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元王女様は、世界を滅亡へと陥れたい。  作者: 九漆
第四章 西ニトロア編
15/26

14.白と黒、私はどちらかと言えば灰色だろうか。


 『千里眼』で“見て”分かったこと。

 それはこの建物に認識阻害の魔術が掛けられていたということだった。


 この建物、遠くから“見る”だけなら認識することは出来るものの、中まで覗くことができなかった。恐らくその魔術の影響だったのだろう。

 やはりこういうのは間近で“見る”に限る。

 遠くだとブレることが多いし。

 

 とにかく、敵の拠点が分かったことだしさっそく乗り込むとしよう。

 一応外から入ると敵に気づかれる仕組みになっている結界が張ってあるので、その魔術を破壊杖(カタストロフィ)で一度壊し、中に入ってその結界を張り直した。

 目的はあくまでも侵入であって、敵を殺すことじゃないからね。

 

 中には人が住んでいたようには感じられないほどボロボロで、一見敵が住んでいるとは分からないようになっていた。

 しかし、奥の床には地下へと続くハッチがある。

 敵はソコに居るのだろう。

 

 地下に入る前に一応中の構造を『千里眼』で確認しておく。

 

 敵の位置、面白そうな部屋、結界魔術の有無を確認できたらいざ地下へ。

 私はハッチを開けて梯子を使って下りていく。

 

 『千里眼』で“見た”地下の中は、それほど広くない構造だった。そのうえ、防犯のような魔術はないのでサクサクと敵の元へ向かうことができそうである。

 敵はこんな深夜なのにも関わらず活動中のようなので、さっそく会いに行ってみようと思い、私は薄暗い廊下を奥へ奥へと進んで行った。

 

 ◇

 

 敵の居る部屋は、豆粒のようなカプセルや緑色の液体が詰まった瓶などが大量に保管されていた。

 細長いモノから豆粒のようなものからあり、色は様々で本当に新鮮な光景なものだから、つい目移りしてしまう。

 

 ちなみに、敵には入ってすぐに気がつかれた。

 今は腕を捕まれて尖った紙を首筋に当てられ、警戒されている真っ最中である。

 というか、その紙を尖らせたスキルは何?『刃物』とか言うスキル“吸収”したんだけど。

 

「貴女何処から入って来たんですか。もしかして自殺志願者だったりするんですかね。早く話さないと殺しますよ?」

 

 なるほど。この男が噂の爆弾魔か。

 

 男は紺色の髪にモノクルをかけており、白衣を身に付けている。長身と張り合えるくらいの身長の高さ。見た目だけで言うなら、医者か研究者のようだ。

 

「……何ですか。人の顔をじろじろ見て」

 

 男は私のその観察する様子に苛立ったのか、手に持っていた尖った紙をさらに首に強く当て、私の息の根を止めようとしてきた。

 その瞬間、私は〈時間停止〉の魔術を発動させ、男の手を振りほどく。

 

 少し離れた所に移動したところで、〈時間停止〉を解くと、男は私がいなくなったからか少しふらついてから辺りを見回す。私を見つけたところで、少し驚いたような表情をした男は、私の事をじっと見つめた。

 

「今、何をしたのですか?」

「……魔術」

「魔術……ですか。私には貴女が瞬間移動したように見えました。どういう技術かはわかりませんが、気がつけば貴女は一瞬で私が届かない場所へと移動していました。そのような魔術はあの魔術馬鹿でも無理難題だと言っていました。して、一体どうやったのです?どのような魔術式を描けばそのような魔術を発動させられるのですか?スキルでもなければあれを魔術というには流石に無理がありすよ。それとも未知の属性である時属性系統のモノ何ですか?だとしたらいろいろと謎ですね。貴女が時魔術を使用していたとなると、時の精霊が存在することになります。ですが、現在この世界には誰も時魔術を扱うことが出来ないことから時魔術ということはまず有り得ません。そうするとどんな属性をどのような魔術式で描けばあのようなことが可能になるのか。私の個人的な推測ですと───」

 

 これ以降もまだまだ喋っていたが、長すぎてそこからはほとんど聞き流した。

 止まらず語り続けて居るので末恐ろしい。

 自分の頭まで爆発させたのかと思ってしまった。

 

