11.まだこれは、きっと始まりにすぎない。
11.まだこれは、きっと始まりにすぎない。
私たちは外へ出て、辺りを探索することにした。
ラン王国は酷いものであった。
辺り一面灰色ばっかり。建物はほとんどがボロボロになって崩れかけており、廃墟らしきものが多かった。一言で言えば、今のラン王国は滅亡したての国だ。
「こりゃ酷いな……」
「うっ、見てるだけで吐き気がするわ……一体誰がやったのよ?」
「多分、さっき毒と爆弾を撒いてた奴」
「悪質じゃのう。となると船を落とした奴も同じ者か?」
「必然的にそうなる」
そう曖昧にしなくても、“見れ”ば分かる事だろうけど、今回はあの水色髪の少年から手に入れた『空間』を使って調べる。
──『空間』
『空間』は、一定の範囲内の空間に居るモノを支配、操作、精神干渉、思考共有、思考閲覧、などが出来るスキルである。簡単に言えば、一定の空間内では使用者がめちゃめちゃ強い、という感じである。
今回は現状の最大値である半径10kmを範囲として使用した。
使って今更だけど、そんなに範囲は広くないので分かることはかなり少ないから、『千里眼』を使った方が早かったかもしれない。だけど使わないと伸びないスキルだし、やっぱり仕方ないか。
とりあえず、『空間』でも分かる事を纏めるとするならば、犯人はたった一人で、ここを去ったのがついさっきだということ。
その事を三人にも一応伝えておいた。
「マジかよ。やっとの思いで着いた先が丁度滅亡に瀕してたなんて普通あり得ないやろぉ!しかもたった一人でか?ふざけんのも大概にせぇて」
「まぁ、そう思うのも分かるわ。でも現状ここに長居は難しそうよね。早く移動した方が身の為だと思うわ!」
「ディーネがしっかりしておると、違和感しかないのぅ……」
「何ですってぇ!?」
白黒がぼそぼそと言うと、ディーネがその言葉を拾って喧嘩になる。子供か。なんて思いながら私は見ていたが、優しい優しい長身は二人の喧嘩を止める事に必死になっていた。
だけど、確かにディーネの言うことは納得である。ここに居たって何も得られはしない上、当初の目的だったラン王国は既に誰も居らず滅亡状態。スノの魔力だって感じないし、居る意味が無いのは確かである。
二人の喧嘩が長身の仲裁によって終わったところで、私は三人に声をかけた。
「パラン、エルレ、ブラウ。どれがいい?」
「パラン王国じゃ!」
「エルレウム教国よ!」
「ブラウ帝国や!」
「「「は???」」」
全員食い違ってしまった。三人は、互いが互いを睨み合い、今にも噛み付きそうな目付きをしている。
こうして、始まってしまった。
『第一回 この国すごい!!!選手権』が。
先手を打ったのは、エルレウム教国を選んだディーネだった。
「いい?現状一番大事なのは身の安全よ。となると、世界一の防御壁を国境に張る、エルレウム教国は安心しちゃうくらい安全過ぎるのよ!国一つを一人で滅ぼしたような人が、この辺りをうろついていて、どこにいても心も体も休めないようなら、いっそ、安心安全なエルレウム教国に逃げる方がよっぽどいいわよ!気持ち的にも楽になれると思うわ!」
確かに。
身の安全は大事な事だと思う。そういう点を考えるとすると、エルレウム教国に行くのは最適だ。でもーー
「何を言っておるのじゃお主は。エルレウム教国など論外じゃ論外!あの国は宗教国家じゃ。入国すればすぐに勧誘される恐ろしい場所じゃぞ。少なくとも我は、自ら進んで行こうとは思わぬ」
そう、エルレウム教国は創造神イルエルを信仰する、熱狂的な宗教国家なのである。ちなみにあそこが安全なのは、創造神の加護を受けている為でもあるのだ。
「確かにスジアンの言う通りよ。でもね、他の国にその危険人物が何処かでうろついているのよ!?安心して睡眠すら出来ないわよ」
「はぁー、お主はリネアの恐ろしさを知らぬからそう言う事が言えるのじゃ。そんな犯人は、リネアの魔術やスキルでボコボコじゃわい。身を守ってくれる安全な場所など要らぬのじゃよ」
白黒にしては珍しく良いこと言う。
そんなに私の事を信用してくれてるのかと思うと、ちょっと嬉しい。
「せやな。確かに犯人も、リネアには勝てんやろな。ちゅーわけでダンジョンの魔都で有名なブラウ帝国にしよか!」
