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 俺にも考えはある。春原先輩も、水崎も、もしかしたら主人公に接触しているかもしれない。それらしい女子の噂を仕入れようとしたのだ。

 さいわい、水崎は女子の話が好きだし、春原先輩は女性人気が高い。水崎に可愛い女子は居ないかとか春原先輩を追っかけてる女子のことを知ってるかとか話を振れば、なにかしらの情報は手にはいる筈だ。


 真人が仏頂面でりんごをむき、メロンをカットする。真人は気のきくやつで、爪楊枝を買ってきてくれているので、水崎は遠慮なく爪楊枝をつかってばくばくとメロンを食べた。

「やっぱ、火野ん家は金持ちだなあ。こんなうめーメロン、はじめてくった」

「水崎、それは春原先輩の分」

「水崎くん、好きなだけ食べていいよ」

「ありがとっす、先輩」

 水崎がふざけた調子でお辞儀し、残りのメロンを食べた。俺も食べてないのに。

 まあ、いいか。水崎の云うとおり、火野家はお金持ちなので、退院後にメロンでもりんごでも、幾らだって食べられるだろう。

 俺はりんごをかじる。「なあ水崎、外から進学してきた女子、レベル高い? 誰か可愛い子、名前知らないか」

「え?」

 水崎の手が停まる。

 水崎はまじまじと、こちらを見た。

「なんだよ」

「なあ、風那珂……」

 不安そうに真人を見ながら、水崎は俺をゆびさした。「こいつ、だいぶまずいんじゃない?」

 心外な話だが、真人が頷いた。

「さっきからこんな感じなんだよ。今日が何日かもわからなくなってたんだぜ」

 水崎も春原先輩も、心配そうに俺を見る。




「……あれ」

 出入り口の傍に、オーバーサイズのパーカーを羽織った少年があらわれた。まっくろの髪をおしゃれなおかっぱみたいな形に切っていて、女子に見えなくもない整った顔立ちをしている。

 地山江威流だ。きまずそうに一歩、足をひく。「あー、間違えました?」

「地山じゃん」

 俺は慌てて、ひきとめる。フルーツのかごを示した。

「なあ、なに、誰かの見舞? あれだったらさ、メロンくってかね? マンゴスチンとかライチもあるけど」

 地山が動きを停める。真人と水崎がこそこそ喋った。「ほら、これだ」

「まじで、検査なんともなかったの?」

 なんか、俺の言動をもとに、こいつらの距離が近くなってるな。これっていいのか? 悪いのか?


 地山はあいたベッドに腰掛けて、真人がむいたりんごをさくさくかじっている。「うまい」

「地山、こぼすな」

「真人、梨」

「自分でやれよ」

 地山は肩をすくめる。中学時代までは世界各地を飛びまわっていた設定だ。たまに仕種が外国人じみているし、英語じゃない、ええと、フランス語だかドイツ語だかがたまに会話にまざるやつだ。日本語はぎこちない。

 真人はぶつぶつ云いながら、梨をカットしはじめた。俺は精々愛想よく、地山へ話しかける。

「なあ、真人と同じクラスだよな、お前」

「ああ」

「水崎と話してたんだけどさ、今年の外部生、レベル高いんじゃないかなって」

「女子の話ならしないよ」

 二の句が継げないとはこのことだ。え、なにこいつ?

 地山は真人がむいた梨をばくばくくっている。くそ、せめてなにか、少しでも情報を……。

 主人公は、俺・水崎、真人・地山とは別クラスだ。ほぼ登校していない空田と同じクラスで、ゲームどおりなら本屋のバイトで……そう! 本屋のバイトで春原先輩と知り合っている筈だ。ゲーム開始直後、同級生の女子に頼まれて代打でバイトをするって云うチュートリアルイベントがあって、バイトのやりかたを覚える。


「春原先輩、今ってバイトとかしてます?」

 俺に話術はない。とんでもない方向転換に、真人が顔をしかめたが、しかし事故の後遺症かなにかと思ってくれたみたいだ。なにも云いはしない。

 春原先輩は、食べずに持ったままだったりんごを地山へさしだした。あいつがじっと見ていた所為だと思う。地山は短く礼を云い、りんごをかじる。

「どうしたの? 突然」

「俺も、バイトしようかと思って」

「火野はバイトの必要ないだろ」

 水崎が茶々を入れ、地山がなにか問いたげな目を向けた。春原先輩はそれを横目に、俺に云う。

「いいね。社会勉強になるし、交友関係もひろがるし……」

「春原先輩みたいなひとが居る職場だったらいいなって思うんですけど」

「あはは。火野くんが本好きなら、どうぞ。駅前の秋海棠書店、いつでもバイト募集してるから」

 よし!

 身を乗り出す。「ひ、火野くん?」

「可愛い女の子、居ません?」

「え?」

「いや、モチベーションに響くので。本屋さんで働いてる女子って可愛いじゃないですか? やっぱり可愛いですか?」

「いや、女の子は居ないよ」




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