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元王女様は、世界を滅亡へと陥れたい。  作者: 九漆
第五章 南ニトロア編
22/26

20.別れ、そして新たな脅威。


 リネアがノルアとサーベント王国の中央の町に行っていたその頃、シュンの元へ向かったスジアンは、冒険者ギルドに来ていた。

 ここにいれば絶対にシュンに会える。そう思っているスジアンは、リネアと別れたあの後、そこでずっと待機していた。

 昼間にもなれば冒険者ギルドは賑わいを見せ、人がわらわらと集まり出す。

 そんな中スジアンは、ギルドの端で今か今かとシュンを待っていた。

 

 そうして待っていると、冒険者ギルドに白い修道女の服を着た少女がやってきた。

 白い修道女の服を着る少女は、ギルドに居る全ての人間を魅了した。

 

 スジアンは女性の良し悪しには鈍感であった。

 いくら周りが顔が良いという女性でも、スジアンには殆どの女性が同じにしか見えない。勿論顔が覚えられないという訳ではない。良い悪いの判断がつけられないだけである。

 よって、ギルド中の誰もが頬を赤らめるこの状況が分からなかった。

 

 (何じゃあの女。入ってきた瞬間にギルド内が変な空気になりおって)

 

 少女は真っ直ぐと受付に向かう。その途中で近くに居た者は、男女関係なく少女の為に道をあける。

 

 「あの」

 「……は、はいっ!」

 

 受付も少女の容姿に見とれていたようで、返事がやや遅れていた。

 

 「このギルドの一番偉い方に会わせて頂けないでしょうか」

 「ギルドマスターですか?ええと、失礼ですがどのようなご用件で?」

 「あぁ、申し遅れました。わたくしはオリエラ・ニュートレア。聖女をしております」

 『!?』

 

 【聖女】という単語を聞いて、ギルド中の誰もが驚いた。

 この世で聖女を名乗れるのはたった一人。ただ一人なのである。

 聖女とは、奇跡とも言われる魔法が使え、神から祝福を受ける少女。それが聖女という存在である。

 聖女は嘘をつくことができない。故にこの少女が言うことは本当の事なのだろう。

 

 「本日は突然訪ねてきてしまって申し訳ありません。本来であれば、一度お手紙を出してからの訪問なのですが、何分至急との事でしたので」

 「はっ、はいっ!今すぐ呼んできます!」

 

 ギルドの受付嬢は慌ててギルド長を呼びに行った。

 そして数分もせずにギルド長はやってきた。

 ギルドマスターはすらっとした立ち振る舞いで、まだ若くどこか隙のない、余裕のある大人のように見える。

 

 「お久しぶりです。聖女様」

 「ええ、そうですね。クラフティさん」

 「ここでは目立ちますし、ひとまず上へ行きましょう」

 「はい」

 

 そう言って二人は、ギルドの二階へと登っていった。

 聖女が去ると、またギルドは普段のざわめきを取り戻していく。

 

 (何じゃったのじゃ?……ん?)

 

 突然だが、スジアンはリネアお墨付きの地獄耳である。

 少し遠くに居ても、壁越しでも、この冒険者ギルド全体であればどこの場所であっても聞こえてしまう。

 故に──

 

 『それで、どのようなご用件でしょうか』

 

 (上から何か聞こえるんじゃが!?)

 

 いくら内密な話し合いだろうと、ギルド内であればスジアンに意味を為さないのである。

 丁度いい暇つぶし、とスジアンは思い、シュンが来るまで上の階の話を盗み聞きする事にした。

 

 『はい。実はわたくし『ホリエン』という組織に所属しておりまして、組織内に未来を見れる方が居るのです』

 

 (何か聞いたことのある単語じゃのぉ)

 

 スジアンは頭の片隅に入れておく事にした。

 

 『その方が、明日この国が『リヴァロ』によって、滅ぼされてしまうと予言いたしました。どのような方法かは不明らしいのですが……』

 『そ、そのことは王にお伝えしたのですか?』

 『ええ。こちらに来る前にお伝えしてきました。一応、ギルドにもお伝えして、戦えるよう充分に準備をしていただければと』

 『……分かりました。ではもしかして、聖女様もご協力してくださるのですか?』

 『ふふ。クラフティさんは相変わらず察しが良いですね。ええ。『ホリエン』は『リヴァロ』を倒すために結成された組織。『リヴァロ』が来ると分かっていて、そう易々と見逃す訳にはいきませんからね』

