暇だ!飯だ!日向ぼっこだ!
エンシェントドラゴン、それは全ての魔物の頂点に君臨する最強の魔物。人々はいつか来るであろう厄災に備え牙を研ぎ続けていた。ドラゴンは世界を滅ぼす。そう言われ始めて早6000年が経ち、遂に動いてしまったのだ、エンシェントドラゴンが世界を滅ぼす旅に!.........と、そうでもなかった。
「暇だ。」
かの災悪と呼ばれる伝説の魔物。エンシェントドラゴンのテトは暇を持て余していた。ドラゴンというものは常に暇なのである。ここ3000年は襲いかかってくる暇つぶしも居らずかなり暇していた。世界のあらゆる知識も網羅してしまった為本当にやることが無くなったのだ。最近することといえば昼寝と飯を食らうのみ、日々何をしようかと考え続けていたのだ。
「食事も魔物の肉のみでつまらん....今では新鮮な野菜を食いたいとすら思ってしまうくらいだ。これを手持ち無沙汰と言うのであろうか」
エンシェントドラゴン。それは巨大なドラゴンである。例えば国を一望できるほどに巨大な城があるとしよう。だがそれはエンシェントドラゴンにとってはいい感じの扉くらいのサイズ感でしかないのだ。その上彼、テトは人を嫌っている訳でもない。彼らの文化についても学び尽くしてしまったからこそ分かる。彼らには彼らなりの理由があり我らと敵対しているのであろうと。それを分かっているから迂闊に外には出れないのだ。エンシェントドラゴンが見つかったともなれば国が動いて討伐に向かってくるだろう.....否、見つかろうが見つかりまいがどうだって良い。なぜって?最強だから。責めてきたとしてそいつらの国など一踏みで壊滅的被害を受けるであろ。なんならその国の城を掴んで持ち帰ってやろうかと思っているくらいだ。
「久しぶりだが、散歩にでも出かけるか」
テトはご飯が無くなる以外で巣を空けることはないが今日は偶々陽の光を浴びたくなったのだ。
「なぜだか今日はいい事が起こりそうだ。フフン我の勘はよく当たるのだ。きっといい一日になるぞ?何故ならば我には女神様が付いておるのだからな!クアーッハハハハハ」
女神様。それは天界に住んでいるとされる神様のことである。女神は人々、時には魔物に女神の加護を与えそのものに大いなる力を与え、守護する者である。女神の加護を持つものは極小数の限られた者しかおらず、加護を持つ者は何かしらの名声を得ていることがほとんどである。エンシェントドラゴンのテトが持つ女神の加護は幸運の加護である。単純に運がいい.....という次元を遥かに越しており元々の力と合わさり法則すら捻じ曲げることもあるのだ。このことからテトに攻撃は当たらないだったりすり抜けるだったりと不可解なことが起きる。
「我は運がいいからな」
テトは活動を終了した火山に住んでいた。そこには大国を買収しても有り余るだけの金銀財宝が敷き積まれてる。そんなところから大きく羽ばたき空へ向かって飛び出した。
「久しぶりの空はいいものだ、空気が美味い。」
大空から見下げる景色は実に美しく広大な海に雲まで突き抜けるように巨大な山。何者だろうと通ることの出来ない程の密度を誇る森。自然豊かな世界を堪能していると何やら煙のような匂いがした。
「ぬ?山火事でも起きているのか?ここいらの景観を崩すのは我も看過できん、仕方あるまい。我が消火してやろう、今はとても気分がいいからな、感謝せよ」
テトは煙の臭いを頼り、と言うのもあるが殆ど勘で煙の上がっている場所に向かった。どうやら山火事ではないようだ。数キロ先ではあるが、鎧を着た騎士たちが野営をしているようだ。
「ほう?あれが俗に言うキャンプと言うやつだな?なかなかに興味深い。」
否。野営である
その野営地からは何やらいい匂いがしている。おそらく料理とやらを作っているのであろう。テトは火事などどうでも良くなり料理に興味津々であった。
テトは争いを好まない。襲いかかって来た者は迎え討つがテトから人々を襲った過去は1度たりとも無い。
「奴らが我に恐れおののく事など分かりきっておる。攻撃されたとしてもやり返さなければ良いものよ。」
自分的にはかなりいい落とし所かと思っているのであろう。だが忘れてはいけない。彼が最強だということを。
