18.仲が悪くなったとしても、どちらにせよこの国でおさらばである。
サーベント王国の首都へ戻り、依頼の報酬を受け取りに私たちはギルドに向う。
街の様子は相変わらず平和だ。パラン王国のような衰退した様子は見受けられない。まぁ、それが当たり前のことだが。
ギルドに着き私たちは受付に並んだが、最初に来たときよりもすんなりと順番がまわってきた。モロによると、あのときはタイミングが悪く、丁度ピークの時間帯だったらしい。
「はい、依頼達成報酬の金貨四十枚と、素材の分の金貨三十枚で、合計金貨七十枚になります」
受付の人はそう言って金貨七十枚が入った袋を取り出した。
うん、予想よりは多めで何より。
モロはたんまりと入っていた金貨を眺め、口を緩めながら受け取った。
「七十枚なので、金貨三十五枚づつです!」
「ん。貰う」
モロは手際よく報酬の金貨を半分づつに分け、私に半分差し出した。
「では、僕はこれで失礼するです!今度また機会がありましたら、よろしくお願いしますね!それでは!」
「またね」
モロは報酬の金貨を抱え、軽く挨拶をした後明るく手を振った。
「うへへ~……。久しぶりに良い肉が食えるです……!うへへへへぇ~!」
そんな変態染みたセリフを残して。
たまたま小声で耳が良い私が聞いちゃっただけだからいいけど、あれは普通にヤバイ奴。あれは。
そうして暫くギルドで荷物の整理をしたり、これは売れないか、あれは売れるかと受付の人に素材を押し付け、お金を潤わせていると、長身が例の女を連れて戻ってきた。
「遅い」
「すまんな。つい長引いてもうたわ」
「で、隣の人は?」
「せやリネア。この子仲間にしてもええか?」
「は?」
一瞬、長身が何を言っているのか訳がわからなかった。
「……仲間?」
「せやねん。どうやらこの子、兄を探してるっぽくてな。せやから、俺らと旅すればいつか見つかるかもしれへんし、この国に居る時だけでもええからって言う俺の提案でな」
「ふーん」
「どうや?呑んでくれるか?」
理由を聞かされたって、私の返答は最初から決まっている。
「ヤダ」
「えっ!?な、なんでや!」
「私にメリットない」
「っ、お前、少しは人を思う心はないんか!?」
「……!」
そう言いながら長身は、座っていた机を強く叩く。
あれ。これ長身怒らせちゃったのかな。
残念ながら白黒は居ないので緊急会議は開けない。
「そういやお前は何時もそうやな。自分勝手なことばっかりで、誰かを助けようなんてことはせんかったし、逆に迷惑かけてばっかりや!」
「……面倒なことは避けてるだけ」
「そうは言っても身勝手すぎるわ!面倒なことでもいつかやらなきゃあかん時はくる。面倒だと放っておくとロクな人生にならへんで!!」
「やりたい事をしてるだけ」
「それがあかんて言うとるんや!それに、ええことすればいつか自分に返ってくる。悪いことすればそれもいつか自分に返ってくる。そういう風に人生よくできてるんや。せやからお前、今この子のこと見捨てちゃあかんのや!それと──」
なんだか長身の説教臭い説得を聞いているうちに面倒くさくなってきた。
いっそのこと私が折れて仲間にしようか。いや、それはそれで私が嫌だ。そうやって旅仲間を増やしてると、いつの間にか十人とか大規模になりかねないし。今のうちに別れておいた方がいい消化になる。
となると、一番手っ取り早く終わらせるにはこうするしかない。
「あー、もういいよ。うん、……分かった」
「じゃ、じゃあ……!」
「長身、今から別行動で」
「……は?」
「私との二人旅はここで終わり。その子は長身の好きなようにしたらいい。あ、お金は半分ずつだよ」
はい、と私は袋の中から金貨十五枚を取り出して渡す。全然半分じゃないけど。
長身は呆然としており、金貨を渡しても反応が鈍い。
