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元王女様は、世界を滅亡へと陥れたい。  作者: 九漆
第四章 西ニトロア編
16/26

15.開戦、その合図は人知れず。


 その日、アールツトは何時ものように部屋で研究をしていた。何時ものようにと言ったが、その日は普段とは違うことがあった。

 

 それは、新薬の完成だった。

 

 『薬』というスキルを持つアールツトは、思いのままに薬を作ることができる。

 アールツトは日々そのスキルの研究をしていた。

 どこまでの効果なら薬は爆発せずに服薬することができるのか。

 どうすれば理想の薬が作れるのか。

 今までずっと、アールツトは理想の薬を追い求めていたのだ。

 

 単純に効果を付けるだけでは失敗してしまう。

 違うイメージで効果を付けても変わりはない。

 ならば効果を弱くしてみるか?

 ダメだ、意味がない。

 弱くしても、元の効果は同じ。

 なのでまた爆発は起きる。

 ならば───

 

 そうやって実験を繰り返していた。作っては失敗し、少しずつ変えてみても失敗続き。

 そんなアールツトの目当ての”薬”は、ついに完成した。

 鍵となったのは、やはり例の少女のアドバイスだろうか。

 五分間、という制限付きではあるが、それは形になったのだ。

 

 ようやく、ようやくだと、アールツトは何時にもなく気分が高揚していた。

 

 そんな時だった。

 

 外の結界魔術に反応があった。

 ──“敵”

 その文字がアールツトには思い浮かんだ。

 

 ──あぁ、バレてしまいましたか。

 

 アールツトはつい先日訪れた少女を思い浮かべる。

 自分は中立的立場にあると言っていたが、やはり生かすべきではなかった、と思い返す。

 少女のせいではないのかもしれないが、いずれも来てしまったものは追い返すしかない。

 

 ──仕方ありません。少し予定が早まっただけです。

 

 アールツトは自身の拠点に侵入した敵を仕留めるため、仕上がった薬を保管庫に入れ、研究室から出て移動を始めた。

 

 ◆

 

『ディクトさん、そこを左です!』

『あぁ!』

 

 暗闇の地下室の中、パラン王国の生き残り達は敵の本拠地へと乗り込んでいた。

 国王のロットと騎士のクロムは念のため城で待機している。

 

 彼らの作戦は至ってシンプル。

 魔術師であるカーリャが後方で敵の位置を索敵し、シュンとディクト、サジタリアに位置を共有。カーリャとヴィギーは三人の後を追う形で敵を追う。お互いの位置がバラバラにならないように、固まって動く。

 

 今のところ作戦は順調であった。

 

『敵が動きました。此方へ向かってきます!』

 

 常に敵の位置を確認しているカーリャは、すぐに三人へ伝える。

 しかし、その報告は無意味だったと言えるだろう。

 なんせ敵は、カーリャの報告より僅か数秒前に三人に遭遇していたのだから。

 

「おや。案外見つけるのが楽でしたねぇ」

「っ!てめぇが……!」

「落ち着きな、ディクト。アタシ達の国を目茶苦茶にしたって奴は、アンタだね……?」

「そうです。そういえば貴女、先日会いましたよね?確認など不要に思うのですが、もしや私の事をお忘れのようですか?緑髪さん」

 

 ディクトは憎しみのある目で敵──アールツトを見る。

 

「サジタリアだよ。最も、アンタに覚えてもらうつもりはないけれどね!」

 

 サジタリアはそう言って、自身の持つ剣でアールツトに斬りかかる。アールツトはその斬撃を避け、次の攻撃も避け続ける。サジタリアに続いてディクトとシュンもアールツトに斬りかかった。

 

「おやおや物騒ですねぇ」

 

 アールツトはそれを飄々と避けた。

 

「お前が言うかよ!!」

 

 攻撃が当たらない様子に苛立ったディクトが『炎』のスキルで炎を剣に纏い、それを振り回す。

 

「おっと」

 