「「ないないない!!」」
ブラウ帝国はいくつものダンジョンが存在する国である。
初心者から上級者まで、それぞれにあったダンジョンがあるので、経験を積むには最適な国だ。平たく言えば、強くなりたい人向けの国なのだが……。
「何を考えておるのじゃシュンよ!お主は死にたがりか!!」
「ええ、そうよ。犯人が来て襲われる以前の問題よ!あんなところは行くものじゃないわ!」
「なんでや!強くなれるやろ!」
「お主見かけによらず、なかなか勇敢じゃな?その心意気は評価するが、流石に知っておるじゃろう?あそこのダンジョンは、一度入ると戻れない事は!」
そう、ブラウ帝国はダンジョンが豊富だが、その多さ故か全てのダンジョンが一度入ると戻れないという、制限のかかったダンジョンなのである。
初級のダンジョンならともかく、面白半分で中級や上級のダンジョンに入ると帰ってこれなかった、などといったことはよくある話。超級のダンジョンなど、しっかり準備をするにしても一ヶ月は戻ってこれないと言われるほど深い上に魔物が強いダンジョンなのだ。
どのダンジョンに行くにしても、装備や回復アイテムは大量に持って挑む必要がある。
とまぁこの様に、ブラウ帝国のダンジョンに入るには、危険が常に伴う。いつ死んでも可笑しくない所なので、ブラウ帝国のダンジョンに行くと言うのは、はっきり言って自殺行為だ。
「知っとるわ。むしろそこがええんやって!死と隣り合わせで最下層に行くまで戻って来れへんなんて、めっちゃわくわくするやん!人生は冒険やねん!そんなにびくびくしよって、何も行動せーへんかったら、おもんないやろ?」
終始長身の、のほほんとした口調には不安を感じた。
「よくないわよ!命は大事にしなさい!!」
「うむうむ。その通りじゃ。命は大事にせんとのぅ。そうなると、やっぱり癒しが足らんのじゃよな。パラン王国なんてどうじゃ?」
「「……っ! いや、でも、エルレウム教国/ブラウ帝国の方が……っ!」」
一瞬、二人とも言葉が怯んだ。
パラン王国は、究極の癒し生物と言われている、ミーフが生息する場所である。
ミーフとは、全身がモコモコでふわふわなくらい柔らかく、見た目は毛玉のように丸い。野生のスライムと同じくらいの大きさであり、イメージは羊のモコモコの部分だけを丸くして、目がついているような生物。
その見た目の愛らしさから、誰もがミーフの虜になった。
ミーフは基本的に、探そうと思えば何処でも見つけられるが、人が多い場所には近づかない為、見つけられたらなかなかの幸運の持ち主だ。しかし、パラン王国ならばミーフが好む物、パルニィ草がたくさん存在する。その為、パラン王国は必然的にミーフの生息地となるのである。
つまり、世界で最も人気のあるミーフが生息するパラン王国は、正に癒しの聖地と言うに等しいだろう。
私も小さい頃、庭でたまたま見かけて暫く飼ってたっけ。懐かしい。まぁ、あの我儘王族モドキ(妹)に飼ってるのがバレて、ミーフが取られたのはかなりトラウマな思い出だけども。
「お主ら……ミーフに会いたいじゃろう~!」
「だ、ダメよダメ!安全第一なのよ!」
「ダンジョンに俺は行くんや!み、ミーフは野生のミーフで満足出来るやろ!」
「癒し!癒しの聖地パラン王国に行くのじゃ!」
さて、三人の行きたい国自慢が今やっと終った。
ジャッジはなんの意見も示さない私、となるわけだが、これはもう全員意義なしの結果だろう。
「パラン王国でいい?」
「勿論じゃ!」
「うぐっ…認めざるをえないわね……」
「しゃ、しゃーないな!リネアがそこがええっちゅうなら、文句ないわ!」
「……ハイハイ」
満場一致でパラン王国行きということで、私たちはパラン王国へと向かう。
「ところで移動手段はどうなのよ?」
「徒歩か馬車使う予定……まぁ、最低でも二週間はかかる」
「めちゃめちゃ遠ないか?」
決めたのはあくまでも全員なのだ。
異論は認めない。
◇
──三週間後。
馬車が思ったよりも見つからず、結局徒歩になったりとなんやかんやあって、当初の予定とは少し到着日がズレたが、全員が無事にパラン王国に到着することができた。
……でも、入国してすぐ国内に入った途端、例の如く滅亡しそうなのはどうしてなのだろう?
