8.いつだって、探検に危険は付き物である。
目を開けると、そこは自分の部屋の天井だった。
……?なんでこんな所に……あーそっか。魔力切れで倒れたんだ。
『破滅杖』でいつも通りじわじわ減って、『千里眼』を自分と白黒の分を使って半分以下になって、『転移』したら残り僅かになって、その他諸々魔術で減って、長身に回復魔術したら倒れたんだっけ。
久々に倒れた気がする。
いつもだったら四分の一くらいで済むはずだけど、今日は私の中で一番消費量がヤバイスキルを使いまくっていたせいだ。まぁ、お陰で魔力は五倍くらい増えてたからいっか。寧ろプラス。
この世界は自身の魔力を全て消費することで、自身が身に溜めておける全体の魔力が増える仕組みだ。今回の私の場合、『成長』というスキルを誰かから“吸収”して持っていたため、余計に増えた。ありがたいことである。
さて、今何時かな……。
「ふぎゃッ!」
ん?今なんか右手に柔らかそうな何かが……。
掴んでみるとそれは白黒だった。
「……おはよう」
「うむ。おはようなのじゃぁーーじゃないわ!我を物扱いするでない!」
「あ、ごめん」
私はそう言われて気付き、白黒を掴んでいた手を離す。
「ふぅ」
「運んでくれてありがとね」
白黒を見てふと思い出したのは倒れる前の出来事。確か、白黒にどうにかしてでも私をここまで運んで来させるように言った。ちゃんと頼み事を聞いてくれたようで何よりである。
「礼ならシュンに言ってやれ。運んだのはあやつじゃ」
「ふぅん、長身が。ところで今何時?」
窓を見る限り真っ暗なので、夜なのは間違いない。
「深夜二時……いや、もうすぐ三時になるから深夜三時じゃな。全く……微妙な時間に起きよって……。シュンの奴も帰ってしまったぞ?起きるのが遅すぎるのじゃ。夕食はシュンが持ってきてくれたんじゃが……」
「あー……いらない」
「言うと思ったわい」
基本的に私は、三大欲求と呼ばれるモノを私は必要としない。『不老不死』のスキルの影響である。ただまぁ、必要がないだけで楽しむことくらいは出来るけど。
それにしても……深夜三時近くか。
早朝まで時間はまだ有り余っている。
船、うろついてみようかな?まぁ、暇だしありといえばありではある。
うん、そうしよう。暇だし。
私はベッドから降りて、部屋の鍵を持ってドアを開く。
「どこへ行くのじゃ?」
「探検。……来る?」
そう言った途端、白黒はふよふよと少しだけ焦るように飛んで私の肩に座る。
「当たり前じゃ。お主が意外とトラブルに巻き込まれ易い事に気づいたしの。いくら強いからと言っても心配になってくるわい。お主は仮にも我の契約者なんじゃから」
はぁ、と溜め息を添えて。
「いいけど、声は出さないでよね」
『うっ……分かってるのじゃ……』
言った瞬間にテレパシーをしてる辺り、あの時のことは反省しているのだろう。
◇
深夜の船内は意外にも楽しかった。
誰も出歩いては居ないので気持ち的にも楽でかなりゆったりできる。
しかし、一応ということで只今私は透明化中。これで見つかる心配はない。
私はまず部屋を出る。そして長い廊下が続き、その合間には他の乗客員達の部屋がある。ここは四階。ほぼ乗客員の部屋しかない区画である。
下の階は食事をしたり、メインホール的な場所がある。まずはその辺に向かおうと思っていたのだがーーーー思いの外、ここ四階でも面白いモノが見れそうだ。
思わず口がニヤけそうになった。
『白黒、見える?あれ』
『ああ、実に怪しいのぅ』
私たちの視線の先にあるのは、とある二人組の乗客。
なにやら扉の前でコソコソと会話をしている。
私は聞こえる距離まで近づいてみた。
「ねぇ、本気なの?」
「おい!そんなデカイ声出すなって。見つかっちまったらどーすんだよ?」
「ご、ごめん」
ん?
さっきは遠すぎて分かんなかったけど、よく見たらニトロア学園のバッジ付けてない……?