 ディクトの炎はアールツトに掠りはしたが、効果があったとは言えなかった。もっと深く斬りつけねば意味がない。

 ディクトは炎を剣に纏う事をやめて、その炎をアールツトに向けて放った。

 アールツトは先程のように避けようとしたが、逃げ道にシュンとサジタリアが居いた為逃げ道はなかった。

 しまったと思うアールツトだが、何も打つ手なしという訳ではない。アールツトはある効果を持つ薬を飲み、その炎を受け入れる。

 

 かなり火力があったその炎は、普通の人間があたれば丸焦げになること間違いなしだろう。

 しかし、アールツトにそれは効かなかった。

 

「チッ。これくらいじゃ大したことねぇってか?」

「えぇ。ですがなかなか素晴らしいものでした。お見事です。いきなり斬りかかってくるなんて失礼な方達ですね、と思っていましたが、案外面白いものを見せてくれるではないですか」

「俺らも舐められちゃ困るわ」

 

 独特な喋り方をするシュンを見て、アールツトはふと思い当たることがあった。

 

「おや……聞かない訛りですね?」

「そぉか。まぁ、この訛りは俺も自分以外で聞いたことはないからな。聞いたことなくて当然や」

「……そうですか」

 

 それを聞いてアールツトはまたニコリと偽りの笑顔を作る。

 

「そろそろ反撃でもしま──っ!?」

 

 アールツトが何かをしようとしたその瞬間、地面が盛り上がるようにぐらつき、その場に居る全員が体勢を崩した。

 

 天井は崩壊し、その瓦礫がディクトの頭上へと落ちる。

 危機一髪のところでそれを回避すると、まだ揺れが収まらないのか、サジタリア達の元へ戻れず距離が離れてしまった。

 

 天井の崩壊は更に激しくなり、全員の足元を荒らしていく。

 崩れていくうちに互いの距離が離されていき、全員が完全に孤立してしまったと確認できると、やがてその揺れは収まる。

 

 

 

 一体何がとシュンは困惑していた。

 

 揺れが収まった事を感じたシュンは、地上へと出てきた。

 辺りを見回せば崩れた瓦礫やぐちゃぐちゃになった土が広がる。そして近くにはさっきまで戦っていた敵も、味方も居なかった。

 

 唐突な地震によって、フィールドは地上に切り替わり、全員の位置がバラバラになってしまった。

 

 ◆

 

「お主、あれは流石にやり過ぎではないかの?」

「加減って難しいよね」

 

 灯台で先程の出来事を“見て”いた私たちはそう話す。

 

「いくら地下で始められて見ずらいからと言っても、もうちっと穏便なやり方があったのではないか?」

「手っ取り早いのが〈隆起〉くらいしかなかった」

「そうさらっと禁忌魔術を扱いおって……!大体、〈隆起〉何ぞ魔術で人工的に起こせるものではないのじゃぞ。自然現象なのじゃ!というかなんじゃその〈隆起〉の使い方は!範囲広すぎじゃろ!」

 

 〈隆起〉

 それは土属性の魔術の一つ。

 

 簡単に説明すると、広範囲で地面を盛り上げる事のできるスキルである。

 

 狭い範囲で小さいものならば〈凹凸〉という、地面を少し盛り上げる程度の魔術で充分なのだが、いかせん今回は人数もそれなりに居る上、地下室全体を持ち上げたかった為〈隆起〉の方がより向いていた。

 

 なので私は〈隆起〉で全員を地上に上げた。

 ようやく見やすくなったので私としては大満足である。

 急に〈隆起〉を使ったせいか、全員がバラバラになってしまったのは誤算だけれども。

 

 ちなみに、この魔術を使うと本来なら地層がそのまま出てくるらしい。

 だが今回の場合は地下の部分に空洞があった。

 なので地下が地上に上がる際、地面が安定しなかった為天井付近が壊れ崩壊。

 地上へ上がってきた土が周囲に広がり景色は土色に。

 いろんな意味で地上が汚くなってしまった。

 

 これに関しては必要な犠牲だった、とでも考えておこう。

 

