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元王女様は、世界を滅亡へと陥れたい。  作者: 九漆
第五章 南ニトロア編
21/26

19.なんだかんだ言って、良いように利用されてる気がするんだけど。


 私の予想通り、白黒達が帰ってきた。 

 

 「お前……リネアだよな?」

 「りりりりりねあああ!!」

 「白黒送ってくれてありがとうね」

 「ハ?……白黒?スジアンの事か?」

 

 白黒という私の独特のあだ名に、ノルアは一瞬困惑している様子だった。

 

 「うん」

 「へェ。お前の契約精霊だったのか。じゃあコイツ、オレにくれねェか?」

 「なんで?」

 

 出会って早々に人の精霊をよこせとか……思ったよりも強欲だなぁ、コイツ。

 

 「聞けばスジアンは存在しねェハズの時の精霊らしィじゃねェか。怪しすぎるだろォ?だから知り合いの研究者に預けようと思ってなァ」

 「ヒィッ!」

 

 恐らくその研究者に研究材料にでもさせる気だろう。

 なかなか物騒な話である。

 

 「ヤダ」

 「わ、我もリネアの側を放れる気はないのじゃ!」

 「オレはわりと本気で言ってンだがよォ、それでもか?」

 「……ノルアには渡したくない。というか、それ以上言うなら殺すけど」

 

 嘘ではない。なんなら私の本心でもある。

 本当に、白黒は手放す気はないのだ。

 そう思って、私はノルアを睨みつける。

 

 「………はっ冗談だ」

 「絶対さっきまで本気じゃったろお主!」

 「ンなことどうだっていいだろォ。ほらよ」

 

 そう言ってノルアは紐で結びつけたままの白黒を私にに向かって投げた。

 私は白黒を受け取り、何やらスライムで造られた特殊な紐で縛られていたので、ブラウ帝国に行った時に“吸収”した『破滅』を使って壊すと弾けるように紐は飛び散り、白黒は自由になった。

 

 「りねあああ!!ありがとうなのじゃ!ほんとぉーにありがとうなのじゃー!」

 「みゅいぃ!」

 「ミーフ!お主も無事でよかったわい」

 「ミュ、ミュイ」

 「なんじゃ?我が居ない間に何かあったのか?」

 

 白黒とフィミィは二人で端の方へ寄って会話を始めた。

 というか、白黒はフィミィの言葉を理解できるのだろうか。少し疑問に思う。

 一方ノルアを見ると、何やら私と話した気な雰囲気だった。

 

 「聞きたいことでもあるの?」

 「……お前、なんでオレがここへ来ると分かってたンだァ?」

 「……というと?」

 「とぼけンな。さっきオレらがここに来たときによォ、テメェは知っていたような口ぶりしていたじゃねェか。あれはどういう意味だって聞いてンだよ」

 

 まぁそう言われるだろうとは思っていた。ここへ来た時点でこの質問をされない方が不思議なくらいだ。

 

 「そういうスキルを持ってるから」

 

 私がそう言うと、ノルアは疑うような視線を送ってくる。

 言い訳のように聞こえるのかもしれないが、これに関して私は嘘をついていない。

 

 「……そうかよ。じゃあ、スジアンを使ってオレを見張らせたのはどういうことだ?それにスジアンは一体何者なんだ?時の精霊と自称してたけどンなモン架空の話に過ぎねェ。契約者のテメェは知ってンだろ?なァ?全部吐け」

 

 思っていたよりも白黒の存在がノルアに怪しまれている様子。確かにノルアが白黒を見えるのは想定外だったけど。

 

 「質問が多いなぁ」

 

 本当に面倒だ。

 長くなりそうな気がしたので、一先ず椅子に座るよう促す。

 ノルアも納得してくれたのか、私の正面に座った。

 

 「白黒は何者か。答えは単純、時の精霊だよ」

 

 ノルアはその返答に納得いかなかったのか、目付きを鋭くして私を見る。

 

 「おかしいンじゃねェのか?時の精霊が存在するなら、どうして時魔術が世界中の誰もが使うことができねェンだ」

 

 うーん、何でだろう。正直に言うと理由まで私も知らない。

  

 「白黒、何で?」

 

 フィミィと話している白黒に目を向けて聞く。

 

