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元王女様は、世界を滅亡へと陥れたい。  作者: 九漆
第五章 南ニトロア編
24/26

22.世界樹、それは今現在の全てを知る未知な場所。


 装備も見つかったことだし、そろそろ地下の別の場所へ向かう事にした。

 武器庫を出て少し進むと、奥に堅く閉じられた扉が見えた。

 “見れば”魔術も使われていて、かなり特殊な術が掛けられている。さらには『閉鎖』とかいうスキルまで使われていて、そう簡単には入れさせてくれないような構造になっていた。


 『オイ、オマエ。ここに入る気なのか?』

 「うん」

 『はっは~!止めちまえ止めちまえ〜!この先は【世界樹】と呼ばれる世界のありとあらゆる情報が詰まった、サーベント王国の宝みたいな場所だぜ~?侵入すれば速攻でバレるし、それ以前に入り口が厳重すぎて入れねぇんだよ。だからリネアにはムリムリ~』

 

 そういってナジュムが私の事を引き止める。

 確かにここはそう簡単に入れる場所では無いだろう。でも、戦闘狂の持つ『絶対切断』ならいけるはず。

 そう思って、私は『創造』で適当に剣を作り、『絶対切断』を使って扉を切ってみる。

 

 キィンッ!

 

 そんな無効化されるような音が鳴り、扉を見れば扉は以前と変わらないまま。

 ふーん、効かないんだ。

 

 『あったりめぇだろ~!この扉は魔力を吸収しちまう力があるんだぜ~?』

 「ん……?じゃあ何で魔術が掛けられてるの?」

 『リネアも見えたっつってただろ~?特殊なんだよ、その魔術自体が』

 

 なるほど。魔力を使わないように調整してあるのか。

 となると……物理的に壊すしかない。

 私は破滅杖(カタストロフィ)を取り出し、剣の形にして斬る。

 すると、私が斬りつけた部分だけがパックリと割れた。

 

 『え、うぇ、え、は、はぁ!?』

 「流石じゃな!」

 

 いくら扉の強度が固かろうと、『破滅』には敵わなかったらしい。おかげで仕組まれた魔術ごと破滅していた。

 

 「ん、行くよ」

 

 そう言って私は、壊れた扉の向こうへと足を進めた。

 

 ◇

 

 「やあやあ、よく来たね侵入者共!早速だけど帰れ」

 

 中へ入ると、辺り一面真っ暗な中、いきなりそんなことを言う少女が現れた。

 

 「ホントにホントに、マジで君何してくれてんの?扉壊してまで入りたいのか、ここ。君のせいで明日まで誰でも通れるようになっちゃったんだけど?マジでガチでふざけんな。謝罪しろ」


 どうやら相当なお怒り状態らしい。

 

 「ゴメンネー」

 「うんうん、素直なのは良いことだよね!でもでも、もっと気持ちを込めようか!そうだよね?ねぇ?」

 「すみませんでした」

 「まぁまぁ、今回は特別に許してあげるさ。入って来てしまったばかりは仕方がないからね!」

 

 そう言って少女は、どこから出したのか椅子を取り出し、そこに座る。

 

 「ではでは、自己紹介をしようじゃないか!僕はこの世界樹に宿る何か。或いは世界樹そのものと言ってもいいかな。特に名前は無いから好きに呼んでね!」

 「リネア……です」

 「ほうほう!じゃあそこの精霊くんと帽子くんは?」

 

 少女はそう言って、チラリと私の横とベレー帽を見る。

 白黒は驚いたようで目を見開く。

 

 「お、お主、我が見えるというのか?」

 「うんうん!僕は何でも知ってるからね!そっちの帽子くんは元妖精かな?」

 『そうだぜ~!さっすが世界樹だな~。ちなみにオレ様はナジュムっつ~もんよ~』

 「我はスジアンじゃ」

 「自己紹介ありがとう!さてさて……頑張って扉を壊して侵入までしたけど残念なことに、ここから先は僕の許可が無いと入れませーん!残念でしたー!どうぞお帰りはあちらで~す!」

 

 少女はニコニコと笑顔で私たちにそう告げ、さっき入ってきた入口を指差す。

 いや、帰らないけど?意地でも世界樹の中に入るから。

 

 「許可って、どうやって取ればいいの?」

 「それってそれって、本人に聞くことじゃなくない?でもでも、僕は優しいからね!特別に教えてあげるよ!」

 「なかなか話が分かる奴ではないか」

 「許可はね許可はね──僕がしてほしい事をしてくれたら、許可するよ!」

 

 してほしい……?