「ちょーしーん?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
珍しく、長身と契約してからは引きこもりがちになっていたディーネが飛び出してきた。
ディーネは長身の目の前に浮かび、怒った様子で私へ近づいた。
「どうしてそうなるわけよ!?シュンはそんなこと望んでないわ!」
「元々私は孤独なのが好きだから」
「でも、一人くらい増えたっていいじゃない!!」
「嫌だよ。流れでどんどん増えてきちゃうじゃん」
「う……じゃ、じゃあ、アンタが出てったらアンタの秘密バラすわよ!」
「……洒落にならないこと言わないでよ」
ディーネのその発言は聞き捨てならない。
私は声を低くして殺気を強める。
「っ、あ、アンタが出ていくとか言うから!」
「おかしいな。私、記憶は消したはずなんだけど」
「ぁ、わ、私は何時だって『真実』を見抜く事ができるわ。記憶を消したって、私のスキルが教えてくれるのよ!」
「ふーん?じゃあもっと複雑な魔術式を組まないと」
「っ!シュン聞いて!リネアは──」
まずい。
そう思って、私はディーネの口をふさいだ。
ついでにより強力な記憶消去の魔術を掛けておく。
スキルの影響も受けず、記憶を消すというよりは私に関することを封印するという魔術を。
「言ったら殺すよ」
「わ、分かった……わよ……」
「じゃあ、もう行くね」
私は荷物をまとめて席を立つ。
「……っ、待て、リネアッ!」
はっとしたような顔をする長身が私の腕を掴み、引き止めようとした。
「……三日後」
「?……なんや」
「早くて明日。遅くて三日後、面白いことが起きるから、まぁ楽しんで」
そう言って私は長身の手を振り払い、ギルドの出口へ歩き出した。
「は?ちょ、待てや!」
「ばいばい。いい情報をありがとうね、長身。二人とも、機会があったらまた会おう」
私はギルドから出ていく前にそう言って手を振り、ちらりと二人を見た。長身は怒ったような、焦ったような表情で、冷や汗をかいており、サクラはどうしたらいいか分からないような、困ったような表情をしていた。
もう暫くは会うことはないかな。多分だけど。
私はそう確信した。
◇
ギルドを出た後、私はある場所へ向かう。
そこは今後寝泊まりする予定の場所で、白黒達との合流場所でもある。
ちなみにあの怪しげな小屋ではない。
歩くこと数分。
街の外れに目的地である家を見つけた。その家は一人で暮らすには十分すぎるくらいの広さで、生活感はあまり見受けられない。むしろボロボロだ。鍵もついていないので容易く入ることができた。恐らく長年に渡って放置されていた家なのだろう。
……私の『千里眼』によれば、ちゃんとここへ来るはず。
そう思って家の中をある程度魔術で綺麗にし、暇潰しに新魔術の実験をして白黒達を待っていた。
すると、急にどこからか時空が歪み、その中から白い何かが落ちてくるのが見えた。
「ミュ~!」
それは、白黒と一緒にノルアをつけていたミーフだった。
「ミュイ!」
「……白黒か」
一瞬で誰がやったのか想像がついた。
このミーフの回りからすると、空間を渡るような芸当ができるのは、思い浮かぶ限り白黒以外思い付かない。
なんの目的があってミーフを私のところへ送ってきたのか疑問が残るが、暇だったし癒しになるので丁度いい。
私は、白黒が来るまでミーフを撫でて待つことにした。
「みゅ、みゅいぃ~」
「……」
今更だが、このミーフに名前をつけた方がよいのだろうか。
よくよく考えれば〈ミーフ〉は種族名だ。
これからも種族名で呼ばれるのは、少し変な気がしてきた。ただの違和感か分からないが、このままだといずれ〈ミーフ〉が定着してしまうかもしれない。
……名前、つけようか。
ミーフだし捩ってミィフィとか。うーん、白いから白とか?
