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 何故転生したのか、何故転生した先がこの時代なのか。私にはさっぱり分からない。

 だけれど、未来の知識がありながら何もしないのは、怠惰だと思った。この厳しい生活から抜け出して成り上がれるのに何もしないのは、馬鹿だと思った。


 だから、歴史を変えることにした。




   ***




『ポートオブスペイン東の外れの倉庫で、夜な夜な怪しい集会が行われている』

 その垂れ込みを受けて、ポートオブスペイン警察署のヘンリー・クリフォード警部は「またか」とため息をついた。

 二年前の一九〇八年にトリニダード島南部で油田と付随する製油所が稼働を始めてから、この手の『事件』は後を立たない。

『油田という『力』を得たから、独立出来るぞ!』

 そんな考え無しな発想の下、独立運動とかいう治安を乱す行為に出る人々の、なんと多いことか! ……まあ、黒人とインド人が大多数なこの地、トリニダード・トバゴの人々に言ったところで、理解されないのだろうが。

「ブブ巡査、行くぞ」

 クリフォードは、現地採用でお気に入りのブブ巡査に声をかけ、例の垂れ込みの調査に出掛けようとする。

「何の調査っすか?」

「ほら、東外れの倉庫の」

「ああ。『アビゲイルの勉強会』のことっすか?」

「ん?」

 唐突な爆弾の投下に、クリフォードの思考がしばし停止する。

「……今何と言った?」

「ん? 『アビゲイルの勉強会』っすか?」

「何だそれは?」

 尋ねると、クリフォードは嬉々として説明を始める。

「ウィリアムズのじいさんの孫に、アビゲイルって娘がいるんっすが、その子が毎晩勉強会を開いてるんっすよね」

「ウィリアムズのじいさん、というと、ココヤシ畑の?」

「そのウィリアムのじいさんっす。夕方はフツーに読み書き計算を教えてるだけなんっすが、夜になると『どう稼ぐか』って勉強会に変わるんっすよね」

「稼ぐ?」

「はいっす。何でも、稼いだカネでこの島の自治権を買うのだとか?」

 ビンゴ。怪しいも何も完全にアウトな会だ。

「もう調べているか。流石ブブだな」

「? そうっすか?」

 何やらブブ巡査は照れていた。だが、次の言葉に、クリフォードは肝を冷やすことになる

「自分も参加してるんっすが、これが中々勉強になるんっすよね」

「お前……」

 クリフォードは、この馬鹿をどう調理してやろうか悩んだ。一応目をかけている部下なので、調理の仕方によっては自分にも咎が及ぶ。ここは冷静に、魚の餌だろうか?

「どうしましたクリフォード警部?」

 そんなクリフォードの内心を察せないブブは、不思議そうに首を傾げている。

「興味があるなら、自分が紹介するっすよ?」

「……ああ、頼む」

 この手で証拠を押えれば、自分に咎は及ばないだろう。ブブには、トカゲの尻尾になってもらおう。


 そう覚悟した、夜。

「ここっす」

 ブブの案内の下、クリフォードが私服でやって来たのは、トリニダード・トバゴ最大の街であるポートオブスペインの東、内陸側の外れの倉庫だ。『ウィリアムズ農業』の古い倉庫に、煌々と明かりが輝いていた。

「じゃ、行くっすよ」

「頼む」

 開けっぱなしの倉庫の出入口に近付くと、集まっている人々の声が聞こえてくる。

「だー! 何度計算してもカネ足りねえ!」

「義勇軍は一〇〇〇人が限界ですね」

「それで、サトウキビ畑をアブラヤシ畑に転換するのに必要な投資ですが……」

「へー製糖機ってこんな簡単に改良出来るのかー」

「田んぼを増やすにはため池も増やさないといけないから、」

「ため池造るんだったらそこで魚の養殖しようぜ!」

「製油所もっと改良出来るよな?」

 聞こえてくる話はてんでばらばらで、カオスとしか言いようがない。

(これのどこが独立を企んでいる組織なんだ?)

 クリフォードは疑問を抱くも、『騙されるな』と自分に言い聞かせる。

 その間にもブブは倉庫の奥に進むのだが、ブブは常連なのか、よく声をかけられては返事を返していた。

「医者を増や……、おうブブ。今日は遅かったな」

「ええ。この会に興味がある、って人を連れて来たっす」

「後ろの方かい?」

「はいっす。優秀な方っすよ?」

「ブブが言うならそうなんだろな。アビーに挨拶しとけよ」

「もちろんっす」

 そのまま倉庫の一番奥、何やら大きなテーブルに地図を広げて数人の男女と激論を交わしている、黒人と白人の混血らしい童女が、ブブ曰く『アビゲイル・ウィリアムズ』らしい。

「これどう考えても短期決戦にならないよ!」

「長期戦となると、弾薬の消費量はー……」

「本当、日露戦争のデータ助かるなあ」

「それより負傷者数を割り出さないと!」

「いや弾薬が……」

「あのー、今いいっすか?」

 そんな激論に水を注すように、ブブが尋ねると、一斉に視線がブブの下に、次いでクリフォードへと集まる。

「こんばんはブブ。後ろの方はお客さん?」

 大きなテーブルの奥の中央で、椅子に座っている童女が尋ねる。

「はいっす。何か、この会に興味があるみたいっすよ?」

「そっか。皆は議論を続けて。私はこのお客さんと話をするから」

「「はい!」」

 統率の取れた返事をする一同を置いて、「行きましょ」と童女に先導される形で、倉庫の端のテーブルにクリフォードとブブは案内される。

「そこに座ってね」

 壁側に童女が、倉庫側にクリフォードが座り、ブブがクリフォードの左後ろに立つ。まるで警戒していない童女に疑問を抱きつつ、クリフォードは童女に尋ねた。

「ところで、貴女がアビゲイルさんですか?」

「ええ。私がアビゲイル・ウィリアムズ。この『勉強会』の主催者よ」

 よし、第一容疑者は確定だ。

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