 「……うむ、それはのう、時魔術を我が信用する者以外に使用させたくないからじゃ!」


 私達の話を聞いていたのか、白黒はすぐに話してくれた。相変わらず地獄耳すぎる。

 にしてもどうやら、時魔術が世界的に使えないのは白黒の一存にあったようだ。

 確かに七大精霊は自身の属性に自由に制約を掛けられる。白黒はそれをより強固なモノにしているのだろう。

 

 「ただでさえ世界を歪みかねぬ属性じゃ。勝手に使わせるわけにゃならんのじゃよ」

 「だが、古い文献には時魔術使いは存在していたとあったらしィが?」

 「昔の我は人間や魔族のことを理解しておらんかったからのぉ。簡単に言うと、我は生き物というものを舐めておったのじゃ」

 

 そこには並々ならぬ思い出がありそうな雰囲気だった。

 

 「何があったの?」

 「まぁ、そうじゃの……たくさんあるが……特に、とあるヤツが友人を驚かすためだけに時魔術で何回もループしていたこととか、一番ムカついたし腹もたったのお!思い出すだけでもムカつくわ!」

 「そんなになのかァ?」

 「当たり前じゃ!時魔術で時間を巻き戻したりすると、通常の者はその巻き戻っているという感覚がないのじゃが、我は時の精霊じゃからな。分かってしまうのじゃよ、コレがのぉ!!」

 

 白黒は恨めしそうな顔で声を張って言う。

 何やら辛い想いをしていそう。

 

 「“巻き戻し”はの、物凄く酔うのじゃ!」

 

 妙に納得できてしまった。

 

 「本人がやるのは自己責任じゃし百歩譲って許すが、我を巻き込んでくるのは何が何でも許せぬ!今思うともしかしたらそれがきっかけなのかもしれんな!そんな感じでほとんどの奴らが時魔術を悪用するものじゃから、我は時魔術を全面的に禁止する事にしたのじゃ!」

 「へぇ……初耳」

 「……嘘じゃなさそうだな」

 

 何はともあれ私も良いこと知れた。

 白黒の秘密はまだまだありそうな気がする。

 

 「じゃァ、次だ次。何でスジアンにオレらのこと見張らせたンだよ。回答によっちゃァ、今日がテメェの命日になるかもしれねェぜ?」

 

 まだノルアの質問攻めは終わっていなかったようだ。

 

 「……何で……か。君達はいつ見ても面白いことをしてくれる。だから、ちょっと覗いてみただけだよ。アヴィド」

 「!?」

 

 ふふ。“何故その名前を!?”って言いたそうな顔してる。

 うん、期待通り。

 

 「やっぱお前、殺すわ」

 

 ノルアは様子ががらりと変わり、背中に背負っていた大剣を手につかみ、私を切りかかろうとその大剣を振り下ろす。私は時魔術で剣が私を切りかかる寸前で止める。ノルアは目を見開いていた。

 

 「アヴィドって我が儘だよね。何でも自分のやりたいようにやって他人を振り回してる」

 「その名はまだ世間に広めてねェンだが?」

 「私は“目”が良いの」

 「……やっぱりテメェが……ッ!」

 

 そう言ってノルアは私のことに何かしら心当たりがあったかのような反応をし、私を睨みつけている。

 

 「私がどうかしたの?」

 「……今ウチの間じゃテメェは危険視されてンだよ。敵か味方か分かンねェ、ってなァ」

 「へぇ。じゃあ伝えておいてくれる?『私は常に中立の立場でいる』って」

 

 事実、参加するよりも見る派だし。

 だから正義側だけじゃなく、悪役側にもちゃんと接触してあげないとね。

 

 「本当かァ?」

 「現にアヴィドは私を殺せない」

 

 私はノルアを抑えていた手から氷の魔術をいくつか放つ。時魔術の効力はノルアによって断ち切られ、私が放った氷も全て大剣で斬られた。

 

 「はっ。オレに魔術は効かねェと思った方がいいぜェ?」

 

 自信満々にノルアがそう言ったのも、ノルアの実力とスキルに理由がある。

 ノルアのスキルはほぼ最強に近い。

 

『絶対切断』

 絶対斬れる。制限はない。


『絶対的中』

 絶対当たる。制限はない。


『絶対防御』

 絶対攻撃されなくなる。制限はない。

 