 この人が我に返って質問責めしてくるのが目に見えている。

 なので、今のうちに白黒と今後の対策でも考えておこうと思い、第三回脳内緊急会議を開く。

 議題は、【この男への言い訳】である。

 

『素直に言う?』

『それは言い訳はせぬ、という訳じゃな?』

『ん。でも面倒くさそう』

『当たり前じゃろ。こやつのこの執着ぶりからして、明らかに質問の嵐になるわ』

『じゃあどうする?』

『風魔術で風のように素早く移動した、とかどうじゃ?』

『まぁ、それなら光の方が説得力あるんだけど、光が見えなかったとか言われそうだし……』

『あー』

 

 考えてみて思ったが、時魔術を他の魔術で言い訳するにはかなり難易度が高い気がする。それこそスキルとでも言わないと無理がある。

 

『魔術って、言わなきゃよかった……』

『素直なのは良いことだが、今回はそれが仇となったようじゃな』

『うるさい』

『嫌味を言ったつもりではないが?』

『うざい』

 

 本当に煽りスキルが上がってる。

 ……私を不快にさせたいの?

 

『ではどうするつもりなのじゃ!我はこれ以上思い付かぬぞ!』

 

 逆ギレされた。

 まぁ確かに、私も良い案が思い浮かばないけど。

 

『……じゃあ、黙ってる。時魔術が知られないように、黙ってる』

『うーむ……まぁ、それが無難かのぅ』

 

 結論は黙る、と。

 余計な事を喋ってしまうよりはマシな選択だと思う。

 

 男は私の判断が決まった後でもまだまだ喋り続けており、下を向いてずっと考え込むような顔をしていた。

 

 私は終わるまで待つことにしたので、暇潰しにミーフをもふる。ミーフは移動中の何時だかに起きていたのか、私が撫でると気持ち良さそうに「ミュー」と鳴いていた。

 

 

 ――数時間後。

 

 気づけば時刻は早朝五時。

 三時間経ってもあの人は未だに喋っていた。

 

「つまるところこれは───おや、まずいですね。もう朝ですか」

 

 と、あの人は朝になった事に気がつき、語ることをやめた。

 ようやくである。

 

「長すぎ」

「すみませんね。気になる事があるとつい考え込んでしまうものでして」

 

 あの人は申し訳なさそうに眉を下げ、丁寧な口調で謝ってきた。

 礼儀はあるのか。

 

「ひとまず、あのような未知の魔術を使う貴女を殺すことは難しいと私は判断しました」

 

 自己完結してる……ってことは、質問攻めはされない感じかな。

 うん、面倒な事にならなくて何より。

 

「それで?」

「私は貴女に勝てません。ですので、ここの事は内緒にしていただきたいのですが……大丈夫でしょうか?」

 

 ……ふぅん。やっぱりここって、そんなに重要な場所なんだ。

 

「気分次第」

「え」

「面白いものがあるなら黙っててもいい」

「面白いもの……ですか……。具体的にはどう言ったモノなのでしょうか」

「んー……あの薬が何なのかとか」

 

 そういうと、男はまた黙り混む。

 

「……本当に誰にも言わないのですよね?」

「あの城にいる人たちにバレたくないんでしょ。私、君たちのいざこざに興味ないから大丈夫」

「干渉はしないと誓いますか?」

「まぁ……うん」

 

 私がそういうと、決心したかのようにその人はニコリと笑顔を顔に張り付ける。

 

「分かりました。では、私のスキルについて教えして差し上げましょう。それでよろしいですか?」

「ん。いいよ」

 

 悪くないトピックである。

 “見る”だけだと文字しか分からないからね。

 実際に見て“吸収”した方がより面白い。

 

「ではまず、前提として私のスキルは『世界の目』『薬』『刃物』です」

 

 それは“見た”から知っている。

 

「『世界の目』は簡単に言えば鑑定系スキルです。使用すると対象のスキル、状態、経歴、役職など、世界が知る情報はなんでも見れます」

「……私は見れた?」

「いえ、全くと言っていいほど見れません」

 

 あ、やっぱり。『千里眼』以上のスキルは存在しないのか。

 というか見えてたらいろいろバレてたな。危ない。 

 

 鑑定系スキル所持者には、他の鑑定系スキルに見られた時、自身の鑑定系スキルの強さに比例するように鑑定妨害がおこる。

 今のところ見られた事はないし、『千里眼』が一番強力なのかな。

 

