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10.船旅も終わる頃、それはあまりにも突然の事で。

 その後、何事もなく時間は過ぎた。

 

 あの探偵達の事件は無事解決したらしい。自分がその時居なかったのが少し悔しいが、後で白黒が大した事なかったと報告してきた。詳しく聞いてみると、犯人が自首したようで調査は二日にも満たなかったようす。動機はただ単に人を殺したかったからだとか。サイコパスだね。

 白黒によると、「ほぼ弟子が解決したようなものじゃ」等と見解していた。

 

 そんなこんなで四日目。明日は予定通り西ニトロアのラン王国に到着するらしい。

 

 そして今日はこの船でのラストナイトという事で、船内は貴族たちが開くような豪華なパーティが繰り広げられている。

 テーブルの上にはたくさんの食事に、中央奥から永遠と聞こえてくる音楽。ネーフェス王国でもこのようなパーティは行われていたが、私はほとんど参加させてもらえなかった為、ほぼ未経験だ。

 ただ、あまり楽しくはない場所なのは明らかである。

 

 私は仕方なく長身の元へ行くことにした。

 

 白黒はタキシードを着ており、このパーティーを楽しむ気満々だった。

 

「ん? んん? リネア、そのまんまで来たんか!?」 

「防寒対策」

「今夏やけど?」

 

 一方私は何時も羽織っているフード付きのローブを身に付けているが、ちゃんとドレスは着てはいる。自分で言うのもあれだけど、かなりシンプルで地味だ。

 私の服は真っ黒のドレス、ただそれだけ。

 

 私は仕方ないと思い、ローブを取って長身に自身の姿を晒す。

 

「!やっぱ可愛い子はなに着ても映えるんやな……」

「ばえる……?まぁいいや。それで、一緒に踊ってほしいんだっけ」

「あー……確かにそう言ったわな。んー、と、ひ、ひじょーに言いにくいんやけど……、その、リネアの身長、じゃあ……」

「うるさい。というか誘ってきたの長身の方じゃなかったっけ」

「誘った後に気づいたんや。悪いなぁ」

 

 だけど、今回は踊ることも難しいと長身が言うのもまぁ、納得。

 確かに長身と私は身長差が40センチはある。なので私は何時も見上げる形になってしまい、いつも首が疲れる。とかいうどうでもいいことは置いといて。

 要するに私が長身と踊るのは難しいのなら、踊ることは諦めた方がいいだろうということ。

 なら代役……あぁ、そういうことか。

 

「ディーネと踊りたいってこと?」

 

 私がそう言うと、長身は肩をビクンッと震わせる。

 

「あーーー違う違うって!そんなことないから……な?」

 

 分かりやす……。

 

「いいよ、別に。ディーネ、踊ってあげれば?」

「!はい!ご主人様!分かりましたわ!私、シュンに恥をかかせないよう、精一杯踊りきって見せますわ!」

 

 その意気揚々とした心が眩しい。

 

 ディーネは姿を大人に変え、長身のもとへとてとてと向かうと、ちょうどよく音楽が流れ始め、二人は踊り始める。

 

 私はそれをぼんやりと眺めていた。

 

 こういうのを見ると、王宮にいたときの王族モドキが王族を気取って他の貴族と話していた事を思い出す。

 ……こういうのって、やっぱり嫌な記憶しかない。

 

 私はこっそりとその場を抜け出し、自室へと戻る。

 

 ◇

 

『のう、リネア。何故参加せぬ?』

 

 いつの間にか白黒は私の肩に座っていた。

 

『………パーティとか、いい思い出、無いし』

『……あぁ、そういうことかの』

『分かってるじゃん。……元々参加するつもりなかったから、ディーネに押し付けられてよかったっていうか』

 

 まぁ実際、面倒くさかったし。

 

『ま、お主のしたいようにすればいいからの。我はお主に何も言うことは無い』

『……思ったけど、白黒って結構優しいよね』

『いきなり褒めてどうしたのじゃ?』

 

 私にちょっと褒められて、そわそわしてるのバレてるって分かってるのかな。

 でもまぁ、その言葉は嘘じゃない。何時も酷いことばっかり言ってるし、たまには褒めてあげないと可愛そうだから。

 

『……やっぱり嘘』

『なぬ!?少しくらい正直に褒めてくれたってええじゃろぉ!』

『ふふ。……ごめん。優しいってのは本当だから』

『悪魔じゃのう!?お主!……にしても珍しいではないか。何時ものお主ならそういうことは言わぬであろう?』

『………ただの気分』

 

 私がそういうと白黒は、少し黙った後に、小さな声で「ありがとの」と呟いた。

 

 うん、悪くない。何もない空間こそが、今この瞬間に私が存在しているとよく感じられる。

 ここにスノがいたら最高だったんだけど、まだ先の話かな。

 

