day1:空から少女が降ってきた
やけに暑い夏の日の太陽が沈む眩しい時間の頃、俺は1人、空を見上げていた。
それはどんな感情で見ていればいいんだっていう出来事で、空想上のお話と思っていた。よくあるおとぎ話では誰かが空から降ってきたとか、降臨したとか、いろんな造り話が蔓延るこの時代に俺は……夢を見ているのか?
確かに疲れているから幻覚を見ているってのはまぁわかる。ここ最近バイトで過剰出勤で身体がズタボロで、一人暮らしをしてるから全て自分でこなさないといけない。更に課題に追われて精神が削られていくのがよくわかる。日に日に消耗していく心の余裕。悲鳴を上げている肉体。従業員とクレーマーによる罵詈雑言の嵐。
まぁ、それでも久しぶりの休みと思いたって電車とバスを乗り継ぎ綺麗な海の見える浜辺へ来た。
何をするわけでもなく、ただボーッと、地平線に沈んでいく太陽を俺は目に焼き付けていた。
過去の日に誰かと一緒に見た夕焼けみたいで、吸い込まれそうで、気づけば腰から下がずぶ濡れで。
もう何回目だろう。
あの日地球が死んでから俺はずっとこの夏の日をループしてる気がする。毎日添える荒廃したそこら辺の道みたいな所から採取した花が何輪も積み重なって山になっている。でも、何故か枯れていない。
普通そこら辺で採取した花というのは数日したら死ぬかと思ったけど、もう何ヶ月も生きてる花もある。そういう品種なのかはわからないけど、ずっと続くこのやけに暑い夏の日は何百日も繰り返している。春が来ないのは何故だろう。冬にならないのはなんで?雪が降って君と雪だるまを作る日はいつ来るの?
何も変わり映えしない今日この頃、少女が降ってきた。
スローモーションの様に舞い降りた天使のような少女はやがて腰を抜かした俺の目の前で微笑んだ。
何も言わず、後ろで手を組み、中腰で顔を傾ける純白なワンピースを身につけている少女は俺に手を差し伸べていた。それに俺は応えていいのだろうか。ここで俺が手を伸ばしたら……世界は変わるのだろうか。
現実世界なのに、その謎の少女が手を差し伸べてきただけなのに世界が変わるのだろうかって馬鹿馬鹿しい話だけど、やっと訪れた昨日まで繰り返した日をぶち壊した少女の手を取れば……きっと明日からやっとあの日からの続きが見られるような気がする。
はいかいいえか問われれば、いや、今の選択肢にはもうはいかYesしかない。
涙が溢れている俺はいつの間にか謎の少女の腕を掴んで身体を包み込んであの日以来2回目の、声を出すくらい泣き叫んだ。
謎の少女はただただ俺を受け止めてくれた。
――これは10日後、君との記憶が消失するまでの途方のない長旅の物語。