 それは、この少女にとってのしてほしい事という事なら、結構難しい問題かもしれない。

 

 「うーん……白黒、なんか思いついた?」

 「うぅむ……ペットでもあげるか……?」

 「ちなみにちなみに!僕はペットに興味はないね!あれってけっこう臭いからさ!」

 『菓子でもやったらいんじゃね~?』

 「持ってない」

 「そもそも僕は食事に興味はないからね!」

 「で、ではアレじゃ!リネアお手製の魔術でも見せたらどうじゃ?」

 「僕ってば僕ってば、魔術にも超超長けてるんだ!そんなの目じゃないと思うね!」

 『は~?じゃあ未来でも教えてやったらいいんじゃねぇの?リネアってそ~ゆ~の得意だろ~?』

 「ほうほう未来!未来ときたか!ちょっと、ちょーっとだけ興味あるかな!」

 「それは断じて我が許さん!!」

 「白黒がうるさいから無理だよ」

 「えー残念!」

 『ちょっとくらい別によくね~?あ~じゃあ~──』

 

 案を出すたびに世界樹の少女にも否定され続け、暫くすると白黒とナジュムは案が尽きたように疲れ果てていた。

 

 「ふっふっふ。悩みに悩んでいるようだね!それもそれもそのはず!今までこの要求に答えられたのはたった一人だけ!それはそれは悩むよね!あーっはっはっはー!」

 

 少女はそう言って高笑いをする。

 

 ふと、思った事があった。

 この少女には名前がない。それ故にどう呼べばいいのか分からない。

 

 「じゃあ名前、付けてあげようか」

 「ほうほう!それは良いね!ちなみにどんな名前を僕に付けてくれるのかな?」

 

 私がそう言った途端、少女の反応が変わった。

 

 「んー……どうしようか」

 「ちなみにちなみに!僕に性別は無いからね!中性的な名前がいいかな!」

 「……ふーん。………じゃあ、『カルニィ』」

 

 なんとなく。ただ今思いついた名前を言った。

 すると、少女──カルニィは下を俯き、ブツブツと何かを呟き始めた。

 

 「………へぇ?リネア、だっけ?ふふ。そう、リネア、リネアね。ふふふ、あっはっはっはっ!良いね君!ふふ、カル、ニィ……カルニィね。うんうん!良い。すごく良い!気に入ったよ!良い名をありがとう、リネア!」

 「どういたしまして。で、許可は」

 「もちろんもちろん!許可しちゃうよ!」

 

 カルニィは、私が付けた名をかなり気に入ったようで、上機嫌だった。

 

 『オイオイマジかよ。そんなんで喜ぶのかよ、こいつはぁ~』

 「我達の苦労がまるで水の泡じゃな……」

 

 そう「否定地獄が頭から離れぬ」などと白黒は嘆き、反対にナジュムはあっさりとしていた。

 どちらもやっと入れるようでほっとしているようだ。

 

 「名というのは超超重要なものだからね!あるのと無いので全然違うんだよ!うん、よーし、リネア。君には特別に、世界樹(僕の中)に、いつでもどこにでも行けちゃう権利をあげよう!ついでに、君が許可した相手なら中に入れちゃう権利も上げちゃおう!」

 「それって、つまり」

 「そうそう!実質僕と同じような権利というわけだよ!」

 

 なんかすごいの貰っちゃった。

 いいのかな。名前付けちゃっただけのヤツにそんな凄い権利なんか渡しちゃって。ちょっと不安だ。

 

 「世界樹はね、いろんな場所に繋がるゲートみたいなモノでさ、僕はそれを管理してるんだ。今あるのは大まかに分けて三つ。一つ、冥界。二つ、天界。三つ、情報倉庫。僕は空間を作る事にも長けていてね!好きなように空間を創ることが出来るのさ!それで三つ目の情報倉庫は、サーベント王国の初代国王が僕に居場所を与えてくれた変わりに用意してあげた空間ってワケさ!」

 

 なるほど。じゃあ要求に答えられた人間って、国王の先祖って事だったのか。

 

 「どうかなどうかな?君が望むなら新たな空間を創ってあげてもいいんだよ!あるいは別の世界と繋げてあげようか?なんたって君は特別だからさ!」

 「いらない。三つ目の情報倉庫に入れて」

 「ほう!ほうほうほう!情報倉庫か!あそこはこの世界の全てが分かる場所だからね!じゃあじゃあ君は、やっぱりそうなのかな?」

 

