第一話「軍人」
永遠はいつしか英雄を 英雄を呼ぶ
英雄はいつしか永遠を 永遠を呼ぶ
魂を燃やす剣と鎧は 全てを捨てる
星は星々は 道を照らす
遥かならせんを 目指して
赤い星と共に 光り輝く
奈落は異質な物ばかり 鍵は手がかり
落ちた星は 星の束
打ち倒すは 獅子の英雄
ひとひらの光が獅子を 駆り立てる
落ちた星は 星の束
打ち倒したのは 獅子の英雄
──レオソル賛歌 一節
◇
「全団、最敬礼ッ!」
雄々しい声と共に、勇ましい軍人達の制服が擦れる音が響く。
帝国の国旗が掲揚され、国歌を奏でるラッパ達が穏やかに通過する。晴れやかな空は祝福の声を上げ、海燕達が群れを成して私達の上を舞っていた。
やがて登壇。
高々に立つその姿。
英雄、または「ガラクシアの弾丸」
帝国軍人達が最も憧れ、最も畏怖する存在。
ガラクシア帝国七代目皇帝「ゼラ・カーディナル・バレット」
末端もいいところの私なんかが口にするだけでも畏れ多い名前。
この先もずっと、永劫接する機会なんて訪れないだろう。
「本日は記念すべき、ガラクシア帝国が建国された日である。それは我の先代達が幾重にも血を紡いできた証だ。我はこの日をいつも待ち遠しく思っている。それは諸君らもそうだろう、立派な帝国軍人、帝国民ならば」
敬礼したままの手には汗と、最大限の敬いを握る。
軍人達の間に緊張が走り、息をする事さえ忘れそうになるほどの威圧感が放たれる。
動くことさえ許されない今この瞬間、私は心地よいとさえ思えた。
「特別で、素晴らしき日である今日、諸君ら帝国軍人に告ぐ」
誰もが期待をし、胸を高鳴らせ、唾を飲む。
皇帝のお言葉を待っている。
全てを撃ち抜く言葉を。
高揚感は止められず、止むことを知らない。
さぁ、私達下僕へお言葉を。
「恥を忍び後世に仇をなすか、我の駒となり、ガラクシアの防波堤となるか。国の興廃、諸君らにある。我に生きる者たちよ、一層奮闘努力せよ」
そう言い放ち、私達を撃ち抜き、颯爽と姿を消してゆく。
今すぐにでも叫びたい。
誰もがそう思っているだろう。
その気持ちを強く抑え、皇帝の姿を最後まで目で追う。
遠くの方からは歓声のようなものが微かに聴こえる。
恐らく中継を通して聞いていた国民だろう。
私も皆と一緒になって叫びたい、讃えたい。
でも厳格な軍人である以上、駒である以上は表に出さない。
それが私達だ。
そんな素晴らしきこの日はあっという間に過ぎ去って行った。
「おはよう、アリエス」
「おはよ、バラン」
賑やかな朝の食堂は軍人達の僅かな休息の時間でもある。
隣に座るバランはいつもと変わらないメニューだった。
「先週の皇帝の言葉、痺れたな」
「まだ言ってる…」
「いやいや、あの感動はそう簡単に無くならねぇよ。早く上に行って、皇帝の傍についてみてぇなぁ」
「いっつも言ってるねそれ」
「いやいや、お前もそう思うだろ?」
「まぁ、そうだけど………それ貰うね」
「あっ…おい、勝手に取るなよ」
「もう私の口の中〜」
「じゃあ俺も…なっ!」
「あっ!それ最後まで取っておいたのに!」
「うるせぇお前が先に取ったのがわりぃ」
「バランはいつも同じのだからいいでしょ!この普遍男!」
「んなっ…関係ねぇだろそんなの!」
言い合っていると後ろから声がした。
「朝からよくやるねぇ、君たちは」
「………おは」
「あ、おはよバン、セーナ」
なんかお洒落な朝食プレートを持ったバンと、今日はリンゴ一つだけを手にしているセーナ。
「なぁバン、今のはアリエスが悪いよな!」
「いや、知らないよ」
「じゃあ、セーナは!?」
「………どうでもいい」
「馬鹿バランはほっといてさ、今日の作戦会議しようよ」
「…馬鹿だと!?」
「そうだね、今日こそは勝ちたいよ」
「じゃあバン君から意見どうぞ」
「…僕からなのね、それじゃあまず…」
──警告ッ!第五アーセナルに謎の飛来物有り!第五星団至急対応されよッ!繰り返す──。
不穏な警報と力強い声色が重なり合う。
賑やかだった食堂はあっという間に慌ただしく、ピリついた空気へと変貌した。
──イドラ隊、聞こえるか、応答しろ。
取り付けているチャームから隊長の声が聞こえた。
「イドラ隊、アリエス、応答します!」
──よし、まずお前たちは南ゲート防衛班と合流しろ。防衛班はゲートから三時の方向、八百メートル先で交戦中だ。手を貸してやれ。
「了解!」
──敵の正体は未だ不明。だがアーセナルの爆破を狙っている可能性大だ。アーセナルは俺らの核、絶対に通すな。
「隊長は今どこに?」
──俺は今…………。
途切れる音と共に、皆に視線を向ける。
戸惑うことなく、皆目線は目的地の方へと。
「何が起こるか分からない。気引き締めて、行くよ…!」