「……はぁ、貴女一体どんな鑑定系スキルを持っているのですか?今までどんな鑑定系スキルでも見破れたこの『世界の目』が使い物にならないなんて初めてですよ……」

 

 確かに『世界の目』の性能もなかなかすごい。

 それは認めよう。

 

「アールツトのスキルも凄いと思うよ」

「ハハハ。ありがとうございます……って、何故名前を!?」

 

 アールツトという名前は事前に暗緑色達から聞いていたし、『千里眼』で“見て”確認済みである。

 しかもそれが偽名ということも分かったし、本名も分かった。

 

「本名の方がいいの?」

「止めてください。……はぁ。ああ、そういう事ですか。そんなに見えるのですか。貴女のスキルは」

「ティエン・レオ・スコーピオ」

「………止めろと言いましたよね?」

 

 ついつい反応が面白くてからかいたくなってしまうのだ。

 仕方ないよね。

 まぁ、記憶から見えたこの人の名前はもうこれじゃ無さそうだけど。

 

「あぁ、本名なの」

「はい?ブラフだったんですか?ふざけないで下さい」

「前の名前なんでしょ、これ」

「どこまで見てるんですか気持ち悪い」

 

 息を吐くように悪口を言われた。

 失礼な。ただ見えたモノを教えてあげているだけのに。

 

『教えて良い物と悪い物があるじゃろうて。……はー、それは引くわ』

『なんで白黒もそういうこと言うの?』

 

 言い過ぎにも程があるだろう。

 

「貴女の事はまた後で聞くとして、次は『刃物』について軽く説明します」

 

 アールツトは手元にある紙を持ち、その紙に魔力を込める。

 『刃物』のスキルを使用したあとらしいが、紙は一見何も変わっていないように見える。アールツトは私にその紙を渡してきた。

 

「触れてみてください」

 

 言われた通り紙を受け取り、触れてみる。

 紙は完全に柔らかさを失っており、まるで鉄板のようにカチカチだった。四つ角は手に深く刺すと血が出るほど鋭い。落としてみると、バーンッ、と鉄板のような音がなった。

 へぇ、なるほど。なかなか面白い。

 

「御覧の通り、触れた物を何でも刃物に変えます。ただ、ずっと触れていないと、暫くして元に戻ってしまうので、他人に貸し出す事は難しいスキルでもあります」

「何でも?……液体とかも?」

「ええ、実験済みです。液体を刃物にしたときは個体に変化しました。ちなみに弾力性のあるものは固まります」

「じゃあ空気は?音は?光は?」

「それらは触れても刃物になりませんでした。そもそも“物”じゃありませんからね」

 

 なるほど。

 確かに空気や音、光は物とは言いにくい。どちらかと言うと気体のようなモノだし。

 

「じゃあ『薬』は?」

「……そのスキルは一番教えたくありませんが、今回は特別ですよ。単純に説明すると、『薬』は薬を造る事ができるスキルです。細かく言うなら、私がイメージした効果を持つ薬を創造します」

「……詳しく」

「実際に見る方が早いでしょう」

 

 アールツトはそういうと、手にひらの上にポンと、【白色】の小さい薬を創った。

 私はそれを“見て”みる。

 

「これは効果が一つの薬です」

「……効果:体力回復(小)。体力を回復する。へぇ。凄いね」

「貴女の鑑定スキルもなかなか凄いですが、この程度、まだまだ序の口ですよ」

 

 そう言ってアールツトは、今度は【黄色】の薬を創った。

 私は先程と同じように“見る”。

 

 効果:体力回復(小)+魔力回復(小)。体力、魔力を回復する。

 

「魔力も加えたんだ」

「その通りです。このように、一つの薬に効果を重ねて付ける事が出来ます。今回は体力回復と魔力回復ですね。それでは、次はこちらを見てください」

 

 アールツトは、次に【青色】の薬を創り、私はそれを“見る”。

 

 効果:体力回復(小)+魔力回復(小)+魔力増加(中)。体力、魔力を回復し、五分間魔力を増加する。

 

「効果が三つも……」

「はい。先程の効果に加えて魔力増加を付け加えました。最後にこれです」

 

 そう言って、今度は【赤色】の薬を創る。

 毎度のごとく私はそれを“見る”。

 