 カルニィが指すものがなんなのか。私にしか分からない、そんな言い回し。

 ということは、コイツ、やっぱり──

 

 「……知った?」

 「さあさあどうかな?」

 

 しらばっくれるつもりらしい。

 でも、知られてしまったとしてもカルニィなら問題はない。

 

 「んじゃ、またね」

 

 そう言って私は、情報倉庫への扉を開く。

 

 「あ、そうだ。黒髪で赤い目をした脳筋(バカ)な男が来るかもしれないから、入れてあげて」

 「ば、バカ……?」

 「おーけーおーけー!了解したよ!」

 

 今度こそ私は、情報倉庫へと足を踏み入れる。

 

 ◆

 

 毒が蔓延し、混乱に陥ったサーベント王国の中、ノルアは仲間が滅ぼしてしまう前にある場所へ寄っていこうと考えていた。

 それはサーベント王国に行くにあたって、ノルア自身が立ち寄ろうと考えていた場所である。

 ノルアはそこへ向かうため、サーベント王国の城に来ていた。

 仲間が一番暴れているこの時間が、一番戦力がそこへ向くので城に侵入するには丁度良かった。

 

 ノルアは歩く。目的の場所へと。

 

 目的の場所───それはサーベント王国が持つ情報倉庫である。

 ありとあらゆる情報を得ている情報倉庫。それは世界中で有名な場所だった。

 広めてしまってはまずい情報までこの情報倉庫には秘められており、そのため警備はかなり厳重である。

 ぽっと出の一般人には一生立ち寄ることの出来ない場所だろう。

 

 しかし生憎と今日は、仲間が用意してくれた絶好の機会である。外の騒ぎで警備が緩くなっていないはずがない。

 ノルアはコレを利用せずにはいられなかった。

 

 目的の地下へ向かえば、その扉はぱっくりと二つに割れていた。

 どうやらノルアと同じようなことを考えた先客が居たらしい。

 この扉も普通なら簡単に通してくれるものではないのだろう。ノルアは扉が開いていることを良いことに、扉の向こうへと足を踏み入れる。

 

 すると目の前がふと真っ暗になり、目の前に少年……いや髪が長いのでおそらく少女であろうものが、椅子に座ってノルアをじろじろと見ていた。

 

 「……ほうほう、なるほどなるほど……キミはなかなかに面白い存在のようだね!」

 「……オイ、誰だテメェはよォ」

 

 少女はニッコリとそう言って、明るく答える。

 

 「やあやあ、自己紹介がまだだったね!僕はカルニィ!世界樹に宿る何か、或いは世界樹そのものであり、世界樹の管理人さ!」

 「ハァ?……世界樹?」

 「実は実は、君の事は彼女から聞いてるんだ!というわけで、今回は特別に通してあげるね!」

 「は、ちょオイ!」

 「何かな何かな?僕が世界樹である事に興味があるのかな?でもでも!それは向こうの“僕”に聞いてね!僕は半壊した扉を修復するのに忙しいんだ!」

 「ハァ?ンな身勝手な……ってオイ!」

 「ばいばーい!」

 

 カルニィはそう言って、追い出すようにノルアを情報倉庫へと送り込んだ。

 

 ◆

 

 中は広かった。それはもう、沢山の資料や本だらけだった。

 しかもここは、現在進行形で情報がどんどん入ってくるらしい。

 

 ただ、見る人によっては、見れない情報もあるようで。

 それは運命による因果だったり、本人が否定してる真実だったりと、原因は人それぞれである。

 

 そんな情報の貯蔵庫とも言われる場所で、私はあるものを探した。

 莫大な量の情報倉庫から特定のモノを探し出すのはかなり困難である。

 

 「やあやあ、お困りのようだね?」

 「うわっ!なんじゃお主!さっきまで向こうにおったのではないかの?」

 「はっはっはー!優秀で有能な僕は世界樹の繋がってる場所ならどこにでも顕現出来るからね!」

 

 つい先程まで中間地点に居たカルニィが、パッと急に私たちの前に姿を表した。

 このカルニィは本体であり、本体でもない存在らしい。『千里眼』で見た所、中間地点にいたカルニィはそこに居るようだし。

 

 「それでそれで?実際困ってるよね?」

 「まぁ……ちょっと探してる本が見つからなくて」

 「うんうん、いいよいいよ!僕が取ってきてあげる!」

 