 

 スジアンはそこまでの会話を聞いて、思うことがあった。

 そう言えば、昨日は『リヴァロ』の人間と会ったな、と。

 何なら計画も聞いちゃったな、と。

 そう言えばノルアはめちゃめちゃ強かったな、と。

 

 (ま、我の存在はそうそうバレぬじゃろうし、大丈夫じゃろ!)

 

 スジアンは暗いことを考えるのは止めた。

 そうして考えて居ると、聖女が二階から降りてきた。用が済んだのか、後ろにはギルド長もいる。

 聖女が戻ってきたと気づくと、ギルド中があの何とも言えない、ほんわかしたような空気になった。

 スジアンはそれが不快だった。何時ものような雰囲気ではないような、違和感を感じるからである。

 

 聖女はギルドマスターに軽く挨拶をし、ギルドを出て行こうとしていくと、ある人物が居ることに気づいて話しかけに行った。

 

 「あら?モロ様?」

 「!き、気づかれちゃたですね」

 

 ある人物、それは、昨日リネアと二人で依頼をしていた者だった。

 

 (アヤツ!『ヒヤリン』の人間だったのか!)

 

 『ヒヤリン』ではなく『ホリエン』である。

 

 「貴女がここに居るなんて思わなかったです」

 「わたくしは今日来ましたから、知らなくて当然ですよ。ところでモロ様、教皇様が探していましたよ?」

 「うえぇっ教皇様が、です!?それは戻らないとマズいです!!」

 「いえいえ、戻るのは問題が片付いた後でも大丈夫ですよ。教皇様もきっとそう言います。それで、何故此処に?」

 「僕はちょっと調べたい事があったので、その調査のためです」

 「そうなのですね。解決はしましたか?」

 「う、うーん……もうちょっと、だと、思う……です」

 

 モロは良い進捗ではないのか、あやふやな回答だった。

 

 「そう。少なくとも明日には片しておいて下さいね。明日はモロ様にも手伝ってもらいたい事がありますので」

 「りょ、了解したです!」

 

 モロはそう言って元気に返事をし、聖女は「ではまた」と言って、今度こそギルドから出て行った。

 聖女が出て行くなり、モロはギルド内にいる何人かの者に囲まれた。

 聖女とどういった関係なのか、主にその質問責めだった。

 知りたがりな者が多いこのサーベント王国では、すぐに情報が行き交う。聖女と知り合いなんて肩書きを持っていれば、すぐに街中の噂話のネタにされる。ここはそう言う恐ろしい国なのだ。

 

 (とんでもない情報を得てしまったのぉ。帰ったらリネアに教えんとな)

 

 スジアンがそう思っていると、また誰かがギルドにやってきた。

 

 (あ!)

 

 入ってきたのはシュンとサクラだった。

 スジアンは速攻で二人の前に飛び出す。

 

 「やっと見つけたのじゃシュンよ!話をしようではないか!」

 「え、は!?スジアン!?」

 「……?どうしたのよ。誰に話しかけてるわけ?」

 「あーえーっと、ちょっとサクラは依頼探しててくれへんか?俺、ちょっと外の空気吸って来るわ」

 「??わ、分かったわ」

 

 そう言ってシュンは、スジアン話す機会を設けた。

 二人は外へ出て、人目に付かない所に移動した。スジアンは普通の人には見えないため、シュンが独り言を言っているように見えても大丈夫な場所に居たいからだろう。

 

 「で、話ってなんや?」

 「何故リネアと別行動をすることになったんじゃ!」

 

 スジアンがシュンにそう問うと、シュンの表情は堅くなった。

 

 「リネアから聞いてへんのか?」

 「新しい仲間を入れようとしたから、と言っておったな」

 「じゃあ事情は知っとるやん。俺から言うことはほとんどないで」

 

