7.なんやかんや、船は初めてかもしれない。
※エセ関西弁注意です。
白黒を掴んで港へ『転移』すると、港には船に乗る人達で溢れかえっていた。
人はぞろぞろと船へ乗り込み、私もその流れに沿って並んでいく。どうやら間に合ったようだ。
「全く、ギリギリじゃのぅ。ちと余裕を持たぬか?」
『ここからは魔法で会話』
『すまぬ』
港は人が沢山いる。白黒と会話をしていると、独り言を言っているただの痛い奴にしか見えなくなってしまうので、テレパシーの魔法での会話をすることはかなり必須になってくるのだ。
間違えて声に出さないように気を付けないと。
私はそう意思を固め、船に乗る為の順番を暫く待つ。
そういえばさっき移動に使ったスキルの『転移』、かなり便利のように思う。
行ったことがあるなら、このスキル一つでどこでも行けるとか便利すぎる。ただデメリットとして、魔力の使用量がえげつないけど……まぁ、妥協だね。
それにしても、やっぱりこの船に乗る人間は貴族が多い。
それもそのはず。何せこの船に乗るには一人金貨50枚は必要になってくる。普通の市民が払える額ではない。だからこの船は金持ちを対象とした豪華客船なのだ。
ちょうど私の視線の先にいる集団は、何処かの学園の学生らしき団体らしいし、例外かな。
ちなみに、金は有り余る程持っているのでその辺の心配はない。
移動期間は五日間。おそらく一週間弱くらい。
正直二、三週間くらいは余裕でかかると思っていたがそうではないらしい。さすが豪華客船。中がすごいだけじゃなくて、スピード性も備わっている。
便利だねぇ……。
暫くそうして考えていると、船へ乗る準備が整い、中へ入ることができた。そして船は出港する。ここまで来たら後は自由行動である。
だけどまぁ、まずは自分の部屋に行ってみないとかな。
そう思い、自分の部屋へと向かう。
中は案外狭かった。
まぁ、千人以上は乗ってるし、こんな部屋にまでスペースはかけられないか……貴族のところは違うんだろうけど。
とりあえず必要な持ち物と暇潰し用の本だけを取りだし、後は部屋に置いておくことにした。
昼食まで暇だろうし、少し外に出てみることにした。
◇
『緊急事態発生。助けて白黒』
『なんじゃ?さっそく問題でもしおったのか?』
『とりあえず外来て』
現在私は、貴族の子息と思われるクソガキに絡まれていた。
「おい、お前、平民の子なんだろ?この方はブラウ帝国の公爵家次期当主のガルベイン様だ。おい、何かすることがあるだろ?ちょっとその手に持ってる菓子くれよ」
「そうだそうだ!」
「さっさとよこせよ!」
「よせお前ら。弱いものいじめは惨めだろう?強者の俺たちがすることじゃない。だがまぁ、少しくらい痛め付けることくらいは許容範囲だ」
等といった会話が続き、都合の悪いことにソイツらは私の目の前の道を塞ぐ。
迷惑すぎる。というかくだらない。
すると、突然ソイツらは殴りかかってきた。
当然私はそれを簡単に避けられるわけで、怪我をする心配もない。だが大抵の貴族は自己中心的。つまり、殴らせて満足してもらった方が都合が良い。だから私は敢えて動かなかった。
しかし、その拳を遮る者が居た。
「ふぅ、危機一髪やな~。はぁ、君達何しとんねん。女の子は虐めちゃあかんやろ」
糸目の微かな隙間から見える、黒と赤のオッドアイの瞳に、長い黒髪を一つに纏めたような髪型。
余裕で190センチを越えているであろう背丈に、ひょろっとしたような体で一見弱そうに見えるが、チラチラと服の隙間から見える筋肉が、かなり鍛えているだろうと連想させられる。
顔はただのおじさんのようで、年は若くなさそう。
そして聞いたことない印象的な口調をしているその男は、貴族の少年の拳を力強く握った。
その力強さに少年の目から、涙が溢れるのが見えた。
「ーーッ!痛い痛い痛い痛いッ!」
「ほら、痛いやろ?お前らはその女の子に同じことをしようとしてたんやで?」
「っ、わ、分かった!!もうしない!もうしないから離せ!!」
少年のその言葉を聞いた男は、ぱっとその手を離す。
「ん。言質とったからな」
「チッ。今日は引いてやる」
そう言って少年達は去っていく。