 カルニィが情報倉庫内をくるくると回っていき、私の目的のモノを探し出す。

 その様子を見て私は確信する。

 やっぱりカルニィは知っている。正確には私に名前を貰った時、何かの拍子にその情報を得てしまったのだ。でもまぁ、知ってしまったのがカルニィだったのが幸いだったかもしれない。

 

 しばらくすれば、一冊の本を持ったカルニィが戻ってきた。

 

 「はいはーい!お探しのモノを持ってきたよー!」

 「ありがと」

 

 私はカルニィからそれを受け取り、軽く中身をパラパラとめくって確認していく。

  

 「む?それが目的のモノか?」

 「ん」

 

 ……うん、これだ。

 私はその本を燃やした。

 

 「探していた本では無いのか!?」

 「この本を燃やすこと(これ)が目的だったからね」

 

 この本はこの世界にあってはならないモノだ。何かエラーでも起きて創られてしまったようだけど、情報倉庫のコレが無くなれば、世界にあるあの本は一日も経たずに消えてなくなるだろう。

 

 「じゃあ要は済んだし、そろそろ見に行こうかな」

 「やっとじゃのぅ」

 

 くるりと来た道を戻ろうと足を進めようとすると、前方に見たことのある黒髪が見えた。と同時に、カルニィが引き留めるように声をかけてくる。

 

 「ステイステイ!君の客人がここに入って来たみたいだよ!会ってあげたら?」

 「……いや」

 「よォ、リネア。まさかテメェが先にこっちに来てたとはなァ」

 「おやおや?もしかしてもしかして、これって僕が言うまでもなかったみたい?」

 

 黒髪に赤い目を持つ男──ノルアこと戦闘狂が、相変わらずイラついていそうな顔をして近づいてきた。

 

 「見に行かないの?」

 「オレにとっちゃア、こっちが先だ。まァ、行けなかったら行けなかったで諦めようとしてたンだが、運良く誰かさんが扉を壊してくれたみたいでなァ。ンで今に至るワケだ」

 「ふーん。じゃあ私に感謝してくれないとね」

 「……チッ。あァそうだな。ありがとよ」

 

 なんで舌打ちしたんだろう。

 別にそんなイラつく事でもないはず。私に感謝するのが嫌ってこと?それは普通にムカつくな。

 

 「で、戦闘狂は何しに来たの?」

 「ア"ァ"?……オレの出生について調べに来たンだよ」

 「出生?」

 「オレは物心付いた頃には捨てられててなァ。詰まるところ、自分の種族すらわかンねェンだ」

 「それならそれなら、簡単にチェックできる方法があるよ!瞳の形を見るのさ!」


 それぞれの種族にはそれぞれの瞳の形がある。

 人間であれば丸い形。

 妖精であればひし形。

 エルフであれば小さい丸。

 等々、一目でこの種族だとわかるようになっている。


 だが、ノルアに関してはこの判別方法は使えないだろう。


 「……あれ?あれあれあれ?キミ、瞳がないぞ?」

 「だから困ってンだよ」


 瞳がない。故に種族の判別がつかない。

 だから出生を調べるために、ここに来たというわけだろう。


 「なるほどね。カルニィ、ノルアの情報を探してくれる?」

 「ノルア?ノルアノルア………あぁ!君の事だね!おーけーおーけー!探してくるよ!」

 

 カルニィはそう言ってパッと居なくなる。

 

 「さっきから思ってたンだが、あのガキは何だァ?」

 「ん?本人に聞いてないの?」

 

 聞けば戦闘狂は、この場所に足を踏み入れた途端にカルニィに会ったが、どうやら追い出すような流れで情報倉庫へと送り込まれたらしい。かわいそうに。

 慈悲深い私はカルニィのことを軽く教えてあげた。

 この空間は世界樹であるカルニィが作り出した、ただただ情報を得られるだけの倉庫であり、またカルニィは、他の空間へも繋げることが出来ること………などなど、世界樹(カルニィ)について今私が分かることを出来る限り教えた。

 

 分かることを全てを話し終えた後、戦闘狂は多すぎる情報量に頭をパンクしそうになっていた。

 

 「世界樹……?冥界……?天界……?」

 「ノルアって頭悪いのかな」

 『オマエ、それを言っちゃあなぁ~!』

 「理解力が足らぬだけじゃろう。というかこの反応が普通じゃ」

 

 思ったことを口に出しているだけなのにな。ていうか事実でしょ。

 

 「やあやあ、待たせたね!世界樹のカルニィさんが戻ってきたよ!」

 

