9.精霊って、やっぱり使えなさそうだよね。
ディーネとの仮契約が決定した。
白黒は心底嫌そうな雰囲気を漂っているが、異論は認めない。
私は早速契約をする事にした。
仮契約の方法は至って単純。
相手に自分の名を刻めばそれで成立する。名を刻む場所は手の甲が多い。解除する場合はどちらかが一方的にツナガリを切ってしまえば完了である。
悪魔の契約の場合だといろいろ制約があって面倒くさいんだけど、まぁ、今のところ私はスノとだけだし、その辺は関係ないかな。
そういうわけで、私はディーネの手の甲に私の名前を魔力で刻む。
「シュ、…リ、ア…っと」
『お主今さらっと本名言いおったな!?』
「ん?今の誰の名前よ?」
「私の名前」
「え、リネアじゃないの!?」
私はこくりと頷いた。
仮契約は"仮"でも一応契約なので、本名を書かなければならない。ディーネにバレてしまうのも仕方ないと言える。
「はぁ!?というかまさか、シュリアって、あの、シュリア!?」
「どのシュリアなの?」
「えっと、ネーフェス王国の第二王女のシュリア……っていう………」
「あってるよ」
「本物なの!?いやいやでもでもっ!あの人は確か最近死んだって情報が……!」
あ、ちゃんと噂は広まってる。
作戦通りだね。
「死なないよ。私」
「ど、どういうことよ!?もしかしてスジアン、アンタの影響なの?」
「我は関係ない。こやつは元々そういうスキルを持っておるのじゃよ」
「なによそれ!?」
「そんなのどうでもいいから。仮契約できたし、探検の続き行くよ」
後ろでわちゃわちゃとうるさいのがいるが、私は気にせず船内へと戻って行く。
「ちょ、待ちなさいよ!」
「おい、我を置いていくでない!」
コイツらやっぱり使えなさそう……。
◇
その後私達は、船内をぶらぶらとまわって時間を潰した。
そうして気がつけば、窓の外から朝日が見えた。自室のベランダから見た方が綺麗だっただろうけど、五階の窓から見える朝日も絶景の類と思える。
丁度、従業員と思わしき人がちらほらとうろついているのが見えた為、現在私たちは自室へ戻ってだらだらと寛ぎ中。
暇潰しにディーネに聞きそびれたあの事を質問した。
「気になってたけど、ディーネって、なんで透明化中の私が見えたの?」
「あら?てっきりもうとっくに把握しているとばっかり思っていたけれど……まさか分かっていないの?しょうがないわね~!私、優しいからしっかりと教えてあげるわ!」
さらっと余計な発言をしてくるのが何ともうざい。
「私が貴女を見れる理由なんて単純よ。それはーー」
「ディーネのスキルの影響なんでしょ?」
「えぇ?ちゃんと知ってるじゃない……私に聞いた意味何よ……?」
やっぱりアタリだった。
元々そういう性質を持って生まれてきたのか、魔術でやっているのか、等と思っていたが、どうやら思っていた通りスキルの影響だった。
「『真実』……だったけ?」
「そうね」
『真実』
それはあらゆる事象の“真実”が分かるという、名前の通りのスキル。
簡単に言えば、嘘を見抜く事が出来る。
「そんなスキル持ってるのに、なんで私の名前が偽名だってこと気付かなかったの?」
「ぅ、だってあなた、探ろうとすると変なもやがかかって何も見えないのよ。魔術とかは見破れるのに……!」
もや………そんなの纏ってる自覚ないんだけど。
つまり私は例外なのか。
「ふーん」
「反応薄くない!?」
「ディーネよ。こやつはそう言う奴と思った方がよいぞ。気にするだけ疲れるだけじゃ」
経験者は語る、見たいな言い方だ。
「アンタに言われると余計ムカつくぅ!」
「なんじゃとぉ!?」
何はともあれ、疑問に思っていた事も確かめられた事だし、いよいよやることが無くなってしまった。
ディーネに『真実』のことを聞くことも出来たし、仮契約も済んだし……次は何をしよう?
