12.現在、滅亡寸前なパラン王国にて。
自己紹介を始めにやるといったのは、長身だった。
「自己紹介をするなら、まずは俺からするで。俺は富田瞬……こっち風に言うならシュン・トミダや。異世界から来たモンで、こっちのちびっこ、リネアと旅しとる。よろしゅうな」
「ちびっこ違うから。……リネア。よろしく」
私も長身の挨拶に乗っかって自己紹介をする。
ちびっこと言われたのが気にくわなかったので、軽く長身の足を蹴る。長身は、一応お偉いさんの前なのでバランスを崩すのを耐えていた。
倒れてもよかったのに。こういう妙にしぶといのは私の長身の嫌いな部分。
ちなみにだが敬語とか付けない。
初対面でも友好的に、というのが私の心得だから。
『リネアは言い訳ばっかじゃのぉ。本当は面倒なだけじゃろう?』
『勝手に思考覗いた上に否定してきたし、今度は本気で羽取ろうかな』
『冗談じゃ』
ポーカーフェイスで余裕そうに言った白黒が、少しウザかった。
「シュンさんとリネアさんですね。僕はヴィギー・ランドローバーです。陛下や兄上の補佐をしてます~。回復魔術が得意なので、怪我をしたときはいつでも僕を頼って下さいね。よろしくお願いします~」
私たちの次に自己紹介をしたのは、黄土色の髪色で、右目に眼帯を付けている人だった。
ヴィギー・ランドローバー、という名らしい。かなり穏やかそうな人に見える。
「俺はディクト・ランドローバー。ヴィギーの兄で、パラン王国の宰相です」
赤髪で左目に眼帯をしていて、荒っぽい言動が多い人がそう言った。
先程暗緑色と会話をしていた時のような荒っぽさは控えている様子。宰相モードと言ったところか。
「私はカーリャ・ナイアロン、魔術師です。こう見えて私、かなり優秀なんですよ。陛下やランドローバー兄弟、占い師様やナーレッジ殿が生き残っているのは、私のおかげなんですからね!」
三角帽子、いわゆる魔女帽を被っている茶髪青目をした女性が、そう名のった。
この人の“おかげ”に暗緑色が入っていないのは、やっぱりあのスキルを持っているからかな。
──『緩和』
暗緑色を『千里眼』で見たときに“見えた”スキルの一つ。特定のものを和らげることができるスキルである。
恐らくこのスキルを使って、暗緑色はあの爆弾の威力を和らげたんだと思う。
何なら移動中も、私たちの回りに爆弾が来ても威力が高くならないよう、『緩和』を使っていた。
正直言って暗緑色は、この中じゃ一番強いかもしれない。
まぁ、この初対面の人のなかじゃ、ってことだけど。
ちなみに暗緑色のもう一つのスキルは、なかなか攻撃的なスキルで、『南斗六星』と言う。
使用すると六つの星が現れ、一定時間対象を狙って使用者と同じ攻撃をする。また、使用した日が夜の間や夏の時期だと効力が増す。と言う風に『南斗六星』は『千里眼』ではそう“見えた”。
要するに、暗緑色の攻撃を六つの星が真似すると言うことだと思う。『南斗六星』は、ただ単にウザそうなスキルに思える。その六つの星を攻撃しても消えないモノならなおウザそう。だから嫌がらせとして『吸収』で得ておくに丁度良いスキルだ。なので暗緑色には、『南斗六星』を使用してくれる事を私は期待している。
まぁ多分、今度ある戦いを見てれば自動的に手に入りそう。
「私はクロム・ナーレッジと申します。陛下専用護衛騎士ですので、以後お見知りおきを」
キリッとした口調で話したのは、金髪金目で剣を腰に携えている青年だった。
クロムさんは見た目通りの騎士だった。
まぁ、やっぱりって感じ。
王様らしき人の隣でずっと途中参戦した私たちを警戒しているので、護衛騎士らしい仕事してて偉いなぁと思う。
この人王様が一番なんだろうなと直ぐに思った。万が一、王様が私たちに攻撃をしても大丈夫なように、自分が壁になっている。そういう騎士道精神は清らか過ぎて逆に好きではない。
私だったら、自分の身は自分で守れ主義だから、そもそも誰かの護衛とかやりたくないかな。
「わしはしがない占い師のエルバよ。ほんのちょっと未来が見えるだけの婆さんよ。エル婆さんと呼ばれることが多いわね。まぁ、好きなように呼んでね」
占い師……ということは、暗緑色に変な例え方をされてた人かな。自称婆さんで、見た目も婆さんだった。
暗緑色と違って、エル婆さんの方がなんか馴染む。
口調が何だか若っぽいが。
「最後は私ですね。知っていたかもしれませんが、私はパラン王国現国王の、ロット・パランディルです。よろしくお願いしますね、リネアさん、シュンさん」
