第5話
馬鹿どもは私が逃げ出したことに気づくことなく、私は無事屋敷を後にしたのだった……となるのが理想ではあった。
「待て!サーマリア!」
「何故逃げる!」
………が、そう上手くことが運ぶことがある訳なく、逃げ出してすぐ私は大人数の兵士達に囲まれる羽目になっていた。
純粋に疑問を顔に浮かべ、何故私が逃げ出したのかがわからないといった様子で追いかけてくるカールマンとカラン。
「はぁ………」
その二人の表情に私はもう溜息を堪えることが出来なかった。
何せ私からすれば、逆にどうして二人が私に嫌われていないと思えるのかがわからないくらいなのだから。
だから私はその旨を伝えるべく二人を睨みつける。
「そうだサーマリア!私がお前を守ってやる!」
「ふざけるなカラン。サーマリアが逃げていたのはお前からだろう。さぁ、私がこの勘違い男からお前を守ってやる」
………けれどもその私の思いが彼らに伝わることはなかった。
私に睨まれたことを自分を見つめてくれると勘違いしたらしく、カールマンとカランが各々に勝手なことを言いはじめたのだ。
………あまりにも頭がお花畑過ぎないか?
「……いや、私はどちらとももう関わりたくないのですが。正直、どちらも気持ちが悪いです」
「………は?」
………そしてその二人の態度に関する嫌悪感で、思わず私は本音を告げていた。
その私の言葉に何故かカランはその顔に驚愕を浮かべる。
先ほども同じようなことを言ったはずなのだけれども、何でいま始めてそんなこと言われたかのような反応を取っているのだろうか。
「っ!」
その一方、カールマンは私の言葉に覚えがあったのかその顔を歪めていた。
毎日カビたパンしか寄越さず、母が死んでからは病死に見せかけて厄介払いしようとしたのか弱毒を混ぜた食事を私に送って来ていたのだ。
それで覚えが無いなんてことはあり得ないだろう。
実際、私も精霊と契約していなければ死んでいたはずなのだから。
「今までのことは間違いだったんだ。全て過去のことは水に流そうじゃないか。大丈夫。これからは今までの分も愛してやるさ」
……けれども、カールマンの顔が歪んでいたのはほんの一瞬のことだった。
直ぐにカールマンは顔に下卑た笑みを浮かべて口を開く。
「過去を水に流す?」
ーーー だが、そのカールマンの言葉は逆効果でしかなかった。
「お父さんを殺して、お母様を苦しめた貴方を私に許せと」
「っ!まて!」
突然雰囲気の変わった私の姿にカールマンは焦ったように口を開き、弁明しようとする。
「アルセラーン」
……だが、その時にはもう手遅れだった。
私がポツリと漏らした言葉に反応するように周囲の空間が歪み異次元へと繋がる扉が開く。
「……貴様がカールマンか」
ーーー そして次の瞬間、私の契約精霊である大精霊アルセラーンがこの場に姿を現わした。