表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

誰か、白雪姫の俺を助けて!

作者: ミドリ

今年のはじめにかるーいノリで書いた作品です。

普段の私の作品と比べて作者違うんじゃないかと思われるかもしれませんが、同じ作者です。

なんでも許せる方向け。

 うちの父様は、母様が大好きだった。


 お忍びで城下町に行った時、花屋の看板娘だった母様をひと目見て恋に落ち、その場で告白したんだって。情熱的だなあ。まあ、断られたんだけど。


 母様は最初は父様のことを「なにこの頭のおかしいボンボン」って思ったらしい。だけど、毎日熱心に通っては花を全部買い、よたよたよろけながら城方面に帰っていく父様を見て、興味が湧いた。で、後を付けてみて「あれ、もしかして王子?」と気付いた。


 父様は、王子だっていう色眼鏡で見られたくなかったんだって。だから身分を隠して毎日通い詰めて、好きになってもらおうと努力した。


 母様は、父様の信念に絆された。


 百回目の告白で、母様はとうとう頷いた。その時に起きたスタンディングオーベーションといったら、凄かったらしい。みんな見守ってくれてたんだな。俺も見てみたかった。


 で、二人は恋愛結婚を果たして、そりゃあ幸せに暮らしていたんだ。


 問題は、この後。


 母様は俺を妊娠して、産んだ。だけど産後の肥立ちが悪くて、そのまま儚くなってしまったんだ。


 父様は泣いた。泣いて泣いて、溶けてなくなっちゃうんじゃないかってくらい泣いた。


 王様になっていた父様を支える為、臣下たちはしっかり者の後妻を即座に探してきた。


 それが俺の継母だ。元々他国で宰相をやってたすごい人で、彼女が来て国政が一気に立ち直った。


 だけど、肝心の王様はちっとも立ち直らない。墓の前に大量の花を捧げては泣くだけの毎日だ。


 このままでは国が拙い。義母様(かあさま)は焦った。


 そして、とある作戦にでた。


 それが俺の女化作戦。正確には女装だけどな。


 俺の見た目は、滅茶苦茶母様似らしい。俺を女として育てたら、父様も何か元気出るんじゃないかなっていう苦肉の策だったそうだ。


 父様は母様が死んだ後、俺のことにまで気が回らなくて、俺はずっと乳母やに育てられていた。俺が男か女かも分かってなかったっていうんだから、ある意味凄いよな。


 でまあ、赤ちゃんな俺に義母様(かあさま)はひらっひらのドレスを着せたんだ。


 当時描かれた肖像画がある。俺、まじで可愛かった。


 父様もそんな俺を見て、ようやく泣くのをやめたんだって。


 そしてそのまま年月が経ち、少しずつ成長していく俺。義母様(かあさま)に滅茶苦茶管理されて、常に超絶美少女たらんことを求められた。俺男なのに、国の美少女番付で一位なのってどーなの。


 ちなみに美女番付で常に一位になるのは義母様(かあさま)だ。いやまじで凛とした綺麗な人なんだよ。しかもなんだかんだで絆された父様が義母様(かあさま)に惚れちゃったお陰で夫婦仲もラブラブだし、もう俺の女装要らなくない?


 でもさ、義母様(かあさま)に「この嘘がバレたら多分王様のメンタル保たない」って頭を抱えながら言われて……うん、俺もそんな気はするんだけどさ、俺の人権は?


 でさ。


 二次性長期ってあるじゃん? 俺にも来たのよ、それが。人類皆平等ってね。あはは。


 背は伸び、体つきも男らしく、顔だってそれまでの可愛い系から格好いい系に変化を遂げる。ついでにすね毛と脇毛も生えてきた。


 肩幅ってさ、広がるでしょ。毎日青い顔をして俺の背と肩幅(とすね毛)を測っていた義母様(かあさま)は、奥の手の、城に古くから伝わる【魔法の鏡】に縋ることにした。


 この【魔法の鏡】は昔々とある魔女がくれたものだけど、何でも知ってるけど遠慮なく何でも言っちゃう代物。


 空気を読めよってことも言ってしまうので、なんとなーく奥の方に追いやられてた曰く付きの鏡だ。それに俺の男化 (いやだって男だし)の対処法を聞いたらしい。


 で、義母様(かあさま)が目の前に妙に怪しげな濃いピンク色をしたりんごを差し出してきた。


「ほら白雪ちゃん、美味しそうよ、食べて!」と。


 もう絶対怪しい。義母様(かあさま)が善人そうな笑顔の時は、絶対裏があるって俺知ってる。


 だから俺は、脱兎の如く逃げた。そうしたら、義母様(かあさま)がりんごを持って全速力で追いかけてくるじゃないか! こ、怖え! それ絶対毒りんごの色だから!


