴らがいたのを」


「まあ、否定はしないな。で、局長は? どこに?」


「そう簡単にいうと思うかい? 取引だよ」


 はいはい出たよそれ。

 何度も見たし聞いた。全部ろくな結末じゃねぇ。

 

「――その言葉を聞いたの、何回目だろうな」

 

「いらねぇ」


 こいつらほかの種族より強いからと好き勝手やりやがって。


「え? 是明、何言ってるの?」


 在香が息を飲んだ。


「交渉する価値がある相手じゃねぇ」


「なっ――」


 在香が焦りだす。


「俺が欲しいのは――」


 視界がゼロ距離に圧縮される。


「お前の命だ!」


 在香の息が止まる。

 その顔を見て、なお止まらない自分が――少しだけ嫌だった。


 一瞬。瞬きが止まる。

 ――軽い。

 手応えが、命じゃない。

 こいつは“器”だ。


「是零掌」


 ヤツの胸骨に掌底を撃ち抜く。

 骨が砕ける感触の前に、存在そのものが崩れた。

 存在証明を引き抜き、即時粒子化していく。


「君にはかなわないね――また会おう」


 粒子が散っていく。

 そこに一つ、親指サイズの玉が宙から落ちて転がる。

 豆奈が、声にならない悲鳴みたいな息を飲んだ。


「あぶねー……」


 俺はそいつを拾いあげて、見せる。

 玉を拾った瞬間――指先が、ひやりとした。

 ……嫌な手触りだ。

 俺の中の“燃え跡”を、撫でられた気がした。

 

「これ、何かわかるか?」

 

「銀爆弾だ」


「え?」


 床に置いた瞬間、空気が“引っ張られた”。

 部屋の角が、ほんの少しだけ歪む。

 このまま起動すりゃ、この部屋ごと“なかったこと”になる。

 血も叫びも、最初から無かった扱いだ。

 

