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 オーストリア大公フランツ・フェルディナントとその妻ゾフィー・ホテクが、サラエボにて暗殺されたことを切っ掛けとして。

 一九一四年七月二八日から始まった世界大戦(Great War)は、ロシアの想定外の早さの参戦とセルビアの奮闘、ベルギーの道路化と不甲斐ないフランスをサポートするイギリスの動きにより、長期戦の様相を見せていた。

 あまりに多くの弾薬と人命が塹壕陣地と要塞に磨り潰されていくことに恐慌するイギリス本国に。一九一五年二月、予想もしていなかった場所から援護がなされた。


「は?」

 その連絡がなされた時のイギリス議会の反応は、そんなものだった。

 イギリスの植民地のひとつであるトリニダード・トバゴの『人民組合』なるアカそうな組織が、五〇万ポンドもの戦時国債を一括で購入したのだ。

 トリニダード・トバゴ行政府に問い合わせると。人民組合は更に五〇万ポンドの戦時国債を購入する準備を終え。その上でイギリスからの要望があれば一〇〇〇人の義勇兵を送る準備を終えているという。

 何故植民地のいち組織ごときにそれだけの資金力があるのか、イギリス議会は理解出来なかった。だが、こう理解した。

『なら、追加で五〇〇万ポンドの戦時国債を押し付け、一万人の兵士を徴兵しても、トリニダード・トバゴは耐えられるだろう』

 怠惰な人擬きの黒人とインド人が主体となっているトリニダード・トバゴだ。彼らの言う一〇倍は用意出来るであろう、とイギリス人は考えた訳だ。

 その要求をトリニダード・トバゴの『人民組合』に伝えたところ、『本当にいいのか?』と前置きした上で。一九一六年までに追加で五五〇万ポンドと一万人の義勇兵を派遣出来る、と通達してきた。

 一方で、トリニダード・トバゴの白人からなる『商会』は『そんなにカネと人員をトリニダード・トバゴから持っていかれたら農園や製油所の経営が危うくなる!』と苦情を上げてきた。

 イギリス政府は、『商会』と『人民組合』どちらの言い分を信じたものか分からなくなった。どちらも白人主導の組織なのだろうが、言っていることが違い過ぎるからだ。

 結局イギリスは、余裕が無いこともあり、自分達に都合の良い方を、『人民組合』の言い分の方を信じることとした。


 六百万ポンドの戦時国債と、一万人の人擬きからなる義勇兵。それらを得たイギリスは人擬き共を激戦区に投入してドイツ軍の弾薬を浪費させつつ。少し予算に余裕が出来たとはいっても全く足りなかったので、更にトリニダード・トバゴから搾り取るよう交渉しつつ、他の植民地からも搾り取ることにした。

 それが、大英帝国と呼ばれたイギリス崩壊の原因となるとも知らずに。




  ***




 世界大戦は、アメリカの参戦もあって、イギリスを始めとする協商諸国の勝利に終わった。

 パリのヴェルサイユ宮殿にて結ばれた条約により、ドイツに天文学的な賠償金の支払いと全ての植民地、そして一部の領土を割譲させ、協商諸国はやっとひと息つけた。

 『ヴェルサイユ条約締結』の一報が世界に流れた翌日。イギリス政府は、多くの来客に襲われた。

『それで、いつになったら戦時国債を返してくれるので?』

 トリニダード・トバゴ『人民組合』代表を名乗る、まだティーンエイジャーらしい黒人と白人のハーフの少女、アビゲイル・ウィリアムズの言葉に、応接室のひとつで応対したイギリスの職員はこう答えた。

『一〇〇〇年後には』

 イギリス人の多くは、植民地が本土のために尽くすのは当たり前のことだと思っていたので、こんな回答も平気で出来るのだった。

 その職員の言葉を聞いて、ふう、と息を吐いたアビゲイルは、急に立ち上がって応接室の窓を開き、そこで待っていた多くの植民地人に対して怒鳴った。

『イギリス政府は! 今回の戦時国債を一〇〇〇年後に支払うんだってさ!』

 途端、植民地人達が爆発した。


『イギリスは、戦時国債を一〇〇〇年かけて支払う』

 その一報は、アビゲイルや暴動を起こした植民地人達を十分程で鎮圧したにも関わらず、翌日には全世界に第一報として知らされた。

 当然、イギリスの全ての植民地どころか、コモンウェルス(イギリス連邦)を構成するカナダやオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカにまで暴動は発生し。長い戦争を終えたばかりのイギリスに、植民地人の義勇兵のお陰で戦えたイギリスに、これらの暴動を鎮圧する能力は無かった。

 戦時国債を多数購入した人や企業の存在していたアメリカではイギリスに戦時国債をしっかりと支払うよう求めるデモが多発。アメリカ議会では、イギリスが戦時国債を規定通り支払わなかった場合、イギリスの全ての資産を凍結する法案が上院下院の賛成多数をもって通過した。


 こうしてイギリスは戦時国債を早急に支払う必要に駈られたが、残念なことにイギリスにそれだけの資産は残っていなかった。

 そこでイギリスは、植民地をコモンウェルスの一員として独立させる代わりに、『植民地の組織が』購入した戦時国債と相殺する法案を通過させ。既にコモンウェルスの一員な国は自治権を拡大させることで解決を図った。

 戦時国債を購入した組織の多くが、独立や自治権の拡大を叫んでいたからこそ出来た荒業であった。

 これで、戦時国債は大幅に減額出来、植民地人も納得し、イギリスは植民地に影響力を残せる。はず、だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] バックに赤い国でもついてそうだな… [気になる点] ベルサイユ条約の賠償金って、最近支払いが終わったのでしたっけ?
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