『白黒、あの羽の模様が特徴的なバッジ、ニトロア学園のバッジに見えるんだけど、どう思う?』
『うむ……多分本物じゃろうな。なるほどのう。道理で大人にしてはシュリアのようにちっこいと思ったわい』
『一言余計』
そんなことはどうでもいい。重要なのはあの二人組がどの学年なのか。
『あの二人って、どの学年か分かる?』
『んー恐らく一年生じゃろうな。シュンが言っておったぞ?ニトロア学園の学生たちが、郊外学習としてヴォルメ王国へ行くためにこの船に乗っとるらしいと。あ、今は帰りじゃろうな。訂正じゃ』
一年生。
その言葉を聞き私は少しほっとした。
ニトロア学園。
それは世界で一番有名な学園であり、各国の王族貴族達の子孫達、そして平民の天才達が育つ場所で、天才を産み出す場所として有名である。
そんなニトロア学園を私が恐れる理由……。まぁ、簡単な理由だ。
あそこは私の義兄と義姉が通っている学園なのだ。
義兄は三年生、義姉は二年生なので、万が一ここにいたら見つかって面倒な事になる。それだけは絶対に回避しなければならない。まぁ、義兄はドレンドルが死んだから国に戻ってる可能性はかなり高いので、学園に関わっている可能性はほぼ無い。
とまぁ、義兄の方は正直どうでもいいのだが。
厄介なのは義姉の方だ。
義姉は幼い頃からねちっこい嫌がらせをしてくる思い出が度々。つまり私は嫌われていたのだ。しかし、前の私はあの人に対して何も思っていなかった。だが今は記憶が戻った。
今なら分かる。あの人が私にどれだけ酷い仕打ちをしてくれたのだということを。だから私はあの人が嫌い。もう二度と顔を見たくないし、会いたくない。向こうもそれは同じだろうから、こうして私が死んだことになっているのは、あの人にとって幸福なことなのだろう。
そういった理由があるので、私はニトロア学園の生徒がいるという時点で少し警戒していた。2年生ならば義姉が居る可能性が高い。しかし、今この船に乗る生徒らは1年生。なら義姉がいないことは確定である。
この人たちが一年生でよかった。ほんとによかった。
私は再び二人組の会話を聞く。
「あ、あのさ、やっぱりーー」
「なあーに怖がってんの?俺はお前が着いてこようがこまいが行くけど?」
「……で、でも………」
「気になんねーの?あの噂がほんとかどうか」
「気に……なるけど……」
噂……?
その事に疑問を持っていると、私の意思が届いたように少年達……仮に少年Aくんと少年Bくんとしよう。
そして、少年Aくんは語りだした。
曰く、この海のどこかで、海から人形の幽霊が船に現れるのだとか。そしてその幽霊は、自分の姿を見た者をずぶ濡れにし、「また、ハズレ……」と呟やいて、海に戻っていくという。
「幽霊が現れるのは全部夜。見るなら今なんだよ」
「でも、幽霊は僕たちを襲ってくる可能性だってあるし……」
「それは大丈夫だって。そのためのコレだろ?」
少年Aくんは懐から札を取り出した。
少年Aくんが持っているその札は、幽霊を祓うための道具だ。
「この札は本物の退魔師からもらったガチもんだぜ?万が一教われてもこの御守りがある限り死にはしない」
少年Bくんは、少年Aくんに反対する意見がもうないようで、大人しく少年Aくんについていった。
私もその後を追った。
◇
少年達は船の広々とした外までやって来た。
ここは景色が綺麗で海もよく見えるので、絶景の場所である。誰も居ない薄暗い船の外は、どこか新鮮で私にとっては気になるモノばかりだ。
そんな場所に少年達は、端まですぐ近くに移動し、海の底をそっと見下ろした。
「……何もないよ」
「……んじゃ戻るか」
「えっ!?」
少年Bは少年Aがあっさり引いたことに目を丸くして驚いている。
正直私もすぐに引き返すとは思っていなかったので、少し驚いている。
「なんも無いんだろ?なら明日また来ればいい」
「そ、そっか……」
だが理由を聞いてすぐに少年Bの眉が下がる。
「でも、もうちょっと待ってようぜ。もしかしたら何かーーー」
少年Aが何か言いかけたその時、少年達は水にかかってずぶ濡れになっていた。
そして海には、例の幽霊と呼ばれる女性が見ていた。
髪は長く、目は前髪に被さっていて見えず、服は水にいたのであろうが一切濡れていなかった。
「また、ハズレ……」
女性は噂通りの言葉を発した。
「「で、で、でたあああああああああ!?」」
少年達はその姿を見ると悲鳴をあげて直ぐ様逃げ出していた。あの札は意味がなかったようだ。
透明化していた私は女性をじっと見つめる。
「……ん?」
ふと、女性がこちらを見たような気がした。
あれ?今の私、透明化してるはずなんだけど……。気のせい?
すると、目の前で先ほどの少年達のように水をかけられた。
……濡れるからやめてほしいんだけど……ん?
