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物事の前日談

 地球。太陽系第三惑星とも呼ばれる、私たちが住んでいる惑星。水がこの星の大半を占めており、今のところ生命がいる唯一の惑星だ。

 その星には『日本』という国家がある。建国してから2678年間、一度も植民地支配を受けたことがないとされる国家だ。その日本に、とある高等学校があった。

「おはようございますー」

 一人の少年が登校してきた。学生服を着こなし、学生帽をやや深めに被るその姿はまさしく『黒ずくめ』である。

 彼はクラスメイトとの挨拶も程々に、宿題を提出し、己の席に着くと小説を読み出した。

 一見すると地味なこの少年こそが、今作の主人公である『紅月(こうづき)隼和(はやと)』だ。

 ……え?語り手は誰だって?

 誰だっていいだろう。それに、スマートフォン片手に辞書とにらめっこしてるフルコンタクト空手の全日本選手なんて見たくないだろうし。

 閑話休題(それはともかく)

 紅月はいわゆる「ぼっち」だ。教室では小説を読み耽り、少しでも人が━━━━特に女性が━━━━近寄ると、身体をばらばらに切り裂かれたかのようなイメージが脳裏に浮かぶ程の殺気を放つ。集中を保つために、他人との接触を拒んでいるのだ。

「……」

 集中している紅月の顔は端正といえる。ただ、本人は「ゴミ屑のような顔」と称しているのだが。紅月は自己評価が低い。

「はぁー……まあまあだね」

 ライトノベルを読み終えた紅月は、ちらと時間を見た。朝のホームルームがそろそろ始まる頃だ。

 ライトノベルをぱたん、と閉じると机に仕舞う。そして担任の到着を待つ━━━はずだった。

 急激な目眩。その他のクラスメイトも頭を抱え、唸っている。目元を抑える紅月。そして、目を閉じる。かっと光る閃光。

 彼らが目を開けた瞬間、彼らは己の目を疑った。

 中世ヨーロッパの王侯貴族が住むような屋敷に居たからである。

「……えっ?」

 クラスメイトはしんとしている。当然だ。人間は想定外のことを嫌う。

「……まさか、これはドッキリか?」

「おお、成功したぞ!」

 男の声が聞こえた。クラスメイトは一斉にそちらを見る。ワンテンポ遅れて、紅月も声のした方向を見た。

 でっぷりと出た腹。たっぷりと蓄えた髭。まさに王侯貴族のような見た目の中年男性がそこに居たのだ。

「待っていたぞ、勇者たちよ!儂はこの国の王、ヨセフ・ムッソリーニじゃ」

 開口一番にそれか。しかも名前からしてヤベー奴じゃん。スターリンかムッソリーニかどっちかにしろ。紅月はそう思った。

「ちょっと質問良いですか!?」

 学級委員である安藤(あんどう)水樹(みずき)が中年男性へと質問を投げかけた。

「僕達はなぜ、この土地にいるんですか?たしか僕達はホームルームを受けるはずだったんですけれども……」

「そうだよ(便乗)」

 安藤に便乗した三浦(みうら)智将(ともあき)。フルコンタクト空手三段だ。

「なんでここに居るのかがおかしいダルルォ?」

 巻き舌がうるせぇ、紅月は心の中で毒を吐く。とはいえ、三浦の言うことも正論ではある。さっきまで高校生だったのに。

 豪華絢爛な建物の中はこれまた豪華な調度品で溢れていた。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()

「それは儂が説明しよう。実はな、お主らに頼みがあるのじゃが……」

「頼み、ですか?」

 安藤は王に質問した。

「そうじゃ。最近、魔族が活発に活動しているのじゃよ。人間の文化の発展を邪魔したいのかは知らぬが……」

「あっ、おい待てぃ。それだけだったら騎士?とか、いるかどうかわからんけど、冒険者とかでもなんとか対応出来るはずだぞ」

「三浦、ナイス。おっさん、俺たちをここに呼んだ理由。早く話してくれねーか?」

 紅月と三浦が急かす。クラスメイトも便乗している。

「魔王が動き出した。しかも強いのじゃよ。そのせいで儂らの国もきつくなってきた。言い伝えに拠れば、異世界から勇者を呼び出せば魔王を打ち倒せるらしくてのう。たのむ、儂らの世界をどうか救ってくれぬか」

 紅月は半信半疑だった。こんな豪華絢爛な建物に住んでいて『キツい』とはどういう事だ?

