第8話
「も、申し訳ない。わ、私は決して……」
身体を恐怖で震わせながら、それでもまだ言い訳しようと顔に歪な笑みを浮かべながらこちらと振り返ったカールマン。
……けれども、もうアルセラーンはカールマンの下らない言い訳を聞くことはなかった。
カールマンの言葉を無視してアルセラーンはその口を開いたのだ。
「なぁ、我がどれほど貴様に怒りを感じているかわかるか?」
そしてアルセラーンが発した言葉は感情を露わにした怒声ではなかった。
その言葉に込められた感情は酷く押し込められたもので、その代わりアルセラーンの激怒を物語るかのように閃光を放つ、雷の球体が手のひらに顕現する。
「ひ、ひぃ!?」
「目がっ!?私の目が!」
そしてその球体から発せられる光でこの場所は昼間のように照らされ、魔術で目を保護していないカールマンとカランが目を抑えて悲鳴をあげる。
「五年、そう五年の間、サーマリアは地獄を味わった。だったら、貴様もそれを味わうのが道理だろう」
けれども、その二人の無様な姿にも一切アルセラーンが反応することはなかった。
ただ淡々と言葉を重ね、そして最後に球体が宿った手を宙に掲げる。
「我は貴様を殺さん。
ーーー 生き地獄を存分に味わえ」
次の瞬間、轟音とともに球体から雷撃が次々と放たれ、屋敷を壊していく。
膨大な金額をつぎ込まれ作られた屋敷が、そしてこの屋敷に隠された膨大な金銀財宝が、雷撃によって跡形もなく壊されていく。
途中、この屋敷でなく遠くへと放たれていく雷撃は別荘へと放たれているのだろう。
「ぎゃぁぁぁぁあ」
「うわぁぁぁぁあ!?」
そして目が見えないせいで、何が起きたのかわからなくとも轟音でただごとでないことが起きているのが分かったのか、カールマンとカランが全力で走ってこの場から逃げ出していく。
途中で無様に何度も転けて、傷だらけになりながら。
そしてアルセラーンは宣言通り、無様に逃げようとするカールマンには雷撃を放つことはなかった。
いや、それどころかこれほどの被害を出しながらもアルセラーンはアストレッド家の人間を誰一人として殺してはいないだろう。
それはもちろん、アストレッド家の中でも優しい人間がいた、何て理由では無い。
何せ、アストレッド家は正直、屑の巣窟でしないのだから。
ーーー ただ、もうそんなことをしなくてもアストレッド家の破滅は決定しているのだ。
今までアストレッド家は溜め込んだ財力と武力を使って人に恨まれるようなことをやってきていた。
けれども今回のことでアストレッド家は溜め込んできた財力を一気に失い、その上戦力は半減している。
そして、そんな状況になったアストレッド家に対して、今まで恨みを抱えていた人間は今こそはと恨みを晴らそうと動き始めるだろう。
そうなればアストレッド家の人間に待っているのはまさに生き地獄だ。
助けてくれる人間もおらず、周囲には敵しかない。
「ふふ」
そして私は、カールマンが一時的な失明から立ち直り、そのことに気づく時にどんな反応をするかと、その口元に笑みを浮かべた………