「いいから食べるのよ! ひと口! ひと口食べたら女の子になれるからっ!」

「ばっ、ふざけんな! 俺は男だぞ! 隣の国の可愛いって評判の王女ちゃんと結婚するんだから!」

「隣国の王女なんて醜女よ! 義母様(かあさま)会ったことあるから知ってる! それよりも反対の国の王子様、めっちゃイケメンだからこっちを狙いましょう!」

「そんな情報要らねえ!!」


 俺と義母様(かあさま)は、城の中だけでなく城下町でも追いかけっこを繰り広げた。みんなさ、「またやってるよ、仲いいねえ」みたいな生ぬるーい目で見るのやめて。


 女装は慣れてるからまあ別に……なんだけど、例え相手の容姿がどんなに優れていようが、男と結婚する気はない。


 でもこのままだと、強引な義母様(かあさま)にいずれ女体化されて、どっかのイケメン王子の毒牙に――!


 いや無理っすわ。


 俺は覚悟を決めると、「迷子になるから入っちゃ駄目よー!」と義母様(かあさま)に言われ続けていた裏手の深い森に駆け込んだ。


「もう嫌だッ! こんな家、出ていってやる!」

「ま、待ちなさい白雪ちゃん! そっちは本当に危ないからっ!」

「やだ! 俺は男だー!」


 こうして俺は、人生初の家出をした。



 やっほー! 俺、白雪。現在、迷子の真っ最中だよ!


 森の中を無我夢中で突き進んでいたら、お城も見えなくなっちゃってさ、さすがに「これ拙くね?」と思った。で、ちょっと引き返そうかなーなんて思って振り返った時。


「……うおっ!?」


 真後ろに、なんか小さいおじさんが立ってたんだよ。ビビった。


「迷子か?」


 小人が聞いてきた。俺は素直に頷く。だって迷子だもん。


 普通はさ、ここで「じゃあ案内してあげよう」って流れを期待するじゃん?


 だけど、違った。小人は意外なほどの馬鹿力で俺の手首を掴むと、引っ張り出したんだ。


「えっ!? あの!?」

「丁度女の手がほしかったんだ。お前料理はできるか」

「できない」


 即答した。だって俺、王子様だし。普通厨房には立たない。


「……なら掃除は」

「したことない」


 小人は絶句した。だから俺、以下同文。


「な、なら……本は読めるか!」


 キレ気味に聞かれて、これには頷いた。だって俺 (もういいか)。


 小人は鼻をフン! と鳴らすと、俺をぐいぐいと森の奥へと引きずり込んでいく。


「ならお前の係は俺たちが寝る時に本を読み聞かせる係だ!」

「俺たち……って」


 小人が、邪悪そうな笑みを浮かべた。


「我々、森の七人の小人のことだ」

「森の七人の小人……」


 俺はハッと気付く。おとぎ話で聞いたことがあったからだ。悪さばかりする小人集団で、人間を捕まえてきては死ぬまでこき使うので遭遇したら逃げろって奴だ。確か。


 小人が、ニヤニヤしたまま続ける。


「お前は身なりがよさそうだが、助けを呼ぼうが無駄だぞ。俺ら小人は、お前を奪いにくる兵士――つまり男を見た瞬間に食い殺すからなッ!」

「ひっ」


 えっ、食べちゃうの!? 俺男なんだけど!? うわっ、絶体絶命の大ピンチだよ、どーする俺!?


「は、離せっ」


 手を引っ張り返しても、義母様(かあさま)が可憐に育てた俺の腕力は悲しいほどになく、小人の手はぴくりとも動かなかった。悲しい。


「無駄だ、お前は我々の奴隷となるのだっ! わっはっは!」

「やだーッ!」


 俺の抵抗も虚しく、気が付けば一軒の木造一軒家の前に到着してしまう。すると、中から別の小人がワラワラ出てきたじゃないか。


 醜悪な顔つきな上、風呂に入ってないのか臭い。俺、たおやかに育てられたからこんなワイルドなの無理……!


「可愛い女の子だ!」

「何ができるんだ!?」

「本の読み聞かせだ!」

「いいじゃないか!」


 あっという間にむさいおっさんたちに囲まれた俺は、「へ、へへ……」と愛想笑いをするしかなかった。



 小人の家に拉致監禁されて、はや三日。頭も身体も痒くて仕方ない。


「風呂に一緒に入ろう!」とエロ小人に誘われたけど、いや、脱いだ瞬間男だってバレるから。バレたら食い殺されると分かって風呂に行けるか。てゆーか女子と一緒に風呂入ろうって考えるあたり、倫理観やばいぞこいつら。


 兵士の何人かを食べてやったって聞いて、俺は絶望した。助けがこないじゃん。


「もう帰りたいよう……っ」


 となると、頼りになるのは義母様(かあさま)ただひとり。でも女体化したくないのも事実で、積極的に逃げる気も起きない。


 どうしたもんか。小人たちが狩猟に出かけている今なら、逃亡の機会はある。逃げ切れるかは微妙だけど……。


 するとその時、玄関のドアがノックされた。


 なんだろう? と思い開けてみると、黒いマントを目深に被った老婆が立っているじゃないか。いや本当、誰?


