16.終戦、そしてそれぞれ行く先。
ひとまず私は、〈浮遊〉で良く見える場所を探した。
この建物の構成は孤児院のような場所である。
今現在私が居るところは恐らく寝室。二人が戦っている場所は、壊れて何があったのか分からないようなだだっ広い場所だ。その場所は吹き抜けになっており、二階に登って観戦できるので丁度良かった。私は早速その場所へ向かい、バレない程度に様子を見ていると、背後からさっきまでビビっていた白黒が飛んできた。
「我を置いていくでない!」
「……怖いんじゃないの?」
「怖いわ!だが一人になってしまう方がもっと怖いのじゃ!」
まぁ確かに、二人の方が安心できるのは分かるが。
そう思っていると、視界に眼帯宰相と片眼鏡が戦っているのが映る。このままだと独り言を言っているように見えてしまうので、会話を念話に切り変える。
『まぁ、何でもいいから、煩くしないで』
『分かったのじゃ』
白黒は大人しくミーフを抱えて、私から離れないように飛ぶ。それを確認した私は、視線を眼帯宰相達の戦闘に向ける。
その時だった。
突然私の目の前で、戦闘をしている二人が吹っ飛んできた。二人は私が居た事に驚き、こちらを見て戦闘を止める。私はとっさに〈煙〉で辺りをくらまし、それぞれの姿が分からないくらいになったところで見つからないような場所へ移動する。
そうして考えた。
あの一瞬の間に何があったのかと。
ん?あれ……あそこって一階だった?二階にちゃんと移動した……はず。
『お主、ボケてしまったのではないかの?』
『白黒に言われたくない。というか、あの二人、あの一瞬で二階に動くようなことしてたってこと?』
『そこが二階ならば、そんな感じではないか?』
『……白黒のせいで見逃しちゃった』
『む。我のせいではないのじゃ!』
『……いいよ。終わったのは仕方ないし』
『な、なんじゃその、我のせいだけど許してあげるみたいな言い方は!気に食わぬわ!』
わーわーと騒ぐ白黒をひとまず置いておくとして、とりあえずあの二人の戦闘を──ん?
『どうかしたのか?』
『……二人とも、敵を見失って別方向に行って探してる……』
『くく、っははは!正真正銘お主が放った〈煙〉のせいじゃのぉ!はははは!』
悔しいけど、白黒の言う通りだ。
私が放った〈煙〉で、お互いの位置を把握できなくなり戦闘は一時休戦。二人はそれぞれ別方向に向かって歩き出している。片眼鏡に至っては、眼帯宰相を殺ることすら止めている様子。
完全にやらかした。
『さっきは我のせいにしておったが、これは完全にお主のせいじゃのぉ!はははは!』
『うるさい』
なにも否定出来ないのが余計にうざい。うん、もう相手にしない方がいいね。
私は声を出して笑い続けている白黒を通りすぎ、建物の中へと入っていった。
「くはっ……くくっ……はぁー……む?」
ちょうど笑い終えた白黒が、奥へ向かった私に気づき、追いかけてきた。
『何処へ行くのじゃ?』
私は白黒の事を無視し、目的の場所へと向かう。
見えて来るのは赤い髪の青年、眼帯宰相だ。そしてその足元には、白黒によって時間停止をくらい、腐敗を抑えている状態の眼帯補佐。
眼帯宰相──ディクトに、ヴィギーの死が知られてしまったのである。
『リ、リネア?こ、これは……非常にマズイ状況ではないかの……?』
白黒がそう念話を送ってきた瞬間、ディクトは口を開いてこちらを見た。
「……オイ、居るのは分かってんだよ。どうしてオマエがここに居るんだろうなぁ、旅人のリネアさんよぉ」
ギロリと睨むディクトの表情が何気に怖い。
「……ここに来てたから」
「は?とぼけんじゃねぇ。ババアが亡くなった日から行方不明になってただろうが。その間は何してたんだよ」
「迷子になってた」
「……そう言うことにしてやる。で、ヴィギーを殺したのはオマエか?」
やっぱり聞いてくると思った。
「違う。さっき来たらこうなってた」
「……そうかよ。……違うならさっさと出てけ」
そう言うと、ディクトは黙ってヴィギーを見つめていた。ディクトも出ていけと言っているし、私もここに居るのは邪魔だと思っていたので、私はこの場から立ち去ることにする。
『あ、そうじゃ。《時間停止》はどうするのじゃ?消すか?』
『消せば?もうここには戻らないし、魔力が減るなら無駄だと思う』
『了解じゃ!』
そう言うわけで、白黒がヴィギーにかけていた『時間操作』を解いてから、私たちは片眼鏡の後を追った。
◆
一方その頃、アールツトは国王が居る城に来ていた。