まぁ、やっぱり、真ん中でいかにも王様って格好してる金髪碧眼が国王か。あの王族擬きに似ててムカつく。
「とまぁ、全員自己紹介を終えたところで、会議を再開いたしましょう。ディクト」
国王は話をテキパキと進め、赤髪の宰相に会議を再開するよう促した。
国王がそう言うと、赤髪宰相は怠慢そうに口を開ける。
「アレの対策会議ですか?」
「そうですよ」
言い方は雑だが、口調だけは丁寧だ。
「では、先程敵について話しましたが、途中参加の方が居るため簡単に話させて頂きます」
敵は一人。
爆弾を周囲にちりばめ、人間を殺す事を目的としている。
赤髪宰相は簡単に敵の情報をそう纏めた。
「サジーが遭遇した際、敵が名乗り出たそうで、敵は“アールツト”と言うそうです。恐らく偽名と思われますが。間違いありませんね?サジー」
「そうだね。あぁ、でも付け加えるなら、敵は『リヴァロ』と言う組織のNo.3と言っていたね」
「え、『リヴァロ』……ですか!?」
『リヴァロ』と言う単語に、ほぼ全員が激しく反応する。
『リヴァロ』……ルンが言ってたやつかな。
最近よく聞くようになった、ある組織の名前。まさかここでも聞くことになるとは思わなかった。
ルンは……No.6だっけ。
すると、『リヴァロ』という言葉を分かっていない暗緑色が手をあげた。
「あの、『リヴァロ』って、なんのことなんだい?アタシ意味が分からなくてね……」
「俺もや」
「あーまぁ、一般には出回っていない情報ですもんね~。知らなくて当然ですよ~」
眼帯補佐が気軽そうにそう言った。
そこに、赤髪宰相が説明をする。
「『リヴァロ』はここ最近世界各地で暴れまわってる組織の事だ」
「今現在で確認されているメンバーは、全部で四人です~」
赤髪宰相は一人一人、メンバーを述べていく。
ミューナンセ大陸のヴォルメ王国を滅ぼした、No.6のティミッド。
今現在襲われ、滅亡の危機に瀕しているワールヲ大陸のツィル帝国に現れた、No.4のヴォラール。
東ニトロアに現れ、タンチェ王国を滅ぼした、No.2のリール。
そして、ラン王国を滅ぼし、パラン王国までも滅ぼそうとする、No.3のアールツト。
「以上の四名が、『リヴァロ』を名乗っている」
「中でもNo.2のリールは、『笑う虐殺魔』等と呼ばれるほど危険な人物なんですよ~。何でも笑いながら人を殺すとか」
「そりゃえらい怖い奴やな」
国を滅ぼす組織……か。
私も似たようなことしたし、その人たちについては何も言えない。
「兎に角、この国に『リヴァロ』のアールツトが来ているという事実が分かった以上、より警戒を強めないといけませんね。アールツトについて、誰が情報を持っていませんか?」
国王が全員が言いたいであろう事を言う。
アールツトの情報ね……。
「爆弾魔」
「わずか四日間でラン王国を滅ぼしたヤバイ奴!」
騎士と魔術師がそう言った。
「あ、そういや俺らの乗ってた船の乗客を爆弾雨で沈めとったぞ」
「ラン王国は人が居なくなってた」
私と長身で足りない情報を補う。それほど情報はないけど。
「見た目は紺色の髪に金色の目で、モノクル付けてて白衣着てる医者っぽい人間さ。背丈はクロム殿より少し低いくらいかね」
暗緑色が敵の姿を言った。
かなり詳しいところまで見ているように思う。まるで直接じっくり見てきたと言うほどの詳細な容姿の情報だった。
というか、医者っぽいのに戦うってどういうことなの。
「ふむ。情報が少ねぇ……ないですね」
赤髪宰相が、かなりイライラしていそうな声色でそう言った。
「まぁ、見つかったら死んでしまう人が殆どですし~、仕方ないですよ~」
「対策のしようがないですね」
「じゃあ、ここはエル婆さんの出番じゃないですか?」
エル婆は未来が見える占い師、だっけ。
どれくらい見えるのかな。まぁ何にせよ私の『千里眼』には劣るだろうけど。
というか、いくら未来を見て作戦を練ろうがこの先の未来はもう決まったようなものなんだし、多分意味ない。
「あぁ……そうねぇ……。一応、旅人の二人に説明しておくと、わしの『未来視・弱』は三日後までの未来を知ることができるスキルなのよ。それで、未来のこと何だけどね、まだ、攻めては来ていないようよ」
その言葉に一同はほっと一息つく。少しだけ安堵していたようだが、王様や赤髪宰相は冷静を欠かず、より詳しい未来についてエル婆に問う。