ふと服を見ると、私の体は一切濡れていなかった。
「やっぱり!ようやく見つけたわ!」
女性はそう言って此方に近づいていた。
「そこの貴女。私と契約を結びなさい!」
女性は私を見つめてそう言う。いや、近い。
「……」
「あら?もしかして見えてない?」
「…………」
「え~?私はアイツみたいに特殊な精霊じゃないから、ちゃんと見えるはずなのだけれど……って、なんでアンタもいるのよ!?」
アンタ、と言い女性が指差したのは私の肩に佇む白黒。
……知り合いで、見えてるってことは……精霊?
「なんじゃ。我がどこに居ようが勝手じゃろう」
「うわー!それすごく懐かしいわね~!アンタのじじい口調!」
『リネアよ。我らは面倒な者に捕まってしまったようじゃ』
『なんで?』
白黒は心底嫌そうな顔をしてこちらを見てくる。
いや本当に、切実に巻き込まないでほしい。
「もしかして貴女、スジアンの契約者なの?だとしたらネーフェス家なのね!女の子だからリーネルって子の方?」
リーネルは義姉の名前だから違うが、どうしてそこまで知っているのだろうか。考えられる事としては、白黒の知り合いという前提条件に基づくと、白黒が自分はネーフェス家しか契約できないという情報を漏らしたということ。
『ねぇ、一瞬で身バレしたんだけど』
『……』
白黒に問いかけるも返答はない。つまり自覚済み。
絶対犯人コイツじゃん……。
とりあえず、自分で持ってきた問題だからなんとかしてほしい。
「そうね……うん、まずは自己紹介よね。私はディーネ。水の精霊ディーネよ」
水の精霊は七大精霊の一つで有名である。つまり幽霊と噂になっていた女性は、この海に住む精霊だった……という事になる。
ん?……ディーネ……あれ、水の精霊って、ウンディーネじゃ?
「ふふ。今疑問に思ったでしょう?水の精霊はウンディーネって名前で有名だもの」
「どういうこと?」
「実はのぅ、水の精霊ウンディーネは双子の兄妹なのじゃ。2人揃ってウンディーネと言っての」
「私は妹のディーネ。兄はウンディって名前なのよ」
兄はウンディ、妹はディーネ。二人揃ってウンディーネ。
……なるほど。
「で、そっちは?」
「ん?」
「貴女の名前よ!」
「……リネア」
「リネアね!あら、ネーフェス家じゃないの?アンタにしては以外ね。それじゃあ契約しましょう!」
「待て待て待て待て!!どうして今の流れで契約になるのじゃ!?そもそもリネアは我の契約者じゃ!お主まで増えるとは聞いておらぬ!!」
白黒の言うことにも一理ある。
私は精霊をもう一人増やす気はない。これ以上私の回りをふよふよされても邪魔なだけ。
でも私は、この精霊には聞きたいことがある。
「いいじゃない!精霊と沢山契約してても良いことばかりよ?マイナスなことなんてないわ!それに、決めるのはリネアなのよ?スジアンが口出しする権利なんてないわ!」
正論をつつかれて白黒はやや精神的ダメージが刺さる。
先程の様子も考えると、白黒はディーネのことが嫌いなようす。
「私、契約する気無いけど」
「えっ!?」
ディーネはその言葉を聞くと動きが固まった。
「な、……なんで……」
「……精霊なんて何体いても使えないし、回りを飛び回られるのもうざいし」
白黒が正にそれ。戦闘はほぼ私で、ことあるごとに話しかけるうえに、移動中はふよふよと私の回りを飛び回る鬱陶しい害虫。
個人的にすごく邪魔。
「で、でもっ、それはスジアンが例外なだけよ!私は水の魔術だって使えるし、礼儀だってちゃんとわきまえてる!スジアンが物分かりの無い奴ってだけなのよ!」
「本当かのぉ?」
必死になって訴えるディーネに白黒は煽った。
いや、白黒は胸張れる立場じゃないでしょ……。
「大体お主、兄の方はどうした?何時も二人で居ったじゃろう?二人揃わないと本来の力は戻って来ないのでは無いのか?」
「…………よ」
「ぬ?よく聞こえぬが?」
すると、ディーネは大声で叫んで泣き出した。
「うるさいわよぉぉぉ!うわぁぁぁぁん!」
「!?おぉ、急に泣かれても困るのじゃ!リネアよ、なんとかせぬかー!」
