不快な見舞客
翌朝、俺は窓から外を見、意外と学校が近いと気付いた。歩いて数分くらいだろうか。そういえば真人が、車にはねられた俺が搬送される際、自転車で救急車を追ったと云っていた。たいした距離じゃないんだ。
看護師に許可をとってから服をかえ、清拭用のタオルをもらった。この辺、至れり尽くせりである。
「お父さん、昨夜もいらしてましたよ」
「あ、遅い時間に、すみません」
看護師は苦笑いで居なくなる。本来、九時以降の面会は禁止なのだが、ここの経営者と火野文哉の父親が知り合いだそうで、特別に時間外の面会がゆるされていた。
といっても、俺は一度眠るとなかなか起きないタイプで、父親も子どもを無理に起こす気はないのだろう、来ているとは聴くのだがまだ姿を見ていない。フルーツのかごが増えているので来てはいるんだろう。
あまり愉快ではない見舞が来たのは、お昼過ぎだった。
相手は警察官だ。刑事。三人で、ひとりは私服、残りは制服。
「は?」声がひっくり返ってしまう。「俺が信号無視したかですか?」
「あの辺りは、防犯カメラがなくてね」
「刑事さん、防犯カメラもないんでしょうけど、あの辺信号もないですよ」
驚いたような調子で返してやる。刑事らしい男の微笑みがひきつった。
どういう意図かはわからないが、事故をなかったことにしたいのか、俺の過失と云うことで片付けたいようだ。
そういや、子どもがバイクにひっかけられたのに、被害届を出させてもらえなかった、って話をどっかで耳にはさんだことがあるな。あれは、ゲームをしていた「俺」の記憶なのか、俺である「火野文哉」の記憶なのか、どっちだろう。
刑事らしいやつは云う。「火野さん、道のまんなかを歩いていたんじゃないですか?」
「ダイゴ先輩、そういうのはあんまりよくないんじゃあ」
「煩い、黙ってろ、タカミチ」
刑事をいさめようとした、制服警官の片方が、首をすくめた。
後輩に対して高圧的な刑事は、要領を得ないことを喋って、帰っていった。制服のふたりは俺に申し訳なそうにして、それに続いた。