空を見上げれば灰色で、道の端々で人が倒れて辺りは血まみれ。ラン王国よりもまだ滅亡するのは防げそうな状態だけど、現状はかなり絶望的だった。
ちらりと三人を見れば、パラン王国の現状を呆然と眺めている。
「あ……あ……ミーフ……」
「は、犯、人……ここ、居る……?え、や、う、嘘……よね……?」
「癒し、癒しはどこじゃ……」
私が何かをしても、三人は動くことはなかった。
とりあえず我に帰らせないと。そう思って、私は三人の頬を叩く。
「お前さんたち!何をそこでうろついてるんだい!!早くこっちへ来な!!ほら、早く!!!」
三人の頬をペチペチと叩いていると、見知らぬフードを深く被ったお婆さんが、私たちの姿を見るなり血相を変えて大声でそう叫んだ。三人ともお婆さんの大声で我に帰ったようで、慌てているお婆さんの元へ駆け寄る。私もその後へ着いていった。
お婆さんはそのまま自分に着いてきな、と言い、そのまま路地裏を歩く。何かを言う前にお婆さんが先へ先へと進めてしまうので、私たちはどう言うことなのか理解が追い付かないままだった。暫く歩いていると、表の通りが全く見えないような場所へ辿り着いた。
「ここら辺なら大丈夫さね」
ようやく歩みを止めたお婆さんは、丁度そこにあった、ボロボロの椅子に腰かける。
「見たところ、お前さんたちは旅人かね?」
「ええ、まあそうです。何かあったんですか?」
長身が代表してそう答える。
「実はねぇ、一週間前に戦争になったんだよ」
戦争。
その言葉を聞いて、私たちも動揺を隠せずにいた。
西ニトロア大陸に来て二国目である。こうも連続して国が亡びかける事態が起こったのは。
つまり相手はそれほど強力であることが裏付けられる。
「戦争といっても、敵は一人なんだがね……」
「詳しく聞かせてくれませんか?」
「そうだねぇ……」
お婆さんの話によると、一週間前に、パラン王国全域で大規模な爆破が起こったのだそう。それも一発だけではなく何十発も。
お婆さんは何とか自分のスキルで生き残り、今は王城で暮らしているらしい。
生き残った人たちは少なく、十人にも満たないのだそうで、今現在、外へでても大丈夫な人たちでまだ生き残っている人たちを捜索しているらしい。
「ということは、お婆さんは強いってことなんですか?」
「……お婆さん?おやおや、アタシをどっかの年老いた胡散臭い腰曲がり占い師のように思っているようだね?なっはっはっ!そりゃあ勘違いにも程があるさねぇ!」
お婆さんは愉快愉快と言いながら、腹を抱えて高笑いをする。
いや、年老いた胡散臭い腰曲がり占い師って誰……。勝手に例えられても分かんないし……。
『どっからどう見てもババアじゃろ。なぁ、リネア』
『………まぁ、そうだね』
お婆さんは、声が老人のようでその上口調がお婆さんがよくいいそうな特有のそれ。そして背が低い。老人といわれても違和感が全くない。怪しい点と言えば、フードを深く被っている為、素顔が見えないことぐらいだろうか。
まぁ確かに、顔を見ない限り、お婆さんとは限らないか。
相手もそう思ったのか、自身の素顔を隠していたフードを取る。
お婆さんは端的に言えば、すごく若かった。
緑色のショートカットの髪に、黄色と水色のオッドアイの瞳で、活発そうな、18、19歳くらいの見た目だった。
「見ての通りあたしゃピチピチの21歳だよ。全く。初対面にあった人に年老い扱いはやめてやめてほしいところさね」
声は老人声のままだったが。
「なんや。年下やったんか。年老い扱いしてすまんな」
相手が年下と分かって速攻で長身は敬語を外した。
長身のその年齢が下だと態度が変わるのもどうかと思う。相手が身分の高い人とかだったらどうするつもりなんだろ。
