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もうひとり、攻略対象




 四人とも帰っていって、俺はひとり淋しく食事をとった。病院の飯というのはどうしてこうまずいんだろう。

「まじで、なに?」

 やわらかすぎるご飯をスプーンでつつき、独りごちた。

 春原先輩は本屋でバイトをしているけれど、女子は居ないという。本屋さんでひとりも女子のバイトが居ないというのは想像しがたいし、そもそも春原先輩がバイトしている本屋では、主人公の同級生がバイトしている筈だ。

 せめて、空田が何組かがわかれば、そこから辿れるのだが……空田は有名人だし、名前を知っていても不自然ではないと判断してさっき訊いてみたが、真人含め誰も、空田がどの組かしらなかった。ただ、俺達の誰とも同クラスではない、というのだけは間違いない。


 看護師がやってきて、お膳を片付けてくれた。明日までは、トイレ以外は安静にしておくようにと、念を押される。

「あ、看護師さん」

「はい」

「地山って、俺の友達なんですけど、誰の見舞に来てたかわかりますか」

「地山くんって、ああ、お見舞じゃないですよ、そうじゃないの」

 看護師は口ごもりながら慌てたふうに否定し、さっと出て行く。

 ああ、やっぱりな。地山の父親は最近、試合で負けが込んでいて、それが故障の所為なのだ。それが関連しているイベントもある。ここに通院しているのか。

 それとももしかして、地山自身が、中学時代の怪我のことで通っているんだろうか。まあどちらにしても、スポーツしてる限り怪我とはつかずはなれずの関係であり続けるものだろう。スポーツをしなくたって人間は怪我をするんだし、ああいう無理な動きをして怪我をしないほうがおかしい。

 俺はトイレへ向かった。戻ったらきがえよう。




 と、思っていたのだが、俺は病院一階のロビーに居た。ロビーの隅、子どものつくったものらしい折り紙や、絵が展示してある、絵本や漫画が沢山置いてある、やわらかいソファみたいなもので囲まれたスペースだ。

 用を足している最中に、窓の外、病院の中庭に空田を見付けた。慌てて一階へ降りると、空田がロビーのソファに腰掛けて項垂れていたので、近くに座って様子を見ているのだ。


 空田は誰かを待っているみたいだった。短く切った髪を、何度もひっぱっている。ストレスを感じているらしい。

「貴音」

 背の高い女性が歩いてくる。顔立ちから、空田の姉か母だろうと判断した。空田ははっと顔を上げ、すぐに目を伏せる。「帰ろうか。ハンバーグ食べてく?」

 空田は頭を振り々々、立ち上がって、女性と一緒に出て行った。一切声を発することなく。


 あいつは、バス事故の際に監督が大怪我をしてしまい、そのショックで外に出ることを忌避しているという設定だ。なんかしらんが、重めの設定の持ち主が多いのである。

 あの様子だと、心療内科への通院だろうか。ここまで来るのもかなりストレスだろうに。ゲームだと、学校を建て直そうと頑張っている主人公に感化され、彼女を助ける為にと、頑張って家から出てくるのだが……。

「火野さん」

「あ」

 病棟の看護師長が肩を怒らせている。俺は謝りながら、病棟へ戻った。




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