うん……すごく悩む。
「うーん……モフモフとか?」
「ミュ、ミュイ?」
名前の候補を無意識に言っていたようだった。
ミーフは顔を上げて疑問がっていた。
「君の名前。モフはどう?」
「ミュ!?ミュイィィ!!」
ミーフは私の膝の上で跳び跳ねて驚いており、横向きに体を振って、「モフ」という名前を拒否しているように見えた。
「白は?」
「ミュミュミュ!!」
これも体を横向きに振って拒否している。
「ミィフィ」
「ミュ、ミュィ?ミューミュイ」
少しだけ反応が違った。気に入ったのだろうか。でもミィフィがいいという風には感じなかった。
反対にすればいいのだろうか。
「えー……じゃあフィミィ?」
「ミュイ!ミュイミュイ!」
今度は縦に体を動かしている。これのようだ。
「……フィミィ」
「ミュイ!」
フィミィは名前が気に入ったのか、嬉しそうに私の手に擦り寄ってくる。
うん。可愛い。
名前も決めたし、いよいよやることも無くなってきたため、私は新魔術の研究をすることにした。
◆
──数時間前──
スジアン達二人は、シュリアに頼まれたノルアの追跡を続けていた。
あれからというもの、ノルアは暫くその小屋にとどまり続け、出ていく様子もなくスジアン達は退屈―――というよりもスジアンは、早くここから出ていきたいという気持ちでいっぱいになっていた。
橙色の髪の女性──ミュネラとノルアが話をしていると、ふと、急に思い出したかのようにくるりと後ろを振り返り、その猛獣のような瞳でスジアンを見つめた。
「そういやずっと気になってたんだがよォ、オマエら、誰だ?」
気づかれた!?か、狩られる……!
そう本能で悟ったスジアンは、なんとかミーフだけでも逃がそうと『時空操作』を使って、リネアが一人になった時にミーフを送りつけるよう設定して逃がした。
ノルアに捕まる前にミーフを逃がせてほっとしたスジアンは、気がつくとノルアに首根っこを捕まれていた。まるで猫を摘まむように。
「ノルくん?どないしたんや?そこに何か居るんか?」
「ア"?ここにチカチカと目に悪い見た目しやがる虫がいるだろ?」
「はぁ?何言うとるんや?なんもおらんやん」
「……まさか、見えてねェのか?」
ノルアがミュネラと言い合いをしている中、スジアンはビクビクと殺されないか震えていた。
(最悪時間を止めてでもリネアのところへ帰るのじゃ!)
そう決意を固め、スジアンは一先ず何も喋らず動かないでいた。
「オイテメェ。ナニモンだァ?」
「!……」
「言わねェと消すぞ?」
そう言ってノルアはスジアンに目で圧をかける。
「ははははは、は、はいっ!わ、我はスジアンっ!時の精霊スジアンじゃーっ!」
その圧と脅しに耐えられなかったスジアンは、声を震わせながらも、うっかり自分の正体を明かしてしまった。
喋ってからやってしまったと気づくが、もう遅い。
「……ア"?時の……?何言ってンだテメェ。ンなモン存在しねェだろうが」
幸いにも信じてもらえていない様子だったことにスジアンはほっとする。
「ほんまにどうしたんや?そこに何も居らんけど」
「あー………ハァ」
ノルアはため息を付いて、スジアンを厄介者のような目で睨み付ける。
「な、なんじゃお主。ゲテモノを見るような目で我を見るでない!!」
「……帰る」
「え?帰るって、拠点に戻るんか?ウチはてっきりここで過ごすんかと思っとったんやけど」
「ンな狭い小屋で三人も寝れねェだろォ?ハナから居座る気はねェよ。それにオレは予め住む場所は見つけてある。お前らのショーはちゃんと見ていくから安心しろ。じゃあな」
「ほんまに見る気なんやな。了解したわぁ」
それだけ言うと、ノルアはスジアンを掴んだままその小屋を出た。
一方スジアンは、自分がまだ解放されていないことに焦っていた。