「まぁ、よくあることだよ。お前さんたちが気にすることじゃないと思うさね」
「んじゃあ、よかったわ。俺はシュン・トミダや」
「なんと!さてはお前さん、異世界人かい!?」
名乗っただけでわかるもんなのね、異世界人って。
「せやで」
「ほぉ、珍しいこともあるもんだねぇ。アタシは初めて会ったね」
「ホンマか?なんかむず痒いな」
「今どき異世界人は珍しい訳じゃあないけどねぇ、パラン王国じゃなかなか見たことがなかったんだよ。この国じゃあねぇ───」
長身は婆さん口調の女性とポンポンと会話を進めていく。それはもう私達の存在などおいてけぼりにするほどに。
私は気晴らしに、白黒とシュンの悪口を言うことにした。
『長身ってさ、同い年くらいの女性好きな気がする』
『あぁ、確かにの。それと、その中でも胸が大きい人じゃろ?』
『あー、うん、それね』
『ディーネもあのババア口調のヤツもなかなか大きいしのぅ。好みを口説いて侍らす気か、と言いたいほどじゃ』
『気持ち悪るぅ』
『その言葉、絶対本人の前で口に出すでないぞ?』
ちなみにディーネも一緒に会話をしないのは、長身の事を好いているからである。私との仮契約を切るほどに、シュンに口説かれたのだ。話しても肯定的な事しか言わないだろう。
◇
暫く二人で話していても、長身達の会話は一向に終わる気配がなかった。
『長いね』
『相手もなかなか強者だったのじゃろう』
『うん。緑髪の人、口説くのが難しいから、長身も苦戦してるんだと思う』
『流石に我ももう待てぬ……。早くミーフに会いたいのじゃ………!あ、そうじゃリネア。あやつに一蹴り入れればこちらの話を聞いてくれるのではないか?』
『あー……やる?』
『行ってくるのじゃ!我が主よ!』
我慢できなくなった白黒の提案に乗った私は、早速長身と緑髪の人に気付かれないように長身の背後へと忍び寄る。そしてそのまま、私は長身の足を思いっきり蹴る。
「っ、あ"ぇ"ッ!?」
「しゅ、シュン!?」
すると長身は、その蹴りに声をあげて苦しみ、蹴られた所を手で覆いながらその場にしゃがむ。
そりゃあ、あんな声も出る。
『身体硬化』という、体の一部を硬化させるスキルを使ったので、それなりにダメージは入ったはずである。
「目、覚めた?」
「な、何、すん……ねん……!!めっちゃ、………痛いん、やけど………!」
「話が長い。周り見て」
「!……もう夜なのかい」
痛みで喋る事が難しい長身の変わりに、緑髪の人がそう言う。
パラン王国へ来たときは昼だった。もう一度言う昼だった。当然食事は朝のみである。
私は大丈夫だとして、昼食も抜きにして喋り続けるこいつらはおかしい。長身は自業自得だろうけど、どう考えても緑髪の人がかわいそう。ちょっとだけ同情する。
「ついつい長話してごめんよ、お嬢ちゃん。しかし夜とは不味いね。あの爆弾魔が来てしまうじゃないかい」
「爆弾魔?」
「今この国が戦っている敵だよ」
多分、緑髪の言う人は、あの船に爆弾を投げた犯人と同一人物。三人もその事が分かっているのか、表情が少し強張っていた。
「夜はあの爆弾魔の活動時間なんだ。さっさと王城へ行くよ!」
緑髪の人がそう言った瞬間、遠くで爆発音がした。同じだった。あの船で放たれた爆発と。あの時の犯人はここにいると言う証拠である。
「ちっ。もういるようさね。急ぐよ!」
緑髪の人は着いてきな、と言い、薄暗い路地裏を走っていった。私たちもその後へ続く。路地裏は、表よりかは悲惨な状態でこそないが、ときどき虫が転がっていたりしていて非常に不快だ。
ドオン!と、爆発音が表の方で聞こえた。もしかしたら私たちの事は、相手に気づかれているのかもしれない。爆発音が近付く度に、緑髪の人は更に焦っているように見えた。