 効果:体力回復(小)+魔力回復(小)+魔力増加(中)+俊敏(小)。体力、魔力を回復し、五分間魔力を増加させ、一分間俊敏な動きになる。

 

「……これ、口に入れても大丈夫なやつ?」

「ええ。味は色によって様々ですが、口に含んで危険ではないことは既に検証済みです。安心してください。ちなみに【赤色】はリンゴのような味がします」

「いや、そういう事じゃなくて、効果がこんなに多くて副反応とか出たりしないのかなってこと」

「ああ、そう言うことですか。まぁ、【赤色】の段階ではそれほど危険じゃありませんよ。ヤバイのはここからです」

「ヤバイ?」

「はい。今から起こる事を事前に説明しますと、まず、効果を五つ加えた薬を作ります。すると、【黒色】の薬が出来上がります」

 

 アールツトはそういいながら、黒色の薬を作り、咄嗟に簡易な小さめの結界を作り、その中に【黒色】の薬を入れた。

 結界の中は透明になっており、中の様子がよく見えた。

 特に何も起こらないかと思えば、突然、結界内でボンッ、とアールツトが創った薬が爆発した。

 

「これがあの爆発の正体……」

「その通りです。貴女にも以前投げたので分かっていたと思いますが、私はこれを利用して国を一つ滅亡させました。そして今現在、この国を滅亡させている最中です」

 

 なるほど。爆弾だと思ってたあれは、アールツトが創った薬の失敗作だったってことか。

 

「……ふーん。面白いね」

「満足して頂けましたか?でしたら、私のことは内密にお願いしますね?」

「ん、いいよ。あ、暫くは君と行動するつもりだからよろしく」

「はい……?」

 

 アールツトは笑顔のままキレ気味な声でそう言った。

 怖いねぇ。

 

「何、ダメなの?」

「……干渉はしないはずでは?」

「見てるだけ。必要なら多少の手伝いくらいはするよ」

「心強くもあるが何か企んでいそうな……まぁ、いいです。一先ず今日はブラウ帝国を潰す予定ですので、付いてきたければご自由に」

 

 ブラウ帝国といえば、長身が行きたがっていた迷宮帝国だ。

 ここからだと移動時間は少なくとも三日はいる。

 

「何で?」

「見ているだけなんでしょう?必要以上に詮索をしないでください。というか、貴女は聞かなくても分かっているでしょう?」

 

 まぁ、その通りなんだけども。

 

 アールツトはブラウ帝国をも滅亡させるつもりである。

 迷宮に穴を開けて、魔物を外に追い出す。これがアールツトの考える滅亡計画だった。

 迷宮に穴を開けるのはかなり難しい事だが、アールツトの薬爆弾なら簡単そうだ。

 

 それを知って、やり方がルンと似ていると思った。

 確かに、一番自分が動かずにできる国を滅亡させるやり方だからね。楽といえば楽。

 

「移動方法は?」

(これ)ですよ」

 

 アールツトはそう言って、瞬間移動(ブラウ帝国行き)の効果が付いた、【青色】の薬を渡してきた。

 

「いい発想だね」

「そうでしょう?貴女も付いてくるとのことで、今回は特別に差し上げます」

「え、ありがと。ところで、効果が一つしかないけど、やっぱり色って危険度を表してるの?」

 

 先程見せてもらった薬は、効果を一つずつ付けていくと色が変わった。

 でも今回の薬はたった一つの効果なのに、三つ効果が入ってる薬と同じ色だった。

 

「そうですね。強力な効果になればなるほど、薬の色は黒へと近づきます。時間制限を掛ければ、ある程度強力なものは作れますが、そう言った話は後です。昼頃までには準備を済ませておきたいのでそろそろ行きますよ」

 

 アールツトはそう言って、【青色】の薬を飲んだ。

 すると、アールツトの周りに煙が上がり、アールツトは居なくなる。

 私も後を追うように薬を飲んだ。

 

 【青色】の薬は、オレンジの味がした。

 

 ◇

 

 辺りは薄暗い路地裏へと変わった。

 目の前にはアールツトが居る。私が来たことを確認するため、待っていたと考えられる。

 

「しっかり来れましたね。研究室で待っていて、何かしていたらどうしようかと思いましたよ」

「それも考えた。でも、アールツトと行く方が面白そうだし、ついてきた」

「そうですか。では、さっさと行動しますよ。冒険者共が迷宮に居る昼間の内に壊しておかないとですからね」

 