運がいいことに一応ノルアの側に居るため、シュリアに怒られるような事はない。しかしこのままでは何をされるか分からない上に、無事で居られる保証もなかった。ついでに、何故かシュリアが掛けた魔術もこの男には効果を示さなかった。
こういった理由からスジアンは、ノルアから逃げることができないのである。
ノルアは何処かへ移動しながら、スジアンのことを怪しげに見ている。
「のぅ、離してくれぬか?」
「得体の知れねェモンを逃がすわけねェだろォ」
スジアンはやはり駄目かと気落ちし、殺されるのも嫌だったため、抵抗せずに大人しくすることにした。
元々寡黙なのか、ノルアは移動中にスジアンと会話することが全くなくどんどんと前へ進んでいく。
スジアンはそれが退屈で仕方がなかった。ふと、スジアンは、何も話さないのなら自分から話しかければいいのだと気づく。
どうせなら情報も得られるかもしれないと企んだのだ。
「のぅお主。疑問だったのじゃが、何故我が見えておるのじゃ?」
「……オレが聞きてェよ」
「我はな、普通の者では見えない特殊な精霊でのぉ。不思議でならんのじゃ」
「便利な体質だな」
「いや、逆じゃよ逆!認識されないというのはなかなかに苦痛なモノじゃぞ?」
「あー確かにな。よく考えたら認識してもらえねェと戦えねェか」
「その基準もどうかと思うのじゃが……」
ふと、前を見ると、スジアンはこちらに突進してくる牛型の魔物を発見した。
「前方に魔物が居るぞ。こっちに向かってくるようじゃ、って、うぉわあああ!?」
そう言うと、ノルアはその魔物を見た瞬間走りだし、背中に背負っている大剣を引き抜いて、素早い動きで魔物を斬り殺した。
(お、恐ろしいのじゃ……っ!)
スジアンは魔物の返り血を浴びるノルアが怖かった。
「牛だ。コイツはなかなか良い肉だなァ」
ノルアのその瞳は、どこか狂気染みていた。
その後ノルアは手際よく魔物を解体し、袋に詰め込んだ。解体をする際に、ノルアはスジアンを手放さなければならなかった為、自力で切ることのできない柔らかい紐で結び、近くの木に吊るされていた。
解体後も便利だと思ったのか、ノルアはスジアンを紐で結んだまま持ち歩いている。
「我は物か何かなのか?この扱いは酷いのじゃ。せめて紐を――」
「うるせェ、黙ってろ」
そうして、再び街へ戻ってきた。
街へ着くとノルアはスタスタと自身の拠点へ向かい、スジアンも大人しくしていた。抵抗したら何をされるか分からないからだ。
「のぅ、ノルア。これから我をどうするつもりなのじゃ?」
「特に決めてねェが、野放しにしておくのはもったいねェと思ってる。仲間の研究者にあげるのも悪くねェなァ」
そう言ったノルアの目がギラリと光り、まるで獣のようだと感じだスジアンは、背筋を凍るような思いをした。
「ヒィッ!じ、じじ実は我、契約者が居るのじゃ!返してくれぬかのおぉ?」
スジアンは震えながらせめてもの抵抗としてノルアに聞く。
「……ソイツに会ってから決めてやろうじゃねェか」
(思ったより優しいではないか!)
最悪の場合、シュリアと一緒にいれば殺されることはまず確実にない。会えればの話だが。
スジアンは浅はかだが希望を持った。
「っと、ここがオレの臨時拠点だ」
二人がそう話しているうちに、目的の場所へついたようだ。
その家は二階建てで石で造られており、全体的にかなり年期が入っているため建物の端々が欠けている。
「かなりボロボロじゃのう?」
「雰囲気がいいンだよ」
ノルア曰く、ボロいくらいが住みやすいとのことだ。
(逆じゃろ逆。今にも壊れそうで気が休まんわ。さっきもそうじゃッたがコイツの感性なかなかに狂っておるのう)
ノルアはその家の扉を開く。
「こんばんは」
「ミュイ!」
そう言って中から出てきたのは、黒髪ショートカットの、ノルアに似た赤い瞳を持つ、スジアンの契約者でありSランク冒険者のリネア。彼女の腕の中にはスジアンが先程送ったミーフが居た。
「「は??」」
息ぴったりである。