 そう言ってシュンは何も言わなくなった。

 そんな様子のシュンに、スジアンはシュンを見つけた時を思い出す。

 

 「……新しい仲間というのは、さっき隣に居た女かの?」

 「そやな」

 「お主はもう、リネアと共に旅をする事は考えておらんのか?リネアに考え直してもらおうなどと、考えてはおらんのか?」

 

 スジアンは願っていた。せめてシュンが、リネアとの関係を修復しようとしていることに。

 そうであれば和解できる可能性も、充分にある。

 

 「ないな」

 「な、何故じゃ?」

 「俺はリネアとはもう分かり合えへん。アイツの思想と俺の思想は違うからな。俺はそれに納得出来なかっただけや」

 「んん??一体リネアの何が気に入らなかったのじゃ?」

 「気に入らないところ……か。強いて言うなら、人を想う心がないとこやな。俺はリネアのそこに嫌気が差したんや」

 

 スジアンはシュンの気持ちが理解出来なかった。

 

 (そんなこと言うても、リネアは元からああじゃし?んんー??シュンも気づいておったのではなかったのか?それを理解した上で、共に行動していたのではなかったのか?)

 

 リネアの非情さなど、スジアンはリネアがネーフェス王国の国王と王妃を殺し、自分を害虫などと呼び、邪魔と扱った時から理解していた。むしろ自分の方が、リネアに酷い扱いをされてきたと感じている。

 

 「……今更ではないかの?」

 「は……?」

 「我はてっきり、お主がそんなリネアの非情さを理解したうえで、共に旅をしておるのかと思っておったのじゃが……まさか、今になって初めて知ったとか言わぬよな?」

 「………」

 

 シュンは黙り込んだ。

 その様子でスジアンは確信を得た。

 

 (コヤツ、マジか!)

 

 どうやら今の今までシュンは、リネアの本当の顔を知らなかったらしい。

 スジアンは驚愕でいっぱいだった。

 

 「えええええええ!?嘘じゃろ?あんなに共に旅しておったのに気づかんかったのか!?」

 「……そ、そんな引かんでもええやろ……」

 「いや我は引く。特にパラン王国の時など酷かったぞアヤツ」

 

 スジアンは振り返る。

 パラン王国の時、リネアが高みの見物などと言って、協力してやるどころか敵地に潜ってもただ見ていただけという非情さを。

 

 「そ、そんなになん?」

 「そうじゃぞ!というかあんなあだ名付けられた時点で気づけ!」

 「……せやけど渾名は、親しみの証とも言うやろ」

 「アヤツがそんなこと考えておるわけなかろう」

 

 「確かに……?」と、段々とスジアンに押されていくシュン。

 

 「だがまぁ、そこまで嫌というのなら、我はお主のことは止めぬ」

 「……正直俺、もうリネアと仲良うしたい何て思えへんのや。多分、和解なんて出来ないんやないかって、自分でも思う。ごめんな、スジアン」

 「……我は悲しいぞ、シュン」

 「もしよかったら、俺の契約精霊になるか?俺は歓迎するで」

 

 シュンにそう誘われ、スジアンは俯いた。

 それはリネアを裏切るということ。ディーネは仮だったうえ、契約していた期間も短かったから良いものの、スジアンの場合はリネアとの繋がりが、もはや契約で片すことの出来ないほどに、強く、固い。

 

 「ならぬ。我はリネアを裏切れぬのじゃ」

 

 故にその勧誘は受けられなかった。

 スジアンはシュンの目をしっかりと見て、はっきりとそう言う。

 

 「そっか。理由、聞いてもええか?」

 「我とリネアの契約は切りたくても契約自体が切れんのが問題じゃが……………じゃが、それ以前に、我はリネアのことを嫌っている訳ではないからの」

 

 そう言ってスジアンは、シュンに向かって清々しい笑みを浮かべた。

 

 「はぁ……寂しくなるのぉ」

 「ごめんな」

 「何に対しての謝罪じゃ?謝る事などないじゃろう」

 

 「悲しい思いさせてごめんなって意味やで」と、スジアンに聞こえないくらいの声で、シュンは小さくそう言った。

 

 (まぁ、我は地獄耳じゃから全部きこえたがの!)