 見ずらい所で戦っていたのが悪いのだ。

 さっさとフィールドに上がってくればよかったんだからね。

 

「うん、結果オーライってやつかな」

「何も良くなっておらぬわ!!」

 

 まぁ何はともあれ、戦いを面白くするのなら、これくらいの小細工はあって当然だよね。

 

 ◆

 

 地面の揺れが収まった頃、運良く瓦礫が自身を守ってくれていたため無事だったヴィギーは、壊れかけの建物の中へ非難し、まず自身の怪我を『治療』のスキルで回復していた。

 回復スキルだけが自分の取り柄なヴィギーは、自身の回復を終えると、すぐに他の仲間を探して歩き始める。

 

 そうして、気づいた。気がついてしまった。

 敵──アールツトが、すぐ近くに居ることを。

 

 確かに回復スキル持ちが真っ先に狙われることをヴィギーは分かっていた。だからこそカーリャと共に行動し、敵から一番遠い位置にいたのだ。

 しかし謎の地震により現状は仲間と離れ離れになってしまっている。ヴィギーはすぐにでも仲間を見つけなければならなかった。

 

 ヴィギーは一人だけでは敵を倒すことは難しい。

 故に逃げる事こそが生き延びる為にする現状での最善なことだった。

 幸いにも、敵はヴィギーが近くにいる事に気がついていない様子。

 

 ──逃げるなら今だ。

 

 そう思ったヴィギーは、音を立てないようにそっとその場を離れようとした、その時。

 

「ふふふ。まさか一番先に仕留めておきたい者が近くにいるとは。私もなかなか運がいいものですねぇ」

 

 その声を聞いた途端、ヴィギーは額に汗をかいた。

 かなり距離があったはずなのにと、ヴィギーは心の中で訴える。

 

「あの女、とんでもないことをしてくれましたよね。地下を地上に上げるなど、そう簡単に出来る事ではないはずです。頭のネジが外れているとしか考えられませんよねぇ。貴方もそう思いません?ヒーラーさん」

 

 一歩ずつゆっくりと、ヴィギーへと近づいていく。

 焦ったヴィギーは少しでも離れた所へ移動すべく、足を左右素早く動かした。

 

「ところで」

「──っ!?」

 

 アールツトはヴィギーの耳元でそう問いかけた。

 この距離なら、逃げることはほぼ不可能に近く、何時殺されてもおかしくない。

 

 アールツトのモノクルの針金がヴィギーの肩にかかる。

 耳元から聞こえてくるアールツトの声は、ヴィギーを震えさせるには十分過ぎた。

 

「私の位置情報は、どこから得たのです?」

 

 敵は自身の拠点場所がバレた事に疑問を持っていると、ヴィギーは察する。

 嘘を吐くことは得策ではないと思い、ヴィギーは真実を伝える。


「よ、予言者の、エルバさんから……です」

「ほぅ……。私と会った事のある誰かから、という訳ではないのですね?」

 

 会った事のある、と言えばサジタリアが思い浮かんだが、彼女はそもそも会って戦った事のあるだけで、拠点までは分からなかったと口実していた。

 

「は、はい……」

「そうですか。ご協力感謝致します」

「ぁ──」

 

 その瞬間、ヴィギーの意識は途絶えた。

 即死。ヴィギーは苦しみを味わう事なく死ねた。

 それは、アールツトなりの配慮──

 

「やはり回復役は、少しでも生命力があると復活してしまう恐れがあるので即死させるに限りますね」

 

 ──否。アールツトに配慮などという言葉は存在しなかった。

 『リヴァロ』に人の心を考える者など、存在しないのである。

 アールツトもまた、その一人。

 

 ◆

 

「あっ!ディクトさーん!こっちでーす!」

「あ"?テメェ、んな大声出すんじゃねぇ、アホが」

「すすすすみません!」

 

 地下が地上に上がり、仲間と離ればなれになってしまったカーリャは、自身と同じように仲間を探してるディクトを見つけ、呼び止めた。

 こちらに気づいたディクトを連れ、カーリャは一先ず人目に付かない場所へ行く。

 