エル婆は、今から三日間の間、私たちが今まで通りアールツトの攻撃に備えており、その時のアールツトについて話した。
まぁ、やっぱり、って感じの精度。弱ってことは、私の『千里眼』はそのスキルのかなり上位のモノってとこかな。全部を見れないなら、余計に未来が変わるなんてことは無さそうだ。
この戦いの結果が分かってるなら、ここに居る意味なんて無いよね。
そう思い私は、皆に気づかれないように気配を消して、音もたてずにその会議室から出る。
◇
『うむ、やはりな。やると思っておったぞ、リネア』
会議室から出て早々に、ずっと様子を見ていて黙っていた白黒がニヤリと口を上げてそう言った。
気配は消していても、契約してる白黒には気づかれてしまうのは分かっていた。まぁ、白黒は長身とディーネ以外に見えはしないので気にしない。長身にさえバレていなければ大丈夫なのだ。あそこに居る人達は大した事無いし。
白黒の「我、知ってた」みたいな自慢気な言い方は気に入らないが。
『別に良いでしょ。居ても意味ない』
『まぁ、それについては我も同意じゃが、好き勝手に出て行って良いモノではないじゃろ、あの空気は』
『皆真面目そうにしてるからつまんない』
『ブレないのぅ。……して、何処に向かっておるのじゃ?先程からこの長い廊下をただ歩いておるだけじゃが』
会議室から出るとそこは長い廊下で、端々に扉が見える。
ざっとこの城の中を見たけど、半分壊れ掛けていた。アールツトとか言う爆弾魔に破壊されたんだと思う。
残っている城の中で面白そうな場所は、そう残っていない。
『探検』
『またか。あの船の時もやっておったな』
『面白いもの、見つけたから』
『しかも下調べ済みじゃったのか』
そう言うわけで、私はとある場所へと向かう。まだまだ目的地は遠い。
ちなみに反対側はほぼ破壊されている。行っても何もないだろう。
『あ、そうじゃ!この城の構造が分かっておるなら、ミーフが居たりするのも分かるのじゃろ?案内するのじゃ!』
『気が向いたら』
ミーフは確かにこの城の中に数匹生存している。場所もしっかり把握済みだが、私の行きたい場所から遠いので行く気はない。
私が行きたい場所。それは図書室だ。
ネーフェス王国で見られないような資料や書物が眠っているかも知れない。それ故に私は図書室へ向かった。“見た”感じ結構広そうだったし、量的には飽きることは無さそうである。
◇
着いた時、一瞬ただの古い倉庫かと思った。
入り口の扉はかなり古びているのか赤茶色に錆びていて、開ける時に蝶番がキィキィ鳴っていていつ壊れても可笑しくないような状態だった。加えて大きい上に重いので、扉を開ける為だけに、腕力を増大させる魔術を使うはめになった。邪魔だったから壊した方が効率が良かったのかもしれない。今更だけど。
中は私の想像以上に本が詰まっていた。ざっと見回ってみた所、見たことのある本が多かったが、なかなか面白い本もあった。見たことのないモノもあったので思ったよりも豊作だったかもしれない。
そう思い私は、本を読むために寛げそうな、寝ながら読めるような場所を作る。柔らかいクッションを『創造』で作成し、机や椅子を幾つか並べてそこにクッションを並べる。体が痛くならない程度に、そこにクッションを敷き詰めたら、簡易ソファーの出来上がりである。
出来上がったソファーの上に飛び込んで、私はひたすらこの図書室の本の読破を目指してページをめくる。
うん、かなり良い。快適だしクッションも柔らかくてなお最高。ここで本読んでると眠くなるやつだよ、これ。
快適なソファーに寝ながら暫く読んでいると、足元が不自然に床に落ちている毛布が動いている事に気がついた。
初めは白黒かと思っていたが、白黒は図書館内で、「隠し扉とやらがあるか見てくるのじゃー!」と、何に影響されたのか、そう言って興奮気味に図書室内を飛び回っていたと記憶している。この図書室にそういった隠し扉的なモノは無さそうだったが、白黒が楽しそうだったので何も言わなかった。
まぁつまり、状況的に白黒が居ることは考えにくい。そうなると、白黒以外の第三者、となる。
私はその動いているモノが鬱陶しくて、ソレを毛布ごと手で掴む。
まず感触は柔らかく、獣のような感覚に近い。形は球体で、生き物だと思われる。
そこまで分かったところで、私はその毛布を勢いよくはがす。
「……え」
その正体は、真っ白な毛並みのミーフだった。
どうしてこんな古そうな図書室に?いつから居た?なんで私の足元に?