 優しそうに振る舞ってるけど、わりとこの男も性格悪そう、とつい思ってしまった。

 

「あ、そういえば【青色】の薬、オレンジの味がしたけど、どういうこと?」

「知りません」

 

 即答だった。

 製作者本人にも分からないらしい。

 

 アールツトは路地裏の奥へとどんどん進んだ。

 

 歩いている途中で『ミーフ……』と、白黒の嘆くような声が聞こえたが、あの薬の性質上仕方ないことだったのだ。気に病むことじゃない。

 

 ふと、何かを思い出したかのように、アールツトは私に声をかけた。

 

「そう言えば私、貴女の名前を聞いていないのですが。何なら自己紹介すらしてませんよね?」

「ん?あぁ、私はリネア。旅人だよ」

「知っての通り私はアールツトです。ちなみに医者でもあります」

「それって詐欺じゃないの?」

「名義上そういうことになっているんです。というか、ふむ……。リネア……ですか。何処かで聞いたような……まぁいいです。いずれ思い出すかも知れませんし。ついでに言っておきますが、私は『アルネミー』のNo.3です。ご存知ですよね」

「うん、今有名らしいね」

 

 城で全員が騒いでいたのをよく覚えている。

 

「貴女も大概ですね。『アルネミー』を知っているならその構成員が危険な人物なことくらい分かっているでしょう?死ぬかもしれないと言う危機感はないのですか?」

「ない。それに、君()は見ていて面白いし。集めた人は多分私と似てる人物だろうなって思う」

「『君()』……?まさか、他のメンバーと会った事があるのですか?」

「さぁ?どうだろうね?」

 

 私がそういうと、疑わしそうにアールツトは私を見る。

 

「私、貴女の事嫌いになりそうです」

 

 そう言って、黙って進み始めた。

 私は内心で酷いと思いながら、アールツトの後ろを付いていく。


 そこから暫く歩いていると、前方に石造りの古びた建造物が見えた。

 形からして、アレがブラウ帝国の有名なやり直しが出来ないダンジョンだろう。

 

「今から爆弾を放ちます。爆弾を放った後、私は撤退しますので、貴女は自分でどうにかしてくださいね」

「えー」

「文句はなしですよ?それだけ強い貴女なら何とか出来ますよね?」

 

 「いきますよ」と、アールツトはどんどん話を進めていき、『薬』で【黒色】の薬を作り、ボンボンと爆発させた。

 何回か『薬』で爆発させると、迷宮に穴が空いた。アールツトは魔物がそこから出てきたのを確認する。

 

「上出来ですね。ではリネアさん、生きていればまた会いましょう」

 

 そう言って、アールツトは瞬間移動の効果が付いた薬を飲んで己の拠点へと撤退していった。

 案外アールツトは逃げ上手かもしれない。

 

「アヤツ、本当に帰りおったぞ」

「……うん」

 

 残念ながら帰り用の薬を貰えなかった。

 

 でもまぁ、魔物が迷宮から出てきて人間が混乱している様を見るのも滑稽でなかなか面白い。

 私は浮遊魔術で魔物に見つからないよう移動し、その戦いを見ていた。

 

 魔物は時間が経つに連れ、迷宮から沢山沸いてくる。

 そして迷宮内にいる冒険者も、穴があるからには出入りが可能になるため冒険者達は次々と姿を現し、外へ溢れた魔物を狩っていく。

 しかし被害は時間が経つに連れ拡大する。

 

 迷宮内にいる魔物は野生の魔物と違い、少しばかり人間のように知能を持っている。

 そういった魔物は、徒党を組んで戦略的な戦い方をする。

 だから迷宮内の魔物は厄介極まりないのだ。

 

 冒険者達はめげずに魔物を狩り続ける。流石、あの迷宮に居ただけあって強い。

 

「リネアよ。あの者、なかなか面白いぞ!」

 

 白黒は、他の者と比べて桁違いに強い冒険者を指差す。

 その冒険者は、迷宮の魔物を綺麗な剣術で倒していた。それは純粋な剣術で、スキルや魔術に一切頼っていない戦い方だった。

 

「先程から見事なまでの剣術で魔物を狩っていたモノだから気になっておったのじゃ。他の奴等とあそこまで実力に差が付いておると、結構目立つものじゃのぅ」

 