「ふぅ。ディクトさんがご無事なようで私としても安心しました」

「俺も仲間が一人見つかってひと安心だ。で、敵の現在位置は?」

「は、はい。えーっと、……実は、土地がこのように目茶苦茶になってしまっていて、上手く位置を掴めないんです……」

「……は?」

 

 カーリャのその話を聞いて、ディクトの表情は強張る。

 

「うーあー、えっとー、全然分かんない訳じゃなくてですね?ぉ、お城の位置は分かるんです!ただ、揺れて土地が目茶苦茶になってしまった場所だけは地図通りになってないので上手く場所が割り出せないというか!」

「………テメェの言い訳はわかった」

「本当に本当にすみません!」

「うるせぇ黙れ。今一番優先すべき事はヴィギーを見つけ出すことだ」

「あっ、そ、そうですね。ヴィギーさんは、攻撃手段がないですからね」

「あぁ。それに唯一の回復スキル持ちだ。“魔術と違って”性能もいいからな」

「う"……そ、そうですよねー……」

 

 カーリャの得意とする魔術とヴィギーのスキルを比べるディクトのその言葉は、カーリャにはやけに皮肉げに聞こえた。

 

「サジーとシュンさんもご無事でしょうか?」

「アイツらはどうせ生きてる。心配するだけ時間の無駄だ」

「つ、冷たいっ!ちょっとは心配してもいいじゃないですか!」

「テメェはテメェ。俺は俺だ」

「…それ、使い方間違ってません?」

「あ"?一々ケチつけんじゃねぇよ」

「す、すみません!」


 必死に頭を下げるカーリャに「大丈夫かよコイツ」と思ってしまうほど、ディクトはカーリャに呆れていた。

 

「とりあえず二人で敵に警戒しつつヴィギーを探すぞ」

「サジーとシュンさんも、ですね!」

「………さっさと行くぞ」

 

 ディクトはカーリャを心配に思いながらも歩き始めた。

 

 ◆

 

 アールツトは自身の研究所と思わしき場所に居た。

 

 そこにはアールツトの研究の賜物と言えるほどの最高傑作を置いて行ってしまった場所でもあった。

 

 アールツトはそこへ着くと、すぐに薬を保管していた場所へ向かう。

 

 幸運な事に、薬は何事もなく保管されていた。

 

 ──念のため、薬保管庫に結界を掛けておいて正解でした。流石にあの衝撃に耐えられず結界は壊れてしまったようですが、これなら十分ですね。

 

 アールツトは満足そうに薬を回収する。

 ついでに今まで作って溜めておいた薬も回収し、素早くその場を去る。

 

 移動を始めたアールツトは〈位置観測〉の効果が付いた【白色】の、第一段階の薬を飲んだ。

 

「ふむ。あそこですか」

 

 アールツトはその薬の効果で敵の場所を確認し、一番近くに居る敵を狩ろうと、〈瞬間移動〉の薬を服用した。

 

 ◆

 

 ──1時間後──

 

 ディクトとカーリャは仲間探しに難航していた。

 一時間歩き回っていても誰一人として見つからず、周囲の景色は家の瓦礫や、盛り上がって土が広がるばかり。

 

 その様子は、人が居る気配など一切感じさせない。

 

「うー……なかなか見つかりませんね……」

「まだ全体を見回った訳じゃねぇ。盛り上がった範囲は広いぞ」

「そ、そうですよね!」

 

 そんな風に軽く話をしている時──それは訪れた。

 

 ──ドサッ。

 

 突然、ディクトは後方で人の倒れる音が聞こえた。

 

 ディクトはそれを耳にして、あることを想像してしまった。

 

「──カーリャ?」

 

 返事はない。

 

 ディクトは考えたくなかった。

 そんなまさか、と。

 つい先程、ほんのさっきまで一緒に会話をしていたのだ。否定ばかりの言葉を思い浮かべてしまう。

 