疑問は尽きないがそんなことよりも、私にはそのミーフがただただ可愛く思えた。
全体の毛がふわふわな触りごごちで、目は真ん丸な黄色。ミーフの特徴である耳を撫でれば、気持ち良さそうに「ミュ、ミュイ」と鳴いた。
いや、ほんと、かわいい。無性に触っていたくなる。
「ミュー!ミュイミュ!」
ミーフはそう鳴いて、もっと撫でろと頭を私の手に自分の頭を押し付ける。このミーフはとても機嫌が良さそうだ。
ミーフを撫でたのはかなり久しぶりだった。だからなのか、私は暫くずっと、ミーフを撫で続けていた。
ふわふわで、あったかい。これだからミーフは好かれる。
私がずっと撫でていると、このミーフは相当私になついていた。撫でるのをやめると、ミーフはすぐに私の手にすり寄ってくる。それが可愛いので、ついまた撫でてしまう。こうやって触れ合っていく内に、時間と言うのはあっという間に過ぎてしまうのだ。
「……あ」
暫くして、動かなくなったなと思っていると、ミーフは私の膝の上ですやすやと眠っていた。
撫ですぎたかもしれない。でもまぁ、このミーフの寝顔も可愛い。
良い感じに癒されたとこだし、読書も再開しようと思い、私は、本に挟んでいた栞を外す。
◆
パラン王国の会議室。
リネアと精霊達と共にここへ来てはや四時間。
作戦を練るのにかなりの時間をかけ、ようやく方針を纏めることができた。
その方針には、俺の協力も含まれている。
「一応確認しておきますが、シュンさんが我々に協力してくださるということに、嘘偽りはありませんね?」
今、この国が絶体絶命の危機に瀕してると知った俺は、心から助けたいと思った。勝てる保障が無かったとしても、俺は見捨てる事はしたくないのだ。
「勿論や。あんまし強ないかもせぇへんが、役に立つことが出来るよう、全力でやらせてもらおうと思うねん」
俺がそう言うと、此所に居る人達は嬉しそうな表情をした。
「リネアさんも協力を……おや?」
国王はリネアにも協力を要請しようとするが、肝心の本人が見当たらず。俺の隣に座っていたはずのリネアは、何時の間にか、居なくなっていた。
その事に、全員があわてふためく。
「連れ去られた……ッ!?」
「ま、まさかっ、敵の仕業ですか!?」
「婆さん!さっき聞いた未来と違うじゃないかい!!」
「サジーは相変わらずうるさいわねぇ。わしは三日後の未来までなら確かに見えるわ。でもねぇ、個人の未来なんて細かく見えないのよ」
「このつっかえねーババアがッ!」
「兄上ー?気持ちは分かりますけど、口が悪いですよー?」
混乱。全員が全員、冷静を失ってひたすらに焦っていた。
確かに、今のような状況で人が居なくなって混乱する気持ちは分からなくもない。
敵が侵入してきているという可能性があるから、周りを警戒して困惑する。
「落ち着いて下さい」
そんな中でも、国王は冷静を保っており、その一言でその場の騒ぎを沈める。
「一先ず、リネアさんが会議室を抜け出したという可能性もあるので城の中の捜索を行ってください。ディクトとサジーは外へ行って様子を見てきてください。何も無いようでしたら速やかに撤退を。敵に遭遇しても命を優先して即座に撤退をして下さいね」
「「了解」」
二人は国王が指示を出した途端にサッと居なくなった。
なかなか優秀やな。
「お二人以外の方は城の中を探してください。恐らく、エルバさんの未来でこの事がそれほど大事になっていないようなので、大丈夫だとは思いますが……」
「では僕は、一階を見てきます~」
「じゃあ私は二階へ行ってきます!」
「クロムとシュンさんは私と三階の方を見てきましょうか」
ヴィギーさんは一階、カーリャさんは二階、俺、クロムさん、国王は三階と、それぞれがリネアを探しに会議室を出た。
◇
