新天地にて、親切な出会いとともに。
「……ここだ。ここが、俺の望んでいた土地だ」
昼はこの世界のモンスターと戦闘し、夜になると簡易的なテントを張って眠る、という生活をして一週間、紅月は己が住むべき場所を見つけることが出来た。
ようやく見つけた。紅月はその気持ちでいっぱいだった。
農業をしている農家たち、その傍らで無邪気に遊ぶ子供たち。家畜達は鋤のような何かを引いて田畑を耕している。
実は紅月は、心を閉ざす前には農村に憧れていた。
相互扶助の社会である農村は、助け合いの世界。心を閉ざす前の社交的であった彼が憧れるのも無理はない。
それも、精神に傷を負うまでの話だったが。
「葉の青臭さ、僅かに感じる潮風。多分、この辺は汽水域でもあるんじゃないか……?」
汽水域。海水と淡水が混じり合う場所であり、栄養が豊富とされる。この村は少し歩くと海が見える。海沿いであるため、農村ではあるが交易も行っているし、漁業も盛んだ。
「最高だ……!此処こそが俺の探し求めていた土地なんだ……!!」
釣り好きであり、農業大好き人間である彼は狂喜乱舞した。最高の土地だ。この素晴らしき世界は捨てたもんじゃない!その思いでいっぱいだったが、すぐに思い始めた。
果たして、ここは村八分を行うのか?
村八分の措置がされると、薪炭や肥料(落ち葉堆肥など)の入手に窮する他、水源の利用ができなくなるなど、事実上村での生活ができなくなる。それを恐れた。全く呆れた人間不信である。
大切なものを奪われ続けた魂が負った傷は、あまりにも大きかった。
「……行くか」
村に入ろうとする。そのとき、一人の村民が紅月を発見した。
「ほぇ、若い男じゃ!それもがたいのいい青年じゃぞ!」
一人の年老いた村民が言うと、それを聞いた村民達は一斉に紅月の方を向いた。
「おい!なんかあの若いの服ボロボロやぞ!?」
「でら傷だらけやげ!介抱したれ!」
「後ろのべっぴんさんも介抱したれや!」
「わっちの家に担ぎこみぃ!わっちの家の机つって簡易的な寝床にするわ!」
岐阜弁丸出しである。
「あんたんたあ大丈夫か!?」
きっ、と睨んでしまうのは人間不信の悲しき習性である。
「てめぇ、俺をだまくらかす気じゃねぇだろうな……?」
目には殺意が篭もっている。だが、それも大したものでは無い。せいぜい「目を細めて、何見てるんだ?」と勘違いされるレベルにまで落ちていた。
「誰がすっかい、んなたわけたこと!とくにおまはんは暑苦しい格好してんだし傷だらけじゃ、とっとと来なはれ!そこのべっぴんさんも来んしゃいや!」
「うぇ、私!?」
後ろにいるラヴィニアが素っ頓狂な声を上げた。
「はぁ?俺が傷だらけって……ぐふっ!」
蓄積したダメージが遂に吐血という形で外に出た。
「ほれ言わんこっちゃない!ささ、わっちの背中に乗りな!」
「か、かたじけない……げはっ!」
安堵した事により、ダメージが放出された。
「はっ……すっ、すまない!せっかくの衣服を俺の血で汚してしまった……ッ」
「えーて、えーて!こんくらいの血はようけ浴びとる!」
屈託なく笑う青年。太陽のような眩しさだ。紅月の凝り固まった魂に巻きついていた鎖の一つが、音を立てて砕け散った。
その笑顔に、紅月の意識は奪われた。そして、紅月は深い眠りへとついた。




