学校側と被害者と加害者家族との対話
「―――ふぅ」
担当していた離婚案件が解決して目頭を揉んだ。
自分自身が同性婚をしているせいか、性的少数者から依頼される事が多くなった。
異性愛でも同性愛でも離婚する時のドロドロ具合は両者同じだ。それでも同性婚から離婚した事が昨今では珍しくなくなった事には(全く良くない事かもしれないが)喜ばしく思う。
担当する仕事もなく、そろそろ終業時間だから書類整理をして早めに帰ろうとした時にスマホの着信が鳴った。
この着信メロディは旦那の箕央だ。仕事の時は急用がない限り電話を掛けるなと言っていたから、何かあったかと慌てて電話を取る。
「ありがとう。そしてすまなかった!」
両親は俺達に頭を下げた。
箕央が電話した理由は俺の両親が俺達にお金の用立てだった。
月末で生活費等の支払いの上に父さんが体調を崩して病院に通院し、しかも冷蔵庫が壊れて買い替える事になった。急な出費がかさんで年金支給日まで生活するにはお金が足りなくなってしまい、こうやって息子である俺に援助を頼んだのだ。
俺はその話を聞いて信じられなかった。
「借りたお金は年金が支給したら必ず返す」
「本当なら貯金から出そうかと思ったけど、あのお金は私達の老人ホームのお金に使う予定だから……」
「別に気を使わなくても良いですよ! それ位の用立てをさせて下さいよ。ほら二人共顔を上げて下さい」
箕央が両親の顔を上げさせると俺は早速本題へと話を変えた。
「父さん母さん。俺は毎月十万円を仕送りしているんだが、その金でも足りなかったのか?」
「「十万円!!??」」
両親は二人共驚愕した顔で互いの顔を見合わせる。どうやら本当に知らなかった様だ。
「何の事なの? 十万なんて大金知らないわよ。それにそんなお金があるのならこうやってお金を借りるなんて事はしないわ」
「実はもう三年も前から毎月十万円を仕送りとして送っているんだ。……竹二達から何も聞いていないのか? 竹二の奥さんの有香さんから何も聞いていないの?」
「「えぇ⁉︎」」
二人の様子から嘘ではない様だ。だったら俺が仕送りしていた三年分の仕送りは何処に行った? ……もし俺の想像通りだったら俺の事務所の同僚にその案件が得意な奴がいる。そいつの手を借りる事になるのか?
詳しく話を聞こうとした時にチャイムが鳴り、母さんが玄関へと向かった。
客人は甥の理貴だった。今話題にしていた弟の竹二夫婦の一人息子だ。
最後に会ったのは正月の頃だ。久しぶりに見る甥は何処か顔色が悪くやつれていた。今年受験生だとしてもその姿は異様だ。
たった一人の孫だから両親は快く理貴を迎え入れたが、理貴の様子には二人も察していた。
理貴はマシュマロを入れたココアを一口飲むと目に大粒の涙を幾つも流した。
「伯父さん助けて下さい。俺を伯父さん達の子供にして下さい」
頭を下げる理貴を見て俺達は唖然としてしまった。
「な、何を言っているの理貴君!? お父さん達と喧嘩でもしたの!!??」
「…………喧嘩だったら此処まで覚悟を決めませんよ」
理貴は立ち上がるといきなり上の服を脱ぎ始めた。そして理貴の上半身を見て誰もが絶句した。
何せ上半身は至る所に落書きがされていたのだ。
書かれていた内容は理貴の事を侮辱する内容から何故かクラスの団結を願う文字、挙句の果てに卑猥な絵と文字が書かれていた。
理貴の身体は薄汚い便所の落書きの様な酷い有様だった。
「―――り、理貴。お前の身体は一体―――」
「…………今日は夏休みの登校日で放課後、クラスでレクリエーションがあって罰ゲームでこうなった。下半身にも色々書かれているよ」
「ば、罰ゲームだとしても此れは酷いだろ! しかも此れは油性ペンか? 簡単に落とせないぞ此れ。何で拒否をしなかったんだ!!??」