 と、このように説明すらも雑になっているような、パワー系スキルばかりだ。

 『絶対防御』があるからこそ、ノルアに攻撃が当たらない上に、魔術で抵抗しても『絶対切断』で斬られてしまう。

 ならどうすればノルアに勝てるのか。非常に簡単なことである。

 

 私は『創造』で頑丈だけが取り得な剣を即席で造り上げた。

 私はその武器でノルアに対抗する。

 ノルアも自身の武器で私の攻撃を防ぐ。

 

 「ほォ、魔術師と見せかけて魔剣士ときたか」

 

 私はノルアに向かって剣を振り続け、ノルアはそれを避けつづけながら私に話しかけてきた。

 

 「だがよォ、オレが魔法を斬ったように、テメェの剣も斬れるとは考えなかったのかァ?」

 

 そう言ってノルアは『絶対切断』を使って私の剣を斬った。

 これもダメなのか。頑丈に造れたと思ったけど、ノルアのスキルが強すぎるらしい。

 まぁ、これも想定済みだ。

 

 私はもう一本剣を造る。

 

 「ンなことしたって、斬られるだけだぜェ?」

 

 そしてまた斬ってもう一本、もう一本と、三本目をノルアが斬った時だった。

 

 「…っ、は…?」

 

 ノルアはふらふらと立つこともままならない様子で膝から崩れ落ちた。

 攻略完了である。

 

 「っ、はぁ、はぁ……どうなっ、って、やがる……!」

 「ん、単純」

 

 私は床に散らばった斬られた剣を磁石を作って掃除しながら、ノルアにそう言った。

 

 「クソッ!!……なに、しやがったっ!」

 

 あの時何をしたのか。

 ノルアから魔力を“吸収”していただけである。

 

 スキルや魔術を使用する際は、魔力が必要である。

 魔力が無くなりかけると、魔力を持つ生物は魔力を回復させるために強制的に眠りにつこうとする。だからノルアは体中の力が抜けて、立つこともままならない状態になったのだろう。


 つまり、コイツの攻略方法というのは、魔力をすっからかんになるまで“吸収”し続けることなのである。


 ちなみに眠りにつくと保有魔力量が増える仕組みであるが、これを繰り返しすぎると"魔力不足過剰症"となってしまう恐れがある。これは常に魔力を消費し続けるようになる他、様々な健康被害を及ぼす症状であり、最悪の場合死に至る。

 なので魔力不足に陥った際は、早急に魔力を回復することが望まれる。

 

 ノルアは今、魔力を回復しようと強制的に眠りにつこうとしている。それが嫌で抗っているから、こんなにも苦しそうな表情をするのだ。

 謎の苦痛をどう対処すればいいのか分かっていないノルアは、私にその正体を必死に聞いている。

 

 「……教えてほしい?」

 

 私は優しくないので、そう簡単に教えたりはしない。

 

 「……チッ。早く、言えよ」

 「うーん……まぁ、〈根暗〉は見てる側だし、まぁいっか」

 「おーよォ……ア"?今何つった?」

 

 そう言って私は、ノルアに魔力回復のポーションをふっかける。

 

 「これで動けるようになったはず」

 「おォ、マジだな。……で」

 

 ノルアは起き上がれるようになって早々に大剣を持ち、私の喉元に突きつけ、いつでも斬れるような位置に持ってくる。脅しか。

 

 「何なンだよ、さっきのは」

 「……魔力を“吸収”してただけだけど」

 

 そう言うとノルアは眉にしわを寄せて理解してなさげな顔をする。

 

 「魔力を“吸収”ゥ?ンなことも魔術でできンのかよ」

 「多分普通の魔術じゃできないよ」

 「ア"?」

 「スキルだから。私のは」

 「じゃあテメェにだけ警戒しときゃア済むな」

 「そうだね」

 

 コクリと肯定するように頷くと、ノルアは何かを思い出したかのように眉に皺を寄せて顔をぐいっと近づけてきた。

 

 「ッつーか〈根暗〉ってなんだよ。誰のことだ」

 「キミのあだ名」

 「ア"?テメェ、ディスってンのかァ?」

 「根暗っぽい見た目してたから」

 「人のあだ名を見た目で決めンじゃねェーよ!とにかく〈根暗〉はやめろ!」

 