「そうじゃ、皆の者。唐突じゃが、その珍妙不可思議でいかにも動きやすそうな服……」

「学ランだ」

「学ラン、とやらの胸ポケット?を見なされ」

 一斉に胸ポケットを見る彼ら。その胸ポケットからは、石板が出てきた。

「なんっじゃこりゃぁぁぁあ!」

 一斉に驚くクラスメイトたち。お前らはどこの軍隊だ。

「それは『ステータスプレート』と呼んでおる。己のステータスを数値化した物じゃ。勝手に転移させたお詫びと言ってはなんだが、元から持っていたスキルのレベルを最大にしておいたぞ」

「いやっふうううう!」

 どこの配管工だ貴様らは。その中で、浮かない顔をする男が一人。紅月だ。

「なぁ、質問していいか?」

「構わんぞぃ」

「なんで俺のステータスプレートに書かれている奴がほとんどカンストしてるんだ?」

 俗に言うチートである。格闘術では、フルコンタクト空手のおかげか、投げ技や組み付き技、徒手空拳と言った格闘術がカウントストップ。日常に使えるものだと、なんと料理や洗濯、裁縫や釣りと言った日常スキルがなんとオールカウントストップ。農業の経験もあるため、農業系統のスキルも……長くなるからこれ以上は辞めておく。

「おお、ついに現れたか!伝説の勇者よ!」

「は?」

「さあ、どうか儂らの国……いや、世界を救ってもらえるか?」

 紅月は読心術スキルを使った。

『すげぇ男が現れたなぁ……出来れば魔王と相打ちしてくれよなー頼むよー』

 紅月の額に青筋が立った。目付きがだんだんと鋭くなる。拳を握る力が強くなる。紅月の身体からは、淀みのない、ただ純粋な『殺意』が溢れていた。

「隼和、やめろ。今は怒るときではない」

 安藤が喝を入れた。紅月ははっとした。確かに、今はキレてはならない。滅ぼすなら、魔王を抹殺するついでだ。

「王族よ、頼み事があるんだ」

「なんじゃね?なんでもしよう!」

「ん?今なんでもするって言ったよね?」

「そうじゃよ(肯定)」

 ニヤリと嗤った。

「俺を魔王討伐メンバー(勇者部隊)から外して、どうぞ」

「……は?」

 なんて事だ。魔王を殺して平和を享受したいのではないのか!?

 曰く、どうせアンタは俺を裏切るんだろ、英雄と担ぎ上げることもなく、時期魔王を狙っていると民衆に伝えるんだろ、と。

 顔面蒼白の王に、追い打ちをかけるように、紅月は言った。

「正直に言うと、面倒臭い。人類なんて守る気はさらさらないんで。勝手に戦争起こして、そのまま死んでいけ」

 ひらりと身を翻した紅月に、三浦は怒気を放った。

「おい、待て。お前、ヒーローに憧れてたんだろ?」

「黙ってろ、三浦。人間は敵だ。人も魔族も仲良く死ねばいい」

「……なるほどな、決意が硬いやつは動かしにくいもんだな」

 三浦は怒気を収めると、にこやかに笑い、

「それなら自分らしく自由に生きていけゾ~。お前の決意はいいゾ~」

天真爛漫な笑顔で紅月の背中を押した。

「そこまで言うなら仕方ないね。スローライフを楽しみなよ、隼和!」

 安藤も紅月の意見を肯定し、笑いかけた。

 顔面蒼白だった王は、すっかり色が褪めたように見えた。

 紅月は王城から出た。王の左手にこっそりとナイフをぶっ刺して。

 その姿を物陰から観るものが一人居た。

 王の六人目の娘だ。

「あの頑固なパパをここまでさせるなんて……!それにナイフを刺せる度胸……!かっこいい!」

 彼女は動きやすい服装に着替え、変装を施すと王城を出て、紅月の跡を付けた。

 その日、一人の勇者と一人の少女が姿を晦ました。

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