「……拒否なんて出来ねぇよ!!?? 本当の罰ゲームを受ける筈だったのは同じクラスの女子だったんだよ!! 女に全裸でこんな事させられるか!」
「お、お、お、女の子にこんな悍ましい事を!!??」
あまりにも衝撃的な話に母さんは立ち眩みを起こして倒れそうになったのを、父さんが抱き止めた。
「と、と、兎も角どうしてそんな事になったか話して! それと被害に遭いそうになった女子生徒さんのお名前も。彼方の保護者の方にもこの事はキチンと知らせなければ!」
箕央の鶴の一声で何とか場は落ち着き、理貴もやっと落ち着いて今までの出来事を全て話し始めた。
理貴には幼馴染がいる。
その事は俺も写真で見た事があるがアイドルと引けを取らない美少女だった事を鮮明に覚えていた。
「アイツあんな風に美人で頭が良いだろう? だこら中学の頃に他の奴等から揶揄われる様になってから気まずくなって、俺の方からアイツを避ける様になって」
「まぁ、思春期あるあるだな。小学生でも手を繋いだだけで男子から揶揄わられるなんて話も聞く」
「急に俺から避けるもんだからアイツは俺に話しかけてくるけど、俺も意地になって避ける様になってからアイツは可笑しくなって…………急に俺の事を束縛する様になった」
理貴の話はこうだ。
避ける様になった理貴を付き纏う様になり、他の女子生徒と話す事を極端に嫌がった。
あんまりな形相に理貴は『頭を冷やす為にも一度離れた方がお互いの為だ』突き放した。その行動に賛否があるかもしれないが、その時の幼馴染の顔は目が血走った顔で初めて見る幼馴染の姿に彼は恐怖したのが原因だった。
連絡を絶った理貴に幼馴染は理貴の両親ーーー弟夫婦を懐柔させた。
「特にお袋はアイツの事を一番に気に入っていたから、避ける様になった俺を烈火の如くキレて平手打ちされた。それから幼馴染は俺の家に入り浸る様になって何度も俺の家に泊まる様になったんだ。しかも俺の部屋にアイツが寝る様になってもう安らげる場所がなくて……」
「ちょと待ちなさい! 泊まるだけでも眉を顰めるのに、恋人でもなんでもない年頃の男女を二人っきりで寝泊まりさせていたの‼︎⁇ その子の親御さんは何してるの‼︎」
「アイツの両親、アイツが中学に上がってから仕事に精を出す様になって、アイツが夜一人で居る事が多かったからもしかしたら俺の家に入り浸っている事も知らないかも。お兄さんは結婚しているし、お姉さんは大学に通う為に一人暮らししているし」
おいおい。中学生の女の子を夜一人で過ごさせるなんてちょっと頭可笑しいじゃないか?
「アイツ外面も良いし、文武両道で可愛いから周りから信頼されていて誰も俺の話を聴かなくって……だから高校は別の学校を選んだのに、難関の進学校の推薦を蹴って、多分先生から聞いて俺を追い掛けてきた。
高校に入学してからは地獄だったよ。特に今のクラスは先公もアイツの言いなりだし……多分アイツ俺の家に監視カメラか盗聴器をつけているかも。アイツがいない筈なのに知っている事が多いし」
「とっ!」
もう絶句だった。そこまでいくともう犯罪だ。
「でも、まだ我慢できた。俺の行動がきっかけにアイツをあそこまで変えたと思えば責任を感じて我慢できた。……だけど、ただ同じ委員会の委員で、偶々話せる話題が多かっただけなのに、珈さんが俺のせいでいじめられる様になって―――」
理貴は耐えきれなくなったのかポロポロと涙を零し、言葉を続けようとしたがえずいて続ける事が出来なかった。
箕央は立ち上がると理貴の事を無言で抱きしめて背中を摩った。
「もう、いいよ。理貴君にも悪かった所はあったかもしれない。けど、だからと言ってそこまでされる理由はない。そもそも『いじめ』はどんな理由があってもして言い訳がない。後は大人である僕達に任せて。理貴君は何も気にしなくて良いからね?」