なんだったんだろ……
「ほなお嬢ちゃん、危ないとこやったなぁ。あともうちょっと遅れてたら殴られとったで?」
「……どーも」
男は冷たく接する私に目を丸くし、ムッと表情を固くする。
「おいおい。なんか言うことあるやろ」
「……え?そっちが勝手に助けた。頼んでないし。勝手に助けて勝手に貴族の反感買ったのそっち」
私には分かる。見た目はニコニコしているが、私のその言動で目の前の男がややキレ気味なことを。(このガキ……言いたいことだけ言って……!)とか思ってるのも知ってる。
「お嬢ちゃん……ちょっと教育し直さないといけへんみたいやなぁー?ん?なんなら俺が教育してやってもええんやぞ?」
「教育って何」
「教育は教育や。それとも、お嬢ちゃんの親御さんとこに行くかぁ?」
「親居ない」
「へ、え、えぇっ!?そ、そうなん?」
私のその言葉を聞いた途端、男はやや慌て始める。
「そ、そりゃ変なこと聞いて悪かったな……」
ん?この反応、私が親無くした孤児みたいなふうに思われてる?
「あれ?待てよ?親おらんのに、どないしてこの船に乗ったんや?」
「私のお金だけど」
「んん?……もしかして、成人とかしてはったり……」
「してるよ」
嘘である。
私はまだ15歳。成人は18歳からだが、都合の悪い事は嘘をついておけば何かと楽なのだ。
「あーーーなんか、………ごめんな?大人でああいう風に絡まれれば、そりゃキレるよな……」
同情された。
「別にキレてないしなんかムカつく。殴って良い?」
「よくないわ!ごめんて!!」
私はその男に右ストレートをかました。
◇
その後、その男といろいろ話した。
男の名前はシュン・トミダと言い、どうやら異世界の“ニホン”という場所から来た異世界人らしい。
「ふーん。じゃあ君“長身”ね」
「なんやそのあだ名は。適当に見た目から決めただけやん」
「仲良しの印。そういえば長身って、ほんとに異世界から来たの?」
「まぁな。リネアも知っとるやろ?『フレッド大帝国異世界人大量召喚事件』。俺はそんときこっちに来たんや」
「あぁ………なるほど」
「せや……懐かしいな。十年くらい前やったはずや……確か」
『フレッド大帝国異世界人大量召喚事件』
十年前に起きた、世界をも混乱させる大事件だ。
その内容は、フレッド大帝国という、当時世界で一番人口が多く発展している国が、大量に異世界人を召喚したという事件。
異世界人は通常であれば一つだけしか得られないスキルを複数有すると言われ、たまたまこちらに渡ってきてしまった者はかなり優遇される。国によってはその力を恐れて虐待するところもあるが、大抵は重宝される存在だ。
ちなみに異世界人は大体が地球人で、人間であることがほとんどらしい。
異世界人は一人居ればかなり戦力としては期待できる。そんな存在を大量に召喚してしまえばどうなるか。
考えられる事と言えば、一つの国が巨大な力を持ちすぎてしまうことだ。
フレッド大帝国はどこからか異世界から召喚できる力を手に入れ、異世界人を味方につけて自国の力を増強させる事を愚策した。
しかしその九年後。クーデターが起こりフレッド大帝国はあっという間に滅亡した。その時に異世界人は世界に散り、フレッド大帝国は隣国のサーベント王国に吸収されるように統治された。
と言うのが事件の一連。
「実を言うと俺、フレッド大帝国で召喚された異世界人第一号なんや」
「……え、そうなの?」
「おん。召喚された時はびっくりしたで。なんか目の前で不安そうな顔した女の子が俺を見てはるんよ。んで、あなた様は我が国の英雄ですぅ~とか、王様っぽいのがほざきおってな?俺、それ聞いて初めは浮かれとったわ」
そう言って、長身は召喚された時の様子を詳しく教えてくれる。
聞いてもいないのに喋り出す辺り、よほど聞いて欲しい話らしい。
「そんで月一で異世界召喚が行われてた時はかなり疑ったな。国の英雄なんて嘘やんって、初めて気づいたんや」
「月一?」
「どうやら異世界召喚は『召喚』っていうスキル持っとる女の子がやってたんや。多分、一番始めに見た不安そうな顔した女の子やと思うけど」
…………ん?
