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ロジスティクス・サービス  作者: 水何トモユキ
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任地

 港町フソウの北、チエン半島のちょうど真ん中に位置する地域、ジセン。大陸からの冷たく乾燥した風が吹く広大なこの平野部に、セイの勤務先となるジセン基地はあった。

 大の大人がスッポリ隠れられるほど深い塹壕が基地の周囲に星型に掘られ、その内側には五メートルを越えるコンクリート壁が同じ形で聳え立つ。これは円形や四角形の防壁で出来る死角を減らすための措置であった。

 さらに壁の上には大砲がいくつも並び、また壁の一部には横に長い銃眼が設けられ、中に設置された機関銃が外敵を追い払わんと目を光らせている。

 前線からかなり遠いとはいえ、軍事施設らしいそれなりの防御が施され、所々真新しい改良の痕跡があることから、次の戦争がそう遠くないのだとセイに感じさせた。


 着任してすぐセイは軍属、一等初等官に任命された。軍属とは民間の身で軍に協力し、時に正規軍人へ指示を出す必要から、軍内部で立場を与えられた者を指す。

 ヤシマ皇主国では高等官、中等官、初等官、外任員と分類され、セイの一等初等官は准尉と同等の階級に当たった。

 しかし軍属の階級は専門分野においてのみ適応され、軍人の本分たる戦闘に置いては当然正規軍人の下で動くことになる。

「階級の説明は以上よ」

 烏羽色のショートボブの女性士官が事務的な口調で、カーキ色の真新しい軍服に袖を通したセイに告げた。

 基地の中央、厚い防御陣の一番奥にある庁舎。そこにあるこの場所の長、基地司令の部屋で、セイは司令本人から内示と説明を受けた。

「今後はワタシの補佐役兼兵站業務のアドバイザーをしてもらうつもりだけど、あまり出しゃばらないようにね」

 生真面目で硬い印象と共に、どこか不機嫌そうな空気を醸し出しながら、基地司令ミサ・トーエ中佐は部屋の奥にある大きな木製デスクにセイの資料や命令書諸々の束を置く。

「どういう経緯で殿下のお墨付きを得たか知らないけど、軍はそんなに甘い現場じゃない。一つのミスが前線で戦う何千何万という兵士の命を危険に晒すの。くれぐれも殿下の名を出して好き勝手しないこと、いいわね?」

「はい、深く肝に銘じます」

 ヘーゼル色の彼女の瞳に向かって敬礼しながら、真面目さを前面に押し出した口調でハッキリ応える。

 だがそんな姿勢にも彼女は冷淡であった。

 実力至上の軍でコネ入隊の人間など使えない、ミサはそう言いたげな顔をしている。

「未熟者ですが、よろしくお願い致します」

 しかしそれもセイは百も承知。最初から歓迎されると考えるほど楽天家ではない。

 決意表明も兼ねた挨拶を受けても、ミサは緊張や不信感を手放さなかった。

「もういいわ。下がって」

「失礼します」

 立ち上がり背を向けた彼女に挨拶し、セイは部屋を後にした。


「あ、出てきた」

 散歩がてら基地内を見回ろうと向かった庁舎の出口で、セイはリリナとナキに再会する。

「司令にこってり絞られたか?」

 横の壁にもたれながら、ニヤニヤとどこか楽しそうにナキが尋ねてくる。

「ナキ、司令はそんな意地悪な人じゃないよ」

「リリナの言う通り、普通に訓示を賜っただけだよ」

 セイはそう言いつつも、ナキの指摘は当たらずとも遠からずといった感じである。厳格な軍人であろう司令官は、民間上がりのセイに良い感情を抱いていないだろう。

「真面目で責任感がある模範的軍人って感じだったけど、リリナは司令をどう思う?」

「ほとんどその通りだよ。あと優しい」

 第一印象ではとても優しいとは思えなかった。ただ後方支援基地の中でも最大規模の拠点を任されるだけあって、責任感があり職務に忠実なのは間違いないらしい。

「責任感が強いのは大切な物を持っていて、それを守りたいと思っているから。そう思える人って優しいと思わない?」

 だがすぐに前言撤回、少し思える様になった。

 同時にこのリリナという少女兵は、直感的に真理を見抜く力に長けていると知る。

「単に士官学校出で、プライドと知識でガチガチに凝り固まっているだけじゃないのか?」

 ナキの言い分の方が一般的かもしれないが、さっきのリリナの一言ほどの重みはない。

「そういえば、どうして二人はここへ?」

「新入りを案内してやろうと思ってな。それと」

 ナキは何やら企んでいるような笑みでリリナと向き合い、直後二人は微笑んだままセイの方を向いた。

「わたし達の自己紹介をしようと思ってね」

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