箕央の言葉に安心したのか、理貴は箕央の背中部分の服を掴んでわんわんと子供の様に泣いた。
俺と両親は理貴をここまで追い込んだ理貴の幼馴染とクラスメイトと教師達、何よりも味方になるべきだった弟夫婦の事を絶対に許せないと決心した。
落ち着いて泣き止んだ理貴に俺は理貴が来訪する前に話題となった事を質問した。
「理貴。お前父さん達から俺から仕送りや学費等の援助をしていると聞いているか?」
「えっ? 援助?」
本当に心当たりがないのかポカーンと呆けていた。
「…………そう言えば父さんはゴルフ道具を新しく買い替えていたし、母さんに至っては自分の分だけじゃなくて幼馴染の詠亜と一緒にショッピングに行ってた。大学も奨学金を使えって母さんから言われてたし……」
黒決定だった。
その後の俺達の行動は早かった。
何よりの最優先は理貴の安全の確保だ。両親は弟夫婦には『理貴の顔を暫く見ていないから実家に少しの間泊まらせる』と言った。弟夫婦(特に義理の妹の方が)は渋ったが、反対する理由もないし隠し事をしていた為、何とか納得した。
理貴の安全を確保できたので、弟夫婦と幼馴染がいない時間を狙って(この時学校が夏休みで良かった。と言うか幼馴染とは言え赤の他人に合鍵を渡すとはどう言う事だ)仕事の都合で付き合いのある興信所の人(盗聴器・監視カメラの設置・捜索のプロ)と箕央と理貴で弟夫婦の自宅を捜索。
結果、理貴の部屋やリビングだけではなく、トイレや風呂場にまで監視カメラと盗聴器が大量に発見された。
そして弟夫婦の共有の貯金通帳に、俺が理貴の学費にと援助していたお金の他に、両親の為に仕送りしていた毎月の十万円が何故か弟夫婦の貯金通帳に刻まれていた。
理貴は本当に今まで知らなかったのか『こんなにお金を援助してくれたの⁉︎」と驚いていた。弟夫婦達の個人の部屋も家宅捜査(違法だがピッキングで鍵を開けた)した所、弟は新しいゴルフ道具とオーダーメイドらしきスーツと革靴が幾つかあり、義妹の方は弟の倍以上の有名ブランドの服やアクセサリーが見つかった。それと別の興信所の人間(SNSに詳しい)が義妹のSNSを発見して俺にそのURLを送って貰った所、そこには毎日の様にママ友との優雅なランチに高級エステとセレブの様に振る舞っていた。しかも偶にだが、ホストクラブにも通ってシャンパンを開けている始末。
この事は私も頭が痛かったし、先輩と同僚から『せめて最初に渡す前に両親に聞くべきだったね』『弁護士なのに詰めが甘過ぎる』と慰められたり叱られたれてしまい、ただただ頭を下げるしかなかった。
まず先に理貴が原因でいじめられていた女子生徒と両親と顔を合わせる事が出来た。
女子生徒、珈しぐねさんは御家族にいじめられている事を隠していて、『今まで私が我慢すればそのうち収まると思っていたから、あの事件(罰ゲームで身体中に落書き事件)が起きた時は佐原君に申し訳なくて死にたくなっていた』と大粒の涙を流して懺悔して、両親は『貴方に全てを委ねます。私達の要望は一つ。罪に準じた厳しい罰を』と涙を溢しながら怒りの目で娘を抱きしめて私に伝えた。
興信所の人間から新たな情報を手に入れる事が出来た。なんと理貴とクラスメイトらしき人物が理貴といじめられている女子のいじめのシーンをSNSに上げていたのだ。鍵垢で顔もモザイクで隠しているが、制服を着ていたし個人を特定されない様に加工されていたが、知り合いが見れば誰が誰をいじめているのか分かる内容だ。
直ぐに俺はアカウントの持ち主にDMを送りコンタクトを取った。意外にもアカウントの持ち主は自分の名前と直接会う約束を取ってくれた。
理貴にアカウントの人物の名前を聞くと、クラスで有名な不良男子と分かった。
理貴は身の安全の為にその不良と会う事は出来なかったが、その不良は同じグループにいる男女の不良仲間と待ち合わせにしていた喫茶店で待っていた。