「命令しないで。それに私に振られても困るから」
私が否定したことにより、仕方なく白黒が泣き止まないディーネを宥める。
そうして暫くすると、落ち着いたのかポツリポツリと自分の事について語り始めた。
「お兄様は、ちょっと前に東の見回り行くって言って、ここから離れて行って……勿論私も付いていこうとしていたの。でもお兄様は、"ディーネは西を守るのが役目で、私は東を守るのが役目だ。それはきちんと果たさなければならない。大丈夫。直ぐに戻る"って言ってたから、私、ずっと待ってたのよ! なのに……っ! 何時になっても帰って来ないし、急にお兄様の反応が途絶えるし、力もお兄様分まであるみたいに増大して………」
ディーネの目からは涙が溢れ落ち続ける。
「だから私、お兄様を探す事にしたのよ」
その声は、今までの中で私の耳にもよく聞こえた。
「お兄様を探すためには、ここからでないといけない。でも私は、この海から動け出せない」
精霊は大抵自身が産まれた場所に執着し、そこが住みかとなっていることが多い。精霊としてのツナガリを維持するためとも言われている。だがまぁ、稀に例外はある。
「お兄様が側にいるときは平気だったのだけれど……。でも、今は違う。完全にこの西側から動けなくなったわ。自由に身動きが出来るようになるために、一番手っ取り早い方法としは契約をすること。そのために私は契約者を探していたの」
契約は人と精霊、または悪魔とのツナガリをより強固にするためには一番やり易い方法である。契約のツナガリは、精霊が生まれた土地とのツナガリよりも強固なモノだ。そのため、精霊が自身の住みかを出ていく為には必須事項であるのだ。
勿論白黒にも住みかとか、そういうのもあったのだろうが、私たちの契約がツナガっていくうちにほとんど自由の身になっているのだと思う。恐らく、私の契約がとどめだったのだろう。
それと私の考察だけど、七大精霊だけは例外なのかもしれない。
それぞれの住みかは多分あるのだとは思う。だけど身動きの制限はない。そうなっているのかもしれない。今回のディーネの現象は、兄の方が七大精霊としての権力を持っているため、ディーネは通常の精霊と同じ判定になっているのだと思う。
いろいろと複雑すぎるけど、要は精霊にとって住みかは心臓と同じくらい大切な場所で、でもそれは七大精霊にとって例外。
水の精霊ウンディーネはもっと複雑。
とにかくディーネ一人の状態は、普通の精霊と何一つ変わらない状況という事になる。
「でも私と契約できる人間って、限られているのよ。まず条件に魔力が私よりも多いこと。そして、私が生み出す水を浴びても濡れないこと。……リネア。貴女はその条件全部を満たしているの」
つまり、私のような人間が欲しかったわけか。
「お願いっ!お願いだから、私と契約して……っ!」
ディーネは泣きそうな、必死そうな顔で私の目を見つめる。
私は白黒との第一回脳内緊急会議を開いた。
議題は【この精霊と契約するか否か】である。
『どうする?』
『無しじゃ、無し無し!!あんなやつと契約しても良いことなんてないわ!』
『でも白黒より役立ちそう……』
『何故揺らぐ!?そこは断然、我の方が優秀じゃろうて!』
でも実際、ちょろっと“見てみた”けど、なかなかに優秀そうだった。
『確かに白黒も良いの持ってるけど、ほとんどサポート用だし』
『何が悪いのじゃ』
『いっぱい倒せるのいいな……って。そしたら需要あるな……って』
『精霊に需要なんぞあるか!勝手にモノ扱いするでないわ!』
『事実』
『お主我のことなんだと思っておる』
『都合の良いなんでもしてくれる人型害虫』
『害虫は酷くないか!?』
否定はしない。事実だから。
『まぁ、害虫はあの精霊も一緒だけど』
『……お主今なんと?』
『気にしないで』
なるべく小さく思った事を言っていたが、聞こえていたようである。
『……はぁ……まぁ、お主が狂った思考しとることがようわかったわ……』
『酷くない?』
『何気に我、自分の属性がお主しか使えないように調整しとるんじゃけどの……』
『そうなの?』
白黒の属性ってことは、時魔術?
