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心理的攻撃を受けて立ち尽くす俺の体をぺちぺちとスライムさんが確認しているようだ。
乱雑に散らかった机の上の石のひとつにも触れながら、新しい手?が出たり引っ込んだり。ちょ、そこ際どいとこ!
べしってしたら頭の近くの手?にべしってされた。俺悪くなくない?
「外見や力量、性質は全く変わらないようですが…
ゼロ、まずは私のことがわかりますか?」
椅子に鎮座していたスライムさんがずずいと寄ってくる。口みたいに穴が声に合わせて動いてるけど、顔がないからどこ見ていいのかわからないんだが。とりあえずゼロは僕の事かな。
「えーと、申し訳ありませんがわかりません。スライムさん」
スライムさんが一瞬硬直して元の位置に戻った。
「…その呼称を使うということは。記憶を抜かれたかもしれませんが、あの術師が言った中身の取り換えというのも間違いではないようですね。」
ちょっと沈んだ声に聞こえて申し訳無くなってくる。
「中身の取り換え?」
「はい。貴方は四日前にならず者の襲撃に遭い、そのまま今朝まで眠っていました。」
「裏拳で意識がなくなった気が「気のせいです」」
被せ気味に答えたスライムさんが横に揺れて全ての手を収納し姿勢を正すようにちょっと伸び上がった。
「ならず者は自称騎士だけ捕らえましたが、他は逃がしてしまいました。最後に術師が言ったのです、
“魔王は名を同じくした違う世界の最も弱きものと入れ換えた、これで勇者は救われる”
とね。」