暫く緑髪の人に着いて行くと、緑髪の人は立ち止まって、壁の何かを弄り始める。すると、ガコッと、何かが外れる音がし、ズズズと壁が横へとずれ、その奥に階段が現れた。
「地下道だよ!ここを通れば王城へと真っ直ぐ行けるんだよ!ほら、早く入ってくれ!」
急かすように緑髪の人に言われて、私たちは地下道へと入っていく。全員が入ったことを確認して、緑髪の人は地下への入り口を塞ぐ。それと同時に、外の爆発音が遠くなった。
「ふぅ。暫くは安全さね。でも、ここがバレるのも時間の問題だからね、城へ急ぐよ」
緑髪の人は、地下道へと入ったことで安心したのか、先程の焦ったような雰囲気は無くなった。外の時みたいに走ることはせず、徒歩での移動になっていた。
「地下ってそないに安心なんか?」
「まぁね。あの爆弾はこの地下までは通らないようなんだよ。だからまぁ、攻撃が入るような心配はない」
「へぇ。そうなんか」
「敵が入ってくるとなると話は変わるがね!」
ははは、と、明らかに警戒が解けていた。気を抜くというのにも程がある。余程この地下道の安全さに自信があるらしい。
「そういえば、そっちの子には自己紹介をしていなかったね」
言われてみれば、緑髪の人は長身と話してばかりで、私はその人についてよく知らないままだ。
「アタシはサジタリアだよ。皆からはサジーと呼ばれてるね。お前さんもそう呼んでおくれ」
サジタリア。サジー。んー……。
「『差異』……かな」
「へ?」
差異、さい……。
「うーん……でも言いにくいや。……『ギャップ』の方がいいのかな……?」
「変なあだ名を付けようとしないでくれるかい?普通にサジーと呼んでおくれ?」
「長身どう思う?」
「長身?ひょっとしてシュンの事なのかい?随分と酷いあだ名じゃあないかい?」
「確かにどっちもサジーに合うと思うけど、お前の事やから普通に『緑髪』ってつけるんかと思ったわ」
「アタシの事は無視するのだね?というか、シュンもなかなか言うね?自分もあだ名付けられているからかい?」
「髪色だとちょっとかっこよくなっちゃう。……『萌葱色』とか、『常磐色』とか、『千歳色』とか……」
「もうそれでいいからね?『差異』とか『ギャップ』の方がアタシは嫌だよ?」
ちなみに緑は有り得ない。この人の髪色はどちらかと言うと深緑よりの色をしているので。
「あ~確かにな。んー『暗緑色』とかええと思ったんやけど」
「あー………『暗緑色』……それいいね。うん、決定」
地味にかっこよさげな名前だが、他のと比べて派手さはなく地味で良い。そして言いやすい。さらにこの人の見た目と『暗緑色』という色がマッチしている。うん、完璧。花丸である。
「私、リネア。よろしく。『暗緑色』」
「随分と、あまり派手じゃない名前を選ぶね……?」
暗緑色は私のあだ名付けに少々不満気な様子。解せん。
「リネアは、見た目に特徴がありすぎる奴にあだ名を付けたがるらしいで」
「なんだい、その独特な趣味は」
「リネアに聞いてくれや。俺もよくわからん」
「違うけど?」
なにその私のあだ名付けに対する趣味扱い。
いやまあ確かに、見た目とか性格が特徴的なやつにあだ名付けしてるけど。
『なに!?違うのか!?』
私がそう思案していると、何故か白黒が反応した。
私は白黒に詰め寄る。
『違うって何?長身と何話してたの?』
『我とシュンでお主のあだ名について話し合っていたのじゃ。まさか見た目だけではないとはの……』
なるほど。長身とそんな会話を。
『残念。私は見た目だけで決めてるわけじゃないんだよ。見た目、性格、能力……主にこの3つの観点だね』
『見た目、性格、能力ぅ?あだ名付けにそこまでしっかり考えなくても良いじゃろう……』
いや、まて。一体いつ長身とそんな話をしたんだ?
