1.本当の記憶は、
私には5歳までの記憶がない。
思い出そうとしても、記憶にあるのは6歳の頃の自分。
不思議だった。
6歳以降のことなら、殆どのことを覚えている私が、どうして5歳までの記憶がないのかが。
しかし、全くないという訳ではなく、3歳の頃のある出来事は私の記憶に焼き付くように残っている。
それは、一面が真っ白な雪で、私の目の前にいる黒髪に紫色の目を持つ青年が、私と何か約束をしていて、私と青年は親しげな様子だった。
私はその青年のことは記憶の中でしか知らない。
実在する人物なのかも、分からない。
でも、忘れてはいけない、大事な記憶なような気がする。
◇
パチリと目を開け、体を起こす。
夢を見ていた。
私にとって一番古い記憶の夢を。
ここ最近、多すぎると言ってもいいほどよく見るようになった昔の記憶は、妙に印象に残る。
「……はぁ」
昔あったことだし、夢について考えるのも可笑しな話だ。
考えるのも時間の無駄。
そう思って、私は朝の準備を始めた。
私の名前はシュリア・ネーフェス。ネーフェス王国の第二王女。年は15歳。今は自国の学園に通っている。
私は家族に嫌われている。
家族構成としては父、母、兄、姉、そして私。
父や母、姉などは、昔から私に対する態度が冷たかった。物心ついた頃には、姉を初めとした家族によく嫌がらせを受け、存在しないかのような扱いは、常日頃と感じていた。
ただ兄だけは、私のことを気にかけてくれることが多かったような気がする。
父や母が、兄と姉が通う良い学校に私を入学させなかったのも、そういった嫌がらせの一貫なのだろう。
「……よし」
一通りの準備を終えた私は、朝食を食べに食堂へ向かった。
◇
朝の5時。
食堂は誰も居なかった。
こんな時間帯、起きていても部屋で過ごしている生徒がほとんどだろう。
私はいつも早起きをして、料理人が来る前に自分で作って食べている。7時くらいは非常に混みやすいので、こうして目立たない時間帯に食べているのだ。
「おはようございますっ、シュリア様っ!」
ふと、後ろから声をかけられ振り向く。
声の主はレイシア・オルフェ。金髪のドリルヘアーに桃色の目を持つ、嫌われものの私になぜかしつこく話しかけてくる公爵家の次女だ。
……やっぱりきた。
いつも私が朝食を作ろうとすると食堂に居るので、今日も来るだろうとある程度予想していたが、今日は少し遅めな気がする。
……まぁ、そういう日もある…よね。
「……ん。おはよう。……レイシアも、食べる……?」
「はいっ!是非っ!」
私がレイシアになにかしてあげる度に、彼女は大袈裟すぎるくらいに喜ぶ。
昔、パーティーで見た兄に引っ付き回っている令嬢みたいに、レイシアはずっと私の後を追い回している。
本当に不思議でならない。
「今日は何を作るのですか?」
「……適当に作る」
でも、レイシアに嫌いという感情はないので、一緒にいて悪い気はしない。
レイシアと共に朝食を済まし、いつものように学園へ行き、授業を終え、寮へ帰る。
今日もまた、そんないつも通り平和な一日だった。
……本当に、……退屈。
そんなことを思いながら、ベットに横になり、まぶたを閉じる。
◆
夢を見ていた。
……いや、……夢?違う。多分、これは……一番古い記憶の続き、あるいはその前の出来事……。
その日は雪が降る日だった。
凍えるほど寒い冬の真っ只中、当時3歳の私は城を抜け出していた。いわゆるちょっとした家出である。生まれてからずっと城の中に居た私にとって、外は憧れの対象、あるいは夢のようなモノだった。
そうして城下町をさまよっていると、気づけば辺りは森の中。空も薄暗くなり、夜へと時間が近づいていた。
私は帰り道が分からず不安に思い、今にも泣き出しそうな感情を抑えて、ただひたすら歩き回る。
そんな時だった。
『やぁ』
「──っ!?」
気がつくと、目の前に煙を纏う黒い小さな塊が、空中を浮いて私に話しかけてきた。
私は不思議に思った。
「だ…れ……?」
