ガチ勢(もと)メインヒーロー、立つ!
「文哉? なんのさわぎ?」
ぎこちなく云いながら、地山がやってきた。何故か空田も一緒だ。は?
俺が空田を見てぽかんとしたからか、地山は空田を指さし、云う。
「貴音。さっき話したよね。彼女の見舞」
「え?」
「彼の家の車が、彼女の車に……」
え?
……え?
俺は思わず、ベッドから降りた。ポピーが喚きながらベッドをおり、俺の肩にぶら下がろうとしてくる。「教えろってば!」
「ちょっと待てよ、地山、空田。事故って、バスじゃないのか?」
「は?」
地山は首を傾げる。
ちょっと、待てよ。地山の説明は、たしかに、バスとは云っていない。俺が、ゲームの記憶だとバス事故だったから、勝手にバス事故だと思っただけだ。
違う。地山は、貴音っていう子の車にぶつかったと云った。つまり、不詳の車→地山→空田→主人公、の、玉突き事故だったんだ。
ゲームとも、漫画とも、アニメとも、内容が違う。どのバージョンでも空田がバスケを辞めて半引きこもりになっているのは、バスケ部の大会へ行く為にのったバスが事故ったからだ。それで、監督が大怪我をしたのがトラウマになっている。
でも、そんな事故が起こっていない。夏上は故障していない。どうしてだ?
春原先輩達を振り返る。「あの」
「うん?」
「秋川真由ってひとと、冬木優司っていうひと、知ってますか」
「え? お前、どうして冬木先輩のこと訊くんだよ」
水崎が云う。先輩だって? 冬木は3が初出で春原先輩よりもひとつ上の学年、高校まで水球をしていたが部費を盗んだという冤罪で謹慎をくらい、水球を辞めたキャラだ。当時のことを主人公が調べ、結局部費の紛失は勘違いだったと突きとめて、ようやく水球に復帰する。
この時期はまだ水球からはなれていて、水崎と知り合う機会がない筈だ。
俺は水崎を見る。
「冬木優司、水球やってるのか」
「あたりまえだろ。一昨年、水球部の監督が捕まったりしなきゃ、先輩は全国に行けたんだ」
は?
水球部の監督が捕まる? なんだ、それ。
ゲームと違うところが多すぎる。おかしい。水球部はなんの問題も起こしていない筈だぞ。問題があったのはサッカー部のほうだ。
「おい!」
ポピーのかんしゃく玉が爆発した。「無視するな、火野文哉!」
俺はポピーを見て云った。
「俺、野球またやる。真人、ごめん」
真人へ向けて頭を下げる。「いいわけだけど、隠しごとしてた。俺の母親、死んだって聴いてたけど、離婚して出てってたんだ。再婚してるって。俺なんにも知らなくてショックで、丁度その頃、控えだった大宮に、お前が居たら俺が試合に出られないって云われて、とにかく一旦野球をはなれたかった。でもお前に迷惑かけたから、戻りにくくて」
「火野」
顔を上げると、真人は目に涙をうかべていた。「ごめん」
「い、いいよ。俺もお前に隠しごとしてた。母さん、ここに入院してて……」
「お前、野球、またやるのか」ポピーが疑わしげに俺を見る。「お前と風那珂真人が戻ったら、野球部はなんとかなるかもな。でもそれだけだ。ほかの部は、監督や部員が事件起こして、むちゃくちゃになってるじゃないか」
「は? なんだって?」
ポピーが喚く。
「トーサツだのマンビキだのインシュキツエンだの、ろくなことがない! 母さんが大事にしていた学園がめちゃくちゃだ」
こいつの云う母さんとは、創始者の娘だ。花の精なので、その花を育ててくれた娘さんが母親という認識なのである。
って、そうじゃねえ!
「盗撮? 万引き?! なんの話だよ」
「火野くん、知らないの?」
春原先輩が云う。「三年くらい前から、部の不祥事が相次いでて、高等部の部は活動しているところのほうが少ないんだよ……」
ポピーが鼻を鳴らす。
「お前がどうして僕を知っているのかは知らないけど、学園はもうだめだぞ。さっきも偉そうな連中が話し合ってたんだ。こいつらが噴水にいたずらしようとしなかったら、最後まで聴けたのに」
「いたずらってなんだよ」
「触っただけじゃないか」
「ポピー」
名前を呼ぶと、ポピーは目をまるくして俺を見る。「なぜなまえを?」
「どうでもいいだろ。話し合いってなんだ?」
「学園を閉鎖する相談だよ。このところ、何度も話し合ってる。あいつらは僕を見ることができない。どうしてだかな。だから抗議したいのにできないんだ」
全員、黙りこむ。
学園閉鎖? はやすぎる。バッドエンドは最速でも二学期にはいってからだ。主人公の活躍度はチュートリアルの選択肢で前後するが、最初期でも大体20くらいあり、なにもしないで日付だけすすめると減少していく。0になるとバッドエンドなのだが、放っておいて0になるのが二学期のはじめくらいなのだ。
いや……そうだ、主人公は入院してる。そもそもひなげしに入学していないかもしれない。ってことは、初期で活躍度が0ってことか? じゃあ学園、なくなるじゃんか。
喘ぐ。
「理事達が集まってるのか?」
「ああ、そういうやつらだ。母さんの弟の子ども達」
ポピーを育てた女性は結婚せず、若くして亡くなっている。その弟が理事長になり、未だに学校を運営する一族の祖になった。今はみっつくらいの家にわかれている設定だ。美四季家、他神智家、仁夜家……。
理事のひとり、「美四季五行」というキャラが、3に登場する。人気キャラだったのだが、担当していた声優が事故死してしまい、ファンが「彼以外の声の五行さまを見たくない」と要望を出したことで、リメイク版には出てこない。
そうだ。五行さまは学園を建て直す為に、頭のかたいほかの家の理事達を説得しているという設定だった。五行さまにかけあえばなんとかしてもらえるかもしれない!
「ポピー、五行さま来てるか?!」
「ゴギョー? ああ、母さんに似たやつだな。あいつなら居るぞ」
俺はそれを聴くと、病室から走り出た。
俺は銀色の片翼ガチ勢なのだ! 絶対に、ひなげし学園閉鎖なんてさせない!