 

 そうやって空気を壊さないように、聞こえないフリをしていた。

 

 ◆

 

 『転移』でボロボロの家に戦闘狂と一緒に戻り、白黒がまだ帰ってきていないようなので、私は暇潰しに新魔術の研究を始めた。

 その様子を見た戦闘狂が、「お前も魔術馬鹿なのかよ」と馬鹿にしてきたので、新魔術の実験台にしてあげた。掛けてやったのは〈絶対に何もないところでコケる魔術〉と言うもので、これが地味にウザい。ただの嫌がらせに作った魔術である。効果時間を調べたかったので、ちょうど良い実験台だった。

 効果がかかっている間コケまくってて、最終的に立ち上がらなければ良いことに気づいた戦闘狂が地面にずっとひれ伏していたから笑ってやった。

 ちなみに効果時間は三時間くらいだった。改良の余地がありそう。

 

 アレコレと魔術を研究していると気づけば外は暗くなっており、部屋もぐちゃぐちゃになっていた。

 

 「ただいま我が帰還したのじゃー!って、なんじゃこの荒れようは!!」

 「あ、お帰り。白黒」

 「オイ、スジアン。コイツを止めろォ……!!」

 

 現在、戦闘狂には〈摩擦力がなくなる魔術〉を掛けており、物に触る度に滑り、床にすら上手く立っていられない状態で、これまた戦闘狂は床に寝そべって魔術の効果が切れるのを待っていた。

 

 「二時間経過。戦闘狂、ちょっと起きあがってみて」

 「やンねェ。オレはもう転びたくねェンだよ」

 「〈浮遊〉」

 「あ、テメッ」

 

 戦闘狂が抵抗するものだから、私は〈浮遊〉の魔術で戦闘狂を浮かせ、立ち上がらせた所で〈浮遊〉を切る。

 すると戦闘狂は勢いよく転んだ───ようではなく、戦闘狂はピタリと立っていた。

 

 「はァ……やっと切れたぜ」

 「ふーん。二時間、副作用はなしと。短いな」

 「十分長ェよ!」

 「な、何をやっておったのじゃ?」

 

 後から戻ってきた白黒は、私と戦闘狂のこのやり取りが不思議だったらしい。

 

 「新魔術の実験。おかげでいいデータが取れた」

 「あぁ。……お疲れ様じゃ、ノルアよ」

 「ほんとによォ、酷い目にあったぜ……」

 

 これでもまだ控えめな魔術の実験をしてあげてるのに、なんでそんな疲れているんだろうか。

 

 「白黒は?こんな時間になるまで何してたの?」

 「我か?我はお主がシュンと旅をするのを辞めると言っておったからのぉ。最後に会ってきたわい。ギリギリまで付き添ってやったのじゃ!にしてもサクラと言う女、なかなか強かったのぅ!武器をジャラジャラと出して魔物を追い込んでおったわい。最近の女は怖いのぉ」

 「ア"?サクラ?それにシュン……?どっかで聞き覚えが……」

 「あぁ、それはね―――」

 

 戦闘狂がその二人の名前に疑問を持っていたようなので、気になる理由を教えてあげた。

 うん、私ってば優しい。

 

 「へェ。なるほどなァ。通りで聞き覚えが……ア"ァ"?」

 「ん?」

 

 何だろうか。教えてあげただけなのに戦闘狂が急に固まった、と思ったら今度は目をかっぴらいて肩をガシッと掴んできた。

 

 「待て待て待て待てッ!!テメェ、どこでそれを知りやがったッ!!」

 「?“目”がいいって言ったでしょ?」

 「いくらなンでも何でも見えすぎだろうがッ!」

 「えっ?何じゃ?どういうことじゃ?我知らんのじゃけど?」

 「──────ってことなんだよ」

 「相変わらず目ざといのぅ、お主」

 「お前は落ち着きすぎじゃね!?」

 「慣れじゃ」

 「ンな真顔で言われてもッ!!」

 