 確かにその人物以外はたいして実力があるように見えない。

 白黒の言っている事も一理ある。

 

「もっと近くで見る?」

「出来るのか!?」

 

 白黒は興奮気味にそう答える。

 

「ちょっと下に降りるだけだよ」

 

 すぐこういった事に目移りしてしまうのは、私の悪い癖だと思う。

 

 

 現在の状況なら、高い所に居るにも関わらず地面に降りると言うのは、ほとんど自殺に近い行為だろう。

 普通に飛び降りるのはかなり目立ってしまうので、堂々と地面に降りることはしないけれども。

 

 そういうわけで私は、元々居た場所である屋根の上から戦いが見える位置の反対側へ音を立てないように降りる。

 建物の向こう側には早速魔物が居た。

 何時もなら魔術で一発なのだが、今回はあの強い冒険者に会う事が目的である。余計な時間を食っている間はない。

 なので透明魔術を自身に掛け、魔物の横を通り過ぎていった。

 

『白黒、どの辺?』

 

 念話魔術で白黒にそう問い掛けると、白黒は私の頭上へ飛び、キョロキョロと辺りを見回す。

 

『む。見つけたぞ。案内をするのじゃ!』

 

 私は白黒のナビを頼りに前へ進み始めた。

 

 ◇


 目的の人物は思ったよりも遠くにいたらしい。

 それなりに距離があり、進む途中で透明魔術が効かない魔物が居て少しヒヤヒヤとした。魔物は魔術で瞬殺したが。

 とまぁなんやかんやとありながらも、ようやく目的の人物の元へ辿り着いた。

 

 その冒険者の回りには魔物の死体で溢れており、見た目は返り血で少々汚い。

 私は透明魔術を掛けたまま、その人の所へ近寄り、『千里眼』で見る。

 

『何故迷宮に穴が空いたんだ?お陰で町……いや、この量なら国事態が混乱するだろうな』

 

 あ、間違えた。こっちは心の声か。

 


 名前:ジュアン

 スキル:『破壊』あらゆるモノを破壊する。

     『武器精度上昇』武器の制度を上げる。

 

 正直驚いた。

 『破壊』という、私の破滅杖(カタストロフィ)の能力と似たようなスキルを持っている事に。

 

『ジュアン、か』

『シュリアよ。何か面白いモノでも見えたか?』

『うん、……見えた。……というか、珍しく私の本名言ってたけど声に出したりした?』

『お主の名とお主が言っておった名前が似ていたのでついの。口には出しておらぬから安心するとよいのじゃ!……多分!』

『………まぁいいよ』

 

 白黒とそう念話魔術で会話をしていると、近くで女性の悲鳴が聞こえた。

 ジュアンは声のする方へと一気に駆け出す。

 

 私たちもジュアンの後を追うようにそちらへ向かった。

 

 辿り着くと、丁度ジュアンが魔物と戦っている最中だった。

 

 相手はゴースト。実体の無い魔物のため少し苦戦している様子だった。

 普通、ゴーストのような実体の無いモノに物理攻撃は効かない。故に剣で倒す事は無理に等しいので、倒したいのなら魔術を使うしか無い。

 

「……ふむ、厄介なモノだな」

 

 ジュアンは自身のスキル『破壊』を発動させた。

 すると、ゴーストの姿が段々とぼろぼろになり、数秒もたたずにゴーストの姿は無くなった。

 

『おぉ!アレが“破壊”なのか!一瞬だったのぅ!』

 

 白黒は声には出していないものの、興奮状態になっていた。

 

「大丈夫か?」

「……っあ、は、はい」

 

 悲鳴を上げた女性はジュアンの敵を倒す姿に見惚れていたのか、少し遅れて返事をする。

 

 その時、ジュアンは私たちに向かって『破壊』の効力を持った魔力弾を飛ばしてきた。

 私がそれを避けると、後方で木が崩れ落ちる音がした事に気がついた。

 

「……?気のせいか?ナニカが居る気配がしたんだが」

 

 おぉすごい。

 これはほぼ気づかれてると言っても間違い無い。

 やっぱり強いな。これ以上ここに居ると気づかれる可能性が高いな。

 

『帰るか』

安全策(プランB)じゃな。良いと思うぞ!』

 

 撤退にプランも何も無い気がするけど……まぁ、白黒が楽しそうだし何も言わないでおこう。

 