 すごい嫌がるなぁ。

 ぴったりだと思ったんだけど。

 

 「えー……じゃあ〈化物〉」

 「……悪口かァ?」

 「単純に〈怪力〉とか」

 「ンなあだ名つけンなら普通に名前かコードネームで呼べよ」

 

 それはそうだけど、正直ノルアをコードネームで呼びたくない。だから渾名を考えているわけだけど。

 うーん……他に何かいいのあったかな……。あ、そうだ。

 

 「〈戦闘狂〉」

 「ア"?」

 「片眼鏡がノルアのことそう言ってた」

 「……誰が戦闘狂だァ」

 

 ノルアは完全に不機嫌そうだけど、うん、悪くない。

 

 「ん。決まりー」

 「ふざけてンのかよ?」

 「そんなことより、君の仲間がそろそろ動きそうだからもう行くね」

 

 戦闘狂とやり取りしている時にチラッと“見た”が、何やら準備をしているようだった。

 あれは戦いに行く準備だろうね。私にはわかる。

 

 「ア?ちょっと待て。テメェは一体何がしてェンだよォ」

 「出かけると言うのか?ちょっと待つのじゃお主!さっきから気になっておったがシュンはどこに行ったのじゃ!大抵はお主と一緒に居るのに何故今はおらぬ?もう夜じゃぞ!」

 

 さっさと転移しようとした私を、いまだに私を怪しんでいる戦闘狂と、地獄耳な白黒に捕まってしまった。

 

 「白黒。長身はね、私達の旅から抜けたんだよ」

 「……どういう意味じゃ?」

 「新しい仲間を入れたがったから、いっその事ここで別れようって」

 「は、はぁ?受け入れれば良いではないか」

 「そしたらダラダラとまた増えそうだなって思ったから」

 

 白黒は、なんとも言えぬ複雑そうな顔をする。

 

 「ええい、ちょっと我、シュンの所に行ってくるのじゃ!」

 

 そう言って飛び出して行った。

 どうせこの国で別れるのは決まってる事なのにな。まぁ、白黒の気が済むなら勝手にしてもらおう。

 残った私は戦闘狂の仲間の動きを観察しに───

 

 「オイ、待てよ」

 

 やっぱダメか。

 

 「質問は終わってねェぞ?」

 「……何?」

 「テメェの目的はなンだ」

 

 そう言って戦闘狂は私を睨みつけてくる。

 目的って言われてもなぁ。あるとしたらスノを見つけることだけど、これとスノは関係ないし。『リヴァロ』に関しては、正直目的なんて持っていない。

 

 「いつも面白いことしてくれるって、言ったでしょ」


 強いて言うなら、観察がしたいだけなのかもしれない。


 「マジでそれが理由だったらテメェ、かなりウチの組織に向いてるぜ。試しに入ってみるかァ?」

 「……スノが居るなら」

 

 あくまでも私の旅の目的はスノ探し。

 リヴァロにスノが居るなら、私は躊躇なく入ることを選ぶ。私の最優先事項は常に"私自身"とスノなのだ。

 

 「スノ?ソイツはテメェの友達か何かかァ?」

 「私の契約悪魔。十年前にどっか行っちゃったの。黒い髪で紫色の目の男の格好してるんだけど、知らない?」

 「知らねェしウチの組織にも居ねェなァ。残念だ」

 「そっか」

 

 まぁ、そんな簡単に見つかる訳ないか。

 スノの反応は昔よりずっと小さいし、何よりも居場所が特定しずらくなっている。弱っている証拠だろう。スノが見つかるのはまだまだ先になりそうだ。

 

 「じゃ、これからあの二人のショーが始まるっぽいから行ってくる」

 「待てリネア。オレも連れていけ」

 

 うん、そうだとは思った。

 コイツが一番ショーを楽しみにしていたのは知っていたし、言ってくるだろうなとも思ったし。

 

 「いいよ。じゃあ私に掴まっててね」

 

 戦闘狂が私の肩に触れ、ついでにフィミィも私の足元に掴まる。それを確認して、私は『転移』のスキルを発動させた。

 

 ◇

 

 転移でたどり着いたのはサーベント王国の中心部にある、とある町。

 私たちは、その町の薄暗い場所に転移した。

 私はついて来たフィミィに防御魔術を掛け、鞄の中に潜ませた。フィミィにこの場所は少し刺激が強い。

 