「ほんで、俺は国がヤバイ計画練ってるて気づいて、半年だけ居て逃げ出したんよ。そっからは旅しまくってな~。いろんな国巡って、いろんな人と出会ったり。捨てられとった弟子を拾って育てて、学園通わせて……その間に旅でてたら弟子がどっか行きよったらしくてなぁ。今は弟子を探しとるんよ、俺。……おーい、リネア?聞いとるかー?」
「……え?」
「ぼーっとしとったけど、何かあったん?」
「………なにも」
いや、正確に言えば、何も無くはない。
『召喚』のスキルが、さっき自分が“吸収”したスキルだったような気がして思考停止していただけだが。
まさか、…………いやない。ルンが長身の言う女の子とか……ない。うん、想像したくないけど。
「で、長身は弟子探してるんだっけ」
「せやねん。これがなかなか見つからんくてな……」
「私も探してるヒト、いるよ」
「!そうなん?」
「十年くらい前にどっか行っちゃって」
「いやいや、その間何しとったん?」
「……秘密」
ここからは言えない事情があると察してくれた長身は、それ以上何も言わなくなった。
二人で黙って海を眺めていると、都合が良いのか悪いのか、白黒がふよふよと浮きながらやって来た。
「りねあー!優しい優しい我が助けに来てやったのじゃぞ~」
『遅い』
そういえば白黒にSOSしてたっけ。なんて思っていたが、今とんでもない事を聞いてしまったような気がした。
コイツ、口に出して喋らなかった?いやまぁ、最悪長身が聞いてなければいいんだけど─────
「何やその精霊。リネアの契約精霊なん?」
ちゃんと聞いていた。
「なぬっ!お主、我の事が見えるのか?」
「ん?もしかして見えたらあかんやつなん?」
「おおぉぉぉ!!聞いたかリネアよ!!お主以外にも、我を見れる人間がおったのじゃ!!」
「うるさい」
長身はぐるぐると飛び回る白黒を、まじまじと見つめる。
「名前、何て言うん?」
「白黒」
「ふぅん、白黒って言うんやな」
「違うのじゃ!それはお主が我に付けたあだ名じゃろうが!」
「え、違うん?」
「白黒は白黒だよ?」
私はブレずに白黒白黒と連呼するも、白黒が溜め息をついて自身の名前を口にする。
「はぁ……我が違うと言っておるからそうじゃろうて。我はスジアン。間違えるでないぞ、異界の者」
おぉ。コイツ、ちゃんと長身の事もわかってるんだ。
対する長身は、固まって動かなくなった。
私はそんな長身の体を揺さぶる。暫くそうしていると、長身の心の声が聞こえてきた。
あ、そう言えば、他人に触れると『千里眼』が発動しちゃうんだった───と思ったがもう遅い。
(────え、す、スジアン?スジアンって、あの?)
うん?なんで長身も白黒の事知ってる感じなの、これ。
(待て待て待て待て待て。ってことは此所、あの乙女ゲーの世界なんか?あの悪役令嬢が主人公とかいうラノベみたいなあの乙女ゲーの!?)
おとめげー?らのべ?
(え、マジなんかぁ!?えっと、確かスジアンってあれやろ、主人公が失敗したときのお助けキャラやろ? 大抵の人には見えないっちゅー設定もまんまやし……)
……お助けキャラ……主人公とは。
(え……じゃあここって原作外の世界線……なんか……!?リネアなんて子もでてこーへんかったし……!)
私出てないのか……。と言うか早く戻ってこれないの?