城の中はそれ程危険な道ではなかった。騎士は居らず、罠なども特に仕掛けられて居なかったため、アールツトは中へ安易に入る事が出来た。そして魔力の気配からして居るのは恐らく───
(この先、ですかね)
──目の前にある、扉の向こう側。
アールツトはその扉をそっと開ける。入り口の前には誰も居ないため、アールツトはどんどん目的の場所へ進んでいく。
そうして進んでいくと、そこにアールツトの目的の人は居た。
「ふふ。ここに居たんですね。パラン王国の国王陛下?」
アールツトは、玉座に座る国王ロットと、隣で警戒している騎士クロムに向かって微笑み、薄く目を開いて睨み付ける。
「私は貴方を殺せばお仕事は終わりなんです。ですので、さっさと死んでくれませんか?」
煽るようにアールツトは微笑みながらそう言った。
クロムは王を守るため、王の前へ出る。
「それは此方のセリフだ。お前なんぞに国王様まで殺されてたまるものか!」
「おやおや、威勢の良いことですねぇ。守りきれるのなら、やってみてはどうです?無理でしょうけどねぇ!」
「貴様ァ!!」
クロムはそう叫ぶと同時に、アールツトに斬りかかる。アールツトは攻撃をギリギリのところで避けた。そして『薬』で爆発を引き起こす。
「くっ、」
クロムは爆発から少し離れていたが、あまり避けきる事が出来ず、腕を少し火傷した。アールツトは休みを入れず『薬』による爆発をおこし続ける。クロムは爆発を避けていく内に後ろへ下がり、気がつけば背後は壁になっていた。
「しまっ」
「それでは、さようなら」
アールツトはクロムに向かって『薬』を放ち、爆発させた。クロムが死んだ事を確認したアールツトは、国王の居るところへ踵を返す。
「貴方、自分の騎士を助ける気はないんですね?少し予想外でした」
「……私が間に入れる訳がありません」
「ふふ。そうですか。ですが、次は貴方です、よッ!」
アールツトはクロムの時と同じように『薬』による爆発を引き起こす。アールツトは国王がなんとかそれを避けるのかと思っていた。しかし、国王は予想には反してその攻撃を受け止めた。今の国王は正に、死んでいてもおかしくない状態である。アールツトはそんな国王の行動が気になり、近づいてみる。
「おや?──ッ!!!」
すると、突然国王がアールツトの足を力強く掴んだ。
「ハハハハハッ!引っ掛かりましたね!!」
「な、何をしているのです?そんな事をしても、アレに直撃した貴方にはもう時間は少ないハズですよ?」
「いい、いいんです!私の願望は、お前の死。死なば諸共、という東部の言葉は、こういう時にッ、使うんですよ!!!」
「──なッ!!??」
「では、死後の世界でお会いしましょう!『道連れ』ッ!」
国王が『道連れ』というスキルを使用すると、辺りが煙におおわれた。
『道連れ』
そのスキルは、発動者が死亡するときのみ発動する特殊スキルである。発動者が死亡すると、その発動者は誰かを一人、道連れにする事が出来る。あらゆる防御を貫通し、どんな耐性を持っていようと道連れの対象になった者は必ず死に陥る。
アールツトは国王にそのスキルの対象にされたのだ。
煙が消えかかる頃にもなれば、そこに生きている人の姿は見つからなかった。
◆
『む?二人とも死んでしまったではないか!これは流石に意外じゃのう。お主もそう思わぬか?』
片眼鏡が来る前に城の屋根に上って、壊れている所から一緒に様子を見ていた白黒が念話で興奮気味にそう叫ぶ。
『……まぁ』
確かに見た感じ、二人は共倒れしたように見える。
……でも、あれは……
『何か不可解な事があったような顔じゃな?申してみてはどうじゃ?我なら何か分かるかもしれぬぞ』
『いや……片眼鏡が服用してた『薬』が気になってて』
『千里眼』で見たところ、片眼鏡が服用していた『薬』は主に二つ。一つ目は魔力回復と体力回復、身体強化の効果がある【青色】の『薬』。もう一つは──
『……まさか、ね』
『何がまさかなのじゃ?我にも教えるのじゃ!』
『いや、片眼鏡の努力がすごいなぁって』
『訳が分からぬ事をいうでない!』
嘘じゃないからね。
『む、あそこにシュンが居るぞ!……うぇ……ディーネも一緒ではないか……』
白黒の言ったとおり、王座の間の入り口付近に長身がうろついていた。
……丁度良い。
『ねぇ、白黒。次、サーベント王国でいいよね?』
サーベント王国。
それは、南ニトロアにある国の一つ。
ここ、パラン王国からだとかなり遠く、ブラウ帝国を跨いでその先にある国である。長身が召喚されたフレッド大帝国を吸収した場所だ。