「……これをやろう」

「え?」


 老婆が差し出してきたのは、例のりんごだった。おーい、ある意味毒りんごだぞ。


 だけど、老婆は淡々と続ける。


「ここから出たければ、ひと口齧るのじゃ。【鏡】にはそう出ておる」

「【鏡】って……まさかおばあさん、義母様(かあさま)の代理の人!?」


 ようやく助けが来たんだ! でもりんごを齧るって、どうして?


 かといって、何も行動しないままでは俺の人生、早々に詰むのは間違いない。だって俺は成長期真っ只中。その内髭も生えてきたら……わあああっ!


「では……」


 老婆はスーッと後ろに下がると、そのまま掻き消えてしまった。えっ! すげえ! 魔法じゃん!


 何はともあれ、俺はここから脱出したい。勢いよく、がぶりとりんごに齧りついた。


 そしてそのまま、昏倒した。



 ドン! という衝撃とともに、喉に詰まっていたりんごの欠片が口から飛び出す。


「――カハッ!」


 へ!? なになに!?


 驚いて起き上がろうとしたら、ゴン! と頭を何かにぶつけた。地味に痛い。


 すると、回りでざわめく声が聞こえるじゃないか。俺はゆっくりと瞼を開いた。


 真っ先に視界に飛び込んできたのは、膨らんでいる自分の胸。あ、やっぱり女体化してる……吐き出しただけじゃ駄目なのか。え、嫌なんだけど。


 それにここどこ、なんで俺ってばガラスの棺みたいなのに入ってんの? 状況把握できません、誰か説明して。


 視線を彷徨わせていると、俺が頭をぶつけたガラスの蓋がゆっくりと開けられていくじゃないか。


 直後、目の前に突然俺と同い年くらいのキラキラした顔の男が現れた。近っ!


「――白雪姫!」

「わっ!」


 声、でか!


「王妃殿の言われた通りだった! ああ白雪姫が今日も可愛い……動いてる……! 生白雪!」

「え、きも」


 金髪碧眼の王子系イケメンで身なりもいいけど、俺を見る目がヤバい。


 男は垂れかかっていた涎を手の甲で拭い取ると、急にシャキッとして言った。


「ご挨拶が遅れました。(わたくし)、隣国の第二王子です。以前お見かけして以来、ずっとお慕い申し上げておりました」

「はあ……というか、ちょっと状況が分からないんですけど」


 戸惑う俺に、隣国の王子って奴が説明する。


 実はちょいちょいお忍びで俺の姿を覗き見しにきていた王子は、追いかけっこをして森の中に逃げていった俺の姿も見ていたそうだ。


 気が狂ったように俺を呼ぶ義母様(かあさま)に声をかけると、「うちの夫よりは頼りになりそう!」と言い放つ義母様(かあさま)と一緒に【魔法の鏡】に会いにいった。


 そこで語られた、俺が小人に拉致監禁されてこのままでは男バレして食われて死ぬ、という未来予想に、二人とも阿鼻叫喚する。


 ちなみに王子は俺が男だって前から知ってたけど、関係ないって言われた。いや気にしろよ。


 どうしても俺を助けたい二人は、タッグを組むことにした。


 小人は、逃亡するところを見ると追いかけてきて殺す。だけど家の中で勝手に死ぬ分には、「不用品」扱いになって森の外に捨てにいくんだそうだ。


「りんごを齧ると、成分を身体に馴染ませる間仮死状態となります。その作用を利用し、小人に白雪姫を捨てさせたのです」

「え、俺仮死状態だったの?」

「ですね。森のどこに捨てるか分からなかったので、国王の代わりに兵を指揮して森を囲い込みました。そしてあなたを見つけたのです」


 王子はうっとりとした表情で俺の手を握る。


「無事に見つけられた暁には、私と結婚してよいと許可を得ております」

「は?」

「白雪姫、幸せになりましょうね」


 ねっとりとした目をした王子の顔がどんどん近づいてくる!


「や、やめろっ! 俺は男――」

「もう女の子ですよ、うふ、ふふふ……!」

「ぎゃああああっ!」



 こうして俺は、隣国の第二王子を婿に迎える羽目に陥ったんだが。


 実は結構、うまくいっている。


 だってこいつ、優秀だし激甘だし、俺のこと大好き過ぎるし!


「愛してるよ、ハニー♡」

「ダーリンてば♡」


 俺とこいつの可愛いベビーができるのも、近い話かもしれない。

面白かったよ! と思われましたら、是非ブックマークまたは評価(⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎)をぽちっとお願いします♪

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