世界の平和ために、会社の利益のために、家族の笑顔のために、今日も戦います
1.カレー丼
「起きなさーい!学校遅れるよー」
隣の部屋で寝ている夫を起こさないように、子供たちに声をかけながら、京子自身も自分の目を覚ます。
子供たちがリビングに入ってくるのを横目に見ながら、子供たちの弁当を詰め、手渡す。
「今日の弁当なにー?」
中学1年生の娘、沙織は友人と一緒に食べるので、あまり手抜きの弁当だとちょっと不機嫌になる。
「今日は・・・ごめん。。カレー丼」
時間がないときは、保温性のある丼型の弁当に、冷凍食品の唐揚げとブロッコリーをご飯の上に乗せて、レトルトのカレーをかけた・・カレー丼。
はい、いかにも手抜き。
「えーー、カレー臭が気になるぅ・・」という沙織の横で、
「やった!」小5の息子、春樹はこの手抜き丼が大好きだ。
京子は二人の子供を学校に送り出すと、自分も身支度を整えた。
「じゃ、行ってくるね」
寝てる夫に声だけかけて、玄関を出た。
夫、康彦の会社は2年前の世界的に猛威を振るった感染症の流行から、完全テレワークを導入し、現在もそのままテレワークを継続している。
そのため、始業まで寝ていられるのだ。
しかし、子供たちが帰宅する時間に、夫が居てくれているというのは心強くもあり、康彦がテレワークをしていて助かったことも少なくない。
「大手企業さんはいいですよねー」
そんな夫がうらやましくもある京子は、独り言をつぶやきながら駅への道を急いだ。
そもそも、なぜカレー丼になったのか。
それは京子自身にも思い当たる節は多くあった。
システム開発部門の第三課の課長である京子は、先週部長に呼ばれて、第二課が担当している案件についてヘルプを要請されたのだ。
最初は状況確認と整理を、という話だったのだが、確認してみると、担当者ですら状況を把握しておらず、関係者集めてヒアリングを行った結果、作業の漏れが多数見つかったという状況なのだ。
取引先からもお叱りを受けている状況だったため、謝罪と今後のスケジュールについて話をしたが、第二課の課長がポンコツで、火に油を注ぐような状態。
もう、こんな時は何時だろうが、バーグにログインするしかない。
そう思って、ログインしたのが0時過ぎ。どうやらそのまま寝落ちしてしまったらしい。そして、朝起きれなかったのだ。康彦にバレたら(もうバレてるかも)ゲームやめろと怒られるので、黙っておこう。
バーグは、バーグオンラインというVRMMOだ。気ままに過ごすこともできれば、魔物を倒して経験値を上げてチートスキルを手に入れようとする人もいる。自由さが気に入ってずるずると続けている。
冒険者を名乗っているが、ログインする時間が深夜になることが多く、寝落ちしたり迷惑をかけることも多いため、パーティを組まずソロで活動している。その方が気ままで良いという人も多くいるのが、このVRMMOの特徴だ。
ログイン状態のチャット欄には、ねーさんからのチャットが来ていた
”お疲れー!かなり遅いけど大丈夫??”
”ちょっと依頼したいことあるんだけど・・・”
”あら、、寝てるかな”
”また連絡する!”
ねーさんはプライベートでも仲が良い、同じ働く母をしている角野麻美だ。
彼女は以前同じ会社で働いていて、今は別々の会社で働いているが、このバーグオンラインに誘ってくれたのも彼女だ。
「あー、悪いことしちゃったな・・」
スマホでバーグにログインすると、チャットに返信だけしておいた。
”今、仕事が忙しくてログインしたけど寝落ちしてたみたい。ごめん”
”今日の夜、遅くてもいいならログインしまーす”
ねーさんも忙しくしているので、返事は夜だろう。