大勢で待ち構えていたものだから、一瞬身構えて何時でも警察に連絡出来る様にしたが、彼等は俺を襲おうとせず素直にSNSに上げた動機と何故俺のコンタクトを受けてくれたのか理由を話してくれた。
「俺等もさー別に胸を張った生き方はしていない方だし、どっちかと言うと警察とか教師に怒られる様な事を事しかしてないけど、アレはない」
「佐原も珈も悪い事していないし、なんちゅーか弱い者いじめとか胸糞悪いから俺嫌いなんだよね」
「で、弁護士さんも知っての通りにあの罰ゲーム事件だろ? 流石にアレはないし絶対に何方かが自殺するまで続くと思ったらーーーーーーなぁ?」
「コッチはイジメに関わってないのに、最悪コッチが主犯にされたら堪らないと思っていじめられている所を確実録画してSNSに上げる様したんだよね。勿論特定されない程度に加工してね。おじさんが佐原の叔父で弁護士やっているて連絡来た時は、やっとアイツ等訴えるんだと思ったし、これでコッチが主犯ではない事は理解して貰えたと確信したから会えた訳」
「学校に報告? そんなの隠キャグループがとうにやってるよ。けど全然イジメは止まらなかった。何せ黒幕は覚えたかい優等生サマだもん。だーーーれも隠キャやウチ等の話なんて信じないよ」
「と言うか、あの性格ブス絶対に佐原の事が好きなんだろうけどさ。やっている事はアイツの事を傷つける事ばかりだし好かれたいのか嫌われたいのか分からないよね〜」
「あー隠キャちゃんグループの子が言っていたけど、あの女みたいのは『ヤンデレ』て言うらしいよ?」
「ふ〜ん。そのヤンデレ? だからアイツ自分がしていた事を理解していなかったんだ」
どうやらクラスメイトの中でも二人のイジメをどうにかしたいと思う者はいたが、教師に伝えてもイジメが無くならなかっ
たので殆ど打つ手無しの状況だった。
私は彼等から預かったいじめの証拠の数々を手に、その足で理貴達の学校に乗り込んだ。一応アポイントを取ったが、かなり急な連絡で夏休みの中、職員室にいた教師達は戸惑っていた。
幸いな事に校長と教頭がその日は学校に在席していた日だったので、校長室で不良チームから預かった証拠の数々と理貴の身体中に残された落書きと暴力によって負わされた傷の診断書、珈さんはカツアゲされた時の金額を記録に残したノートのコピー等を机に広げた。
この時俺はどんな言い訳も厳しく論破するつもりでいたが、校長達の顔色が悪く口々に『何だこれは……!』『こんな報告はなかった筈……! 直ぐに今いる教師達に聞いてきます!』と教頭は校長室から走り去った。
「この度は誠に申し訳ありません‼︎ 被害にあった生徒達にはなんと詫びればよろしいのか‼︎」
ソファから立ち上がると地面に頭をつけて俺に謝る校長。この時俺は『これはもしかして学校はいじめを把握していなかったのか?』と思いだり、直ぐに校長の頭を上げさせるとソファに座り直させた。
「では、学校側はこの件は知らなかったと主張しているのですね?」
「お恥ずかしながら、該当のクラスは文武共に優秀な成績を残すクラスでした。毎月の様に実施しているいじめのアンケートにもその様な事が報告がなかったのです……」
「可笑しいですね? 証拠を提供してくれたクラスメイト達の証言によると、他のクラスメイト達が学校にいじめの報告を行なっていたと言うのですよ? しかし、報告しても事態は変わらなかったと言っていましたよ?」
「そんなバカな! いや、もしかしてーーーー」
何やら心当たりがあったのか顎に手を当てて考え込んでいた校長。その時にノックする音と一緒に『失礼します!』と教頭と男女の教師が二人入室した。教師二人は手に紙の束を抱えている。