 ──いや、現実は受け止めるべきだ。

 

 そう思ったディクトは、思い切って後ろを振り向く。

 

 想像通りだった、と言えるだろう。

 いや、想像を越えるモノだった、とも言える。

 

 ディクトの後方には、胸に武器風に加工された瓦礫が刺され、その胸から血を流し息絶え絶えなカーリャがうつ伏せになって倒れていた。

 

「カーリャッ!!」

 

 カーリャには、ほんの小さくだが息がまだあった。

 

「……ディ、クト……さ、ん……さっき、まで、わた、し…のこと、気…にし、て、なか、……た……のに」

「喋るな!」

 

 ディクトは早急に応急処置を始めた。

 

「も、ぅ……むり、で、す…」

「無理じゃねぇ!!」

 

 ディクトは瓦礫を取り除き、胸から流れ出る血を布で止めようとする。

 だが、カーリャの調子は一行に良くならない。

 

「クソッ!なんでッ!」

「どく……が、まわ、って、いて……も……ぅ」

「毒だと!?」

 

 カーリャの胸に刺さった瓦礫には、毒が塗られていた。

 たとえ瓦礫を抜いたとしても、すでに身体中に毒が回っているため、カーリャが助かるには全ての毒を取り除くしかない。

 

「…ぁの、…ディクト……さん、わ、たし……の分……まで、がん、ば、て……くださ………」

「死ぬんじゃねぇッ!アホがッ!!」

 

 カーリャの意識はそう言った瞬間に途切れる。

 

 ディクトはカーリャの首に手を当てる。

 脈はない。体もどんどん冷たくなっている。

 

 ──死。

 

 それは、あまりにも呆気ないものだった。

 

「ふむ。あの毒はもう少し改良の余地がありそうですね。今度、魔術馬鹿に会った時にでも伝えておきましょう」

 

 突如、前方から聞こえた男の声。

 あの地下にいた敵──アールツトの声だった。

 その声を聞き、ディクトはゆらりと立ち上がる。

 

「テメェか?カーリャを殺したのは」

「えぇ。むしろ私以外に誰かいましたか?」

 

 アールツトは堂々とそう言った。

 

「はっ。どうやら違いねぇらしいな」

「その口調、どこぞの戦闘狂と似ていて不快なので止めてもらえます?」

「戦闘狂?誰の事だか知らねぇが、俺はテメェを殺すだけだ」 

「ええ、そうですね。それくらいの意気込みは大切なことです。……さて」


 アールツトは服の内側のポケットから一枚の紙を取りだし、それをバラバラに千切る。

 一欠片だけ手に取り、『刃物』のスキルで刃物化させた。

 

「三人目、やってしまいましょうか」

 

 アールツトはその刃物をディクトに向かって投げる。

 更に千切った紙を刃物化し、作った瞬間にディクトへ投げた。

 

「三人目?オイ、どういうこと、だッ!」

 

 ディクトはアールツトの言葉が疑問だった。

 普通に考えれば、俺を含めると二人目になるはずなのに、と。

 ディクトはアールツトの攻撃を避けながらそう考える。

 

「おやおや。考えている暇はありませんよ?」

 

 アールツトの手元に紙が無くなると、近くにある瓦礫を手に取り、それを刃物化させた。

 今度は投げずにそれを武器にディクトに近づく。

 

 ディクトは腰に携えていた剣を取り、アールツトの攻撃に受け身を取る。

 

「フフ。やりますね」

「うる、せぇ、よッ!!」

 

 ディクトはアールツトを剣で押し返し、アールツトに向けて炎を放った。

 ディクトのスキル『炎上』の炎だ。

 

 『炎上』とは、激しい炎を生み出すという、単純でシンプルなスキルだが、その炎は普通の火よりも恐ろしい。

 その炎の回りは瞬く間に赤く包まれ、触れるだけで火傷をする。そんな、非常に攻撃性の高いスキルだ。

 そしてその炎は、アールツトを囲むようにして燃え盛っている。

 