 白黒はなんとなく事情を察したのか、どこか冷静な様子でいるが、逆に戦闘狂は慌てっぱなしで、それはもうカオスな状況だった。

 数十分経てば、戦闘狂の慌てようも落ち着きを取り戻し、怒ったように「何故」「どうやって」と問いつめてきた。

 そんなこと聞かれても、私は本当に『千里眼』で見た時に知ってしまっただけで、本人から聞いた訳でもない。見えちゃったのが悪いんだからね。

 

 ◇

 

 「あ!そうじゃ我、もう一つビッグな情報をもっておるぞ!」

 

 ようやくぐちゃぐちゃだった部屋も片付き、適当に夕食をとっていると、突然白黒がそんな事を言い始めた。

 

 「ビッグ…?そんなに?」

 「お主にとってはそうでもないかも知れぬが、ノルアにとってはかなり重要な情報ではないかと思うのじゃ!」

 

 「我は優秀じゃからのぉ~!」などと言って、何故か調子に乗っているスジアンは、得意気にその情報について語り出した。

 

 なんでもシュンを探す際にギルドで出待ちしてたところ、ある少女がやってきたそうだ。

 少女はギルドへ入ると、たちまちギルドに居る者全てを魅了するほどの美少女だったらしい。

 

 「その少女がまさかの聖女だったのじゃ!」

 「!!」

 

 【聖女】と聞いて、戦闘狂の表情は険しくなった。

 聖女、聖女……か。聖女と聞いて思い出すのは、勝手に“吸収”させてもらった【魔法】の技術だが、あれはとにかくすごい。魔法は、魔術で不可能なことも全て解決してしまう。それを扱えるのがたった一人の存在となると、聖女はある意味世界最強と言っても過言ではない存在である。

 

 「まだ話は終わらぬぞ」

 

 その後聖女はギルド長を呼び出し、二人で二階へ上がって内密な話をしていたらしい。

 

 「普通じゃったら話の内容は聞こえぬはずじゃがの、リネアも知っての通り、我はえげつないほど耳が良い!聞こえてしまったのじゃよ、会話内容が!」

 

 曰く、聖女は『ヒヤリン』という組織に所属しており、その組織は『リヴァロ』を倒す事を目的としていて、その組織内に未来を見れる者がいて、明日この国が『リヴァロ』の手によって滅ぶ未来が見えたらしい。

 

 「しかしの、我組織名があやふやなのじゃ。どこかで聞いたことがある気がするんじゃがのぉ」

 「『ヒヤリン』じゃなくて『ホリエン』だろ」

 「あー!それじゃそれ!そうそう『ホリエン』じゃ」

 

 「覚えにくい組織名じゃのぉ、まったく」と、白黒はどうでもいいことに怒る反面、戦闘狂は手に口を当てて、何か考え込んでいる様子だった。

 

 「ノルア……?」

 

 私は、心配になって思わずあだ名ではなく名前で呼ぶ。

 

 「……まずいな。このままだと計画が失敗するかもしれねェ」

 「なんで?聖女が居るとダメなの?」

 「テメェも見ただろォ?ミュネラの毒をよォ」

 

 あぁ、アレ。なんとも恐ろしげな毒だなと思ったアレ。


 「ん、強そうなのは覚えてる」

 「あの毒はミュネラ自慢のオリジナルの毒でなァ、普通の解毒薬や回復魔術じゃァ治せねェンだ」

 

 そうなると少し疑問が沸いてくる。

 

 「じゃあ戦闘狂がミュネラにもらって飲んでた解毒薬は?」

 「あの毒の製作者はミュネラだ。本人が作った毒の解毒薬を、本人が作れねーわけねェだろォ?まァそう言うことだ」

 

 なるほど。じゃあ耐性を持ってないと、掛けられた側はどうしようもなさそうだ。

 

 「しかしなァ、本人以外にも解毒薬関係無く治療出来る者が居る。それが魔法を使える聖女だ」

 「奇跡(魔法)ねぇ……」

 

 便利だよね、アレ。特になんでも祈ればいいってところがいいよね。

 

 「聖女は魔法以外にも『浄化』というスキルを持ってやがる。毒で周りを汚染しても、その力ですぐに解決される可能性があるンだ。こりゃア厳しいぜェ」

 「詳しいね」

 「ウチにはこの国の情報屋なんかよりも優秀な奴がいンだよ」

 