『ねぇ、ボクと契約しない?』
「けいやく……?」
『キミ、迷子でしょ?お家に帰りたいんでしょ?ボクと契約すればパパっとお家に帰れるよ』
「っ!ほん……とう…?」
『うん、本当さ』
どう見ても怪しい誘い。今の私なら当然断っている。
だが当時の私は幼く、家に帰れないかもしれないという不安な気持ちが強かった。故に、そんな怪しい誘いに乗ってしまうのだ。
「じゃあ、する。……契約、する。なにすれば、いいの?」
『うん、じゃあ手、出してね』
私は恐る恐る手をその塊に向かって出し、塊は私の手のひらの上に浮かぶ。
『そしたらキミがボクに名前を付ければ、契約は完了する』
「……名前………?」
その時、丁度辺りは雪だった。
だから私は、そこから連想してあの名前を付けた。
「…………じゃぁ、『スノ』。貴方の名前は、『スノ』」
そう言うと、手のひらに浮かんでいた煙を纏う黒い塊は煙をぶわりと広げた。
私は咄嗟に腕で顔を守り、目を瞑る。
煙が収まり始めた頃に、私はゆっくりと目を開ける。
そこには黒髪と紫色の目を持つ青年がいた。
私はそれがすぐに、自分が名付けたスノだと言う事が分かった。
「うん。この魔力も結構馴染んでる…。ありがとう、お嬢さん」
「……」
私の顔は驚きで染まっていた。
いきなり姿が変わっていたので、不思議だったのだろう。
「どうしたの?」
「……何で、人の姿…?」
私が問うと、スノは軽い雰囲気で教えてくれた。
「あーこれ?ボクの種族は契約したら契約者と似たような姿になるんだ。契約者との"ツナガリ"を示す為とも言われてるね。……あれ?なんで髪色が違うんだ……?というか目まで……」
スノの容姿は黒髪に紫色の瞳。
一方私は白髪のロングヘアーに水色の目。
私とはあまり似ていない。明らかに矛盾していたが、スノはそれほど気にしていない様子だった。
「……似てない」
「うん、そうだね。でもまあいいや。そんな問題になることじゃないし。そういえば、キミの名前は?」
「シュリア・ネーフェス」
「シュリア・ネーフェス……うん。よろしく、シュリ」
「!………よろしく」
唐突にあだ名を付けられて少し驚いたが、悪くないと思った。私とスノは、そこで握手を交わす。
その後、スノの力で私は無事に城の近くまで来ることができた。もちろん戻った後に両親に叱られたが。
後に知ったことだが、私はこの時、悪魔と契約をしてしまったらしい。
それを聞いた時の私は、まぁいいか、と楽観的な思考で考える事を止めた。三歳の私は能天気な思考をしていたんだな、と改めて懐かしく思う。
悪魔と契約というのは、代償が重すぎる事で有名だ。
命を犠牲にしたり、生け贄を捧げたり、体を奪われたり等々、酷いものが多い。
しかし私は思い返してみても、スノにそういった契約をさせられた覚えはなかった。ただ名前を付けただけ……それだけだった。
スノは契約をした日以降、ずっと無害だった。
様子を見るくらい、きっと大丈夫。そう思って、スノを手放さずにいた。
そうやって過ごしている内に、スノと出会って一年がたった。
私は四歳になり、スノも未だ何もしてこない。
それよりか、親睦が深まっているような気さえしていた。
スノは他の人に姿を見られるのを酷く嫌う。
だからいつも私の影に潜んでいた。だがスノは、私が一人だけになると出てくる時がある。
「やあシュリ」
「……いつの間に」
部屋で一人、本を読んで居たときに、私の影からスノが出てきた。時々急に隣に現れる事があるので、スノには毎回驚かされていた。
「何してるの?」
「本、読んでる」
「ん?それって魔術書じゃない?」
「そう」
「四歳のくせに難しいの読んでるねぇ」
「……暇だし」
「そっか。じゃあ、ボクがいいこと教えてあげようか?」
「いいこと?」
そう、そうだ。思えば、魔術についてはほとんどスノに教えてもらっていた。だから、私はいろんな意味でスノを信頼していた。
「魔術を使う時、大体の者は詠唱をして魔術を使ってるんだけど、実はそれ、無駄な行為なんだ」
