探し人?何となくだがあっちに居るぞ?
「ほう?それは国としては一大事であるな。」
「はい、おそらくですが王妃様と王女様は他国の諜報員に連れ去られたのだと推測しています。」
センクリンドは悔しそうな顔を全面に浮かび上がらせつつも冷静さを失わぬように必死にかみ締めていた。
「ふん、そんなこと我にかかればひとひねりだ」
先程まで恐れていた兵士たちの顔色もパッと明るくなりテトを見る目が180度変わった。
「そうだな......こっから北の方角に20分間全速力で走れ、そうすれば貴様らの望む結果が得られるであろう。」
センクリンドはその言葉に少々の疑いがあるのだろう。真意を探るような眼差しで見つめてくる。
「我の勘は何時だって正しい。信じないと言うならばそれでもよかろう。ただし、」
「た、ただし、?」
センクリンドも動揺を隠しきれないようす。なぜと言うまでもないであろう。ドラゴン、人類の敵のモンスターだ。そんな奴の勘を信じろと言われているのだ。信用できるはずがない。
「ただし、今すぐ行かなければ良い結果は見込めないな。忠告と告げはここまでだ。行け。料理とやら、実に美味であったぞ」
テトは大きく羽ばたき騎士達の拠点を吹き飛ばしながら飛んで行った。
「ふん、拠点も吹き飛ばしてやったのだ....これでも向かわないと言うならば見込み違いというものだな。」
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「だ、団長、」
センクリンドは戸惑っていた。モンスター、それもドラゴンだ。人類の巨悪だと信じて疑わなかったドラゴン、それも全ての頂点に君臨するエンシェントドラゴンだ。だが何故だか奴からは敵意を微塵たりとも感じなかった。やつが我々を取るに足らないと存在と感じているのか.....もしくは本当に敵対したくないのか、確証がない。が。
「私も、私の勘を信じてみる他あるまい。」
センクリンドは全軍の指揮を取りは始めた。センクリンドは全軍から信頼されている人望に厚い団長である。そんな人間の言葉を疑うものなど誰もいない。センクリンドが先導し重装備の鎧をまといながら20分全速力で走り続けるとそこには何やら荷台と黒服の人が周囲を警戒していた。
「あれはまさか?!全軍!進撃せよ!!!」
センクリンドの掛け声に応じて荷台を取り囲む黒服を瞬時に制圧してみせた。荷台にかぶさった布をどかすとそこには探し求めていた姫様と王妃様がいた。
「なんと、」
***
「ふん......暇だ。」
センクリンド達と別れてから数日経ったある日、ふとそんな事を思ってしまった。今まで数十年は暇を感じることなど無かったが、あの日食べた料理を思い出すといてもたってもいられなくなってしまった。
「あの料理をもう一度食べる方法、そんなもの、ひとつしかあるまい。」
この日ある決断をした。伝説の魔物であるエンシェントドラゴンのテト。彼は幸運の女神に守られている。そんな彼は自分の街を創ることに決めた。
「クッハッハッハッハッハッハ!!!!なぜ今まで思いつかなんだ!うまい飯を食うためには人間との交流は不可欠!!そうと決まれば早速向かうとしようではないか!!」
テトは好きなことを好きなだけして生きていく主義。故に自分以外の気持ちなど考えたこともない。自分がどう思われているかなど百も承知。それでもやろうと決めたことをやらないなど有り得ない。なぜなら幸運の加護。自分の願いを完璧に叶える力をテトは持っているからだ。思い立ったら吉日のテトは早速リードルドへ飛び立った。人間にとっては数日かかるような旅路もテトにとっては数分の距離、あっという間にリードルドへ到着したのだ。
「かなり栄えたいい国ではないか。我の一踏みくらいなら耐えれそうだな。」
テトは上空からゆっくりと下降を始め近くの草原に降り立った。
「フン、我ながら自然に配慮した良い着地だ。大地に感謝せねば我らは生きていけぬのだからな。」
感傷に浸っていると、国を囲む城壁の上に見覚えのある人影を確認した。
「ぬ?あやつは確か.....」
城壁に顔をゆっくりと近づけるとそこに居たのはセンクリンドであった。
「数日ぶりだな。センクリンド。どうだ?我の勘は当たっていたであろう?」
「貴方のご助力のおかげで王妃様、王女様。共に見つけ出すことが出来ました。」
「借りを返したまで、礼など要らん。我は貴様らの王に用があるのだが、話をさせろ。」
センクリンドの返事など関係ない。
「王城とはあれであろう?我が直々に向かってやるとしよう。」
とてつもない地響きとともにテトは歩を進め始めた。数歩歩いたところで王城の真横に着いた。そこから国の防壁と城壁を顔だけ乗り出し中を覗いた。ガチャリと王城のベランダが開き髭の長い王冠の被った人間が現れた。
「其方が、我が娘と妻を救ってくれたドラゴンであるか。」
「そんな前触れはどうでも良い。飯の礼をしただけだ。我がここに来た目的はひとつ。」
「な、なんであろう。我にできることであったら何でも応えて見せよう。」
「ほう?何でも、と言ったな?」
王様はごくりと唾を飲み込みテトの要求を待ち構えた。
「では、こっから少し離れた場所の、そうだな。あの山の当たりの土地を貰おう。そこに我は街を作る」
「ま、街、ですと?」
王様は戸惑ったように目を見開きそんなことを聞き返してくる。もちろんテトのこの言葉に深い意味など全くもってない。ただ単純に美味い飯が食べたくなっただけだ。それがなぜ今日なのかとか色々あると思うが、全ては勘で完結してしまう。それがこの生物、エンシェントドラゴンのテトである。
「そうだ。我は美味い飯が食いたいだけだ。あそこら辺の森と山を我によこせ、以上だ」
「そ、そんな要求で良いのですか....?」
「無論だ。われが街を作ったあかつきには税も納めることを誓おう。これは契約というものだ。」
「そ、そうか。」
「ではさらばだ。」
明らかに一方的で正式な許可などとっていない力技の交渉。だがそれすらエンシェントドラゴンには関係ない。エンシェントドラゴンが近くにいるということだけで他国からすれば脅威......どころか世界的に見ても脅威になるであろう。最強の庇護を山と木々の数々で取引できるのだ。周辺の土地を全て渡すことだっておかしな話ではない、そんな交渉をものの数十秒で終わらしてしまった。
「まずは人材を集めねばな。我には女神様がいる。女神様の導きの通りに進めばなんとかなるであろう。」
とてつもなく豪快な笑い声と共に空を飛び立つエンシェントドラゴン。西の王国の民たちは震え上がっていたが、王様からしてみたら好きに生きている脳天気な子供に見えてしまった。
「始めるとするか。我の3食美味いもの生活を!」