「情報取ったら即処分。全部こうだ」


「あの人、また会おうって」


「ああ、どうせコピーだよ、今日のヤツ。いつもそうさ。本体は安全な場所にいる」


「でも、これだと何が狙いか」


「ん? 気が付かなかったか?」


「え?」


「言ってただろ?」


「……合図なんてレベルじゃねぇな。

もうどこかで、誰かが“使われてる”ってことだろ」


 在香、その目やめろ。俺にできることなんてねぇよ。


「では、局長とアリサは」


「だめじゃね? まあ神無大戦よりはマシ程度だな。それに――」


「何か?」


「神族も天使族も、それぞれに動き出すだろうな。

お互いの首を狙いながら、な」


 ちょっと今回は事情が複雑に絡みそうだな。

 俺も予測がつかねぇ。

 深淵でくすぶってる、あのヤバい連中がわき出てきそうだな。

 もし出てきたら。

 イヤ、今は考えるのはやめておこう。


「でも天使って神の家来では?」


「まあ普通はそう思うよな。少し違う。昔はそう呼ばれてた時代もある。

今は違う。別の宗教を名乗る神族ってだけさ。天使という名の別の神族だ。思想が違う」


 俺の知る限りじゃ、

 神族は世界ごと乗っ取りたがる。

 天使族は、生きてるもの全部に首輪をつけたがる。


 どっちもクソだ。

 ただ、そのクソどもが世界の主導権で喧嘩してるせいで、俺たちの飯と仕事が増える。そこが一番ムカつく。


 あとはやたら俺の背後をあいつは気にしているな。


「天使族は牽制の意味で、俺の背後を確認したがったのかもな」


「え? 是明も何かあるってこと?」


「ある。けど無い」


「何それ?」


「任務こなさないと、飯くえねぇだろう?」


「あっそういうことね。それならあるね」


 あってもほんとのこと言うわけねぇ。

 あぶねーあぶねー。


「局長もアリサも何か情報つかんで消された?」


「どうだろうな。まあ十中八九、保護なんかされちゃいないだろうな。拷問はあるだろうけど」


「それじゃ?」


「憶測だとして、ヘマでもしたんじゃねぇか? もともと何やらやっていてしくじった。そこで、とっ捕まえられたと。そんだけだと思うぜ」


 在香はまっすぐ俺に目を向けた。


「じゃあ本丸は」


「存在管理庁の権限そのものじゃねぇか? こればかりは世界から委任されていて変えられないからな。

そこを抑えりゃ、世界そのものを握れる。

だからこそ狙われてる。そう考えても不思議じゃねぇよな?」


「要するに――“世界のハンコ”を、神と天使が取り合ってるってこった」


「……つまり、その“権限”のどこかに秘密があって、

それを奪おうとしてるってことよね?」


 権限は世界からの委任だ。

 それを天使族や神族が奪ったらどうなる?

 ――世界が何するかわかんねぇ。


 まあ、実際に奪えるのか疑問だけどな。

 俺ですら、そう考えるのに神族と天使族はよくわかんねえな。


「おおー鋭いね。多分その線が濃い感じだから、内部文書など調べるといいかもな」


「ねぇ。もしかして、その痕跡を消そうと魔獣や関係した人らが魔獣化されたとかじゃないかしら?」


「すげぇな。在香。でもこれで点と点が線につながるな」


 少なくとも近しい意図は見えてきた。

 でも何かひっかかるんだよな。


 それがわからねぇ。

 でも今夜作戦会議をする呪女のアイツ次第で変わるな。

 何をこそこそ調べて動いていたのやら。


 あっでもあいつ、ポコポコが裏返ったヤツだから、本質的にポコポコなんだよな。

 ん~。難儀だ。


 この後、俺たちは豆奈と別れ自分たちの執務室に向かう。

 どうせ、この執務室の近くに俺の部屋があるしな。


 廊下を歩くと俺たちの所属する徴税局に近づくにつれ騒がしい。

 

「おい! あのクソ脱税野郎どうなった」

 

「かぁ~やられたよ。あの女。飛びやがった」

 

「おいおい。申請と違うじゃねぇか」


 いやいや賑やかなこって。

 まあ、俺たちのところはいつもどおりだな。


「ねえ、是明。これからどうするの?」

「局長とアリサのことか?」


 在香が神妙な顔してきやがる。

 マジで無理だよ。あれ救おうなんざ。

 手間暇かかるだけだ。


「ええ。助けられないのかしら?」


「まあ奴らのあの調子なら、すでに魔獣化されているか、何らかの実験台だろうな」


「無理なのね?」

「……そう。局長も、アリサもね」


 無理じゃねぇんだよ。

 やれるけどやらない。

 価値なんだよ。価値がな。


「いや。違う」


「どういうこと?」


「助けるかどうかは、俺が決める」


 一拍置いて、喉の奥で言葉がこすれた。

 

「――今の俺が助けたいのは、身内だけだ」


 ――本当は、見捨てられた奴らの顔なんて、もう見たくねぇからだ。

 

「是明……。もし、私が捕らわれたら」


「言うな。」


「え?」


「そんなの決まってんだろ。お前を救い出す。全力でな」

「神でも天使でも関係ねぇ。――邪魔する奴は、全部叩き潰す」


 在香が、ぽかんと口を開けて――それから、少しだけ笑った。


 思わず鼻息を漏らす。


 執務室までさしかかり扉を開くといた。

 なんでこのタイミング?


「やっほー!」


「誰?」


 在香が身構える。


 白いワンピース風のドレスに、黒く長い髪と影が出来るほどのまつ毛。

 こんなところに来るとはな。


「呪女。ここで作戦会議かよ?」


「へへへ、いいネタ仕入れてきてんよ。

天使族の連中ヤバイね。

笑えない方の――あれ、やっちゃいけない線」


 俺は椅子を引いた。

 

「話せ。何を見た」


 ついに始まっちまったか。

 俺の胸の内にあった小さかった嫌な予感が、じわじわとでかくなる。


「在香、これから渋くなるぞ」

 

 本当はもう渋いのはお腹いっぱいなんだけどな。

 椅子に座って呪女と向き合った。

 夜は長くなる。


 そうだな――

 あの時の花の匂いだけが、最初に戻ってきやがる。

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