 戦闘狂の脳の処理が終わったところで、丁度良くカルニィが戻ってきた。

 

 「おかえり。で?」

 「うんうん、コレだね!」

 

 そう言ってカルニィは、手に持っていた本を戦闘狂に渡した。

 

 「あァ、ありがとな」

 

 そう言って戦闘狂は本を手に取り読み始める。

 

 私は違和感を感じた。

 戦闘狂の情報が詰まったという本は、とても薄い。

 確かに薄っぺらい人生だったり、あるいは短命な人生だったなら、それほど本が薄くても納得できる。

 だけど大抵の人間でも、少なくとも小説一冊くらいの厚さはある。

 

 「ねぇカルニィ。ついでに私の情報も探してきてよ」

 「ふっふっふ!僕ね僕ね、リネアがそういうと思ってもう持ってきてあるのだよ!」

 

 じゃじゃーん!とカルニィはそう言って、私の情報が詰まった本を高く上げる。

 

 用意の良いことで。

 

 私はカルニィからその本を受け取る。

 私の本は厚い。具体的にいえば、魔術書よりちょっと厚いくらい。

 

 実際に見て気づいたけど、私の本を持ってきてもらうのは間違いだったかもしれない。

 過去云々結構謎に長いし。

 

 「オイ、カルニィ……だったか?」

 「はいはい、カルニィだよ!」

 「コレ、ロクな事書いてねェじゃねェか」

 

 やっぱりか。

 戦闘狂の情報が詰まった本は、戦闘狂の求める情報が書かれていないらしい。

 

 「まぁまぁ、そういう反応だよね!実は実は、君の情報は謎に満ちてるんだよね!」

 「はァ?」

 「僕も僕も、結構前から疑問に思ってたんだ!ここが創られたときから数人、情報が確実じゃないモノがいてね、君もその一人でさ。いくら調べようとしても絶対に情報が得られないんだよ!」

 「意味が分からねェ」

 「つまりつまり、この世界樹の情報倉庫を以てしても、君の情報はこの世界が知り得ないって事だよ!まぁまぁそういう場合、大抵が別世界の住人か、未来か過去から来たか、あるいは誰かが消したのか。そのどれかだろうけどね!」

 「ア"??」

 

 戦闘狂は内容をあまり理解できていない様子だった。見るからに呆然としていて、カルニィの説明を聞き流している。

 

 「とにかくとにかく!君の欲しい情報なら、もしかしたら、もしかしたらなんだけど、リネアが知ってるかもね、なんて!なんてね?」

 

 カルニィがそう言うと、戦闘狂はギロリとこちらを見る。狩人を威嚇する獣のように鋭くギラついているようだった。何時になく目つきが怖い。

 

 「……オイ」

 「なに」

 「テメェ、オレの出生について分かるンだろうな?」

 「分かるよ」

 

 実を言うと、ノルアの過去は出会って最初の時から知っていた。

 『千里眼』で覗いた時に丁度、である。

 決して悪気があったワケじゃない。なんなら最初は興味すらなかった。

 けど知ってしまったからには絡まずにはいられない。そういう選択をした私にも非はある。

 

 「知りたい?」

 

 これに頷くのなら、答えられる限り答えようと思う。

 

 「あァ。教えてくれリネア」

 

 そう言って、戦闘狂はゆっくりと頷く。

 

 「ん。じゃあ何が知りたいの?」

 「何でも答えてくれンだろォ?」

 「まぁ」

 「じゃ、オレの出生について」

 「出生……東ニトロアだね」

 「範囲が広すぎンだろ!!もっと国まで絞り込めねェのかァ?」

 「うーん。アズバル帝国あたり?」

 「ンだよ"あたり"って。適当すぎだろ」


  そんなことを言われても、私の『千里眼』から言えるノルアの出生に関する情報はこれくらいなのだ。まぁ、詳しくはちょっと違うんだけど。

 

 「ふむふむ。アズバル帝国か!つまりつまり、種族的にノルアは何かの種族とのハーフとなるのかな?」

 「アズバル帝国といえばハーフの国だしなァ。ッつっても、オレ自身ンな自覚はねェぞ?」

 「戦闘狂はハーフじゃない。竜()族だよ。証は隠されているようだけど」

 「ほうほう!竜()族!そう来たか!」

 「はァ?竜()族?証?ンだよそれ」

 「ではでは!この僕が解説してあげよう!竜()族は元々は竜族でね、その竜族が人に擬態するようになって付けられた名称なんだ。でもねでもね、いくら擬態しようと竜族の特徴は微少ながらも残ってしまうようでね。角と尻尾が人に擬態していてもあるらしいんだ。コレが竜人族の証だよ!なんだか獣人族みたいだよね!」