と言う訳で、軽く跳んで足で蹴った。
「うわっぶっ」
「自分の世界に入り浸るな」
長身は私が蹴った部分、主に腹部を抱えて怒鳴った。
「──っ!お前、力込めすぎやろ!」
「あーはいはい。ごめんー」
「棒読みやん……ぐっ、……マジで痛いんやけど」
長身は痛そうに腹部を抱えている。
そんなに力込めてないはずなんだけど……。
地味に不満だ。
数分経ってもほんとに痛がっててかわいそうになってきたので、回復魔術で痛みを和らげてあげた。
「リネア、魔術師やったん?」
「まぁ、基本的には」
「そっか。ありがとうな」
ニッコリと笑って、長身はそう言った。
すると、急に立ち眩みが起きた。
あ。
倒れる───そう思った時、背後に手が回り、ギリギリの所で倒れるのを回避する。長身が支えてくれたのだ。
目を開けると、心配そうに見ている長身の顔が見えた。
「大丈夫か?」
「……っ、ごめ……白黒、部屋の、案内……よろ、しく……」
そう言って、私の意識は途絶える。
◆
リネアが倒れた後、俺はリネアの契約精霊のスジアンに案内されてリネアを部屋まで運んだ。
リネアのこれはスジアン曰く、魔力切れらしい。
「たまーにあるんじゃよ。普段は魔力量が大きいお陰でなんとかなっとるんじゃろうが、今日はスキルとか結構使っておったからの。お主の回復魔術がとどめじゃったんじゃろうな。あ、今日はいつもより使いすぎなくらい魔力を消費してようじゃからお主は気にせんでいいぞ」
とのこと。
「じゃあ目が覚めるまで待てばええんやな?」
「まぁ、そうじゃな」
そう言われ、改めてリネアを見る。
肩の少し上までのびている黒髪に、今は閉じている真っ赤な目。
大人なくせに幼女のような顔立ちをしていて、背が小さい。初対面の俺に変なあだ名を付けるちょっと変わった奴。
うーん……改めて見るけど、やっぱ見覚えがないんよな。スジアン従えてるくらいやからあの乙女ゲーに出てたりしてもおかしくないはずなんやけど……。
スジアンとは、『君が想うまで時を越えて』という乙女ゲームに出てくるキャラクターだ。物語が詰んだときに話しかけるとやり直しをさせてくれるという、いわゆるお助けキャラ。かなり重要なポジションにいるのだ。
そういえば懐かしいな。あのゲーム。妹に布教されまくってた時を思い出すわ。
当時の俺は、妹が布教するゲームとは全く別ジャンルのゲームにハマっていたのだが、妹のせいで俺もハマった。
今までの事を思い出し、ふと溜め息が溢れる。
まぁ、要はおかしいんよな。スジアンが。
確か原作の設定だと、スジアンはネーフェス王国の精霊としてネーフェス王国を守っているはずなんや。
なのにどうしてか、スジアンはリネアという少女と契約している。
一応聞き間違いということもあるので、確認の為に聞いてみた。
「スジアン……さんて、リネアの契約精霊なん?」
「さん付けしなくてもよいぞ。その通り。我はリネアの契約精霊じゃ」
「分かったわ。ちなみにどういう精霊とかあるん?」
「あー………本当は人にペラペラとこういう事を言いたくは無いんじゃが………」
「そこをなんとか……!」
「うーん、何か無いとのぉー」
「こ、このお菓子とかどうや?」
そう言って俺は、東帝国で人気の和菓子をチラリと見せる。
「む。乗ったのじゃ!」
スジアンは一目散に俺が手に持つ和菓子を奪い取り中身を幸せそうに頬張る
「うむ。なかなかじゃのぉ!」
「それで、なんの精霊なんや?」
「む?あぁ、我は時の精霊じゃよ。時の」
スジアンの返答を聞き、やっぱりと確信した。
ゲーム内のスジアンも、時の精霊という設定だった。
……ありえへん。ありえへんわ。本人はゲーム内じゃ濁しとったんやが、本来スジアンはネーフェス王国から出られないはずなんや。初代国王とそういう契約をして、出られなくなったはずやが……
もう、あれやな。リネアが転生者ってことを疑うしかないやろこれ。
ただ、なんの目的の為にやったのかが謎なんよな。
スジアンを解放して主人公のやり直しを破綻させるため?
それともスジアンを利用して自身がやり直しをするため?
どちらも考えられない訳じゃないんや。ただ、単純にこの二人の仲が良いのも気になるが………とりあえず、リネアが起きたら転生者路線でリネアに詰め寄るか。
俺は方針を定めて、リネアが起きるのを待つことにした。