 私たちは『転移』でアールツトの研究所へ戻った。

 

 ◇

 

 『転移』で戻った先はブラウ帝国に行く前の研究所で、そこにアールツトは居なかった。

 

「む、あれは!」

 

 アールツトは居なかったが、移動前に置いてきてしまったミーフは椅子の上に居た。

 

「ここに居ったのか、我の癒しよ!」

 

 白黒は速攻でミーフに飛び付く。

 体が小さいのですっぽりと白黒の体が埋まっていてなんというか……ずるいというか……。とにかく見ていて気分が不快になったのは間違いない。

 

 ミーフは白黒に預けておくとして、一先ず私はアールツトを探すことにした。

 

 だがこの地下施設は狭いため、案外すぐに見つけることができた。

 アールツトはキッチンにおり、食事をしていた。

 

「おや、帰って来れたのですね。まぁ、無事だろうとは思っていましたけど、此処まで戻ってくるとは思いませんでした。お見事です」

 

 アールツトはパンを片手にニコニコと言う。

 

「帰り用の“薬”を渡してくれなかったのは怒ってるけど、面白いものを見せてくれたからチャラでいい」

「随分と上から目線ですね?」

 

 コイツも随分な悪魔だ。

 

「……で、次は何するの?」

「とりあえず食事を終えたら寝るつもりですが」

「いつ起きる?」

「お答えできませんね。それは私の体力次第ですから。ちなみに、目が覚めたら活動を再開する予定です」

「ふーん」

 

 となると、暫くは暇になる訳である。

 

『ねぇ白黒。どこ行きたい?』

『む?我は特に要望は無いぞ』

『それなら時間でも進める?』

『はぁ……そんなことして本当に良いのか?』

『……何か?』

 

 少しだけ、白黒の雰囲気が変わったような気がした。

 時の精霊なだけあって、悪用しないかどうか意識してるのか。

 

『いや、のぅ?時魔術は一応世界を崩しかねないものじゃし?何かあったら我の管理不足で責任求められても困るじゃろ?』

『じゃあ使う』

『まぁて、待て!待つのじゃ!確認じゃがそれはお主の『千里眼』でも見て危険なことじゃないのじゃな!?大丈夫なのか!?』

 

 白黒って、こんなに心配性だったけ。

 

『大丈夫。これくらいのことで未来は変わらない……けど、今回は使わない事にする。向こうの様子も気になるし』

 

 それを聞いて白黒がホッとした様子だった。

 

「ねぇ“詐欺師”」

「はい?ちょっと待ってください。それ私のことですか?」

「そう、君のこと。今決めたの」

「そのあだ名はもっとピッタリな方が居るので変更を要請します」

『そう言うことじゃ無いじゃろ!!!』

 

 念話魔術で白黒もアールツトの反応にツッコんでいた。

 白黒が念話魔術まで使って突っ込むのは、もしかして私に対する訴えなの?

 というか、この渾名にもっとピッタリな奴が居るんだ。それはそれでヤバそうな人だな。

  

「そうなの?」

「ええ。こちらの都合上、名前は言えませんが私よりもその方がピッタリですよ。ですので、私に“詐欺師”は似合いません」

「んー……じゃあ、“片眼鏡”」

 

 片方だけ眼鏡を付けているから“片眼鏡”だ。

 

「ふむ。それは単純に私の身につけている物の名前ですよね?もう少し名前、せめて私と関係性のあるあだ名を──」

「じゃあ“詐欺医者”?それとも“闇医者”とか?」

 

 でもこれだと私がしっくりこないので殆ど却下予定だけど。

 

「……もういいです。“片眼鏡”でいいですよ」

 

 アールツト改め片眼鏡は、何かを諦めたかのように手を顔にあててそう言った。

 

『そもそも渾名を付ける事に抵抗がないこやつもおかしいわ!』

 

 などと白黒が言ってたが、片眼鏡も大概ヤバイ奴であることはもう周知の事実だし。今更そんなこと言われてもというか。

 とにかく、私のあだ名付に異論は認めない。

 

「じゃあ片眼鏡。私ちょっと城の方見てくる」

「……くれぐれも私の情報は流さないようにしてくださいね?」

「ん。また戻ってくる。あ、そうだ。とりあえずコレ、アドバイス」

「はい?」

「じゃ」

 

