第7話
「うぉぉぉぉぉお!」
雄叫びをあげ、私へと掴みかかってくるカールマンの兵士たち。
その行動に私はカールマンの狙いを理解する。
そう、カールマンはアルセラーンに対して、私を人質とすることで契約者をアストレッド家のものにしようとしていることを。
カールマンはアストレッド家の兵士ならば精霊の裏をかくことが出来ると確信しているのだ。
そして、そのカールマンの思い込みは決して自惚れではなかった。
実はアストレッド家は貴族でありながら領土を国に返還しており、領地を有していない。
つまり、領民からの税収が無いのだ。
しかしそれでもアストレッド家は貴族の中でも有数の力を有している。
その理由、それはアストレッド家は傭兵貴族であるからなのだ。
アストレッド家の有する兵士の数は他の伯爵家と比べればともかく、他の大貴族と比べれば決して多くはない。
だが、その精度が段違いなのだ。
その武力を背景に様々な黒いことに手を染めてきたからこそ、アストレッド家は現在の繁栄を手にしている。
そしてアストレッド家の兵士であれば、この状況で精霊を出しぬき契約者を取り押さえることは不可能では無いだろう。
何せ契約者の弱点は本人の脆弱さにあり、この距離ではいくら精霊でもその弱点をカバーすることは出来ないのだから。
「へぇ、歯向かってくるんだ」
ーーー けれども、それはただの精霊と契約した契約者の場合でしか無い。
未だ動かないアルセラーンを、ただ単純に反応が遅れたとでも勘違いしているのか、勝利の笑みを浮かべるカールマンを見て私は笑った。
「しょうがないよね。相手が手出ししてきたのだから」
そして、言い訳するように私はそう呟く。
……けれども、その口元に浮かんでいたのは隠しようの無い、凄惨な歓喜だった。
「ーーーー」
次の瞬間小さく呟きながら手を挙げた私に呼応するように、あたりに爆音が鳴り響いた……
◇◆◇
「な、なんで」
爆音の後、広がっていた光景。
それを見たカールマンの顔にはもう先程の勝利の笑みなどかけらも浮かんでいなかった。
当たり前だろう。
ーーー 何せ、先程の一瞬でこの場所にいたアストレッド家の精兵達の殆どが瀕死の状態で転がっているのだから。
決してここにいた兵士達はアストレッド家の全戦力では無い。
精々その半分程度しか居なかっただろう。
だが、それでも精霊とも少しの間であれば渡り合えるだろう戦力だ。
………けれども、精霊が何もして居ないのにもかかわらず、兵士達はあっさり戦闘不能に陥った。
「くそ!なんで、なんでこうなった!ふざけるな!ふざけるな!」
その状況に、カールマンは困惑を隠しきれない。
ただ、精霊だけでなく契約者も戦えた、それだけの話でしか無いのに。
「う、うぅ……」
「おい!起きろ!ふざけるなよ!お前らに私がどれほど金を渡しているか知っているだろうが!」
けれども、その事実にカールマンが気づくことはなかった。
カールマンは現実逃避をするように兵士を足蹴りする。
実は兵士達が立ち上がることを懇願するかのような、必死な表情で。
けれども、もう兵士が立ち上がることはない。
そんな余力はもう彼らに残っていない。
なのにカールマンは何かに急かされるように兵士達を激しく蹴り始めて。
「で、我らに手を出そうとした覚悟は出来ているのか、小物」
「ーーーっ!」
………しかし、次の瞬間響いたアルセラーンの声にカールマンは身体を硬直させることとなった。