『そうじゃぞ。昔から時魔術は悪用されることが多くての。精霊王にも相談したんじゃが、あやつ、自分自身が時魔術を悪用していたのじゃ。だから我、契約者であるお主の家系しか使えないようにしたのじゃ。ちなみに今はお主だけじゃがの!』
えっへん、と腕を組んで偉そうにそう語る白黒は、なんだか誇らしそうだった。
だけどまぁ、確かに時魔術は使えない人が多い。
昔はよく使えたという話を聞いたことがあるけど、そういう事か。
『……ふーん。白黒……悪くないね』
『ではあやつとの契約は無しじゃな!?』
『いや、でも………白黒がそこまで嫌がるなら、契約は無しにしてあげるよ』
白黒の表情は明るい。そんなに嬉しいのか。
でも、“契約は”しないだけであって、私は“仮契約”をするなんて言ってないし。
「ディーネ、仮契約ならいいよ」
「ほんとう!?」
「リネアぁぁぁああ!?」
二人の表情は両方とも違う意味で驚いていた。
目が点。そんなレベルで。
仮契約。
それは通常の契約とは全く異なる契約法。
この契約は両方ともメリットもデメリットもない。
ただツナガリを維持するだけの契約だ。
両者は基本的に自由。契約でできた事も強制されていたことも仮契約なら全て自由。
これなら白黒も文句はないよね。と思っていたが、どうやら仮契約も嫌らしい。
「聞いとらん聞いとらん聞いとらん!!契約はせぬと言っておったじゃろう!!」
「“仮”契約。ほら契約してない」
「そういうのは屁理屈と言うのじゃ!確かに契約はしておらんがぁ!!しておらぬがああ!!」
本当に嫌そう。
まぁ……しょうがないよ。時魔術を上手く利用できてない白黒が悪いよね。しょうがないの。別に『真実』とか言うスキルが気になったわけじゃないからね。うん。しょうがないしょうがない。
◆
ヴォルメ王国を一掃し終えたルンは、自身の使い魔である、兎の獣魔族レリアを使って自身の帰るべき場所に戻ってきた。
ルンが帰って来て直ぐに目の前に現れたのは、ルンをヴォルメ王国に飛ばした張本人。金髪サイドポニーの赤い目を持つ少女である。
「あ、お帰りぃ~!ふふ。無事帰ってこれたんだね!あっははは!」
「この金髪めぇぇぇ!!」
ルンは姿を見た途端涙目で殴りかかる。
その攻撃を金髪の少女は軽々と避けた。
「うぅぅぅぅ怖かったんだよぉぉぉ!一生帰れないかと思ったのぉぉぉ!うぅぅ……」
「っふふ。はいはい。んふふ。ごめんね?」
「絶対反省してないぃぃぃ!」
金髪の少女は軽く謝る。
しかしルンはポコスカと金髪の少女の胸を叩く。
「ルン、その辺にしときぃ。ソイツには笑う事しか脳に無いってことは知っとるやろ?謝罪を要求しても時間の無駄や」
そう言ったのは橙色の髪をゆるくウェーブした長髪に、黄緑と黄色のオッドアイの女性。この女性はルンの仲間でありルンの姉だ。
ルンはその姿を見て走って抱きつく。
「ミュー姉ぇぇ!」
「おかえりぃ。怖かったんやな。でもちゃんとやることやって来たんやろ?むっちゃ偉いやん」
「う、うん、私、がんばった!」
「じゃあ自分の席着いとこうや。皆待っててくれたんやで?」
ルンはその言葉で元気が出たのか、言う通り自身の席に着いた。
忘れてはならないのは、今から大事な会議が始まるということ。
ルンは今日のことが忘れないようにしっかりとメモを取る準備をする。なにぶん、今日の会議はすごく重要らしいので。
ルンが準備完了ということが分かると、一番奥に座っている、ほとんどが真っ黒な男が立ち上がる。
「全員揃ったな。では、これより会議を始める」
真っ黒な男……彼はこの組織のボス。そして今集まっているこの7人は、後に人類の敵となる『アルネミー』の幹部とボスだ。
「まず、ルン。急だったがヴォルメ王国潰しには感謝する。陽動としては完璧だ」
「えっ!?あ、あああありがとう……ございます……」
「いやいや、まずルンを飛ばしてあげたボクを褒めるべきでしょ!ふふっ。ね、そうでしょ?あは。ねぇ、ボス~!」
「お前は黙って話を聞け」
「あっははは!ボスってば薄情者ぉ~!」
「黙れと言ったよな?」
金髪少女は少し笑いがこぼれるが、諦めて口を紡ぐ。
金髪少女の言葉で一瞬だけ緩和した空気は、ボスによってまた引き戻される。
「では、早速本題に入ろうか。……さて、諸君。これから俺達は『世界破壊計画』を始めるが、異論のあるやつは?」
ボスがそう言うが、全員は黙ったまま。
「……ないな。反対してたら殺していた所だったが。まぁ、分かりきっていたことだ。では、詳しく計画の方を話そうじゃないか」
ボスことロイダは、口を引きつり上げながらそう言った。