『ねぇ、白黒。いつ、長身とそんな話してたの?私のこと話してたんでしょ?気になるなぁ。教えてよ。ねぇ』
『ひぃぃぃ!言う!ちゃんと言うのじゃぁ!!』
私は白黒の羽を強くつかみながらそう言った。
「リネアだったかい?シュンが言っていた趣味、一体どういう事なんだい?」
「ちょっと待って。今コイツに事情聴取してるから」
「コイツ……?目の前には誰も居ないんじゃないかい?」
「ちょっと普通じゃあ目に見えない奴が居るんや。ここに」
意味が分からないという暗緑色を長身に任せてた。
私は白黒に事情聴取……いや、第二回脳内緊急会議を早急に開く。議題は、【いつ私のあだ名付けの考察をしていたのか】。早速白黒に話を聞く。
『で?いつ長身とその話したの?』
『あれじゃよあれ。つい最近じゃて』
◆
時は遡りラン王国からパラン王国へ移動している最中のこと。
パラン王国へ向かう馬車は、当然のごとく思うように見つからなかった。それもそのはず。滅んだ国に人など来るはずがない。なので結局のところ、徒歩でパラン王国を目指すことになっていた。
パラン王国に近づくにつれ、人をちらほらと見かけるようになるが、その人間たちもすぐに出ていくような雰囲気を漂わせている。
結局のところ、宿にはあまり期待できず、パラン王国に向かうまでのほとんどが野宿だった。
野宿をする際、もしも魔物や盗賊が襲ってきたら、という時の事もあるため、全員で交代しながら外を見張ることになった。
それは、たまたまシュンとスジアンが見張り当番の時だった。
切り出したのはシュンだった。
「そういえばスジアンって、何時からリネアに白黒って呼ばれるようになったんや?」
「会った時からじゃよ。目がチカチカするから白黒、と。酷いと思わぬか?」
「うーん、リネアの気持ちも分からんでもないな」
「シュンまで言うのか!!まぁ、『害虫』よりはマシなのじゃろうけど」
「害虫?何で害虫なん?」
「うむ……恐らくじゃが、我、暇なときはあやつの周りをうろちょろと飛び回っておったのじゃ。そしたらウザがられて『害虫害虫』連呼されてしまったのじゃ。あの時我、そのままあだ名が『白黒』から『害虫』に変わったらどうしよう、とひやひやしてのぉ……害虫よりかは白黒の方がいくばかりマシのように思える故な」
「あー。そりゃあ、お気の毒様やね」
「けどまぁアヤツ、多分今では羽が付いてる奴全部害虫って思ってそうじゃな。ディーネの事も害虫と一瞥しておったくらいじゃからの」
「マジか」
話は盛りに盛り上がった。話題は主にリネアのあだ名付けの事について。同じ被害者だからこそ、感じることに似通ったところがあったのだろう。
「そういえばアイツ、ディーネにはあだ名付けてへんよな。なんでやろ?」
そして気がついた。リネアのあだ名付けの特徴に。
「確かにそうじゃな。……あ、そういえば、我たちお主らに会う前にちょっと独特な少女と出会ったんじゃよ。その少女にもあだ名はつけてなかったのじゃ」
「え、……女性には付けないようにでもしてるんか?」
「有り得るのぉ……」
「なんやそれ。男舐めすぎてへんか?」
「……いや待て、シュン。よくよく考えてみよ。リネアが付けるあだ名、どれも見た目に関する事じゃぞ?」
シュンは思い出す。
スジアンのあだ名は『白黒』。
髪の色が白と黒のストライプ柄だからという理由。しかもスジアンは、口調が特徴的で妙に印象に残りやすい性格である。
自分のあだ名は『長身』。
身長が長いと言っても、シュンはの身長はたかだか192センチ。自分よりも背の高い人はいくらでもいるが、自分のような関西弁を喋る高身長は、この世界ではなかなかいない。
