古本屋主人と客
古本屋開店一日目
誰も来ませんでした。
宣伝が足りなかったか、店の立地が悪いかな
まだ絵本とか恋愛小説ぐらいしかない店だから仕方ないか
チラシにもそう書いたし、興味を持たれなかったんだな
組合の人にもらった本ばかりなのも悪いな
はやく新しい本を入荷しよう
※今日のご飯は菜の花のおひたし。苦味がうまい。
古本屋開店二日目
痛々しい本を仕入れてみた
どこがどう痛々しいのかといえば、簡単に言えば中二病的なものである
きっと興味を持つ奴が現れるはず!
そう意気込んでいると、入り口のベルが鳴った
来客第一号さまが神様がいらっしゃったぞっ
「久しいな
元気でやっておるか?」
「・・・いえ、たった今元気が引っ込みました監督」
鉱山名物、鬼監督アブニ氏がご来店なさいました
嬉しくない、ここまでやる気が削がれる客もいない
「まさか本当に店を開くとは思わなかった
・・・古びた本ばかりだな」
棚に積まれてある恋愛小説を手に取る監督
ヒゲ面中年にそれはキツイ内容です
「古本屋ですから当たり前です」
おそらく口元が引きつっているだろう笑顔を貼り付け、当たり障りの無い会話をしようと努める
せめて絵本を手に取ってくれ
子供にあげるのね、と想像できるから
「・・・古本?」
眉間にしわがよる
怒っていないようだが様子がおかしい
何だろうか
「・・・ユキジ、お前は本当に世界のことを勉強したのか?」
「しましたよ
毎日一時間、ご主人と一対一で」
「・・・この世界に、古本屋という店はない
人間世界か賢者世界で存在が確認されているだけだぞ」
「え」
人間世界は確か、俺の出身、人間が上位になっている世界
賢者世界は、人間だけじゃなく竜人と呼ばれる知能に優れた種族がいる世界
この世界にはないのか?
他の異世界人は古本屋作らなかったのか?
「・・・そもそも、この世界で本は高価だ
本は王侯貴族が読むもの、嗜好品と言ってもいい
この辺境の町で読む奴はご主人ぐらいだ
・・・文字の読み書きすら出来ん奴も多い」
「えー・・・誰もそんなこと言ってなかったー」
「マヌケ、常識だ
とりあえずお前の同郷や賢者どもなら来るだろう
こんな絵本や恋愛小説じゃなくて古文書や歴史書でも揃えるんだな」
でないと客がつかめんぞ
そういい残して監督は手にした恋愛小説を持って帰っていった
代金はカウンターに置かれていた
気に入ったのか監督
※今日のご飯は豪華に麦粥にしてみた。うまい。
古本屋開店三日目
監督にアドバイスされたので古文書を入手しようとおもう
館時代の上司、貴族のリーナ・ベンさんを訪ねようと思ったら、ベンさんが店に来た
「アブニに頼まれましたの
ありんこに古文書でも恵んでやれ、と」
ありんこって俺か、俺のことか
監督ありがとう本当にありがとう
ベンさんが後ろに控えさせていた従者に荷物を運ばせる
中身を説明してもらう
王国の歴史書が15冊、どれも表紙に傷が入っていたり見た目が悪い
その他教養の本や異世界人についての本などがある
ありがたく使わせてもらうことにする
「どれもこれも私が幼い頃、粗相をして傷ついてしまいましたの
痛んだ本を家に置くことも出来ませんので差し上げます
ちょうど良い宝物庫整理になりましたわ」
高笑いしながら出て行った
いつの間にか恋愛小説がない
カウンターに代金が少し多めに置かれていた
恋愛小説、読むんだリーナ・ベン(49)さん・・・
※今日のご飯は昨日残しておいた麦粥の残り
ほんのり甘くて上手い
古本屋開店四日目
ベンさんがくれた本を棚に配置している途中、説明を受けていない本を見つけた
間違って入れてしまったのだろうか
表紙はキレイなものだが、中のページがしわしわになっている
説明し忘れただけかもしれないが、気になるので題名をメモして本を避けておこう
えーとC、T、H、U、L、H、U、M、Y、T、H、O、S・・・クトゥr・・・神・・・話・・・
いや、待て、そんな・・・ああ、窓に、窓n
「ちょっと!
あんまり見つめないでくれる?」
「・・・気のせいかな
本から幼女の声が聞こえてきたような」
「誰が幼女よ!こちとら数千年生きてきた大精霊クトさまよ!
崇めなさい跪きなs・・・こら!私を使って押し花作るな!」
淡く光る半透明の少女
本から伸びるしなやかな体が美しい
こちらに指をつきつけ怒鳴っている
しかし混乱している俺に意味はない
よーし押し花大量生産しちゃうぞー
「うわぁぁぁ喋ってる喋ってる!
本当に精霊いるんだこの世界すごいぅゎょぅι゛ょすごい!」
「私の話を聞きなさい!」
※今日のご飯は菜の花(生)
ょぅι゛ょがすごい形相でこっちを見てた