 「おー。お前ンなこともできンのか」

 

 戦闘狂は転移して早々に辺りを見回している。そんなに町並みが気になったのだろうか。

 まぁ、確かに辺りは腐りまくっているけども。

 

 件のお仲間が『毒』のスキルかなんかでさっそく汚染させたんだと思う。

 私はそう言った状態異常無効のスキルを持ってるから平気だが、この毒、結構強めだ。人体に環境、全てに悪影響だ。

 戦闘狂は大丈夫なのだろうか。

 

 そう思って聞いてみたところ、

 

 「はァ?オレが毒なンかでぶっ倒れるわけねェだろうが」

 

 とのこと。

 一体どこからその自信が湧いてくるのだろうか。少し疑問だった。

 

 「そう言うオメーはどうなンだよ」

 「私に毒は効かないの」

 「フーン。………にしてもよォ、何かこの場所にいると、頭がフラフラしねェかァ?さっきからお前の魔術かなンかで移動した時から目眩が酷くてよォ」

 

 がっつり毒入ってるじゃん。

 さっきのはただの強がりってこと?なんだそれ。意地っ張りか。

 

 「それ、毒の影響だよ」

 「ア"?」

 「この町に広がっている毒は主に三段階の症状に分かれてて、第一段階は酔った時のような目眩、フラつきなどがおこる。第二段階は吐き気あるいは呼吸困難に陥る。第三段階には体中のあらゆる細胞を殺し、やがて死に至る」

 「つまり……オレはその初期状態にあるって言うのかァ?」

 「うん。ちなみに十分ずつ三段階の症状が出始めて、死ぬまで三十分くらいかかるらしい」

 「マジかよ。ヤバいじゃねェか」


 そういう割には、戦闘狂に焦っている様子が見られない。冷静すぎないか、この人。

 

 「まァー、いざとなったらアールツトの特製、なんでもなおーる薬があるからなァ。なんとかなるだろ」

 

 なるほどそういうことか。

 どおりで余裕そうだと思った。確かに『薬』で作った“薬”の効果は強力。持っていて安心できる類いなのはよく分かる。

 

 「ンなことより早くあいつら探そうぜェ?位置が分かんねェことには何も始まンねェだろォ?」

 「ん?あの二人なら、中央で高みの見物してるよ」

 

 私の言葉を聞いて戦闘狂は「ア"?どこだよ」と言って、位置が分からないのか苛ついていた。

 私は『千里眼』で見てるので、位置は丸分かりである。

 

 「オイ、リネア。二人の場所まで案内しろ」

 

 見えないのか私に頼ってきやがったコイツ。

 はぁーあ。めんどくさ。

 

 「中央だよ。中央。真ん中だって」

 「だから分かンねーッつってんだよ。なぁオイ、案内しろ」

 

 もしかしてコイツ、方向音痴なの?

 そう思ってしまうくらいしつこく聞いてくる。めんどくさい。もういっそのこと案内した方が早いかもしれない。


 「はぁ……案内すればいいんでしょ」

 

 諦めて『転移』で送ってあげる事にした。

 

 ◇

 

 腐ったような空気に、廃れるように元気のない植物、毒の症状が悪化し悲鳴が飛び交う町の中央に、その二人組は居た。

 二人はその町のシンボルとも言われている時計塔で町の様子を眺めており、蔓延した毒の効果を見守っていた。

 

 「ふふふ。もうすぐやで、プラムくん」

 「………あぁ」

 

 二人は毒の効果で人がバタバタと死んでいく様子を見るためだけに、この場所で待機していた。

 あと数分もすれば、二人の目的であるものは見れる事となるだろう。

 そんな様子の二人の間に、私は『転移』した。

 

 「ふあッ!?な、何やねんアンタら!……って、ノルくん?と、誰や?」

 「よォ。お前らのショー、見に来たぜ」

 「いや来なくていい。というかお前、何も付けずにここに来たのか?馬鹿か?吸った時点でもうアウトだぞ。自殺行為だぞお前。死にたいのか?せめてマスクを付けろ。マスクを。というかそっちの子供はなんだ。お前まさか誘拐してきたのか?悪い。そういう趣味があるとは知らなかった。流石に引いたぞ」

 

 うわ。かなりグサグサきそう。

 