「校長大変です! 副主任の机から提出されていない、いじめのアンケートの束が見つかりました! 見ただけで三ヶ月分はあります‼︎ 」
「何だと‼︎ やっぱりそう言う事か!!??」
頭を抱える校長にどう言う事だと問いただすと代わりに教頭が答えた。
何と理貴と珈さんの担任は二人いる副主任の片方で、しかもいじめ問題の責任者だったのだ。この男のせいで学校側は理貴達のいじめを知らなかったのだ。
「恐らくいじめの相談した生徒達は件の教師に相談したんでしょう。いじめのアンケートに書いても確認するのも彼。ーーーー彼を信頼して一人に任せっきりにしていた私共の問題です」
「……いじめの被害者の一人である珈しぐねさんの両親は、今直ぐにでも学校の説明を聞きたいと要望を貰ってます」
「分かりました。件の教師は今はいませんが、今夜中にでも連れてきます。場所は学校で宜しいですね?」
俺は珈さんのご両親に連絡を取って了承を得た。
そしてその日の夜。
学校の応接間にいたのは私と両親、珈さんの両親、校長と教頭と理貴達のクラスの担任、そして理貴の幼馴染の兄姉が揃っていた。別室で理貴と珈さんがカメラでこの場を見ている。
「…………何故、そちらのご両親がいないので?」
ピクピクと米神に血管を浮かべて眼鏡をクイッと上げる珈さんの父親。此方も言えた立場ではないが、此方は主犯格と繋がりがある為と一応の理由があるのだが、彼方は加害者の立場だ。保護者である両親がないのは明らかに可笑しい。
「……両親は共に海外で長期の旅行に言ってます。連絡も取りずらい場所ににいるので代わりに兄と姉である私共が代わりに」
「本当に私共の愚妹がとんでもない事をして申し訳ありませんでした‼︎」
揃って土下座をする兄姉。二人共顔が病人の様に悪い。二人には妹がした事を全て話、証拠の画像等も見せた後だから仕方がないだろう。まさか妹が自分達も知っている幼馴染の少年とクラスメイトの女子に犯罪行為を行なっていると知ったらこうもなるだろう。
「だからってねぇ! そもそも高校生とはいえ、女の子をずっと家で一人にしていたそうじゃない! しかも理由が旅行ってそんな事よくっ」
「よしなさい。この二人を責めたってしょうがない。……親御さんは何時頃お帰りで?」
「明後日の朝には日本に帰ります」
俺は直ぐに頭の中で予定を組み直した。
「校長先生。緊急の全校集会を開くのであれば明後日でお願い出来ますか?」」
「ええ。三日日さんのご両親が揃った方がよろしいですし、それに一日中間を開いた方が他の生徒の連絡しやすくて此方としても助かります」
「それでお願いします。……さて先生」
俺がわざと低い声音で理貴達の担任を呼ぶ。俺の厳しい声色と周りの冷たく怒りが混ざった視線にビックと肩を振るわせた担任は未だに顔を上げる事はしない。
「貴方はいじめの問題を取り扱う責任者の立場です。生徒だけではなく、部活の担当している生徒からの報告を受けた教師達からの報告も受け持っていたそうですね? その報告を貴方は上手い事を言って誤魔化し、挙げ句の果てにいじめのアンケートで今回のいじめの件を書いてあるアンケートだけを抜き取って隠していた。直ぐに処分しなかった事は甘い所でしたが、此方としては証拠が残って大助かりですよ。……それで? 何故こんな事をしたのです? 自分が受け持っていたクラスでいじめが起きた事がそんなに隠したい事でしたか?」
無言で俯く担任に、校長と教頭が「どうなんだね⁉︎」「ちゃんと質問に答えなさい!」と厳しく叱責されてやっと重い口を開いた。
「…………三日日が言っていたんです。珈が佐原にちょっかいをかけていると。自分と佐原は付き合っているのに、二人が浮気しそうになっているっと。そんな相談を私やクラスメイト達にしていたから、二人を少しは反省させて、二度と三日日を裏切らせない様にきついお灸を吸わせようと」