「ーーはっ!いや、まさかーーっ!────特徴的な奴にしか、あだ名を付けていない?」
「気がついたようじゃな」
スジアンはニヤリと口を斜めに上げる。
「おおおおお!!でかしたスジアン!!この功績はかなりデカイんとちゃうかぁ!?」
「ふっふっふ。我は気づいてしまったワケなんじゃよぉぉ!!誉めよ!そして崇めよ!」
「うおおおお!スジアンさまぁぁ!!」
ははははは、と深夜にも関わらず、二人は大声で叫ぶ。
何に対して喜んでいるのかも分からないのに。
◆
『という事があってのぉ!』
『惜しいところまでいけてるかな』
見た目に特徴的な人にはあだ名付けをというのはまぁ、正しい。
正しくないといえば正しくないのだが。
『しかしのぅ、一つだけ不思議に思う事があってな?』
『なに?』
『あのレリアを従えていた少女、特徴ありまくりだったじゃろう?何故あだ名を付けなかったのじゃ?』
レリアというのは、兎の獣人の、ルンの使い魔のことかな。
『……ルンは、もうあだ名あったし、付ける意味なかったから』
『あだ名……?そんなのあったかの?』
『ティミッド。これルンのあだ名』
『ああ!リヴァロのなんちゃらこうちゃら言うとった時じゃな!』
白黒もちゃんと覚えていた様子。
『ん。ティミッドって、臆病って意味らしくて、ルンにピッタリだと思ったから』
『よく分かったのぅ?』
『長身に異世界の事を聞いて賢くなった』
『にしても飲み込み早すぎじゃろ』
まぁ、まだ異世界の文字を聞いて覚えただけだけど。
一先ず、白黒との問題は解決できた。暗緑色にもかまってあげないと。
「ごめん、お待たせ」
「やっとかい?もうそろそろ城へ着きそうなんだけどねぇ」
「そっか」
「それで、その趣味はなんなんだね?」
いつの間にか趣味認定されてる……おかしい。ただ判別付きやすいようにそう言ってるだけなのに。
「……区別がしやすいようにしてるだけ」
「区別?趣味ってわけじゃないのかい?」
「そ。誤解しないで」
「区別……そうかい。区別か……」
疑いは晴れたようだ。良いことである。
なんだか変な印象を持たれてるような気がするが……ま、大して問題にならないでしょ。
「あの人達にも、同じことをお前さんがしようとしたらまずいと思ったけど、案外リネアちゃんなら大丈夫そうさね」
「……あの人達?」
「会えば分かるさ。──さてと、お二人さん。目の前に階段が見えるのが分かるかい?あそこを通れば城の中だよ」
真っ直ぐ向かったところに、数段の階段が見えてきた。多分それだろう。
私たちは暗緑色を先頭に、その階段を登った。頭上に扉があるので、暗緑色がそれを開け、地下から出た。
そこはいかにも城の中、という感じで、外よりも清潔感のある場所だった。そこには6人、人が集まっていた。
「ん、サジーか。生存者を見つけたのか?」
「ああ、そうさ。お手柄だろう?……もしかして、会議中だったのかい?邪魔して悪いね」
暗緑色に話しかけたのは、赤髪で左目に眼帯をしている男性だった。
「いや、サジタリアさんにも参加してほしい会議だったので、むしろこのまま居てくださるとこちらも有り難いです。ねぇ、ディクト兄上ぇー?」
「あぁ、そうだな。ヴィギー」
赤髪で眼帯を付けている人の近くにひょっこりと顔を出した、黄土色の髪で右目に眼帯を付けている人が赤髪の人にそう言った。
「それじゃ、居させてもらおうかね。ついでにこの二人もいいかね?」
「ふむ……それでは自己紹介から始めた方が良さそうですね。あの悪魔から生き残った者同士として」
中央に聳え立つ、やけにあの王族擬きを思い出させる容姿をした、金髪碧眼がそう言った。