正直、ここからなら北ニトロアのカーネリア王国の方が近いのだが、サーベント王国に行く方が面白いことがおこると『千里眼』で見えたので、そっちの方を行くことにした。
『む?我は構わぬが……シュンにどう説明するつもりなのじゃ?あやつ、絶対ブラウ帝国が良いと言い張ると思うのじゃが……。それにこの状況、お主が見ていただけというのがバレバレではないかの?』
確かにその通り。長身に、いきなりサーベント王国に行こう、などと言うのはこの国の者を見殺しにするということに等しいことだ。それに、優しい優しい長身は、生き残りの暗緑色やディクトを置いていくことは出来ないだろう。
『まぁ見ててよ』
私はそう言って、屋根から〈浮遊〉魔術を使って飛び降りる。長身は私の姿を見ると、驚いた表情をして此方へ向かってリネアきた。
「やっほー」
「リネア!?今まで何処行っとったんや!!心配したんやぞ!」
「ごめん」
「でも無事そうでちょっと安心したわ。ほんま、良かったわ。んで、王様とクロムさんはどうしたんや?」
「クロムさんと王様は、命をかけてアールツトを殺した」
「そう、なんか……。……ん?……じゃあリネアはそんときなにしとったん?」
私は長身に気づかれないよう、水色髪の少年から“吸収”したスキル、『詐欺師』を発動する。
「《私も一緒に居て戦ったんだけど、二人を助けることは出来なくて》」
「そうなんか……」
おお。ほんとに効いてる。本当に一緒に戦ったんか、とか聞かれるかと思ったけど、このくらい効いてるなら大丈夫そう。
「ん。《ここに来る前に、暗緑色とディクトに会ったんだけど、二人とも大切な人が亡くなってて、今は何かをする気力が無いらしいの》」
これは半分嘘で半分本当だ。
実際に大切な人が亡くなって傷ついていた人いたし。
「なるほどな。状況は分かった。それで、リネアはこれからどうするつもりなん?」
うん、作戦通りだ。
「サーベント王国に行くつもり。ブラウ帝国は今混乱中だし」
「え?なんやそれ。初耳やわ。もっと詳しく教えてくれへえん?」
「え、知らないの?」
「うるさいわ!知らんくて何か悪いんか!?」
「情報はちゃんと自分で入手出来るようにした方がいいよ」
「余計なお世話や!というか、この状況でどう他国の情報まで手に入れろっちゅうねん!?それこそネットのないこの世界じゃ難しすぎるやろ!」
「“ねっと”が何か知らないけど、ほかの国に友達居ないの?居たら連絡やらなんやら送ってくれるでしょ」
「〈念話〉をそう流用なんか出来るか!!俺はリネアやないんやぞ!?簡単に出来ると思ったら大間違いや!」
長身を煽ってみたが、とずっと喋り続けていてちょっとうざくなってきた。
仕方ないと思いながら、ブラウ帝国の現状について話しておいた。
「ま、マジか……。流石にショックなんやけど……」
「だからサーベント王国に行くつもりだけど、長身もついてくる?」
「勿論や。ディクトさんとサジーが心配やけど……」
「大丈夫だと思うよ、あの二人は。《二人してエルレウム教国に行くって言ってたし》」
「なるほどな、よし、じゃあさっさとサーベント王国にいこか」
「え!?エルレウム教国!?私も行きたいわ!」
「行くわけないやろ!というか行きたくないわ!」
長身も宗教国家には行きたくない様子で良かった。そっちが良いと言い出したらかなりまずかったからね。
『お主、詐欺師だったのか。これまで一緒に居て全く気が付かなかったわ』
事実を知っている白黒には『詐欺師』が効かなかった様子。
少しムカついたので白黒の額にデコピンをした。
「と、ところでリネアの肩についてるミーフはなんや……?」
「拾った」
「えっ!?マジか!まだ居たんやな。ちょっと触らせてくれへん?」
「ミュィ……」
「嫌がってるよ」
「クソッ。なんでもうリネアになついとんねん」
私が戦いに夢中になっている最中、今の今までこのミーフに気がつかなかったのはここだけの話である。
◆
一方壊れた孤児院では、ディクトがヴィギーを抱えていた。
ディクトは未だ気持ちの整理が追いついていなかったのだ。
「こんなところで何をしているのさね」
その時、その壊れた孤児院にやって来たサジタリアが、ディクトにそう問いかける。
「……サジーか……」
「仲間を探していたんだがねぇ、どうも来る途中でカーリャの死体を見てしまったのさ。それで、そこから血の後を追ってみればアンタが居たって訳でね」
「……」
「いつまで落ち込んでいるつもりなんだい」
サジタリアは強めの口調でそう言う。