 「なるほどな……」

 

 解説してくれたようだけど、残念だが竜人族の方じゃない。

 

 「戦闘狂は竜()族じゃないよ」

 「は?」

 「えっ!?」

 

 二人の目は真ん丸だった。

 

 『はっはっは~!オマエも意地悪だなぁ~!勿体ぶらずに教えてやれよ~!』

 「さっき竜人族って肯定してなかったか?ア"?つかテメェのベレー帽どうなってやがる。前はつけて無かったじゃねェか」

 『オレ様はナジュムだぜ~!ついさっきリネアと出会ったんだぜ~?というかオマエも見えるんだな!』

 「あァ、ちゃんと見えてるぜェ。テメェのことも聞きたいことはあるがァ、まァ後でみっちり聞くぜェ?」


 おぉ、怖い。めんどくさそうだから質問攻めされる前に逃げようかな。


 「で?リネア?」

 「ん?」

 「何でも答えてくれるンじゃねェのか?」

 「嘘は付いてないよ。竜()族じゃなくて竜()族ってだけで」

 「あ、そっち!?神の方!?」

 「そう」

 「はァ?違いがあンのかよ」

 

 一見同じのように見られガチだけど、竜人族と竜神族はかなり違う。

 

 「そうそう!竜神族と竜人族は結構違うんだよ!竜人族が人間のなりかけの種族なら、竜神族は竜の力を持ったまま人間に完璧に擬態した種族なんだ。竜神族はそれはそれは世界最強の種族とか言われてるだけあって、かなり希少種らしくてね。それでそれで竜神族の証っていうのはね、体のどこかにある紋章の事なんだ」

 「紋章……」

 「特殊な絵柄の紋章でね。柄は全て統一されているけど、大きければ大きいほど良いと言われていてるんだよ。なんでもなんでも、紋章は竜神族の真の力を引き出すためのモノ何だってさ!」

 「そういうこと」

 

 流石、世界樹を管理しているだけあって、この世界の情報にもかなり詳しい。おかげでさっきから解説を任せっきりである。まぁ利用できるうちに利用しておいた方がいいからね。


 「でもでも、どうして竜神族なの?アズバル帝国出身なら、竜神族なんて生まれるはずないんだけど?そもそも竜神族って歴史上5人しか存在しないはずなんだよね?」

 「どういうことだァ?」

 「戦闘狂はさ、竜神族がどうやって生まれたか知ってる?」

 「……しらねェ」

 「竜神族。それはそれは神が一番最初に生み出した種族なのさ!彼らはありとあらゆる自然やこの世の摂理を操り、世界にたった5人しか存在しない希少種族!永遠の命を持つ彼らは今もどこかで身を隠してるらしい……という噂なのさ!」

 「……はァ」

 「君は歴史上初の6人目の竜神族!寿命がない彼らにとって、子を成すことは不要とも言える行為!ある意味これはこれは奇妙な出来事とも言っても良いくらいさ!」

 「そんなにか?」


 カルニィの発言に信用出来なさそうに、戦闘狂は私の方をチラリと目を向ける。


 「うん。戦闘狂の存在自体が珍しい」

 「フーン。ま、俺の種族が知れただけ満足だぜ。ありがとよ、リネア」

 

 感謝の言葉は、いつもより声が柔らかかった。


 「もういいの?」

 「あァ。知り合いに竜神族が居るからなァ。そいつに聞いてみるわ」

 

 そう言った戦闘狂は来た道を真っ直ぐ戻っていく。

 戦闘狂の姿が見えなくなると、カルニィはニコニコと笑顔で私を見つめてきた。


 「……あのさあのさ、リネアはさ、本当は本当は全部知ってるんでしょ?」


 何が、とまでは言わなかったが、おおよそカルニィが言いたいことは想像がつく。

 

 「それこそカルニィもなんでしょ?どうしてあんなわざとらしい言い方したの?」


 竜神族は元々6人である。

 最初に生まれた種族もその6人。ただ数千年間、1人の竜神族が行方不明になってしまっただけ。

 

 「僕?僕は世間的に知られていることを教えたまでさ!一般的な、普通で普通な回答をしただけさ!」

 

 この世界樹、私に負けず劣らず意地が悪い。

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