と思っていた矢先、入り口の方からノックをする音がした。
私は入り口のドアを開ける。そこにいたのは長身だった。
「なんや。起きとったんか。ちゃんと目ぇ覚ましたようでなによりや」
「……長身が運んでくれたんだっけ。……ありがと」
「そんな事くらいかまへんで。今日は俺、お前のこと朝食に誘おうと思ってな」
「朝食?まぁ、いけど」
長身はよかったと安心したようにほっと溜め息をつく。
「それじゃ、はよ行こうや。なんか俺の知らん奴も増えてるようやし」
ディーネのことはちゃんと気づいてたよう。
◇
長身が朝食をと言って向かった先は、三階のメインホールだった。食事はテーブルに並べてある物を、自分で欲しいものを取って適当な場所で食べる方式らしい。
当然の如く、ホールには沢山の人が居た。
貴族やニトロア学園の学生、金持ちの商人、私のような冒険者等々……。本当、よろしくない。
私はパンとスープだけ貰い、長身がいるテーブルに座った。
私と違って長身の朝食は量が多く、朝から食べるもんじゃないでしょと思ってしまうほど。
「はぁ……リネアなぁ、そんな質素なモンでええんか?そんなんやから成長しないんや。今日くらい贅沢したってええんちゃうか?」
「ダイエット」
「それ以上痩せると骨しか残らんくないか?」
くだらない雑談を交えながら、私たちは食事を採る。
ただの暇潰しに過ぎないけど、案外悪くないかも。
「そう言えば、昨日まではその水色の奴はおらんかったよなぁ?紹介してくれるやろ?」
「あら?貴方、私今姿を隠していたのだけれど、どうして見えるの?」
「ふっふっふー。それはな、俺が特別な目を持っているからなんやで!」
『霊眼』
それが長身の持っているスキルの一つらしい。
ディーネは魔術で事前に姿を見られないようにしていたようだが、やはり見えた様子。
姿を消しても見破られるような人が最近多いような気がするし、いよいよ絶対に姿を見られないようなスキルが必要かもしれない。
「で、誰やこの精霊は」
「……害虫二号」
「何よ、その言い方!罵倒するにも限度ってモノを知らないようね!?」
「こういうところ」
長身は、ジト目で私のその紹介の仕方はもう結構とでも言いたげな顔をしている。
「リネア、ちゃんと紹介してくれへん?」
「……ディーネ。水の精霊」
「初めまして、水の精霊のディーネよ」
「水の精霊……?お前、スジアン以外にも精霊と契約しとったん!?」
「仮契約だから」
というか、水の精霊がウンディーネってことに驚かないんだ。
「……ほーん……まさか水の精霊までな。……リネア、一つ聞いてもええか?」
「何」
「リネアって、転生者なん?」
私が転生者か否か。
それはどの程度による話なんだろうか。
人は、死ねば体から魂が抜け、やがて体は腐り果てる。そして魂は天へと帰り、時が経てばまた新たな人生として生まれ変わる。つまりは『転生』する。
そう言うことなら私も転生者と名乗っても可笑しくはないのだろうが、長身の言う転生者は、異世界の者が言う転生者とは、簡単に言えば“異世界”の者がまた同じ世界に転生せずに“異世界”へと転生してしまう転生という可能性もあり得る。そう言う場合、私は該当に当てはまらないのだが、一体どちらの意味なのだろうか。
長身の質問の答え方が分からない為、私は暫く黙り混んでしまった。その様子を見た長身は、私の事を気遣って、もっと分かりやすい質問に変えてくれた。
「えっと、難しく考えすぎなんちゃうか?うーん……じゃあ、日本って知っとるか?」
「何それ」
「あーもうええわ」
あまりにも早すぎる判断。
それで解決できるなら、最初からそう言って欲しい。なんであんな回りくどい言い方をしたんだろうか、この巨人は。こっちは真面目に考えてあげたのに。
「なんなの?」
「いや、リネアが転生者じゃないっちゅーことはよう分かったから、もうええかなって」
「はあ」
どうやら長身の質問の答えは『異世界転生』しているか否かだったようだ。
質問には答えたのに、長身は難しい顔で暫くこちらをじーっ、と見つめていた。
「……あんまりじろじろ見ないで」
「…………あーッ!!考えるのやめや。どっちだってええやん。おん。せやな。そうなんよ。うんうん」
いきなり独り言を言い出した。
痛い奴……。
うわぁと思い、若干引いた目を向ければ長身は些か悲しげな顔をしていた。
『リネア、速報じゃ!面白い話を入手したぞ!』
白黒からの念話だ。
白黒は、私とディーネとは別行動をとっていた。