三階は他の階と比べて部屋は少ないらしく、捜索は割りと早めに終りそうと国王は言う。しかし階段が長いうえに会議室は一階なため、移動に少し時間がかかる。
捜索途中、雑談がてらに国王が俺に話しかけてきた。
「……リネアさんは、どんな方ですか?」
「え?」
「初対面とはいえ、共に戦う事になる方かもしれませんし、よく知っておいた方が損はないかと思いまして…」
国王は、苦笑いをしてそう言う。
「リネアなぁ……。正直、俺も出会ったのが三週間くらい前やし、知らへん事のが多いんよ」
「そうなのか」
俺の言葉に、クロムさんがそう反応する。
「せやねん。船でたまたまガキ共に絡まれとったリネアを助けたら逆ギレされてなぁ。そこからまぁ、いろいろあって一緒に旅する事になってん」
「そうだったんですね。……では、シュンさんから見てリネアさんは、強いですか?」
「んー、俺はリネアが戦っとる所を見たことないからあんま言えへんが、強いらしいで」
「らしい……ですか」
我ながら物凄く曖昧な答え方やったなと思ったが、これ以外に思い付かへんかった。
「魔術が得意やらなんやら言うてたような気ィすんのやわ。弱くはないと思うから安心せぇや」
パラン王国までの旅の時、案の定魔物に襲われはせんかったけど、よくよく考えたらリネアが俺の知らないところで倒してたのかもしれへん。しかも、船で俺達を助けてくれたし、毒も効かへんようにしとったから、弱いハズはないんよな。
「なるほど。ありがとうございます」
「おん。まぁただ、アイツ結構自由人なところあるから、ちゃんと見張っておかへんとどっか行ってまうで。今回みたいにな」
旅の時も急に居なくなったと思ったら何時の間にか隣に居るし、それが何回もあってヒヤヒヤしたわ。
その後、三人で捜索を進め、最後の部屋を探す。
「おや。ここに居ないとなると、三階には居なさそうですね」
「では、一旦会議室に戻りますか」
そう言って俺達は、来た道を戻っていく。
◆
一方一階付近を捜索していたヴィギーは、端から順に部屋を見回ってリネアを探していた。
なかなか見つけることができず、ヴィギーは辟易としていた。どうかここに居てくれと思いながら、そこそこに広い図書室の扉を開ける。
図書室の扉は重い。
何か魔術がかけられている訳ではなく、ただ単純に重い扉なのだ。成人男性のヴィギーでも筋力を上げる魔術をかけなければ開かないほどに。
そのため、ヴィギーにはあんな少女のような人がここを開けることは出来ないだろうと思っていた。
念の為と思い、ヴィギーは図書室の奥へと入る。
図書室は静かで、誰かが居るような気配は無い。ヴィギーは一応図書室全体を歩き回る事にした。
(そう言えば、図書室は久しぶりだなー。最近は忙しくて行けてなかったからね)
ヴィギーは読書好きだ。
暇さえあれば本を読み始めるくらいである。恐らくこの図書室の本はあらかた読み尽くしたと言っても過言ではない。
(息抜き程度に一冊読もうかな)
そう思いヴィギーは、目の前の本棚から本を一冊取り、立ち読みする。
ふと、ページを捲っていると、ヴィギーはこの本を始めて見た事に気が付いた。
(『無題』……?見たことの無い内容だな)
表紙には題名のみが書かれており、本の状態は良くない。中身は絵本だった。厚みはなく、かなり薄い。一、二分で読めてしまいそうな量だ。
ヴィギーは思わず、本の内容を口にする。
「───は逃げ出しました。……現実という辛さに目を向けたくなかったのです。何処に逃げたのでしょうか。それは──」
「ダメ」
ヴィギーがその続きを読もうと次のページを捲ろうとしたその時、背後から声が聞こえた。
ヴィギーは声が聞こえた方向を振り向く。
そこに居たのは、黒髪のショートカットで、赤い目を持ちマフラーを首に巻いている少女だった。