 アールツトは、強引にでもその炎はから抜け出そうと、手を炎に近づける。すると、炎はアールツトの手を瞬く間に燃やそうと燃え移る。

 

「ふむ。熱いです」

 

 アールツトは青色の薬を作り、その場で飲む。

 すると、アールツトの手に燃え移った炎は消え去り、そのまま炎の中から抜け出した。

 

「チッ。そんな楽には終わらねぇか」

「フフフ。まだまだこれからですよ」

 

 ディクトはアールツトを睨み、アールツトはそんなディクトに不適に微笑んだ。

 

 ◆

 

 ディクト達の観戦をしていた私たちは、そこで一旦見るのをやめた。

 

「む。何故止めるのじゃ?良いところじゃったのに」

「ちょっとついてきて」

 

 私は白黒がミーフを抱えて肩に居ることを確認し、『転移』で死んだあの人の所へ向かう。

 

 

 

 そこへ着き、まず私は死体の確認をした。

 腐ってはいないか。そもそも死体はちゃんと残っているのか。

 そして見つけた。

 少し腐っているだけで、死体はちゃんとあった。

 

「リネアよ。其奴、確かアールツトが殺した奴ではないかの?何故そのように弄るのじゃ?」

「うん、これなら誰も近寄らないかなって」

「は?」

「さっきの場所、暗緑色が近くにいたから」

「逃げてきたという訳じゃな?」

 

 そう、本当についさっきの事だ。

 どういうわけか、暗緑色が〈隆起〉で崩した場所から抜け出し、あの灯台に向かって来ていた。

 

 流石に私も、あんな所で呑気に観戦しているのがバレたらヤバイ。

 なので誰も寄り付かなそうな、眼帯補佐の死体場所まで非難してきた。

 

「しかし臭いわ。リネア?これをどうにかしてくれないかの?」

「そいつの時間でも止めればいいんじゃないの」

「時魔術の無駄遣いじゃろそれ」

 

 まぁそれが、白黒にできる最善なことだからね。

 燃やすのが一番手っ取り早いけど。

 

「まぁ、そうじゃの。こやつの時間だけ止めればそれほど魔力は消費せぬことじゃし、そうするわい。……『時間操作』──〈時間停止〉」

 

 白黒は自身のスキルを使って眼帯補佐の時間を止める。

 

「何でスキル?」

「こっちの方が魔力をそれほど使わぬし、何より魔術よりも精度は高い。効率が良かろう?」

「へぇー」

 

 白黒が自慢気に話しているのを適当に相槌を打つ。

 そんな時だった。

 突然、私達の反対方向にある建物が壊れるような音がした。それに続いて激しい爆発音が響く。

 

 それを聞いて、私は思い出した。

 

 ──そういえばここって、眼帯宰相と片眼鏡が戦ってた場所と近いんだったっけ。


 今更すぎる。

 

「リネアァァァア!?なんじゃ今の音は!!」

 

 白黒は慌てている様子で、ミーフに抱きつきながら強くしがみついている。

 

 そう騒いでる間にも爆発音が響き、建物がどんどん崩れていく。

 

「良かったね。近くで観戦が出来るよ」

「危険すぎるぞ!?」

 

 一先ず、良く見える場所へ移動するべきかな。

 

「待て待て待てぇぇ!巻き込まれる事を考慮せぬのかお主は!!」

「何で白黒ビビってるの?ブラウ帝国の時はそんな感じじゃなかったでしょ」

「あれは、ただ魔物を狩っておるのを見ていただけであって、爆発に巻き込まれる可能性のあるこっちとは違うじゃろ!」

「同じだよ」

「何も一致しておらぬわ!」

 

 なんで白黒はこんなに騒ぐのかな。……もういいや。

 ずっと相手してたら戦い終わっちゃいそうだし。

 

「いざってときは何とかする。それじゃ」

「待てリネア!待つのじゃぁぁ!我はまだ覚悟が出来ておらんのじゃーーー!」

 

 待ってられない。

 そういうわけで、私は戦場へと向かっていく。

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