「我は未知なる旅へ行くのじゃ!」と、出ていく寸前に言ってきたので、船内で好きにさせておいたのだ。
何か面白そうなネタを見つけてくれたようでなにより。
『昨日の夜に我達が怪しいと思って後を追った二人組が居たじゃろう?そやつらが死んでいたのじゃ!事件じゃ事件!面白くなってきたじゃろう?船員は事件を穏便に済まそうとしておる。どうやら探偵が乗ってたようですぐに解決しそうとのことじゃ。早く来ないとネタを逃してしまうぞ!』
ナンダソノ面白ソウナ話ハ。
こんなん行くしかない。
『場所』
『四階の六○七号室じゃ。ちゃんと姿を消しておくのじゃぞ?』
『ん』
白黒のテレパシーを切って長身に用ができたと言って移動しようとしたが、服を引っ張られ引き留められた。
「明後日。明後日にダンスパーティがあるんや。そこで一緒に踊ってくれへん?」
「ん?…あー……考えとく」
雑に返事をし、私は移動を始めた。
ちなみにディーネは置いてきた。
◇
四階の六○七号室。
目的の場所に着いたので、魔術で姿を消して早速入ろうと思ったが、ここ最近の透明化魔術の見破られる回数を考えてみた。
どう考えてもフラグというか、恐らくだけど、絶対バレる可能性があるというか。
そう言う訳なので新しくスキルを創ることにした。
……いや待て。吸収したスキルで『隠蔽』って言うのがあったような……。
探してみると、あった。ちゃんとあった。しかもスノから吸収していた。
『隠蔽』
何でも隠すことができる。
単純な説明ほどわかりやすいものは無い。
何でもってことは姿もちゃんと隠せるよね。
「『隠蔽』」
私は早速スキルを使った。
『隠蔽』はすごい。
使ってみてより実感した。
効果を一言で言うならばすごいに限る。なにもかもが隠せていた。姿、スキル、魔力、気配……それらの全てを隠蔽できていた。想像以上だったかもしれない。完璧である。
これならあの謎のベール(恐らく何らかの結界)も誤魔化せられる。
私は白黒がいる場所へと体を小さくして侵入した。
中へ入ると船員が二人、探偵の格好をしている女性、その助手と思われる小柄な水色髪の少年に、ニトロア学園の教師が二人いた。
『!いた、白黒』
白黒はその部屋の隅でじっ、と見ていた。私は白黒の近くまで足早に寄る。
『やっときたか、リネア。どうじゃ、中々面白そうじゃろ?』
『うん、最高』
現場をみていると、探偵の少女が口を開く。
「と、とりあえず、事件の内容を把握しましょう!
まず、第一発見者である隣室のデイ君が、死亡者のエイ君の部屋で、エイ君とビイ君が死亡していた事を発見し、先生方に報告をした。そして彼らは夜中、凡そ深夜あたりに部屋を抜け出しており、その後、一時間くらいたった頃に戻ってきた。しかしその数分後、何者かにエイ君とビイ君が殺された……と。そして容疑者はエイ君とビイ君、二人と中が良かった友人たちって事になるのですね?」
ちょっと待て。
興味無さすぎて“見ては”いなかったが、あんなに安直な名前だったのか、あの二人。
「そ、そうですね。……しかし、学生が殺人って、有り得るのでしょうか?」
船員Aがそう言う。それに対し、探偵は即答で答えた。
「有り得ます。現に私は、そういった学生を見たことありますから」
それって私も含まれてたりして……。……まぁ、私のは必要犠牲であって、殺人の部類じゃないからね(言い訳)。
「とぉーにかく!我々はこの二人の友人を絞り出さなければなりませんっ!船員の方々ッ!それとニトロア学園の先生さん!ちゃんとやりますよね?」
急に探偵のテンションが変わったと思ったら、中々に豪快な事を言う。
嫌いじゃない。そういうのも。
「わかりました、ナツメ殿」
「それじゃあ、私たちも生徒達の方で聞き込みを───」
「イヤ、必要ないヨ、皆サン」
船員やニトロア学園の教師達が行動に移そうとしてたのを止めたのは、水色髪の探偵の助手らしき少年だった。
「なぬっ!?フィン君よ、犯人が分かると言うのかね!?」
「マァネ~」
「おぉ!さっすが我が弟子フィン!」
「それは本当か!?」
「ウン。犯人なら分かるヨ。でもどこに居るのかわかンないカラ、探して貰えれば事件解決ダヨ~」
────うん、やっぱり。確信した。
あの結界を張ったのは恐らくあの少年だ。
そしてこの中で一番強いのもあの少年だし、なんなら“複数持ち”だ。
“複数持ち”とは、その通りスキルを複数持っている者の事を指す。
私もそうだが、あの少年はスキルを四つ持っているのを“見た”。ナツメという探偵も“複数持ち”っぽいが、それでもあの少年よりかはおそらく格下だと思われる。
