第3話 転生
「さあ、目覚めなさい。
そして自らの手で運命を切り開くのです」
どこからともなく声がする。
目が覚めると俺は優しい温もりに抱かれていた。
「ねえ、あなた。
この子には、真っ直ぐに正しく生きて欲しいわ。
ライトという名前はどうかしら?」
「良い名前だね。
さあライト。
君は己の信じた道をしっかりと生きて行くんだよ」
(ライト?
俺の名か?)
やがて俺は父と母の愛に包まれながらすくすくと育ち、成長と共に次第に前世の記憶は薄れ、そして忘れ去った。
この世界には幾つかの大陸が在り、大きく分けて魔族と人間族と云う二つの種族が暮らしていた。
俺達は魔族と云っても魔法が使えるわけでも空を飛べるわけでもない。
角が生えていたり、牙が生えていたりするだけで、人間族と大きな違いがあるわけではなかった。
この大陸は、元は先住民族である我々魔族のご先祖様の土地であり、農耕や狩猟をしながらノンビリと暮らしていた。
ひいじいちゃんが子供だった頃に他の大陸から人間族がやって来て、勝手にリゾート開発を始めたらしい。
戦いを好まない我々魔族は、好戦的な人間族に森の中へ中へと次第に追いやられてしまった。
その時からの名残で大陸の西側に在る大森林は魔族、東の都市部は人間族のエリアと云う事でお互い干渉しない様にしていた。
しかし、つい最近になって人間族が暗黙のルールを破り始めたのだ。
「邪神を崇拝する悪しき存在の魔族どもよ!
この世界は我々人間族のものだ!」
突然バイクに跨がったヒーロー戦隊バードラーと名乗る人間族にこのカスガの村が襲われた。
次々に村の建物には火が放たれ、逃げ惑う住人は手当り次第に殺された。
それはさながら狩りを楽しんでいるかの如くであった。
「近頃魔族の村が人間族に襲われているとは聞いていたが、遂にこの村にもやって来たか。
ライト、湖の洞窟まで逃げるんだ!」
「でも、母さんが買い物に出掛けたままだよ」
「有事の時はライトの命を一番に考える。
これが私と母さんとの約束事なんだ」
「でも母さんが心配だよ」
「それは父さんも同じ気持ちだよ。
でもね、ライト、君もいつか分かる時が来る筈だよ。
我が子の命は自分の命より大切なんだ。
それに母さんには、何かあった時は洞窟に在る私の研究所に逃げなさいと言ってある。
だから急ぐんだライト!」
「わかったよ父さん」
俺と父は逃げ惑う人の波を掻き分け湖の洞窟へと急いだ。