 ふと、私は白黒にあることを聞こうと思っていた事を思いだした。

 

『白黒はさ、創造神に会ったことあるの?』

『ほう……創造神イルエルか。うーむ……。実を言うとあまり覚えておらんのじゃ』

 

 “覚えてない”

 

『………そうなの?』

『うむ。我が生まれる時に一瞬だけ会ったのかも知れぬが……正直我の記憶の創造神は顔がぼやけていてよく思い出せんのじゃ。……それに、思い出そうとするとノイズがかかって記憶が混乱するのじゃよ』

『へぇ』

『しかしのぅ、一つだけ覚えておる事があるぞ。髪の毛が白髪だったような気がするのじゃ』

『……そっか』

 

 白黒なら、会ったことあると思ってたけど、覚えていないなら仕方ない。

 

『創造神イルエルは七大精霊である光の精霊が詳しかったような記憶があるぞ。創造神のことが聞きたいならソイツに聞いてみるのもありじゃな』

 

 光の精霊……というか七大精霊は、基本的に探しにくい。住みかが限られていない上、見られる者も限られているので、見つけられたら一種の奇跡と考えても不思議ではない。

 まぁ、探す気は全くないのだが。

 私はただは確認がしたかっただけである。

 

『……ふーん、そっか』

『うむ。あ、そういえば、この新聞見たか?なかなか面白い記事が載っていたのじゃ!』

 

 白黒はそう言って、その面白い新聞とやらを私に渡す。

 

 何処にいれてたの。しかもどこから仕入れたの、これ。

 

 白黒に聞きたい事は多いが、まずは新聞の内容に目を向ける。

 

『ヴォルメ王国、モンスターテンペスト襲来により全国民が逃亡し滅亡』

 

 記事の見出しにはそう書かれていた。

 ヴォルメ王国と言えば、あの臆病でいつもオドオドしていた少女が魔物を大量召喚していた場所か。……ん?ということは……。

 

『……これってルンがやってたやつ?』

『その通りじゃ!』

 

 なるほど。やっぱり滅亡させる事が目的だったわけか。

 

 となると、

 

 ───はいっ!ちゅーもーく!この方は『リヴァロ』No.6のティミッド様!いーい?これからすっごい有名な人になるんだら、絶対目に焼き付けておくんだよー!ティミッド様だゾぉ?

 

 ルンの使い魔のレリアってのが言ってた『リヴァロ』は、何なのかな。

 

『白黒、『リヴァロ』って、知ってる?』

『さぁ?我も初めて聞いたぞ、そんな名前の組織なんぞ』

『……多分だけど、ルンがその構成員で、ヴォルメ王国を滅ぼしたってことは、………世界中の国を滅亡する事が目的……だったりして?』

『……有り得るのう』

 

 分からない……けど、面白そうなのにはかわりない。

 

 ◇

 

 あの後、気がついたら眠っていた。睡眠欲は無くなったと思ってたんだけど、前の体の感覚が抜けてないよう。

 

 そして目が覚めたら目の前に、ディーネと長身が土下座していた。

 

「………なに?」

「お願いします!この富田俊、一生のお願い!どうかこの子を俺に下さい!」

「私からもお願い!シュンの所に行かせて下さい!シュン、ちゃんと適正あったし!」

「…………は?」

 

 主語がなくて何が言いたいのか分からないんですけど。

 

「………説明」

「えぇっとその……やな、ディーネを俺の契約精霊にしたいっていうか。……リネアが今の契約者なんやろ?だから、契約解除してほしくてな?」

 

 頼むわ!

 と懇願する長身は、あまりにも惨めだった。

 キモい………けど、それならむしろ好都合だ。

 

「いいよ。じゃあ解除するから……ディーネ」

「え、は、はい!」

 

 正直害虫が増えて辟易していたので丁度いい。出会って数日で解除出来るとかなんて幸運な。

 

 そう言うわけで私は、仮契約の解除の為の準備をする。

 

 仮契約の解除方法は、仮契約する時と同じでとても簡単である。

 解除の方法とは、特定の呪文を唱えればそれで解除。

 しかし、そんな面倒くさい事を私はやりたい訳じゃない。

 それに、私は呪文といういかにもくさいセリフは言いたくない。

 

 そういうことで、私なりの簡易解除でディーネとの契約解除をすることにした。

 

「手、出して」

「え?呪文は?」

「やんないよ」


 私がそう言うと、ディーネは頭に?を浮かべ、膠着する。

 

 私はディーネの事は気にせず解除するのに集中する。

 

 私流の解除方法とは、ディーネの手に刻まれている私の名前を消す術式を掛ける事である。

 手に刻まれている名前さえ消えれば、繋がりなんてものはすぐに切れるし、何より呪文を唱えずに済む。

 