「え」
「確かに詠唱は、魔術を発動させる手助けをしてくれる。けど結局は、魔術っていうのは術式を魔力で描いて発動させるものだから、詠唱をしなくても魔術はできるんだ。ほら」
スノはそう言って、術式を描いて手に水を浮かせる。コップ一杯分の量だ。
「ほんとだ……」
「でしょ?研究次第じゃ複雑な魔術も使えるんだよ、これって」
そう言われ、私はさらに複雑な魔術式が書かれていた本を思い出す。
今度やってみようと私は記憶の片隅にいれておいた。
「……ありがとう。教えてくれて」
「お礼はいいよ。シュリの為にボクが勝手にやったことだしね。あ、そうそう。これだけは絶対に覚えておいてほしいんだけど」
「何を?」
「ボクはずっとシュリの味方ってことをさ」
その言葉を聞いて、私はスノが私のことを特別な人間として扱っていることを再認識する。
そう言われて、嫌な気分にはならなかった。
「……うん、知ってる」
「ならよかった」
スノは安心したような、嬉しそうな顔をした。
◇
ある時、私は聖女に会った。いや、“会った”というより“見かけた”という方が正しいだろう。
「シュリ。あれって聖女?」
「ほんとだ……」
私達は庭園の近くを散歩していた。
そこには、私と同じくらいの年頃の少女が手を組み、何かに向かって祈っていた。すると、少女の目の前に少女と同じ大きさの木が生えてきた。
あれが、魔法。
「いつ見てもすごいよね。魔法ってさ、祈るだけで木とか水とか火とかが産み出せるんでしょ?奇跡って言われるだけあるよねー」
魔術なんかよりももっと自由性のあるモノで、世界でたった一人しか使えない魔法というモノ。
「シュリなら技術、盗めるんじゃない?」
「もう盗んだ」
「仕事が早いなー」
「……勝手に盗めてるだけ」
この世界には、スキルと言うものが存在する。
スキルとは、普通一人一つ持つことができ、その人が強く鍛練していたり、強く想っていると手に入るもの。だが、それが出来るのは十二歳まで。
勿論、その事例全てに例外はある。
私はスキルを七つ以上持っており、その中に『吸収』というモノがある。
それは、見たり殺したりすると、"対象"を吸収することが出来るというスキル。このスキルの"対象"は、スキルも含まれていた。
私のスキルは、ほとんどこのスキルで吸収して覚えてきた。なので私のスキルの半分は、このスキルの影響で生み出されたものなのである。
"吸収"できるものはスキルだけではなく、見たものの技術だって吸収することが出来る。
故に、聖女の扱う魔法を習得できたも同然だった。
試しに私は、水を生み出すよう願ってみる。すると、雨が降りだした。
「うわっ!急に降ってきたねー。ん?………もしかして、シュリの仕業?」
「………そう。ちゃんと、盗めてるよ」
「相変わらずすごいよ、そのスキル。じゃ、早く中入ろっか」
「ん」
そうして私は、魔法が使えるようになった。
◇
そして、ある時は。
「シュリ。これ、ちょっと見て」
何処からか現れたスノが、私の所に何かの破片を持ってきた。
「ボクが集めて来たんだけど、何かのパーツっぽくて。シュリのスキルで何か出来ないかなって思ったんだけど…」
「やってみる」
私は『創造』のスキルで創った『物質構造』で、スノが持ってきた破片を繋げていく。すると、真っ黒な剣が出来上がる。
ーーッ!?待って、これーーーッ!
私は咄嗟にその剣を離した。
「魔力が、吸われる………」
「え!?大丈夫か?」
「……今は………。どうしよう、この剣」
その剣を作ったはいいものの、魔力が吸われるとなると、扱いにくい武器といえる。どうしたらいいのか困る武器だ。
「………え?」
私はその武器を“見てみた”。すると、その性能がいかに優秀であることが分かった。
名前:
種類:オールウエポン
効果:破壊、気絶
※名前を付けることができます。
「効果……?」
効果がついている武器なんて、伝説級武器くらいなのに………何で?
