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あれ?ちょっと待って。
「俺、名前はゼロじゃないんですけど…?」
「違うのですか?では何と?」
まさか…いや、まさか!
ひいじいちゃんが奔放すぎて、孫にはちゃんと真っ当に生きてほしいってじいちゃんが付けてくれた名前が仇になったの?
あとここって異世界なんだね!?下手に名乗っちゃ危なくないか?
「時間は有限なんですよ、名乗ることもできないんですか?」
スライムさんからピキピキって音がし始めた。とぅるんとぅるんボディがきもち鈍角の結晶体ぽくなって来てるような…
「えーっと、名前って名乗ってしまうと魂抜かれるとかないですか!」
「はぁ?何ですか、それ。魂とは大事なものでしょうか。」
抜いたらどうなるのか気になりますが、とか空恐ろしいことを呟きつつ椅子から降りて俺のもとへ。
「まぁ、迂闊に真名を名乗らない文化も確かにありますね。ただ、ここは名乗って頂かないと次に進めない気がするのです。私の名を告げるのでは割に合いませんか?」
俺と同じくらいの背丈に伸びたスライムさんから手が出てきて丸い無色のビー玉のようなものを差し出してきた。
「“私の名はイェデン。この約束により力なき貴方に呼ぶ資格を与えよう。約束は今細やかにかつ速やかに、私の目が耳が心が届かぬ所では為し得ぬように。”」
ガラス玉が融けるとリング状になってそのまま縮み、手の一部をもぎ取るようにして薄い緑色の石が留まったシンプルな指輪ができる。
ファンタジーだ。
「“対価は貴方の名。約束が為されぬ時は貴方は私の名を失い知ることはない。”」
2本目の手が出てきて俺の手を取り、手のひらに指輪が置かれる。着ければいいん?
「約束ですから罰則はありません。貴方はまだ私の名を呼ぶ力はないかもしれないので、私の名を呼ぶと強制的に貴方の名が私に伝達されます。名乗るか名乗らないか悩んでていいですよ。」
「名乗りたくないときは?」
「…破棄すると言えば。その場合は愛称を考えて差し上げましょう。」
「例えば?」
めんどくさいとばかりにため息をつきながら、へにょんと潰れるスライムさん。俺の小指に指輪をはめると椅子へ戻っていく。
どぉうん どぅん どす どす ばあぁん!
「宰相どの!ゼロ様が目を覚まされ…おう!」痛!」
何か派手に扉が開かれて、反動で閉まった。
異世界ですが物理法則は変わらないようです。