「弱そうなアンタなんて、初めて見たよ。兄弟を殺されたくらいで、落ち込んでいたらこの先どうしていくつもりなのさ?」
「……部外者が勝手に口出しすんなよ」
「部外者?残念ながらアタシは、たった二人だけのこの戦いの生き残りの一人さ。十分関係があると思うのだけどね?」
「は?……俺と、お前だけ……?ロット様は?クロム殿は?アールツトはどうした?」
ディクトは戦いが終わっていることに驚き、サジタリアに詳細を求める。
「王が命をかけて殺してくださったのさ。クロム殿も恐らくだが、王を守る為に戦ったのさね。アタシは全てが終わった頃に城へ戻ったよ。一番何も出来なかったと言っても可笑しくはないかもしれないさね」
「いや……俺もほとんど何もしていないようなものだ」
ディクトはヴィギーを床に置き、サジタリアと目を合わせる。
「いや、ディクト殿は頑張っていた方さ。アタシの方が何もしていないよ。……でも、過去のことはもういいさね。アタシはね、何も出来なかった分、皆の分まで生きていこうと思ったのさ」
ディクトはサジタリアのその言葉を聞き、自分も前向きにならなければと考えた。
「それに、アールツトが加わっていた組織、『リヴァロ』はまだ存在するようだからね。何やら危ない計画を企てているようだし、なにより死んでしまった仲間たちの為にも、そいつらを全滅させたいのさ」
サジタリアはそう言いながら、目付きを鋭くさせる。
『リヴァロ』もとい、アールツトを恨んでいるのだろう。
その気持ちはディクトも一緒だった。
「……なぁ、サジー。お前は、これからどうしていくつもりなんだ?」
「『ホリエン』、という組織を知っているかい?」
「……?初耳だ」
ディクトは聞きなれない言葉に首をかしげる。
「エルレウム教国で作られた対『リヴァロ』の組織でね。さながら『リヴァロ』の敵対組織ってところかね。アタシはその組織の一員になろうと思うのさ」
「『ホリエン』……?どこの情報だ?」
「エルレウム教国が前からアールツトを倒すことに支援してくれていたのは覚えているかね?」
「あぁ。ロット様がエルレウム教国の支援はいつも助かっていると仰っていた記憶はある」
「そのエルレウム教国が、開戦前に王に連絡を寄越したそうなのさ。『もし、無事にアールツトを始末できたら、是非とも私達の創設した『リヴァロ』対抗組織、『ホリエン』に来てほしい』とね。実はアタシ、こっそりその話を聞いてしまってね。どうだい?アンタも来るかい?」
ディクトは真剣な表情をして、サジタリアの目を見た。
それは、覚悟を決めたような目で。
「あぁ。俺も、いつまでもヴィギーの事を引きずってられないからな。……サジー、一緒に行かせてくれないか?」
サジタリアはその言葉を聞き終えると、にっこりと満足そうな表情をした。
「その言葉を待っていたのさ」
◆
リネア達が城を去り、暫くたった頃、瓦礫に埋もれた中から何かが動いた。
段々と起き上がってくるそれは、紺色の髪に金色の目。ボロボロの白衣を身に包み、壊れかけのモノクルをかけているのが特徴的な青年、アールツトだった。
「ふぅ。死ぬかと思いました」
アールツトは先程、国王ロットの『道連れ』のスキルで死んだはずの人間だ。
『道連れ』は、どんな防御魔術を体に張っていようと、どんなに強力な防御系統のスキルを持っていようと対象を殺すことの出来るスキルだ。
それこそ、一度死んで蘇生でもしないと復活は可能じゃない。
かなり強力なスキルだったが、何故彼が生きているのかというと──
「事前に『不死』の『薬』を服薬しておいて正解でしたね」
開戦前に完成させたアールツトの理想の『薬』の一つ。それが『不死』の『薬』だ。
アールツトは城へ入る前、念の為、というのと、薬の効果を確かめるべくそれを服薬した。そのおかげで、アールツトは生き延びることができたのだ。
(ふふ。ここで死んでは仲間達の迷惑になってしまいますしね。生き残れて良かったです)
だがアールツトには、少し不思議に思うところがあった。
(『不死』の『薬』、何故リネアさんが作り方のコツを知っていたのでしょうか……。まぁ、本当に何もしてこなかったので、害はないのでしょうけど)
実は、リネアがアールツトの研究所を去る前に渡した紙に、アールツトが理想の薬の一つとして研究し続けていた不死の『薬』を作るコツが書かれていた。
何故リネアが自分の目的を知っていたのか。
何故作る方法が分かるのか。
「また会った時にでも聞くことにしましょうか」
そんなリネアという少女に疑問を抱きながらも、アールツトは次の国へと足を進めた。