 そういうわけで、その術式が少し複雑なので描くのに苦戦しているが、正確に解除するためには必要な行為。

 

「………よし」

 

 私は完成したその術式に魔力を流してディーネに掛ける。

 すると、プツンと脳内でそう、糸が切れるような音がした。

 契約解除が出来た証拠である。

 

「………ん、出来た」

「わぁ……!本当だわ!本当に呪文を言わずにどうやったのよ?」

「魔術しかないでしょ」

「そんな事出来るんか?」

「すっごい複雑な術式組まないと出来ないのじゃ!」

 

 いつの間にか起きていた白黒が間に入って、興奮したように喋っていた。

 

 ディーネの仮契約が解除されて絶好調なのだろう、コイツ。

 

「大体のう、契約事を魔術で済ますというのは世界の秩序に事外れすぎておる!世界のルールというものをお主は知らんのか!?」

「うるさい。私がルールだから」

 

 ギャーギャーと白黒が耳元でずっと騒ぎ続けるので、私は白黒の口を布で塞ぐ。

 

「とりあえず仮契約は解除出来たから、契約するなら勝手にドーゾ」

「ありがとうな、リネア!」

 

 長身は笑顔でディーネと向き合い、契約をした。

 

 うん、仮契約の解除をするついでに、ディーネの私がシュリアってことの記憶も消しといたけど、うまくいってそうでなにより。

 

 ◇

 

 契約を済ませた長身が、何かふと思い出したのか此方を向く。

 

「あ、せやリネア。ちょっと窓覗いてみ?」

 

 私は長身の言われた通り、窓を覗く。

 見えたのは青い青い海と空、それから奥に少し見える陸である。

 到着が近いって訳か。


「見ての通りもうすぐ到着なんやけど、ちょっと提案したいことがあるんや」

「なに」

「一緒に旅をしたいんや」

「………一緒に?」

「ああ。……俺、ここ数日間一緒に話したり過ごしたりして思ったんやけど、リネアと一緒に居たら、なんか楽しい事とか、良いこととか起きそうな気ぃするねん。だから、付いてってええか?」

「え、ヤダ。面倒くさそう」

「そこをなんとか!!」

 

 私の回答に長身は怯まず、本日二度目の土下座をする。

 

 いや、勝手に一緒にこられても面倒なお荷物が増えるだけだし。

 

 ちなみに長身のスキルはこんな感じである。

 

『霊眼』

 見えないものが見えるようになる。

 

『能力上昇』

 鍛える程力が増す。

 

 しっかり“吸収”にて習得済みのスキル達だ。

 正直、私の正体がバレないようにするために、旅をしている時も気を張らなければならないので余計疲れる。

 それに、長身が付いてくるということはディーネも居るということである。つまり結局、契約解除しても付いてくるって言うなら意味のない契約解除だったという事になる。解せない。それだけは非常に解せない。

 

 面倒なものが増えるだけ。

 そして長身が付いてくる事に私にメリットもない。

 

 そういう観点から、長身が付いてくるのは私にとって非常に迷惑なのだ。

 

「絶対ヤダ」

「くっ!どうすりゃ……あ、せや!異世界の事、俺ならいろいろ教えられるで!」

「は?何それ需要ないよ」

「わかっとらんなー!!リネアは!!ええか?俺の故郷、日本はな、こことはあり得んほど文明の進み具合で差がある!この世界は俺の故郷に比べて格段に遅れてるんや。そういう意味でも俺の異世界の知識はかなり役立つと思うねん!」

 

 異世界に興味ないし微妙……というのが本音なんだけど。

 でも、そこまで馬鹿にされちゃ、見返してやらないと気がすまない。

 

「……いいよ。一緒に旅しても。だからちゃんと、その異世界知識、教えてよね?」

「よっしゃ!!分かったわ!リネア!」

「ん、絶対見返してやるから。馬鹿にしたこと後悔させるから」

 

 恨みを込めて言ったその言葉は、長身にはあまり届いていない様子だった。

 

 やっぱり取り消そうかな、さっきの。

 ちょっぴりそんな事を思ってしまった私は悪くない。

 

 これからの事が決まったその時だった。

 

 ドンッ!!