「シュリどうしたの?」
何も喋らなくなった私を心配して、スノが話しかけてきた。
「………見て」
本当は、あまりこういったスキルを他人に見せるような事をしたくはない。でも、私はスノを信用している。なので、私が見えている“これ”を見せることにした。
「っ!?な、なにこれ……」
スノは驚きながらも、冷静にその武器の性能を確認していた。
「効果……って、伝説級武器創っちゃったの?すごいじゃん!ってことは、魔力が吸われるのはそのせいかな」
「……ん」
「しかもオールウエポン。いろんな武器に変える事ができる武器だね」
「私、基本杖しか使わないけど……」
「いざって時に結構役立つよ?それに珍しいし。持っておいて損はないよ」
「なるほど」
「それより名前がつけられるらしいけど、どうする?」
「名前……」
これは、あまり深く考えないようにした。これからの相棒になるかも知れない武器だけど。
私は呟く。
「………『破滅杖』」
私がそう言うと、剣が眩い光を解き放つ。すると、さっきまで剣の形をしていたこの武器が、黒い杖の形になった。
「! ………出来た」
「『破滅杖』、ね。それらしい名前だね。いいんじゃない?」
「……ん。………名前は付けたけど、結局は今の魔力じゃ使えないから、暫くはお預けになる……」
「まぁ、これでシュリの武器って定着したわけだし、いいと思うよ。シュリが成長したら使えばいいんだし。持っておくに損はないって言ったばっかりでしょ?」
「そう、だね」
私は『破滅杖』を私の亜空間へ入れた。
亜空間。
これは、スノのスキルの一部を吸収したモノである。本人が自分から吸収しろと言ってきて、取得したものだ。意外と便利で使いやすい。
今後も使っていけそうなスキルだ。
私はますますスノの事を気に入った。
◇
スノと過ごした数年はあっという間に過ぎていき、その日は訪れた。
ドレンドル・コーラス公爵率いる反乱軍が、王国を攻めてきた。
クーデターの始まりだ。
それだけではない。母が目の前で父を殺していた。
5歳になったばかりの私は、母が裏切ったことで混乱がさらに混乱して、どうすればいいのか分からなくなっていた。
城を離れて私の隠れ家に身を隠した。
私にとっての味方は、もうスノだけ。
「どう……しよう……?」
「シュリ……許せない?」
「当たり前………。私、なにもしてない、のに………。ただ、幸せに、過ごしてた、だけなのに………!」
そう、『幸せ』に。
……多分、『幸せ』に。
「………」
「そう、だよ……。なんで、アイツらは邪魔するの?何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時も何時もーーーーー!!私の『幸せ』を奪ってッ!!なんで?なんでッ、なんでッ!」
「シュリ、落ち着いてーー」
「今度は失敗しないって思ってたのに。邪魔されないって思ってたのに。なんでアイツらは、私を滅ぼそうとするの?勝手に悪人に仕立て上げて、勝手に殺そうとして!なにをすれば気がすむの?ーー特に、アイツだけは、絶対にーーー!」
「落ち着けシュリっ!」
「ーー!」
私は、スノの叫び声を聴いて、理性を少し、取り戻した。
ーー『冷静を欠くと、痛い目に合う』
父がよく口にしていたこと。私は、まさにそうになりかけていた。
「シュリの負の感情が強いのはよくわかった。その感情は、悪魔であるボクにとってはご馳走なんだ。見ていて楽しいし、面白い。………欲を言うなら、誰かを傷つけて、嗤ってほしい…………こういうことを望むのが、悪魔の本能なんだ。でも、シュリがその感情を持つのは、ボク、あんまり嬉しくない。
だからさ、ボク、シュリには健康でいてほしいし、幸せになってほしいんだ」
スノはふっと柔く微笑む。
「……ボクは、シュリを支え続ける。シュリがおかしくなったら、ボクが助けるし、シュリが苦しんでいたら慰める。ボクにとって、シュリはボクの全てだ。だから――――――早くその、シュリの敵を倒しに行こう?」
「ーーーそ……っか………ありがとう……スノ。もう、大丈夫、だから」
私はそう言うと、スノは安心したような笑顔をしていた。
◇
私達は反乱軍をできるだけ殺した。
赤という赤が、私の足元に飛び散る。
スノは強かった。敵の反乱軍と比べれば桁違いに強く、そして圧倒的。だからこそとても頼もしかった。
私は殺すという事も初めは躊躇した。
だけど、スノに全てを任せる訳にはいかないと思い、遠くで魔術を使って殺した。
次々と殺していく内に、殺すということは段々慣れた。慣れというものは恐ろしい。
でも、流石に死ぬということには恐怖した。
それは反乱軍に剣で心臓を貫かれた時だった。
自分から血が出ている事が怖かった。しかも刺されたのは心臓で、本来なら死んでも可笑しくはない場所である。だが私の意識は、はっきりとしていて、痛みだってある。