 「会って早々に酷い物言いだなオイ」

 「ウチも誘拐はどうかと思うで……」

 「このおじさんに誘拐されたー。助けてー」

 「誘拐じゃねェーよ!変な誤解すンな!つかお前も乗らなくていい!」

 

 私が小さいだけに、戦闘狂にあらぬ誤解が生まれているようだ。面白そうなのでノってあげただけなのに、ノルアに怒られてしまった。

 さっきのは流れ的に絶対そう言うノリだったよね。なんて言われようと私はそう主張する。

 

 「そっちの子が気になるんやけど、まずはコレ飲んでマスク付けろや」

 

 橙色の髪に黄色と緑のオッドアイの女性──恐らく白黒を通して見た情報から察するに、ミュネラという女性は、そう言って戦闘狂と私に、解毒薬と思われる物が二錠入っている袋と、二人が付けているマスクと同じものを渡してきた。

 

 「おっ、サンキューな」

 

 戦闘狂は貰って早々に解毒薬二錠を飲み干し、サッとマスクを付ける。

 

 「ちょ、何で二錠飲んでんねん。一錠はその子の分や」

 「ア?コイツは毒が効かねェらしいからいらねェンだとよ」

 「ほんまに?」

 

 確かにそうだけど、自分からいらないとかそう言った訳じゃない。嘘は言ってないけどさ。

 

 「……大丈夫」

 「なら、ええんやけどって、キミマジで誰や!ノルくん説明せぇや」

 「私はリネア。初めまして、ミュネラにプラム」

 「「!?」」

 

 私が簡単にそう名乗ると、二人は硬直して動かなくなった。名前を知っていることにそんなに驚いたのだろうか。この情報国家はそんな事も日常茶飯だと思うんだけど。

 しばらくすると、ミュネラの方が我に返ったのか、はっとなって私達にに質問責めをしてきた。

 

 「り、リネアっちゅうと、……え?あの……?」

 「どの?」

 「ヴォルメ王国でモンスターテンペストが起こっても何もせんくて、パラン王国で敵に自ら突撃してきよったあの?」

 

 おぉ。全部私だ。

 

 「よく知ってるね」

 「はは……ついにウチらも遭遇してもうたなぁ。それにしても、何で名前知っとったん。しかも本名」

 「お前らの隠れ家に行ったとき、オレにしか見えてなかったモン居ただろ?アレコイツの仕業らしいぜェ」

 「え!?そん時バレたん?」

 「それは隠しようがないな」

 

 うん、そう思うと白黒はちょっと便利だな。普通の人には見えないらしいので隠密行動させるには最適な存在だ。まぁ例外は結構居るけど。

 

 「リ、リネアはん?人前じゃ、その名で呼ばんといてくれへん?知り合いにバレたらマズい事になるんや」

 「ん。長身にバレたらヤバいもんね。分かった」

 「いや誰やねん長身て。あだ名か?酷いネーミングセンスやなぁ」


 酷いネーミングセンス??全然酷くないと思うんだけど??むしろ的確すぎるくらい……まぁあんまり言うと楽しみが減るから、何も言わないでおこう。

 

 「まぁええわ。ウチの事は"ヴォラール"、プラムくんのことは"チーザ"って呼んでくれへんか?」

 「分かった」

 

 それが二人のコードネームかな。

 

 「で?お前はなんでリネアと行動してたんだ?」

 「テメェらの所まで送ってもらったンだよ。便利だぜェ、コイツの一瞬で移動できる魔術かスキルかなんかは」

 「スキルだよ」

 「ンなこたァどっちでもいいンだよ」

 

 いや結構重要な事だと思うんだけど。

 

 「俺としちゃア、コイツを仲間に加えたいところなンだけどよ」

 「は?」

 「いや、何でや」

 

 入れる気満々のノルアには悪いけど、スノが居ないらしいから入る気は無いけどね。

 

 「明らかに怪しいやろ」

 「いやコイツクソ強ェーよ?仲間に加えて損は無いと思うぜ!」

 「お前の頭は単細胞でできてるのか?」

 「ア"?お前だってオレが強さを見込んで入れてやったンだろうが」

 「俺とリネアを一緒にするな。大体、本人に入る意志が無いなら入れるべきではないだろう?」

 「うん、入る気ないよー」

 「本人もこう言ってるで」

 「入る気ねェのは本人から聞いたし、知ってっけどよォ、ちょっとは考えてくれてもよくねェかァ?」

 「諦めなノルくん」

 

