1.始まりは婚約破棄
「王太子デューイはフェルトフォルト公爵の娘、エリゼ・ノア・フェルトフォルトとの婚約を破棄する。」
5段に重ねられ、繊細に幾つもの光りが色々な表情を見せる3台のシャンデリアが照らすここは、宮殿の中でも最大の広さと最高の豪壮さをもつ大広間。
多くの着飾った紳士、淑女の足元、深紅の絨毯の縁取り金色以外に濃紺が取り入れられているんだ。
と、何度も足を運んだこの大広間でも新たな発見があることに、密かな喜びを感じていた私にその言葉は向けられていた。
そんな私は、呆然とした頭の中に突然ある声が聞こえた。
『こんな衆人環視の中、前持った本人へのネゴもなく、唐突に婚約破棄を突きつけるっていくらなんでもひどい。』
突然頭に響いた見知らぬ声に戸惑いつつも、もう一度現実を噛みしめる。
婚約破棄、しかもこのような日に。
今日、私は国民の称賛を浴びる目的で登城したのではなかったのでしょうか。
身分と外見からは想像もつかないほど、頭脳も武力の残念さを持つ貴方に変わり、国を救った未来の国母として。
心の底の底、怒りの炎がたぎったのを感じるけれども、子供の頃から鍛え続けてきた理性で、怒りの声を押さえながら聞き違いでないかを確認する。
「殿下。婚約破棄と聞こえましたが、もう一度おっしゃっていただけませんか。」
「何度でも言おう。エリゼ・ノア・フェルトフォルト。私はそなたとの婚約を破棄し、ここにいるナルシア・ディ・ジェミニを妻に迎える。」
「君じゃ駄目なんだよ。」
そして、王子は声を潜めて吐き捨てるように理由を述べた。
「この悪目立ちが。」
心の声がまた聞こえる。
『怒っていいと思うよ。男の嫉妬なんてどうしようもないクズじゃん。我慢のしすぎは美徳じゃない。逃避も大事、ストレス発散も大事だよ。』
怒っていいよという声に、体の中の魔力が沸騰するような気がした。
ただ、怒っては駄目。私の中で一生懸命理性が叫んでいる。どんな、ことだって耐えてきた。
プルプル、震える手が止まりそうにない。
ただ、この国を守るためだけに、抑えてきたいろんな感情が溢れて。抑えきれなくなりそう。
周りには私が守ろうとしてきた多くの国民がこちらを唖然とした表情で見つめている。
守りたいのに。
魔力の沸騰の直前。私は飛んだ。
転移魔法。上級の魔力保持者しかできないこの技で、私は自分の知りうる限り、最大に人里離れた地に飛び、溢れ出す膨大な魔力を地中に放出する。
岩場しかない国境に程近い未開の地、岩場が険しすぎるせいで国境兵さえ置いておけない不毛の地。地に埋め込んだ魔力はあっという間に高温になり溢れ出す。
地中から得体の知れない真っ赤なものが突き上げてくる感じが魔力で読み取れた。
そして、熱い。火の属性を持った魔力が、地中でものすごい力を放っている。
『危ない、逃げて。火山が爆発する』
火山って何?
私は逃げるためにもう一度飛ぼうとして気づいた。
もう、魔力はスカスカだ。距離は飛べないだろう。
ここから離れられる人里で最も近いところ…...。
私の頭に思い浮かんだのは村だ。
アーリーマント村、その村の端っこで私ははるか遠くの国境の岩場が恐ろしく火を噴いて山となる様子を見ていた。
ただの岩場だった地が、山となって、その頂点からは赤い炎が吹き上げている。
その周りを煙が取り巻き、周りに岩を含むどす黒い煙が蔓延している。
絶望的な光景の中、私は、それまでの人生では知り得ない単語を交えて呟いた。
「あ、この距離だと、いい温泉が湧き出るに違いないわ。」
そういって私はその場に崩れ落ちていった。
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