不愉快な気分だった。
「シュリっ!」
スノはすぐに駆けつけてくれた。
「大丈夫なの?」
「……なんともない」
「本当に?」
「…………えと、怖かった……。後、ここ痛い」
私は正直に言い、刺された場所を指指す。
「治すよ」
スノは簡易的な回復魔術で刺された場所を治した。
「心臓に刺されたのに、なんでこんなにピンピンしてるの?」
「………?あれ、スノ忘れたの?」
「え?」
「私のスキルの中に、『不老不死』って言うのがあるって………前に言ったんだけど…」
「!?」
『不老不死』
それは、私が産まれた時から持っていたスキルの一つ。ある一定の年齢になると、年をとらなくなり、容姿がそのままになる。また、死ななくなる。
というスキルなのだが、どうやらスノは忘れていたよう。
「……確かに、そんなことも言ってたな。でもさ、命は大事にしないと」
「……分かってる」
その後も反乱軍を殺していって、城にたどり着いた。
そこにたどり着くまで、何回も殺されて、何回も死んだ。
慣れというものは恐ろしく、50回を越える頃には、恐怖を感じなくなった。反乱軍に一時捕まりそうになったとき、反抗して何回も殺された。あれは辛かった。
「シュリ。ちょっと手、貸して」
「?…うん………?」
スノが城へ行く前に、そう言ってきたので、私はスノの手に私の手をのせた。
すると、繋いでいたスノの手が急に無くなり、代わりに、自身の中でスノとの繋がりが強く感じた。
「スノ………?」
『シュリ、大丈夫』
「え……?」
『今ボクは、精神生命体になっている。肉体と一時的に精神を切り離して、シュリとの”ツナガリ”を強めたんだ。こうすることで、シュリがボクの力を最大限に使う事ができる』
「………なるほど」
つまり、私はスノの力も使う事ができる、ということになる。恐らくスノとの契約の関係なのだろう。
「じゃあ……行くよ」
『うん』
私は城へと足を進めた。
◇
ドレンドルは、城の王の間に居た。
出会ってすぐに戦おうとした。しかし。
「貴様が不死だったのは計算外だった。まぁ、これで全ては解決するのだがな!!」
「……!あれは………!」
「逃げても無駄だ!」
私はドレンドルが何をしようとするのに気がついていた。
世界の記録を書き換えようとしていたのだ。
それはまずい。
私の、家族との思い出が無かったことになってしまうのだ。
ドレンドルが掛ける魔法は、神の領域に触れる禁忌の魔法だった。あれは聖女ではなくても、条件が揃えば使えてしまう魔法だ。
流石に無理かもしれないと、私は悟った。
私は自身のスキルに頼った。私のスキルなら、もしかしたら大丈夫かもしれないなんて、運に頼って。
だがスノは抵抗のしようがない。私が把握してる限り、スノはそういった抵抗できるものは無いのだ。
だから私は───私の中で一番最高の魔法を、スノにかけた。
魔術みたいな計算で確実に行えるのではなく、奇跡に頼る魔法だから、必ず成功するかも分からなかった。
でも私のこの魔法なら、一か八かで対抗はできるかもしれないと思った。
しかし、今の私の魔力量的に一人にしか使えない魔法だった。
だから私は、スノを選んだ。
私が記憶を覚えていても、スノはどこかに行ってしまう気がして。
スノが私のことを覚えていないくらいなら、私が覚えてない方がまだマシだ。
「スノ………忘れ……ないで………ね……」
「ッ!シュリ!?」
そこで私の過去の記憶は途切れる。
◆
ーーーッ!
長い長い記憶の夢から目が覚め、私は起き上がった。
そこは学園の、私の寮部屋。
あの記憶は……。
私は夢の内容を整理する。
長い夢は全て事実で、実際に起こったことである。
あの後、ドレンドルは国王、ドレンドルの子供たちは私の兄弟、裏切り者の母はドレンドルの王妃となっていた。
世界はその事実が最初からそうであったかのように変えられて、私の父は最初からいなかったことになってしまった。
あれは、そういう魔法だった。
マインドコントロール。
魔法のようでありながら、その本質は呪いとそう変わらない。世界全体を変えてしまうような魔法なのだ。
必要なのは
私は5歳以前の記憶を失くした。
契約悪魔のスノは、気づけば私の側からいなくなっていた。今の今までその存在すら私は忘れていたうえに、姿まで見えなくなってしまったのだから、スノが居なくなっても仕方がなかった。
ただ、スノとのツナガリはまだ感じている。まだ契約は続いているようだ。
魔法の効果が切れたのか、それとも誰かが解除したのか。何故かは分からないが、私は思い出すことが出来た。
だとしたらーー
「……殺さなきゃ。アイツを」
これは復讐だ。
家族を殺した時の復讐というより、私の自由を奪ったアイツらへの復讐。
早くやらなきゃ。早くやらないと、気が済まない。
私はベッドを降りて、部屋のドアノブを握って部屋を出た。