 私は、アールツトに即席でメモしておいた紙を渡し、城での私の部屋へ『転移』を発動させた。

  

 ◇

 

 『転移』して着いた部屋は、出ていく前と何も変わっておらず、誰かが入ってきて荒らされたという形跡は見当たらなかった。

 おかしい。おかしいのだ。

 昨晩あれほど私が脱走しないかと気を張っていた長身が、朝起きて私の部屋を確認しないはずがない。故にこの部屋は本来荒らされるべきだった。なのに綺麗すぎる。出て行った時と全く変わってないのだ。

 そうなると、私のことなんかよりも最優先となる出来事が起こったと考えられる。


 ……うん、うだうだ考えるのも馬鹿らしいね。知りたいことは『千里眼』で見れば良い。

 

 そう思って私は『千里眼』で少し前に起きた出来事を除き見る。

 

 ──ふーん。なるほどね。

 

 まぁ、誰にでも分かるようにこの状況を簡潔に言うならば───一名死亡。

 そんな感じだろうか。

 

 ◇

 

 私は今この城で最も人が集まる場所へと向かった。

 

 『千里眼』で見た通りにその人───エル婆は弱々しくベットに横たわっており、その回りを全員で囲んでいた。

 

 後から来た私に一番最初に気づいたのは、長身だった。

 

「り、リネア!?お前、来るのが遅すぎや!朝の騒ぎはしっとったんやろ!?」


 この反応は脱走したのがバレてなさそうな雰囲気。


「うるさい。……で、何?エル婆さん死んだの?」

「おまっ!!」

 

 私がそう言うと、長身が焦ったように私の口を塞いだ。

 どうしてそんな焦ってるの長身は。

 そう、疑問に思っていると、国王が口を開いた。

 

「……ええ。そうですよ。エルバさんは亡くなりました」

「わ、私の回復魔術が効かなかったので、恐らく寿命だったんです……」

 

 確かに、この婆さんの寿命は今日っていうのは知ってた。

 見た目からして息絶えるのも時間の問題だったし。

 どうやら城の皆にとって、エル婆の喪失はショックが大きい様子。

 

「と、突然のことで、私、何が何だか、分からなくて……!」

 

 三角帽子はエル婆が亡くなったのが相当ショックだったらしく、目を潤ませて泣いていた。

 他の人も同様で、未だ呆然としている。

 

「……お前さんら、聞いてほしいことがあるのさ。あの婆さん、死ぬ前にアタシに言ったんだよ」

 

『敵の場所は見つけたわ。でも、わしはもうここまでのようなの。だから、この場所に行って敵を倒して来て。それと──』

 

「『──傍観者には気をつけて』だそうさ。あの婆さん、アタシらに隠れて探索魔術をこの国中で張り巡らせていたようなのさ。おかげで敵の居場所は掴めたが、……代償が大きすぎるのさね、あの婆さん……」

 

 それを聞いて私は関心した。

 端くれなスキルを持っていても、魔術で片眼鏡を見つけられたのはすごいな、と。


 それと、十中八九【傍観者】は私のことだろう。

 今この国にいる中で、この戦いを見に来ているのは私くらいだし。


 まぁ、片眼鏡の仲間が見に来て、ソイツが【傍観者】なのかも知れないが。

 どちらにせよ、悪い予言ではなさそうだ。

 

「……それで、国王はどういう指示を出すの?」

「………しばらくは動けそうにありません」

「敵の場所が分かったのに?」

「……エルバさんが亡くなって、皆さんがすぐに動けるはずがありません!」

「その時間のせいで敵が逃げたら?エル婆の努力が水の泡だよ」

「……ですが」

「敵は待ってくれない。チャンスは逃しちゃダメだよ」

 

 ――早く始めないと、私が片眼鏡に教えちゃうから。

 そう心の中で呟く。

 

「……」

 

 国王は俯き、何か考えている様子だった。

 この様子じゃあ、五日もたたずに始まるな。

 

 そう確信した私は薄く笑い、その部屋を出ていく。

 ある程度その部屋から離れた所で、私は白黒に問いかけた。

 

「観戦場所の確認、しておこうか」

 

 白黒は「こやつ……」と呟き眉を歪ませ、溜め息をつく。

 

「我の身の安全は保証するのじゃぞ?」

 

 ジトリと私を見てそう言った。

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