 となるとミュネラ達は毒以外の方法でこの国を滅ぼさなければならないわけだ。

 

 「というかさっき具体的な計画は知らないって言ってなかった?」

 「ア"?方法ぐらい想像つくだろ」

 

 それだけ戦闘狂はミュネラに「毒」というイメージが強いらしい。

 

 「それとのぉ、リネアが昨日共に依頼を受けておった奴が居たじゃろ?アヤツも『ホリエン』らしいのじゃ!」

 「あ、そう」

 

 それはまぁ、会った時から知ってた。

 

 「はァ?となると『ホリエン』が二人も来てンのかァ?ますます不可能な気ィしてきたな」

 「『ホリエン』って強いの?」

 

 正直『アルネミー』の方が強そうな気がする。

 

 「アイツらはテメェと同じで警戒対象だ。特に、枢機卿は強くてタチが悪ィらしィ」

 

 枢機卿……他にもランクがありそうだ。

 

 「この前ウチのが戦ったらしィンだがよォ、一国を潰すことはできたが『ホリエン』の枢機卿一名によって全滅させることはできなかったようだ」

 「へぇ」

 

 『ホリエン』

 確か暗緑色とディクトが入っていたような。ま、今回は関係ないだろう。

 

 「うん、良いこと知れた。ありがとう、白黒」

 「照れるのぉ。もっと褒め称えでもよいのじゃぞ?」

 「ん、エライネー」

 「フフフ、そうじゃろう!そうじゃろう!」

 

 白黒はそう言ってニヤニヤと手を組んで飛び回っている。

 適当に言っただけ何だけど。チョロすぎる。

 

 「さてと、オレは明日に備えて寝るわ。昨日はテメェのせいで寝れなかったしな。ンじゃ、おやすみ」

 

 そう言って戦闘狂は、二階の自分の仮部屋へと戻っていった。

 あの二人の隠れ家に白黒を送ったことに怒っているのだろうか。夜中になるまで戻って来なかった方が悪いと思うね。気づいたらお仲間がショーを始めようとしてるし。

 

 さて私は何をしようか。

 私は寝る必要がない。そういう体質になっているのだから、寝たら時間の無駄だと思う。でもだからといってやることもないし、正直言って朝まで暇だ。

 何もする事がない。そういうのは退屈で嫌だ。

 

 「白黒、なんかして」

 「お主ぃ?いくら暇だからといって我をそうこき使うでない。我も急に言われてなにかできることなどないぞ?というかそんなに暇なら、お主の好きな新魔術の研究でもすればよいのじゃ」

 「それはさっきやったから飽きた」

 

 新魔術と言ってもアレは思いつきが大事。

 あの時思いついたアレ、魔術でできないかなーと思って開発するから、何も思いついてない今は作りづらい。

 

 「えぇ?じゃあミュネラとプラムとやらの様子を見たらどうじゃ?」

 「あー…………ダメだ寝てる」

 「そりゃ皆寝る時間じゃものな!」

 

 ちょっと『千里眼』で覗いたら二人ともぐっすり眠っていた。

 

 「諦めて時間、進める」

 「まぁ暇じゃしの。気持ちは分からんでもない」

 

 そう思い私は、『時間操作』で時を進める。

 えーっと、五時間後……くらいがちょうど良いかな。

 

 そうやって『時間操作』のスキルを発動させると、辺りの空間が歪み、耳元でカチカチと時計の針が進む音がした。

 やがてそれが落ち着いてくると、窓の外は明るくなっていた。

 時計を見ると先ほどの時間から役五時間が経っており、二階に居た戦闘狂が、外に居るのが見えた。

 

 ちゃんと渡って来れたようで何よりである。時間がずれていたらどうしようかと思っていたが、そんなことはなさそうで安心した。

 

 「ちゃんと来れたようじゃのぅ」

 

 白黒もほっとしていた。

 確かに時間を進めるのはなんやかんやでコレが初めてだった。不安に思うのもよく分かる。

 

 「時間もちゃんと進められたし、戦闘狂の所にでも行こうか」

 

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