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ロジスティクス・サービス  作者: 水何トモユキ
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開戦

 こうして騒がしくも可愛らしい仲間との出会いを経て、セイの新たな生活が始まる。

 兵站担当の仕事というのは殆どが計算や表作成、各部署への伝達など事務的な内容だが、それを無難にこなしつつセイは個人的に動いていた。

 基地内の各部署の人間と交流して人脈を広げ、非番の日のフィールドワークや地元民から情報を収集したりと、来るべき日のために準備を続ける。

 そして八ヶ月の時が流れ、その日はやってきた。


 ヤシマ皇主国が領有するチエン半島の付け根、そこで国境を接するマーシア民国で大規模な暴動が勃発する。

 マーシアは長く王族が治めていたが、昨今の世界情勢に対応できず、他国からの干渉に対して後手に回っていた。

 治外法権を始めとした不平等条約を結ばされるなど、外交手腕に危機感を募らせた憂国の士達は蜂起を決意。やがてその動きは民国軍内部にまで波及、瞬く間に内乱は全国へと拡大していく。

 そんな中、マーシアと国境を接するロムーア帝国は自国民保護の名目と内乱に参加する勢力からの鎮圧要請を受け、派兵を決定した。

 約十二万とされる帝国極西方面軍が始動する中、皇主国も同じく居留民保護を理由に行動を開始する。

 戦闘の中心となる歩兵旅団、その補助である砲兵・工兵・騎兵など各大隊を内包した戦闘単位たる「師団」。訓練名目で半島に駐留していた、あるいは急ぎ本国より派兵された複数の「師団」を三つの「軍」に統合、速やかに北上を開始する。

 その数は総勢八万、発展途上の小国たるヤシマにおいては用意できる限界に近い規模の外征集団だった。

 対するロムーアは未だ予備兵力を有し、必要とあらば、さらなる増派を考えていることは国力や軍隊規模からして想像に難くない。

 ―速戦即決、その上で優勢を維持して講和を図るべし―

 名目上の外征軍の長である外征大総督に任じられたシズク・カラト・ヤシマは本国で執り行われた出陣式で声高に主張した。

 その言葉通り、三軍は素早く北上し、マーシア領内でロムーア帝国軍と対峙する。

 交渉の場を設け、互いの主張をぶつけ合うも話は平行線を辿り、決裂。

 やがて両国は宣戦布告、世にいう「ヤロム戦役」が開始された。


 開戦から二か月後、マーシア中南部。

 この場所に広がる丘陵の一角、そこに設けられた野戦用の天幕の中にシズクはいた。陣の中央に設けられた椅子に腰かけ、遠くより絶え間なく響く銃声や砲弾などの炸裂音をBGMに、忙しく動き回る幕僚達を眺めていた。

「第二軍の第十一師団が来襲した敵軍を追い散らしました!」

 前線からの報告に陣内が僅かに沸き上がる中、幕僚の一人が確認する。

「して追撃は?」

「それが……弾薬不足で追撃は難しいとのことで」

 電話手には何の非もないのだが、ひどく申し訳なさそうな顔で彼が告げると、浮かれた雰囲気の室内に、ため息が生じる。

 戦果とは追撃によって生じるというのが古今東西における軍事の常識だ。それが出来ない以上、負けではないにしても勝ちとは言いにくい。

「補給体制はまだ不足か」

 誰にも聞こえないようなボリュームで一人シズクは呟く。

 必要なスタッフを用意し、物資も充分で挑んだはずだが、結果は互角か僅かに優勢といった程度。

 圧倒的な国力差を考慮し、短期決戦からの講和による優勢勝ちを狙うしかない現状で、これは厳しいと言わざるを得ない。

「いや、調査不足か」

 補給路が予想よりも悪路だったこと、弾薬の消費速度が予想を超えていたこと。諸々の事情が互角の戦況という結果を生み出している。

「せめて、これ以上物資不足にならないよう、頑張ってもらうしかないな」

 深緑の色をした天井を見上げながら、シズクは後方で頑張っているであろう味方達の顔を思い浮かべた。


「よし、次はあっちか」

 その頃、基地で書類の山の処理や在庫確認のための倉庫回りに勤しみながら、セイは内心でただならぬ緊張と興奮を覚えていた。

 北方の戦線で戦う味方のために連絡線・補給線を構築し、それを機能させるのがセイ達の主な仕事である。紛うこと無き裏方仕事に辟易とする、血気盛んな兵士も基地内にはいるが、セイの心は前線にいるかのように昂ぶらせながら午前の業務に勤しんだ。

「第十一師団の弾薬消費が多い。現在地は平野だから撃ち合いを強いられているのか?」

 軽めの昼食を済ませたセイは、今度は事務所で前線からの物資の追加要請の書類を前にしていた。追加の原因を探りながら手配を行い、同時に今後の見積もりを立てる。

 本心ではもっと差配に関わり工夫を凝らしたいが立場がそれを許さない。口惜しいが、今はやりがいある仕事に携わることで満足する。

「確か今はこの辺りのはず」

 カーキ色の軍服の胸ポケットから地図を取り出して広げ、現在の友軍が布陣するとされる位置に印をつける。

 その印からは山岳や森林、丘陵に荒野など多種多様な自然の合間を縫って設定された線こと補給線があり、それを辿った先には今セイのいるジセン基地があった。

 この線こそ軍という生物を生かすための血管であり、これが途絶えると前線の軍は忽ち壊死する。そのため目先の敵を屠るのと同じくらい、補給線の維持にも考えを巡らせなくてはならない。

 だが、つい数十年前まで略奪や徴収と言う名の現地調達で何とかしてきた人類に、そう考える者は少なかった。

 それは補給を主業務とする、この基地の人間の多くですら例外ではない。補給線に関わる人間が前線で働く全員の生殺与奪を握っているという事実、責任、矜持を知る者は前線・後方問わずほとんどいない。

「待てよ、これって……」

 線の幾つかをなぞりつつ、フィールドワークで得たデータを頭の中でセイは呼び起こす。

 そして父より受け継いだ兵站学の見地から、覚えた違和感の正体を掴んだセイはすぐさま司令室へと駆けこんだ。

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