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深層階位のカオスワールド  作者: 翠丹ー
1/1

泥闇は目覚める

前の垢にログイン出来なくなったので、丁度いい機会だと思い、垢を変えると共に新しいの書いてます。

連載は前みたいに続かないかも知れないし、もしかしたら続くかも知れません。基本ダークファンタジー大好きなので主人公にエグいことさせていきますね。笑

ー大地が踊り、天が落下し、火山が噴き出し、海は荒れるー


天変地異。まさにその通りだったのだろう。

世界が混沌に飲み込まれ、崩壊と創造を繰り返す。

世界の変異が始まり、約七日。

そこで大地の蠢きが止まり、変異が終わりを迎えた。

崩壊の轟音が鎮まり静寂の中、そこにあわれたのはー



混沌に歪んだ無数の世界だった。


世界、そう。世界だ。


活火山がある灼熱地帯だと思えば、隣接して吹雪が吹き荒れる氷雪地帯が当たり前の様に存在した。

紅い太陽から爛々と陽射しが差す、荒涼とした世紀末世界があれば、境界線を超えて広がるのは、水没した古代遺跡の群れ、つまりは深海だったりと。


その境界線はまるで世界の線引きだった。

そこを超えれば正しく別世界だ。


余りにも突飛な変容を迎え、有り得ない現実が有象無象に転がる世界。


そんな天国と地獄を体現した様な混沌の世界の総称、それはなるほど納得出来る物だった。


カオスワールド。


これがこの物語の舞台となる世界の総称である。


× × ×



暗闇の中、少年は目を覚ました。

状況を確認する為に周囲を見渡すも、視界に映えるのは闇一つ。


「一体、何が起こって…ここはどこなんだ…」


少年はそう呟き、寝起きの不明瞭な思考能力で考える。が、答えなど分かるはずもない。

それもそうだろう。

世界の変容に巻き込まれ、落下してきたコンクリート片に頭を打ち付けて気絶し、目が覚めたら辺りが黒一色なのだ。

思考が追い付かなくて苛立つレベルだ。

困惑するのも当然だろう。


「暗いな…確か懐中電灯がリュックにあったはず」


そうしてリュックに手を伸ばす少年。暗黒の中、触覚を頼りにして何かを探すというのは案外難しいもので、四苦八苦しながらもようやく目的の物を手に取った。


「よし、これで…」


少年の呟きと共に暗黒が円形の光に拭われる。

彼の持つ懐中電灯はそれ程明るく照らせないようで、けれども照射範囲は広かった。

それがいけなかった。もし照射範囲がもう少し狭ければ、それの全容を目にすることも無かったのに。瞬間的に理解してしまう事も無かったのに。


「うっ、これは…壁画…?それにしても趣味が悪いな…」


少年が目にしたものは壁いっぱいに広がる、古代エジプトの遺跡で見るような壁画だった。

が、そこに描かれていたのは描いた者の人間性を疑う様な物だった。

そこには、生を足掻くように、死から逃げる様に、虚空に手を伸ばし謎の『黒い泥』のような物から抜け出そうとする男性が描かれていた。


「この泥みたいな物はなんだ…?一体、この人に、何が…」


言葉に続く様に、無意識の内に少年の手が壁画に吸い込まれるかのように誘われ、触れてしまう。


ーその瞬間、男性を取り込まんとしていた泥が蠢き出したー


泥に合わせて男性も動き出し、泥の流動に飲み込まれながらも口を縦に開き…


「アアアアアアアアアァァァァァ!!!!」


怒号にも思える叫びを上げた。


「っ…?!」


男性の絶叫により空気が揺れ、泥の蠢きがより一層増す。その奇怪さと得体の知れない恐怖感に気圧されて少年は後退る。


「あ…飲まれてく…」


少年の呟き通り、男性が泥に包み込まれていく。その生々しい光景を少年は何も出来ずに俯瞰していた。


怨嗟の様な絶叫も泥に飲まれて鳴り止んだ頃。

泥が蠢きを止め、静寂が訪れる。


「終わった…?なんだったんだ…今の…泥があの人を飲み込んで…」


しんと静まり返った空間で、少年は安堵を覚えていたのだろう。仮初の安全を確保した事によって、思考する余裕が出来た。


だが…まだ終わっては居なかった。


『黒の奔流。赤の贖い。混ざり合って霧散する。』


「…声?」


聴こえてきたのは不気味な声音の男の声。

先程泥に飲まれた男の絶叫とはまた違うタイプの恐怖感を覚え、少年は肩を震わせ少し身構えた。


『闇と成り血肉を泥と成す。』


「不気味だ…」


溢れでんばかりの憎悪を何とか抑制しようとする様な、怒気を含んだ低い声音に少しばかりの狂気を覚えて少年はゾッとする。


『深淵を従えた深紅の鼓動は不滅の灰燼と帰す。』


「何だこれ…頭が、記憶が…」


少年に襲いかかるのは余りにも酷い頭痛と走馬灯の様に駆ける数多の記憶。

大地が割れ太陽が崩壊し、空に亀裂が走るそれは、まるで世界の終わりさえ感じさせる。


『体と成すのは愉快に嗤う血液と果てなき暗黒。さぁ、汝に階位を与えよう。』


何処か既視感のある景色だった。

1日目、2日目、3日目と、更に更に記憶が進む。

頭痛が更に強まり、目が霞んで行くのを否定するかのように、犇と記憶が紡がれる。


「こ、れは…」


『その身に刻むは血の湖の処刑人、ヘリシェフの階位。そして闇と混沌の大蛇アペプの階位。』


流れる記憶はついに6日目を迎えていた。

転輪する世界の崩壊が進み、元あった物も微かにしかその存在を主張出来ない。

その微かな主張とは、混沌により破壊された物の破片か何かだろう。


『深層階位0。血と闇のカオスミキサー。』


少年は、記憶が7日目に到達した時点で、ある事に気付いた。

いや、本当はもっと初めに気づいていたのかもしれない。


「この記憶…僕の…だ。」


自分の記憶に蓋をしたくて、思い出したくないから気付かないふりをしていた。


目の前で人が死ぬ。

母が、父が、兄が、妹が。

友人が、他人が。

大事だった人達が次々と死んでいく。


大事だった皆が、痛みに、苦しみに、絶望に顔を歪ませ死に絶えていく。その時、少年の心の中にとある感情が渦巻き始めていた。


そこで記憶の濁流が止まった。

それと同時に、意識が急激に遠のいて行く。

まるで深淵に身を投じるかのような錯覚を覚えるほど強烈な睡魔。

そんな薄れていく意識の中、謎の男の声が最後に響いた。


『殺したのは汝だろう?』


意識が暗転し、少年の体が崩れ落ちる。


暗黒の中寂しげに転がる懐中電灯に照らされるのは、1人の横たわった少年だった。



その少年は、とても愉快気に笑っていた。


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