第9話 初陣
ライト達は人間族の街の門がすぐ傍に見える小高い丘に来ていた。
ここには岩場もあるので身を隠すには最適だ。
まさか魔族が仕返しに来るとは、人間族の奴等も考えていないだろう。
いつもいつも、やられっぱなしではない。
おとなしい奴を怒らせたらどうなるか思い知らせてやる。
ライトは母の顔を思い浮かべ復讐に燃えていた。
「いいか!
一気に中央の商店街の米屋まで突き進め!
途中で人間族が反撃してきても怯むな!
辿り着いた者から倉庫の米俵を米屋の軽トラに積み込め!
積み込みが終われば一人一俵担いでトンズラだ!」
「ウッヒョーッ!」
「ハリネズミ隊長は店主を脅して軽トラの鍵を奪うんだ!」
「承知致しました!」
「ただし君達の命は絶対大事にしろ!
皆、必ず生きて帰るんだぞ!
誰一人欠けてもならんからな!
今日の目的はヒーローと戦う事ではない。
奴等が現れた場合は米俵を捨ててでも逃げる事を優先するんだ!」
「ウッヒョーッ!」
戦闘員は右手を斜め上にあげ大きな声で叫んだ。
「それじゃあ父さん。
合図をお願い」
「突撃!」
「ウッヒョーッ!」
ドドドドドド
ハリネズミ隊長は“正義”とか描かれた旗を靡かせ先頭を颯爽と走った。
「皆、ハリネズミ君の旗に続くんだ!」
「ウッヒョーッ!」
ドドドドドド
「あわわわわ、な、何だあれは!」
砂埃を上げて突撃して来る集団を見付けた門番が慌てふためいている。
「行け!
中央突破だ!
門番など弾き飛ばせ!
米屋を目指せ!
街の住人どもは薙ぎ倒してしまうんだ!」
「ウッヒョヒョーッ!」
「ギャー」
門番達は身構える間もなく戦闘員に弾き飛ばされた。
ドドドドドド
「一直線に突き進め!」
「ウッヒョーッ!」
「あったぞー!
米屋だーっ!」
「うわーっ!
何だ、何だ。
助けてくれーっ!」
米屋の店主は泣き叫ぶ。
次々に米を担ぐ戦闘員。
「軽トラに積み込め!」
「ウッヒョーッ!」
「大首領様!
軽トラの鍵をパクリました!」
「よしっ。
ライト、積み込みは終わったか?」
「父さん、オッケーだよ!」
「よしライト、助手席に乗れ。
ハリネズミ隊長は屋根に乗るんだ!
戦闘員の皆は米俵を担げ!
トンズラだ!」
「ウッヒョーッ!」
キュルルルル
ブロロロローン
大首領は軽トラのエンジンを掛けた。
「退却!」
「ウッヒョーッ!」
ドドドドドド
あっと云う間の出来事であった。
ライト達は再び小高い丘に戻って来た。
「全員無事か?
点呼を取る!
全員整列!
ハリネズミ君、確認お願いします」
「承知致しました。
番号、始め!」
「ウッヒョ」
「ウッヒョ」
「ウッヒョ」
「ウッヒョ」
「ウッヒョ」
・
・
・
「ウッヒョ」
「ウッヒョ」
「ウッヒョ」
「大幹部様、全員揃っております」
「よし。
それでは追っ手が来る前にアジトに戻るぞ」
「ウッヒョーッ!」
ドドドドドド
ライト達ジャスティスの初陣は大成功を飾った。
「皆、お疲れ様。
今日は生米をたらふく食べてくれ。
体もゆっくり休めてくれて構わないからね」
「ウッヒョーッ!」
戦闘員達は美味しそうに生米を頬張った。
後に、この日の出来事を人間族の間では“米騒動”と呼ばれる事となる。