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海釣り、そして僅かなる氷解。

「くそっ」

 紅月は自棄(やけ)を起こし、村の海岸へと来ていた。

 この村、インバーテッドフェイトは海に近く、堤防も整備されている。と、言うのも、ごく稀に海から波のような魔物が襲いくる時があるのだ。

「何で俺に着いてくるアホがいるんだよ、ふざけんな!いると分かってたら道中の魔物どもに食わせてたわ!」

 がんがん、と堤防近くの大岩に向けて蹴りを放つ。もっとも、彼の苛立ちはまだまだ収まらないようだが……

「おい、なにやっとんじゃ?岩蹴りっからかして(蹴りまくって)……」

 怒りを収めるために蹴りを放ちまくる彼に、一人の男性が声を掛けた。

「何でもねぇよ、すっこんでろ!」

「そんなことあらすか(ないだろ)、おまはんの目はなんかに対してごーがわいとった(イライラしていた)け」

「るっせぇ!」

「きんしゃい、わっちと釣り行こまいか?」

 紅月は目を丸くした。こんなニトログリセリンのような男と、釣り?

 元々趣味だった釣りを出来ることは嬉しいが、突き落とすんじゃないか?そんな疑念が、彼を包んだ。

「さぁ、行こうぜ!」

「えっ、ちょっ」

 いやだぁぁぁぁあ、と、紅月の声がこだました。

 ◇◆◇

「にゃる・しゅたん……にゃる・がしゃんな……にゃる・しゅたん……にゃる・がしゃんな……」

「着いたぞー!」

 潮の香りが紅月のほぼ死にかけた鼻腔をくすぐる。

「で、何する気なんだよてめぇ。まさか俺を突き落とすんじゃねぇだろうな?あんた死ぬ気か?」

「いんや、釣りじゃい。ほれ」

 村人は、紅月に釣りセットを渡した。何故か、不思議と紅月の手に馴染む。

 村人は目を剥いた。

「道具が認めちょる……」

 村人の呟き声は、紅月には聴こえなかった。

「めっちゃ馴染むなぁ、この釣竿」

 しゅっ、と糸を飛ばす。波紋が僅かに起きた。ぷかぷかと、細長いウキが浮かぶ。

 わずか数分後、ウキが動いた。

「来たッ」

 手首のスナップを効かせ、針をかける。

 強い引きである。その引きは、シイラのそれに近かった。それも、メーター級の……。

「来たぞ……タモッ!」

「おう、タモは用意しとるわ」

「仕事が早いこって!人間ってやっぱ恐ろしいわ、おい!」

 軽口を叩く紅月。

 ギュイン、とリールが唸る。落ち着かせるためにわざと糸のテンションを下げる。糸が緩んだ瞬間に力を込め、一気にテンションを上げる。

「邪ッッ!」

 気合一閃。

 両の(まなこ)が見開かれ、獲物の距離は近くなる。

 そして……。

「覇ッッ!」

「やったな、おい!」

 紅月はシイラを釣り上げた。

 ◇◆◇

 紅月はシイラを持って家に戻った。釣っているうちに、頭が冷えたのだ。

 三枚卸にされたシイラは、あっという間に料理へと姿を変えた。

 ムニエル、フライ、刺身など、様々な料理が食卓を彩った。

「うまっ、とろっとしてて旨いぞこれっ!」

 紅月は、シイラの刺身の美味さに声を上げた。シイラの刺身は、トロっとした脂と、さっぱりとした食感の白身がなんともたまらない。

「うむむ、元嫁の飯より旨いぞ多分……」

 ムニエルは、ほっくりとした食感と淡白な味がたまらない。サイガが唸る。

「カリッとしてて……ホクホクで……美味しぃー!」

 フライは、外側の衣をカリカリに、尚且つ中身をホクホクでフワフワに仕立て上げるように作り上げた。ラヴィニアの胃袋が掴まれた瞬間である。

 かくして、紅月たちはシイラの料理を堪能したのである。

 ……食事中にも、紅月はラヴィニアを睨んでいたのだが。

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