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とてつもない風が巻き起こる。世界が揺れているんじゃないかと錯覚するほどの揺れだ。鎧を着た騎士たちは他の拠点とは見ただけでわかるほど豪勢な拠点の周りを取り囲むように陣形を組み武器を構えながら空を見上げた。
「む、あァすまんな。人間は脆いということをすっかり忘れていたぞ。」
ズガンという轟音と共に地に足をつけた1匹のドラゴン。騎士達はその姿を見るなりカチャカチャと鎧の音を立てて震え上がっていた。だが、豪勢な拠点から出てきた者がこちらを観察するように真っ直ぐな目で見つめてきた。
「ほう?我を見て震え上がっておらぬとは。なかなかに素晴らしいぞ?強き者よ」
テトは羽を畳み腕を組んでそんなことを口にする。すると1人の男が勇敢にもテトへ話しかけた。彼はセンクリンドと言うそうだ。西の王国騎士団の団長を務めているのだという。騎士団の団長ということもあり他の者とは明らかに違う鎧を身につけている。だが、鍛え抜かれた肉体が鎧から浮き出ているかのごとく存在感を発している。
「貴様に敬意を払いこちらも名乗ろう。我の名はエンシェントドラゴンのテトである!」
ただのドラゴンごときではない。エンシェントドラゴンという言葉がさらに騎士たちを震え上がらせた。
「貴様はさっき交渉といったな?」
「あぁ、その余地がないのであったら我々も抵抗するしかなくなる。勝てぬ戦に部下を付き合わせる訳にはいかない。部下の命を軽んじる様な奴に団長は勤まらないであろう。」
センクリッドの言葉に一切の揺るぎなどなく真意を説いていた。
「ふん、そうだな.....では飯だ」
「え?」
「我に人間の料理とやらを披露しろ。そしてもてなせ、それがこの場を去る条件だ。」
騎士達も状況をあまり理解していないのか目を真ん丸に見開きこちらを眺めてくる
「どうした?早くせぬか」
「手の空いているものは早急に手を動かせ!!」
センクリンドの言葉で全員我に返ったのかハッと目覚め急いで調理を始めた。センクリンドの指揮は的確で素早くあっという間にイブルボアという魔物の丸焼きが完成した。
「ふん、これならば我でも作れるぞ?ただ焼いただけではないか。」
「野営中ではありますが私達の中にはアイテムボックス持ちも多くおります。様々な調味料を組み合わせ現状最適の料理をさせて頂きました。お召し上がりください」
センクリンドの目は変わらず真っ直ぐテトを見上げる。
「そこまで言うのであれば....頂くとしよう。えっと、確か。いただきます、だったか。」
テトはイブルボアを摘み上げ口に放り込んだ。容易に飲み込めるようなサイズではあるもののしっかりと味わうために何度か咀嚼を繰り返し始めた。
「?!!!!」
テトは目を見開き驚愕した。人間の料理の味わい深さを。
「なんということだ........これがあのイブルボアだと言うのか?!まさか、貴様....イブルボアの皮を被せたドラゴン肉ではあるまいな?!」
「正真正銘。イブルボアの丸焼きでございます。」
「なんと....人間というものはまだこれ程までの叡智を隠していたとは.......気になる、ますます気になるぞォォォォ!」
ふた噛みもすれば粉々になってしまうようなちっぽけな肉。だが今まで食べた肉の中で明らかにトップクラスの美味しさであった。その味に興奮し空に向かって方向をあげてしまった。
「おぉ、すまない、思わず叫んでしまった。」
部下たちも安心したのだろう。ほっと胸を撫で下ろすものもいれば緊張から立てなくなるものと様々であった。
「食の礼だ、何でも申してみよ。我が願いを叶えてやろう。」
「よ、よろしいのですか?」
テトは腕を組みなおし見下げるようにセンクリンドに語る
「食の恨みは凄まじいとは聞くがそれは逆もまた然り、という訳だ。此度のキャンプの目的を話すのだ。」
「で、では。此度の遠征の理由を話させていただきます。」
渋々、というか断れる訳もなく遠征の目的を話し始めた。
「私達西の王国騎士団はある人を探しにここまで来ました。そのある人というのが、」
王妃様とその娘の王女様です。