「だからウチの娘にカツアゲをしたと? 暴力を振るったと? 持ち物を破損させたり酷い落書きをして良いと言うのですか‼︎⁇ 」
あまりにも身勝手な動機に珈さんの怒りのあまり立ち上がって、泣きながら今にも担任に詰め寄らんとしたが、珈さんの父親が身体を抑え、別室で待っていた娘さんがスマホ越しに(証言して貰いたい時はスマホで話せる様にスピーカーにしている)説得したお陰で何とか落ち着いて貰った。
「それで理貴。一応確認だが、担任の言っていた事は本当か?」
『叔父さんには最初に言ったけど、俺と珈さんとはそんな仲じゃないし最近仲良くしていたのは同じ委員会に入っていて、その時に話せる話題があったから。そもそも俺とアイツは付き合ってすらいない』
「だけど佐原の事を何でも知っていたじゃないか!」
『先生。それは多分アイツが俺の家に監視カメラや盗聴器を仕掛けていたから色々知っていたと思います。そうじゃなきゃ説明出来ない事が多すぎる』
「「盗聴器⁉︎ 監視カメラッ‼︎⁇」」
理貴の言葉に、この場にいた全員驚き、特に幼馴染の兄姉は驚きのあまり兄は絶句し姉の方は立ち眩みを起こしたのかよろめいて背もたれにもたれていた。
「甥の話は本当です。理貴の家を専門業者が調べた所、大量の監視カメラと盗聴器が自室だけではなくトイレや風呂場にも見つかりました。恐らく三日日詠亜氏の自室に盗聴器や監視カメラを見る機材や写真等がある可能性があります。それを確認すれば……」
「直ぐに確認します‼︎」
『あっ、直ぐに探さない方が良いかも。アイツの事だから多分直ぐに証拠隠滅すると思う。油断していてアイツがいない時に探した方が良いですよ』
「そうねーーー明後日あの子が学校に行っている間に探しましょう」
「ああ、そうだな」
この場のざわめきが落ち着いた所で私は話を再開させた。
「例え二人に非があったとしてもそれを理由にいじめをして良い理由にはなりませんし、話を聞く限りでは三日日詠亜氏の意見しか聞かず、理貴と珈しぐねさんの主張を聞いていない。これで良くいじめ問題の責任者をやってこれたものです。それで? 学校側はこの件を如何するつもりで?」
「返す言葉もありません。学校側は緊急全校集会を開きいじめを周知させます。問題を起こしたクラスは絶対に全員登校させ、一人一人面談して事情聴取します。いじめに関わった者達には犯した罪に準に一番重い罰で退学として処罰します。そして……此処にいる者は担任と副主任の立場を外し、起きた事を全て教育委員会に報告し厳罰を希望します。勿論、その結果私共にも懲罰があったとしても受け入れる所存です」
「そ、そんな校長! 長年私はこの学校に尽くしていたのに!」
「黙りなさい‼︎‼︎ 全ての信頼をドブに捨てたのは全て貴様だ‼︎ 受け持っていた生徒に良くもあんな事を出来たもんだな! 貴様は教師失格所か人間失格だ‼︎‼︎‼︎」
教頭の怒声に再度縮こまる担任。
「ーーーー宜しいのですか? この事を発表すれば貴方方の地位や名誉が失うだけではなく、学校の評判にも関わりますよ?」
誠心誠意謝る校長と教頭の二人の態度は偽りの姿とは思えない。ただ、珈さんの父親の言う通りにいじめをここまで誠実な態度をとるのは本当に稀だ。大半の学校はなんとか穏便に済ませようとするし、最悪な所は被害者側が割を食う様な事を強制させる学校もあるのだ。実際俺もいじめ問題の依頼を受けた時は全ての学校関係者は責任逃れの対応して何度も血管が切れそうになった事があった。それ等を比べたらこの学校の対応は俗な言い方をすれば神対応だ。
「……此処に校長として赴任する前、私は獅子若コーポレーションのご令嬢が通っていた学園で教師をやっていました」
『獅子若コーポレーションのご令嬢』の一言にこの場にいた全員が納得した。