 と、船の前方で大きな音が轟く。

 長身やディーネ、白黒は少し緊張した雰囲気になる。

 

 嫌な予感がした。

 念のためと思い、私はこの部屋全体に強力な結界を張った。速攻で強力な術式を組んだので、かなり荒っぽい所はあるが、よっぽどの威力じゃなければ破壊はされないと思う。

 

 そう思って結界の術式を組み終えた丁度その時。

 

 二度目の轟音──いや、爆発音がすぐ近くで響いた。それも最初の一発だけではない。軽く二十は越えるであろう爆発音が響く。新手の魔物だろうか。爆弾のような物が爆発する音はまだ響く。止まる気配がまるでない。

 

 暫くすると、床が沈みかけていることに気づいた。

 

 ……まずい。あの爆発で船が壊れて沈没しかけてる……。

 

 海へ沈んでしまえば陸へ上がるのは更に難しい。

 白黒、ディーネは精霊の為、飛べるので問題ない。私も魔術でどうにか出来る。だけど、今ここには長身がいる。

 こう言う時こそ『重力』のスキルが要るのに──と、今更な事を思ってしまう。

 

 ──というか同じ上客同士だし、まだこの船に居て、もしかしたら……

 

 そう思った私は、部屋の扉を早急に開ける。

 長身が危ないと言って居るが無視である。無視。こちとらお前のために今気を張り詰めてるんだ。

  

 そしてあの水色の髪の少年と紫髪の探偵を探す。

 

 爆弾のような物はまだまだ降り続けていた。止む様子は一向にない。

 船はもう跡形もなく海の底で、不自然に自分達の場所が取り残されているような状態である。いや、もう一つだけ、不自然に取り残されている箱がある。

 

 そして微かに海から浮いている。

 アタリである。あれがあの探偵達がいる場所。

 

 『重力』が私の元へ来たので間違いない。

 

『重力』

 重力を操作できる。重力過重、重力軽重、重力曲芸など。範囲は自由。

 

 私のスキルになった『重力』はまさしくあの少年が持っていたスキルだった。

 

 私は早速この部屋を範囲にして『重力』を使う。

 すると、沈む一方だった部屋は嘘のように浮き始めた。


「うおっ!なんや!?」

 

 なんとかなった……のはいいけど、このスキル、なかなかコントロールが難しい。集中していないと空気のように飛んでいってしまいそうになる。

 慣れればかなり使い勝手はよくなるだろうけど。

 

「……ふぅ」

「リネア、どうするのじゃ」

「とりあえず強い結界張ったし、『重力』っていうスキルで、此処が沈むのはなんとか防げてるから、外の爆弾雨が止むのを待つしかない」

「止む気配あるん?これ」

「……厳しい」

 

 最終手段は『転移』だけど、正直行ったことのない場所へは転移出来ないない。なので目的のないスキル発動は何処へ転移するか分からない。故にあまり使いたくない。

 

 どうしたものかな。とりあえずは止むまで待つしかない。

 

 ──数十分後。

 

 あれだけ激しく響いていた爆発音はとうとう止んだ。

 長かった。ほんとに長かった。

 長時間『重力』を使っていたせいか、大分扱いに馴れた。今なら浮かせながら移動だって出来る気がする。

 

 外を除くと辺りは一面青い海で、あの時浮いていた箱はもうなかった。きっと陸まで逃げたのだろう。

 

 私たちも早くせねば。

 ちょっとこの空間を“見て”みたが、毒のガスが混じっている。危険すぎる。この結界内なら安全だが、これは完全に人を殺す事を目的とした利用の仕方だ。

 

 とにかく、地上まで移動しないと。

 

「ちょっと動くけど、慌てないでね」

 

 三人ともこくりと頷く。とても大人しくて助かる。

 

 私は慎重に移動をする。

 

 ◇

 

 思ったよりも上手く動かせられた。

 

 そして今やっと、西ニトロアの最西端、ラン王国の港に着いた。

 

 そこへ着いたとき、嫌な刺激臭がした。

 

 恐らく毒。

 

「シュン、ガスマスクみたいなの、持ってたりする?」

「え、なんでそんなん知っとるん?」

「知識は多い方だから。それよりどうなの?」

「……まぁ、一応自作したやつならあるけど」

「じゃあ付けて。外、毒ガスが広がってる」

 

 私がそれを言うと、シュンはそそくさとガスマスクを身につける。

 チラリとディーネを見ると、ちゃんと契約精霊として仕事はしているようである。ディーネ自身も、魔術による防護もバッチリ。

 

 一方白黒は、『時空支配』のスキルで、自身の周りだけ時を止めて毒が体に入らないようにしていた。

 随分と器用な事をしているなと思う。

 

「これがスキルの無駄遣い……」

「スキルの有効活用の間違いじゃろうが!!」

 

 声に出てていたっぽい。

 

 とまぁ、それぞれ外に出る準備は大丈夫そう。

 

「ん?リネアはなんもせえへんのか?外は毒だらけなんやろ?」

「『状態異常無効』がある」

「ずっる!!」

「あんたそれは可笑しいんじゃないの!?」

「可愛くない女じゃ」

 

 白黒は後で一発殴っておこう。

 ちょっと傷ついた。

 

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