 膝から崩れ落ち、悔しそうなノルアに、二人はそれを上から見下ろしていた。

 

 「あ、そう言えば、もうすぐアレが始まるんやったわ。見逃す訳にはいかんからなぁ。ふふふ。つい忘れそうになるとこやったわ」

 

 ミュネラはそう言って時計塔に身を乗り出し、町の人が一番多く居る場所を小型の望遠鏡で覗いた。プラムも同じようにミュネラが見ている場所を覗き始めた。

 

 「オイ、オレの分はねェのかよ」

 「持参してこいや」

 

 二人してなんとも冷たい仲間だ。

 私は『千里眼』があるからどこでも遠くなら見通せるけど、アレを見れないとなると戦闘狂が少し可哀想に思えてくる。

 

 「はァ。しょうがねェ。現地で見てくるかァ」

 「ちなみに個人差もあるが、ええモンが見れんのはあと三分ちょいぐらいやで」

 「ンじゃリネア。頼むわ」

 「は?だるい」

 「現地で見たほうが眺めも良いと思うぜ?」

 

 そうなのかも……?ん?え、どうなんだろう。

 まぁいいや。とりあえず行ってみよう。

 

 「……いいよ。早くして」

 「気が利くなァ」

 

 それが送ってもらう身で言うことか?と思いつつ、私は人が一番多くてその近い所に『転移』した。

 

 ◇

 

 私はミュネラが望遠鏡で見ていた場所に『転移』し、バレないような位置でその様子を見ていた。

 ミュネラが見ていた場所……そこは教会だった。

 教会は回復魔術が得意な役職の人がよく働いている。技術はそれなりにあるが、料金が高額すぎてほとんどの人が近寄らない。

 しかし今回ばかりはそうも言っている余裕はなく、生きようと必死になっている人ばかりだ。

 異変を感じ、すぐに治療をしてもらおうと人が殺到しているのだろう。人が溢れ出ている。

 

 「こりゃあ酷ェな」

 

 お前はコレを起こした人の仲間でしょうが。

 

 「あと一、二分くらいか?」

 「そうだね」

 

 ミュネラが言っていたアレとは、恐らくあの毒の効果が第三段階に移る瞬間の景色のことだろう。

 

 「お、始まったぜェ」

 

 あらゆる細胞を殺し、数分もせずに脳が機能しなくなる。

 そうして第二段階で重症だった者からバタバタと倒れていく。

 ベットで寝ていた者は顔色を悪くし、看病していた教会の者も、耐えきれずその場に倒れる。

 

 「うわぁ。グロい」

 

 倒れていく人の中には、口から血反吐を吐く者もあり、教会内は阿鼻叫喚としている。

 なかなかに怖いモノを作る人だなと思う。

 ちなみにあの毒は人体だけでなく自然にまで影響を及ぼす。

 人体のように第一段階第二段階の過程はなく、三十分経つと自然と地面に染み込み腐り果てる。その作物を口にするとその人も毒にかかりまた死に至る感染型の毒。

 いやぁ、なんでこんな毒思いつくかな。すごく不思議。

 

 「ん?……落ち着いた?」

 「みたいだな。はっ。結構面白かったじゃねェか」

 

 そう言って戦闘狂は、満足そうに腕を組んで首を縦に振る。

 

 「多分コレ、まだ計画の序盤でしょ?」

 「ア"?オレはそこまで詳しくは知らねェぞ」

 「本番は多分だけど首都だよ」

 「なンでそう言えンだァ?」

 「……うん、多分じゃない。絶対そう」

 「……?」

 「だから私、一回首都に戻るね。白黒も連れてきてないし」

 「は!?ちょっ待て!テメェが居ねェとオレ帰れねェンだが!?」

 

 やっぱり方向音痴だった。戦闘狂は。

 そう思うと何で白黒とあの家に戻ってこれたのか不思議だな。あの時は距離がそう遠くない場所だったからかな。まぁ、どうでもいい話だが。

 

 「じゃあ一緒に首都に戻る?」

 「頼むぜェ」

 

 そう言って私達は、あのボロボロな家に戻った。 

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