獅子若コーポレーションと言う大きな企業の令嬢が婚約者だった同じ大企業の男子学生とその友人達に酷いいじめの末に自殺未遂をしたセンセーショナルな事件が数年前に起きた。
大企業の子息達、そして彼等の通う学校が名門校だった為に一時は世間が騒いでいたが、(色んな方面からの)圧力があったのかマスコミが報道しなくなった為に全く話題がなくなったが、その関係の裁判が開いていたので、法律に関わっていた者は度々話題にしていた。確かあの学園は学園長とその甥以外の教師陣はまともだったと聞いていたから、この校長があの学園出身ならいじめ問題を許す様な人ではないだろう。
「そして……教頭は……」
「私の息子は部活内のイジメを苦に自殺しました。加害者とイジメを黙認していた顧問共が全てを認めたのは五年も掛かりました」
言い淀んでいた校長の代わりに教頭はキッパリと答えた。顔は平然とした顔をしていたが、その眼は未だに怒りの焔が奥で小さく燃やし続けていた。
この場で一番担任に対して怒り狂っていたのは教頭だと言う事が誰もが心の中でそう思えた。
「…………分かりました。イジメを行なっていた生徒や教師の処罰はその様に。後は珈さんが破損した教材や制服代とカツアゲされた金額、二つ合わせて総額約百万円の支払いとそれとは別に加害者達に被害者の二人の慰謝料を請求します。これに関しては私の仕事ですので。ーーーー勿論、貴方も請求しますので」
担任は老人の様に一気に老け込んで見えた。全く同情は出来ないが。
学校関係者と珈さんご一家をを離席した後、私と両親と理貴(兄姉さんと直接顔を合わせたいと言う理貴たっての希望により)と三日詠亜さんの兄姉と対面して話し合う事になった。場所を借りる事を許可した校長達には感謝だ。
暫くの無言が場に漂っていた。最初に口を開いたのは父さんだった。
父さんは腕を組んで仏頂面のまま、厳しい声で話し始める。
「其々の家庭の事情もあるし、其々自立している君達子供にこんな事を言っても如何しようもない事は百も承知だが、君達のご両親は自分の娘をどう思っているのかね?」
「そうね……私達は息子しかいないけど、女の子がいる友達は高校生とは言え女の子を夜一人にさせる事はあまりしないわ。あったとしても一日か二日位、理貴の話では随分と長い間家に帰らないか、遅くまで帰らない日が多いらしいじゃない。これはちょっとどうかと思うわよ」
「もしかして君達の両親は妹さんの事を嫌っているのかね? それとも子供に無関心?」
両親の厳しい追求に渋い顔をした状態でお姉さんは質問に答える。
「逆です。身内贔屓に言っても両親は子に対して思いやりのある人達だと思ってます。ただ、少し放任主義な所があった事、そして妹と理貴君の家族に対して絶大な信頼を持っていた。詠亜は三兄弟の中で一番頭が良くてお利口さんな子でした。そして理貴君の家族を信頼していたし、本人も『大丈夫だ』言っていたので殆ど家に帰らない日が多くなったと思います。勿論、私や兄もちょくちょく連絡を取っていましたが、それでもついつい自分達の事を優先してしまってーーー」
「理貴、本当に詠亜が君に対して酷い事をして申し訳なかった!」
お兄さんは机に頭を付けて深々と謝った。理貴はゆっくり頭を左右に振る。
「アイツに対して酷い態度を取ってしまった事が全ての原因だから謝らないで下さい。それよりも珈さんの事を優先にして下さい。俺のせいで彼女には酷い目に遭わせてしまった」
「勿論彼女の事も妹や私達家族は償えるだけ償うつもりだ」
落ち着きを取り戻した兄姉に私は「ご両親が戻ったら直ぐに私に連絡を、そして妹さんの監視も頼む」と伝えた。
勿論始まったばかりでまだまだやる事が多いが、取り敢えずはある程度の段取りを整えた。
そして俺にとっての最大の山場ーーーー弟夫婦への対決に挑んだ。