私としてはあの少年のスキル、なかなか便利そうだし、全部“吸収”しておきたい。とりあえず『空間』は取れた。あの結界が『空間』のスキルで創られたモノらしい。
『空間』
空間を操ることができる。支配、操作、精神干渉、思考共有、思考観覧など。ただし、使える範囲は制限される。(使用し続けると、範囲を広くすることが可能)
説明を見た感じ、かなりいろいろできそうなスキル。
使えば使うほど強くなるみたいだし、どんどん使ってくに限るね。
あと、謎なのだが『分身』も吸収できていた。それと『詐欺師』も。
『詐欺師』
嘘をついて、その嘘が恰も本当かのように信じ込ませる事ができる。効かない人もいる。
『分身』
分身を作成できる。独立させることもできる。いくらでも分身が可能。
つまりこの少年、本体は別に居て、今喋っている事も嘘で、それを信じ込ませている……ってことになる。なかなか濃い。
となると残りは『重力』だけになった。
正直言って、吸収できるかは難しいと思う。『詐欺師』なんていう、怪しげなスキルを使っている時点でこの少年が慎重なのがすごく伝わる。というか『詐欺師』って、私の『天邪鬼』と凄くにてる。たまたま何だろうけど。
まぁつまりは、この三つのスキルを吸収できただけでもかなりの功績だろうということ。
そんなことより、速効で犯人見つけるってどうなの。
「で、では、犯人の特徴を教えてもらえませんか?」
「エートォ~、まず人じゃないネ。これは……エルフカナ?それで、髪の毛は金髪デ、目は青。なが~い髪の毛の人で、性別はわかンなかったヨ~」
エルフってだけで充分と絞られてくる。
これはもう、すぐ解決しそう。
『推理もなにも無いのぅ。非常につまらぬ』
『……うん』
サクサク解決されちゃ、まだ読んでない本の内容のネタバレを食らったような気分になる。
あのドキドキ感がいいのに。
「なるほど。では、我々の方で捜索してみます!」
船員Aはペコッ、と一例し、もう一人を連れて部屋を出ていった。
「はぁー、しかし、どうやって犯人を見つけたのですかね?」
「ン?僕のチカラのお陰ダヨ」
「ふふん!フィン君は私の自慢の弟子なんですよ!こうやって何時もサクサク事件を解決してくれるから仕事がはかどるはかどるぅ!」
「あれれレ?それじゃあ全部僕のお陰って事になるよネ?ってことは、依頼料全部僕のでいいんじゃないノ?」
「師匠を敬え!このチビが!」
「あーー!そういう事言うんだったら僕もう今後犯人教えないヨ~?いいのカナーー?」
「よくないですぅぅぅ!!」
「じゃあさっさと捜索して貰えなイ?お金が無くなっちゃうヨ?」
「了解しましたぁ!!」
この二人、いきなり煽り始めた。
仲がよさそうで何より。
私は、ジトリと呆れるように目線を向けた。
『今日は見つからなさそう』
『そうじゃな。殺した側もそうそう見つかるような奴じゃ、なかろうし、穏便に済ませようとすると客の目を気にしたり、気づかれないようにするから、人員も少ないしの。ま、従業員側の条件が滅茶苦茶じゃな』
『うん、じゃあ、白黒はこの二人監視しといて』
『え?』
『私帰る』
『は!?』
『なんか進展したら呼んでね、それじゃ』
『ちょ、お主今なん……!?』
バタン。
背後の扉を後に、私はホールに戻った。
◇
朝食は終わっていたようだったが、ディーネと長身は椅子に座って話ている。
二人とも顔色がよさそうで、会話が弾んでいる。なんだか楽しそうだ。
「何してるの?」
「あ、ご主人様、やっと帰って来たわね!シュンとずっと待ってたのよ?」
「おん、リネアな、どうしてあんな美人さんがおること教えてくれなかったんや?」
「……正気?」
もしかしたら、シュンにはディーネの事が輝いて見えるのだろうか?
いやまぁ、確かにディーネは美人の部類だと思う。でもそんなに? 可愛い? なにそれ。目が腐ってるんじゃないのって言いたいくらいおかしい。
うん、私の目は腐ってない。
そう、ディーネはただ単にうざいだけ。
私は長身を少し引いた目で見る。
気づけ、自分の愚かさを。
「そんな目ぇせんといてくれへん?」
「……うん、帰るよ、ディーネ」
「無視!?」
最早こいつには呆れという感情しかない。
「うん、ご主人様。シュン、また会いましょうね」
「おん、ディーネさんもまたな」
バイバーイ、と、ディーネとシュンは親しげに手を振っていた。
私のいない間に友情が芽生えてる……一体何を話していたんだ……




